吉良星琉は、唯人ではない 神の死を幇助し、その権能を手に入れた者である
星琉が修めた天元流という流派の基本は、四元式と総称される
これらが示すところというのは、攻撃・回避・移動・防御という、戦闘における基本的な行動の中の業や極意のことなのだが、天元流には最も重要な要素が他にある。
――『気式・
今、星琉は空中を移動していた。飛翔しているわけではなく、空中を蹴って駆けているのだ。
突然だが、霊気という存在をご存知だろうか? 化学用語のエーテルではなく、かの哲学者アリストテレスが考案した元素だ。
アリストテレスは四大元素である『火・水・
霊気は、語源を『天空に漲る霊気』というギリシア語の『アイテール』から来ており、その通り天空に満ちているとされた。
『熱・冷・湿・乾』の四つの性質を持ち、『熱・湿』で『気』を、『熱・乾』で『火』を、『冷・湿』で『水』を、『冷・乾』で『土』を生み出すとされている。
表の世界では否定された概念であるが、実際には存在している。
天空に満ちるだけでなく、森羅万象は霊気に結びつけられた四大元素により存在しており、動物も植物も鉱物も、電気や熱といったエネルギーでさえ、これで説明出来るという説もある。
実際、霊気が凝縮したモノの形の一つが呪力であることが確認されており、神力もその派生であるとされている。
少し話が逸れてしまったが、天元流ではこの霊気に重きを置いている。
最も近い技術は錬金術だろうか。森羅万象を解き、霊気へと還元して、それを更に自然現象へと変換し、己の力とするのが天元流の戦闘術である。
今、星琉が行っているのは空気を霊気へと還元し、『熱・乾』の性質を組み合わせて『気』を生み出し、更にそこから『突風』へと転換。それを推進力として駆けているのだ。
この技法を天元流では『気式・疾空』と呼んでいる。
学ランから、かつて天原晃と戦った時の黒いズボンに赤のインナー、黒のジャケットという自身の戦闘服へと魔術を使って着替えた星琉は、闇を拡げながら人知を超えた速度で道路を悠然と歩き続ける、少女の姿をしたアテナの前に降り立った。
「え……?」
「む……?」
突然目の前に現れた星琉に対し、幾分かの怪訝な感情を込めて視線を送るアテナ。それに反して、星琉は七雄神社を発った時とは打って変わった動揺、信じられないものを見たような表情を浮かべた。
「ヘカ……!!」
僅かに言葉を漏らす。だが、我を思い出したかのように頭を振ると、じっと見据えるようにアテナを注視する。その様子は、どこか哀しさを帯びているようにも見えて……。
「……人間よ。あなたからは妙な気配を感じる。それにどうやら妾が求めし《蛇》をその胸に秘めているようだな。我がアテナの名に於いて命ずる。答えよ、あなたは何者だ?」
自分が絶対的強者であるという自尊と威厳を以って命令するアテナ。それに対して星琉は静かに息を吐き、言葉の代わりに射抜くような眼差しを寄越す。そんな彼の様子にアテナは少し不機嫌そうに言葉を紡ぐ。
「あなたは妾の声が聞こえぬのか? それとも口が利けぬ――!!」
気付けば、語り掛けるアテナの眼前に星琉が迫り、黒白の双刀を振るっていた。
アテナは咄嗟に右腕を突き出し、死神を思わせる漆黒の鎌を顕現させ、これを以て防いだ。
鍔迫り合いの状態で、侮蔑の眼差しを星琉に注ぎながらアテナは言う。
「この力……その刀……神殺しか――!! よもやこの極東の地に仇敵が二人もいるとわな! 名乗りも上げずに攻撃とは……騙し討ちもいくさの作法ではあるが、これは些か無礼ではないか?! 神殺しよ!!」
