道を外した陰陽師   作:biwanosin

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彼は一夜にして全てを失った。
家を、家族を、名前を。そして・・・それまでの自分すらも。
そんな彼は、積み上げられた自分というものを、そのすべてを捨てた。


第一章
第一話


 俺、寺西一輝は神社だった場所の境内に立ち尽くしていた。

 今日は中学三年の夏休みであり、そして、俺が家族を失った次の日。

 そうだ・・・つい昨日、俺は家族を失ったんだ。・・・いや、まだ一人いるか。

 

「あの、スイマセン。あなたは、ここの人ですか?」

 

 何もかも失って呆然としていたら、急に話しかけられた。

 ゆっくりと振り返ると、そこには今俺に話しかけたらしき人と、その後ろにたくさんの人がいた。

 

 見たところ、全員陰陽師みたいだけど・・・なんで今更来た。

 もっと早くに来てれば・・・いや、霊獣相手じゃ、あんなやつらが何人来てても、皆は殺されてたか。こんなこと、考えても何にも変わらない。

 

「はい・・・俺はこの神社の・・・鬼道のものです」

「そうですか・・・ではまず、ご神体がどこにあるのか、教えてもらえますか?」

「・・・分かりません。本殿も何もかもぶっ壊されましたし、どこかに埋まってるんじゃないですか?」

 

 俺はちゃんと聞くつもりもなかったので、嘘をついた。本当は俺が隠し持っているのだが・・・これは一族のものだ。

 他人に任せる気など、一切ない。

 

「そうですか。では、こちらで探させていただきます」

「どうぞご自由に。俺、もう行っても?」

「まだ待ってください」

 

 なんだよ・・・もう大して話すことなんてないだろ・・・

 どうせもう、鬼道の奥義を発現したやつがいないから、この土地もそっちで持ってくんだから・・・

 

「なんですか?いい加減休みたいんですけど・・・」

「スイマセン。あなたはこの後、どうするつもりですか?」

「どうする、とは?」

「あなたは、これでいられる場所も失った」

 

 こいつ・・・デリカシーの欠片もないやつだな。

 まあ・・・いいや。こっちを見下してるんだろうし。

 

「奥義を使えていればともかく、卵の状態では日常生活を送るのも辛いでしょう。そこで、どうです?我々の元に来て、我々の仕事を手伝ってもらえるのなら、こちらで衣食住を準備しますが、」

「必要ありません。つい先ほど、白澤を殺しました。向こう三十年は、お金にも困りませんから」

 

 俺はそう言って財布から陰陽師としてのライセンスを取り出し、そこに記されているここ最近殺した存在のリストを見せる。

 その一番上には、白澤と記してある。

 

 ここでは、妖怪や霊獣を殺せば、国からの報酬が支払われる。

 昨日の夜中に殺した白澤は霊獣だから、本当に向こう三十年は困らない。

 それに、昨日の夜中に殺したのは白澤だけじゃなく、他にも大量の妖怪を殺した。

 

 かなり長い期間、お金には困らないだろうし、仕事もすれば、一生困ることはないだろう。

 卵だから依頼人が少ないことを考慮に入れても、だ。

 

「では、もういいですか?奥義を継承したものはもう一人もいませんからこの土地についてはいったんそちらに返却しますし、僕のほうも、まあ何とかなりますから」

「そ、それは・・・」

 

 まあ、この人たちの目的は分かるけど。

 今まで国からして見たら危険因子でしかなかった鬼道の人間を、自分達の言うことを聞く状態にしておきたかったんだろう。まあ、そんなつもりはないけど。

 

「では、僕はこれで。何か僕に伝えないといけないことがあったら、こちらまで電話してください。仕事用の携帯の番号です」

「え、あ!ちょっと!」

 

 なにやら呼んでいるが、もう相手にする必要もない。

 最低限伝えておかないといけないことは伝えたし、何かあった際の連絡先も渡した。

 道を塞ぐようにたくさんの人が立ってはいたけど・・・掻き分けて進むのも面倒だから、水に乗って飛び去る。

 

 まずは・・・住む場所を確保しないと・・・

 

 

 

       ==========

 

 

 

「よかった・・・住む場所確保できて」

 