星琉の返答はなく、彼は軽く地を踏みしめて後退する。それだけで、約八メートルは距離を取れた。
アテナは悟る。この神殺しは、己と対話をする気がないのだと。
「……よかろう。あなたが何も語らぬというのなら、妾もただあなたを討ち、《蛇》を手にするまで」
闇夜を思わせるアテナの双眸が、更に昏くなった。
星琉と同様、軽く一歩踏み出すだけでその間の距離を詰めるアテナ。同時に、鎌を右から横薙ぎに振るう。
星琉はそれを左手に持つ白刀を逆手に持ち替え、角度をつけて鎌を滑らせる。更にそれを、順手で持った右手の黒刀で上から叩き付けた。
――『火式・
鎌の柄と黒刀が触れ合った瞬間、一切の音もなく鎌が弾け、コンクリートの地面に減り込んだ。
「何っ!?」
これもまた天元流の業。『火式・衝煉』。特殊な体の動かし方と霊気の操作により、全ての力を一方向に統合し、相手の防御を抜く業だ。
星琉の腕力、黒刀と鎌が衝突したときの衝撃が地面に向かう形でアテナの鎌に放たれたのだ。
驚愕するアテナを余所に、星琉は右手をそのまま地面に着かせ、片手倒立の形で下半身を捻り回し、左足でアテナに『衝煉』を交えた回し蹴りを繰り出す。
鎌での防御は間に合わないと思ったのか、それから手を離し、左腕を曲げて防御するアテナ。が、当然防御しきれるはずもなく、小さな身体は地滑りし、土煙を上げながら後退した。
一回転し、右手右膝を着いた片膝立ちの状態になった星琉は、流れるように立ち上がりながら左腕を振り上げる形で白刀を投擲。
縦回転しながら迫り来る白の凶刃に、顔を上げたアテナは間一髪の所で回避する。彼方へと行くはずだった白刀は、しかし次の瞬間に星琉の手に舞い戻っていた。
この一連の攻防を経験して、アテナの目が闘志の炎を燈す。
「なかなかの武であるぞ、神殺し! 妾が三位一体のアテナでない事が口惜しいほどにな!」
アテナも鎌を呼び戻し、構える。次に星琉とアテナが採った行動は、奇しくも全く同じであった。
即ち、
一寸先も見えない闇の中で、数々の火花が舞い散る。どちらも退かず、怯まず、ただ敵を討たんと交錯し続ける。
互角……いや、僅かに星琉が優勢だが、決定的になるものではない。
二十程の火花が咲いた所で、両者は一度動きを止めた。所々己の衣服が傷付いているのを見て、アテナはため息にも似た感心を漏らす。
「流石であるな、神殺し。闘神としての妾の心はあなたを強敵だと認め、あなたとのいくさに歓喜に酔いしれている。智慧の女神たる妾の心は警告を発し、一刻も早く《蛇》を奪還せよと命じている。今の妾ままでは勝てぬ、とな」
アテナの唇の端が僅かに吊り上がる。同時に、星琉は双刀を握り直した。
瞬間、アテナが星琉の首を刈り取ろうと跳躍した状態で鎌を振るう。
前傾姿勢になることで星琉はそれを回避するが、アテナは振り切った流れのままその場で前方宙返りし、切っ先で地面に縫い付けようとする斬撃を繰り出した。
前転してやり過ごすが、アテナは反撃を許さない。バックステップを踏んですぐさま星琉の目の前に現れ、その見た目からは想像もつかない膂力で凶刃を素早く振るう。
左右に三日月を描き、下から刈り上げ、上から振り下ろす。対する星琉は、流麗と言ってよい巧みさで双刀を操り、冷静に対処した。
右腕に白刀を、左腕に黒刀を添えるようにそれぞれ構え、左右の斬撃を見事に受け流し、下からの刈り上げには後転跳びで回避し、振り下ろされる死には双刀を交差させて受け止めた。