 俺はあの後、よく依頼をしてくれているマンションの大家さんに相談に行った。

 今回の件について相談したら、快く二部屋貸してくれた。一部屋は普段過ごす部屋。もう一部屋は、仕事用の部屋だ。通っている中学の学区からは外れるけど、(ってか、県外)結構いい物件だと思う。

 またあいつらが来たとき、俺が普段過ごす部屋に入れたいとは思わない。そのためにも、普段すごす部屋から出来る限り離れた部屋を取った。

 

「・・・電話だ」

 

 そして、一息つくまもなく仕事用の電話に電話がかかってきた。

 

「はい、もしもし」

『初めまして。私は闇口光也といいます。陰陽師課のトップ、のようなことをしています』

「・・・何の用ですか?」

 

 もう少し時間を置いてから電話してきてもいいじゃないか。

 

『いえ、今回のことでいくつか手続きしてもらわないといけませんので、その件について電話させていただきました』

「そうですか・・・手短にお願いできますか?」

『直接書いていただかないといけない書類もありますので、そちらに向かわせていただきたいのですが』

「・・・今から言う住所に来ていただけますか?」

『ハイ、分かりました』

 

 俺は早速、仕事用に借りた部屋の住所を言って、電話を切った。

 

 そして仕事用の部屋に移動してしばらくたつと、光也とやらがたずねてきたので、部屋に入れる。

 

「まだ越してきて一時間もたってないから、何もないぞ」

「構いませんよ。では、早速ですが話を始めさせていただきます」

 

 机と椅子だけは準備してあったので、そこにかけて話を始める。

 

「まず、苗字についてです。あなたは一族の中に奥義を会得したものがいなくなりましたので、陰陽師としての苗字は剥奪させていただきます。なので、その旨の承諾のサインと、新しい苗字をこちらに。これについては、新しい苗字を考えることもありますので、2、3日待つことも出来ます」

「いえ・・・そこまで考えるつもりもありませんので」

 

 差し出された書類に下の名前、“一輝”とだけ書き、新しい苗字には母さんの旧姓だった“寺西”と書く。

 この苗字ならどこかの陰陽師のものでもないし、俺が使っても問題ないはずだ。

 

「はい、ありがとうございます。では、次の話に移らせていただきます」

 

 そう言ってそいつは書類を持ってきたかばんにしまい、新しい書類を取り出す。

 

「今からの件については、強制というわけではありません。あくまでも一つの提案として、聞いてください」

「・・・なんですか?」

「あなた、席組みに入りませんか?」

 

 その言葉に、俺は内心驚いていた。

 席組みというのは、日本でのトップ十人に位置する陰陽師を指す。といっても、実力があっても引退した人などもいるので、本当の意味での実力トップ、というわけではないが。

 そして、彼らには様々な特権が与えられる。

 そこにまだ奥義を習得してすらいない卵がつくことなど、今までにないはずだからだ。

 

「・・・僕はまだ卵です。それを分かっていますか?」

「ハイ、分かっていますよ。ですが、連絡ではあなたは霊獣を殺した、とありました」

「・・・それで?」

「今、この国には霊獣を殺した人間はあなたを含めて三人しかいません。問題はないと思います」

 

 そういえば、俺以外には今の第一席、第二席しかいなかったな。

 でも、卵がそんな立場についたら、反感を抱く人も多いと思うのだが・・・

 

「それと、交渉をするようで心苦しくはありますが、あなたが席組みに入ってくださるのなら、私があなたの後見人になります」

「・・・俺に首輪を付ける気か?」

「そんなつもりはありませんよ。ただ、こちらの世界に一般人を巻き込みたくはないでしょう?」

 

 それは、確かにそうだ。

 それに、席組みに入ることで得られる特権があれば、こんな中途半端な立場で暮らすのは、かなり楽になる。

 

「ちょうど一人、年をとったからと引退した人がいますので、一つ空席が出来ているのですよ」

「・・・分かりました。その話、受けます。ただし、席組みとしての職務くらいならやりますが、あなた方の命令を聞くつもりはありません」

「はい、それで構いませんよ」

 

 そんな考えから、俺はこの話を受けた。

 その場で席組みに入ることへの承諾書を書いて、明日、顔見せをすることになった。

 

 まあ、深く関わる必要はないよな。今の俺は、そんな気分でもないし。

 




こんな感じになりました。

では、感想、意見、誤字脱字待ってます。

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