両者の力が均衡した時、星琉が内なる権能を呼び起こす聖句を唱える。
「二つの道の始まりから、
「何っ……この力は!?」
ギリシア神話の女神であるヘカテーより簒奪した権能『
三相一体、月夜と冥府、そして魔術の女神でもあるヘカテーより簒奪したこの権能は、簡単に言えば『ヘカテーが出来る事が出来るようになる』権能だ。
残念ながら星琉はまだこの権能の完全掌握に至っておらず、その全容を把握し切れていない。
そしてこの権能は、何故か夜にしか発動できない。そういう制約であるというわけでもなく、だ。
まあ、それはともかくとして。
アテナの拡げた闇の一部が明け、半月が現れた。降り注ぐ月光は、ただ星琉だけを護るかのように淡く照らす。
『月影は剣となり』。その聖句の通り、星琉の身体は月光により強化され、力が漲る。結果、均衡していた膂力は、しかし星琉の権能により大きく差がつき、鎌を勢いよく押し返した。
体勢が崩れるアテナ。その隙を見逃す程、星琉は甘くない。
「ッァァァアアアア!!!!!!!!」
二刀流最大の強みである手数の多さを最大限に発揮し、刺突と斬撃を織り交ぜながら縦横無尽に攻め立て、狂気とも感じる咆哮と共に、アテナに死を与えんと肉薄する。
「くっ、妾の同胞を弑していたか!」
感嘆の声を零しながら怒涛の刺突を避け、斬撃を逸らすアテナだが、かつての己に近しい力を得た星琉に次第に押されていく。
「疾ッ!」
星琉が迅雷の如き刺突を繰り出すと遂にアテナは避け切れなくなり、首筋に赤い死線を刻まれながら脚を縺れさせてしまう。
星琉はすぐさま黒刀で『衝煉』を用いて斬り上げ、鎌を強打すると、くるくると円盤を錯覚させながら飛んでいった。
アテナの両腕は鎌を弾き飛ばされた時の衝撃により、空中で何かに吊られているかのように上がっており、完全に身体ががら空きだ。
絶好の好機と見た星流は、双刀を順手から逆手に持ち替え、アテナの身体にその命を絶つ斬撃を刻み付け――
“退けっ!!”
「っ!?」
――ることはなく、何処からか聞こえた懐かしい声に寸での所で反応し、微かな痛みを感じながら後ろに跳んだ。
同時に着地する、高速で落下してきた黄金の閃光。それに伴って起こる衝撃波。星琉もアテナも、多少の退行を余儀なくされた。
「……絶好の隙を衝いたつもりだったのですが、回避されてしまいましたか」
落下してきた『それ』は、人の形をしていた。
端正な顔立ち、柔らかい光を放つサフラン色の髪、空を思わせる薄い碧眼、細身だが、しっかりとした体格、それを包み隠す一片の汚れもない純白の衣。
何よりも特徴的なのは、背中から生えている、闇の中にあるというのに一切の翳りがないエメラルドグリーンの翼と、頭上にある光輪。
つまりは――天使。
現れた謎の天使は、芝居がかったように言葉を続ける。
「突然ですが、まずは礼を言いましょう、少年。十一もの悪魔を生み出した異教の悪魔、ティアマトを私の代わりに殺害してくれた事を。そして懺悔します。それによって、貴方にはかの悪魔の業を背負わせることになってしまった……。せめて苦しみを感じぬまま、眠りに就かせてあげようと思ったのですが……神殺しの忌み名は伊達ではない、という事でしょうか」
「お……前は――!!」
心の、魂の奥底から沸々と怒りが湧き上がってくるのを感じながら、星琉は一度も見た事も会った事もないはずの、この天使の真名を確信していた……否、識っていた。
それは、自分の忌むべき相手。始まりの女神と約束した、堕とさなければならぬ天使――!!
「ミカエルッ――!!」
《鋼》の熾天使 まつろわぬミカエル――降臨。
◇◆◇◆
「む……」
突如乱入し、悠然と佇んでいたミカエルを黒い風が襲う。それに気付いたミカエルは黄金の剣を振りぬき、斬り祓った。
「ああ、そういえばもう一匹いたのでしたね。取り逃がした相手に夢中で忘れていました」
ミカエルの視線の先にいたのは、先程とは背格好や衣服も違うアテナの姿。
外見は十七、八歳程。現代の衣装から古風な長衣へ変わり、可憐な少女から端麗な乙女へと成長したまつろわぬアテナ。
星琉は自分の衣服を確認して、舌打ちした。ゴルゴネイオンを入れておいた胸ポケットが縦に切り裂かれていたのだ。
おそらく、先のミカエルの斬撃を完全には避け切れず、アテナの手中に収まってしまったのだろう。
「貴様……よくも妾と神殺しのいくさに水を差してれくれたな」
しかし、アテナの浮かべる表情は憤怒であった。その様子に、ミカエルは首を傾げる。
「おかしいですね。私は貴女が殺されそうになる瞬間――つまり、その少年が完全な隙を作ったときに割り込んだはず。そうして貴女は生き延びているのですから、私には感謝こそすれ、怒気を露にするというのはおかしいでしょう?」
「馬鹿を言うな。状況如何ではなく、間に割り込み、いくさの邪魔立てを働いた事こそが腹立たしいのだ」
ミカエルの弁をすっぱりと切り捨てるアテナ。それに対し、ミカエルは呆れた様子で言葉を返す。
「やはり、闘神というのは度し難い程に愚かですね。何故わざわざ闘争を求めるのか……」
「はん、戯言を。あなたこそ、気に入らぬ神々を邪神、邪竜と定め、その剣で調伏させて来たのであろう」
一触即発の雰囲気の女神と天使。星琉は出来るだけ事態が好転するように、ある一つの策を試みた。
『聞こえるか、アテナ』
「ん? これは……ほう、あなたか、神殺しよ。なるほど、確かにかの女神を弑したのならば、『精神感応』による思念の会話が出来るのも道理よな」
『……一時停戦と共同戦線を張る旨を申し入れたい。一考願えないか』
アテナが見破ったように、星琉が今行ったのは『精神感応』という、ある特殊な血統でなければ行えない特別な魔術だ。これが出来るのはもちろん『闇夜に眩き月星の唄』の恩恵である。
星琉からの呼び掛けに目を見開くアテナ。そこから導き出せる感情は驚愕、懐疑、困惑。
「……正気か? 我らは互いに仇敵同士。だというのに、あなたは妾に背を預けるというのか?」
『預ける訳じゃない。共通の敵を屠るために手を結ぶだけだ。同舟相救う、という言葉があるだろう? 僕と貴女の戦いは、それからでも遅くはないはずだ』
星琉からの提案に少し思案した後、アテナは答えた。
「……よかろう、神殺し。あなたと共闘してやろうではないか。ただし、あなたの名を妾に告げるのが条件だがな」
『…………』
「察するに、あなたは己の内を敵に晒したくないのであろう。だがな、名も明かさぬ者に一時の信用も置けるはずがなかろうよ。ましてや妾とあなたの関係は、殺し殺される関係。それが手を結ぼうというのだから、当然であろう?」
アテナの述べるところは実に正しい。星琉もそれは分かっている。
今現在の最優先事項は、何を以てしてもミカエルを殺害する事。ならば、アテナを引き込めば相当な戦力になる事は想像に難くない。
『……吉良星琉。それが僕の名だ』
星琉の名を聞き、一つ頷くアテナ。つまり、星琉の言葉を聞き入れたという印に他ならない。
しかし、それを無に帰す者が現れた。
「見つけたぞアテナ! ……って、吉良!? あともう一人も誰だよ?!」
「ミカ、エル……様……?!」
そう、それは、星琉と同じ東方の神殺しである草薙護堂と、その愛人のエリカ・ブランデッリである。
「……ふむ、まさかとは思っていたが、生きていた――いや、蘇ったか。草薙護堂よ。それでこそ我らが仇敵よな」
落ち着き払った、しかしどこか喜色が伺えるアテナの声。彼女は護堂を一瞥すると、星琉の方に向き直り、声を掛けた。
「事情が変わった。妾はまず、討ち漏らした草薙護堂と決着を着けねばならぬ。共闘は出来ぬが、勝負はあなたに預けよう」
それだけ言うと、アテナは護堂の方へと向かって行った。
結局の所、星琉は渡す必要のない情報を明け渡しただけ。タイミングの悪い護堂に思うところがあるものの、ともかくまつろわぬ神を二柱も相手取る、という絶望的な状況は回避出来た。
ミカエルに視線を向ける。赦し難き熾天使は、ただ憂いの表情を星琉に見せていた。
「止めておきなさい。貴方の成そうとしているとても罪深き事であり、同時に無駄な事でもあるのですよ」
「黙れ!!」
次の瞬間には、黄金と黒白が鬩ぎ合っていた。
唐突に起こった衝撃に、大気が震える。まるでファンファーレのように……。
◇◆◇◆
「待たせたな、草薙護堂。しかし、あなたも中々しぶといではないか。少し見直したぞ」
正直に言えば、今この場の状況に護堂は混乱していた。目の前にいる銀髪の乙女は、カンピオーネ特有の直感の御蔭か、すぐにゴルゴネイオン――《蛇》を取り戻したまつろわぬアテナであることを理解していた。
しかし、あれはついさっき話していた同級生が持っていたはずで、けれどもその同級生は天使と戦ってるし、あの天使を見てから隣にいるエリカの様子がおかしいし、そもそもあの天使誰なんだ、というのが彼の胸中。
いや、と混乱を振り払う。今はそんな事を考えている暇はないのだ。目の前のまつろわぬ女神をどうするか、それが最も重要な事なのだから。
護堂はアテナを睨み付けながら、強い語調で言う。
「なあ、最後にもう一度だけ確認するぞ。俺はあなたが何もしないで帰るのなら、見逃してやろうと思っているんだ。どうだ、そのつもりはあるか?」
そんな護堂の言葉にアテナはつまらなさそうに、拗ねた子供のような様子で答える。
「そのように興の無い事を申すな。妾は古き三位一体を取り戻したばかりでな。少し前まではあそこにいる神殺しと《蛇》を巡って争っていたのだが、無粋な《鋼》が水を差しおった」
忌々しげに天使を睨み付けるアテナ。その眼力は、それだけで殺せるのではないかと思うほどに鋭く、厳しいものだ。
「妾はかの神殺しと共に奴を追い払おうとしておったのだが、そこであなたが妾の前に再び現れるではないか。だからこそ、こうしてこちらにやってきたと言うのに、あなたという人は……」
何故か呆れたような視線を向けられているのだが、こちらにそんなものを向けられる謂れはない。なんて身勝手な女神さまだ、というのが護堂の心中だ。
「そら、言葉を交わすのはもう良い。そろそろ妾を愉しませてくれ。先程の神殺しとのいくさが中途半端に終わって、まだ燻っておるのだ。先刻は計略を以てあなたを出し抜いた。ならば、次は武を競おうではないか!」
アテナのこの言葉に、護堂はようやく腹を据えた。交渉は決裂。互いの意見は平行線。ならば……。
「あんたのご要望に応えてやるよ。この国から腕ずくで追い返してやる。俺に負けた後で、尻尾を巻いて逃げ出すといい!」
エリカに視線で退避するように伝え、彼女はそれに頷きを一つ返す。
「善き哉! ここで雌雄を決するか、草薙護堂よ!」
エリカが長い金髪を大きく靡かせて大きく跳躍したと同時に、快哉を叫んだアテナが腕を振り上げた。
直後、闇の中からアテナの眷族と思われる数十羽の梟が羽ばたき、同様に、極彩色の鱗を持った体長五、六メートルを軽く越すであろう蛇が、波のように群れを成して這いずって来る。
今この場では全力が出せないと踏んだ護堂は、アテナと距離を取るために走り出した。
◇◆◇◆
それぞれのいくさが今、始まりを告げた。
蛇の女神は、二人目の王を見抜けない