魔法少女LyrischSternA’s   作:青色

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Das zweite Kapitel "Sammlung"
8話 蒐集活動 11月10日


Sammlung(ザムルング)

 

 シグナムが取り出した闇の書は、トカゲを巨大にしたような魔物から蒐集を開始します。ですが、それもすぐに終わってしまう。蒐集できる魔力情報が少ないからです。とりあえず画像をルシフェリオンに記憶させておきます。

 

「蒐集が完了したが、ページの半分すら行かなかったか」

「仕方がありません。所詮は(けもの)ですから」

「確かに仕方無いか。大して強くないのが救いだな。魔力を温存出来るのは助かるのだが……だが、手間な事だ」

 

 周囲を深い森に囲まれるここは、どちらかというと魔力量がさして多くない魔物達の巣です。数は居ますが、一体当たりの蒐集量は大して多くはありません。

 ですが、魔力が少ないからといって狩りやすいわけではなく、この地形を上手く利用した戦いを仕掛けてくるため、すぐに終わるというわけではないのです。もっとも、手間がかかるだけで強くは無いのですが。

 

 今、蒐集している緑あふれる星は、私達が住む世界では無く、別の次元世界です。最初の作戦通り、管理局に見つかる事を避けるために管理外だと思われる人の住んでいない世界に来ています。いずれは管理世界も対象にするでしょうが、今はこのまま狩りを続けた方がいいでしょう。

 ナノハ達に邪魔されるのも避けたいですし。

 

「次に行こう。せめて7ページは蒐集しておきたい。後の事も考えれば、今出来るだけ稼ぐべきだろ?」

「そうですね。では、少し離れた場所に少し強めの魔力をもつ魔獣を見つけています。今までの魔獣と比べればですが、そちらにしますか?」

 

 私の役割はシグナムのバックアップです。シグナムの戦闘補助と探索を主任務としています。2人で別れて狩るよりも、2人がかりで戦いながら片方が探索をした方が効率があがりますから。

 

「わかった。ここでは贅沢は言えないだろうな。次はそれにしよう」

「ご案内しますよ。ついてきてください」

 

 空を飛び、次の蒐集対象に移動を開始しましょう。集合時間まで、あまり時間も無い事ですから。

 

 

 今日はシグナムと2人で蒐集をしています。もう片方のペアはヴィータとザフィーラで、シャマルはハヤテの護衛です。ハヤテから4人も離れている訳ですので、シャマルの負担は大きいでしょう。今日は帰りが遅くになりそうですから、ハヤテも心配するでしょうし。

 

 むろん蒐集の時はハヤテに言い訳をしなければなりません。それぞれ適当な用事を作って外出しています。たとえば、ヴィータならばゲートボール。シグナムは剣術道場で子供相手に指導。ザフィーラは付き添い。私は散歩や図書館、後は神社です。

 ただ、毎日同じ理由で抜ける事は出来ませんし、ハヤテの護衛や手伝いもあります。病院の時はなるべく全員居るようにもしていますから、狩りが進まないときもあります。ですから、2組に別れての蒐集活動は少ないのです。

 

 今のところ、私達の行動がハヤテに悟られている様子はありません。以前からも度々別行動を取っていましたから、不審に思う可能性は低いでしょう。ただ、ハヤテと離れる時間が長くなっていますので、多少は寂しく思っているかもしれません。それは、致し方のない事です。時間に余裕があるわけではありませんから。

 

 そろそろ次の敵ですね。サーチャーで見た限りではこの下。海かと見間違うほどに広い大きな湖が目の前に広がっています。目標は先ほど見た所では湖の上に浮かんでいましたが、今は湖の底に潜っており、目視では確認出来ません。

 

「どうだ?」

「位置は把握しています」

 

 サーチャーで目標の獣を監視していますから、場所はわかります。このエリアサーチという魔法はサーチャーという移動する監視カメラのようなものを使って探す事の出来る探査魔法。相手を見つける時、魔力だけで感知するのに比べると、相手の姿や周囲の状況を視覚的に情報収集が出来るので便利です。

 

「湖の底を沖に向かって移動していますが、どうしますか?」

「水の中での戦闘は面倒だな。負けるとは思わないが」

 

 では、私の出番ですね。

 

「わかりました。水上から私が砲撃しましょう。迎撃するために慌てて浮上してくる可能性は高いかと思われます」

「そうだな……わかった。浮上してきたら後は私がやる。それまでは任せたぞ、シュテル」

「はい。受け承りました」

 

 シグナムに頷き返し、私はすでにデバイスであるルシフェリオンを砲撃特化の姿であるブラストヘッドに変化させます。後は上から砲撃をするだけですが、問題は"殺してはいけない"という事でしょう。蒐集をするには、対象は生きていなければなりません。死んでしまうとリンカーコアを失ってしまうからです。

 

 ですので威力を低めに設定するのは当然ですが、弱すぎれば相手は慌ててくれません。かといって強くすると倒してしまう。倒さず、かつ無視されないように相手を水面に誘導するのは面倒な事です。もっとも、相手は獣です。攻撃されれば野生の本能のまま反撃しようとするでしょう。

 

「この辺りで良いでしょう」

「この真下にいるのか?」

「はい」

 

 サーチャーで目標の位置がわかりますので、その真上に移動します。こういうとき、サーチャーは便利です。狙撃するのに必要な情報がすべて揃いますから。

 

 音叉状に変化させたルシフェリオンを真下に向け、砲撃に備えて魔力を集中。リンカーコアより魔力を供給開始。まずは牽制の一手を。

 

「では砲撃を開始します。まったく心が燃えませんが……」

 

 ええ、まったく燃えません。これは焼却処分ですらありません。しかも相手は獣です。競うものなどありそうにありませんから。これも仕事と割り切って実行しましょう。

 

 

 私が何度か砲撃すると、水底から水面へ巨大な獣が躍り出てきました。首は蛇のように長く、しかし胴体は太い。妙な姿です。その獣は一方的にやられる事に我慢できなかったのでしょうが、浮上してしまったのは悪手と言えるでしょう。出て来てすぐに、シグナムがレヴァンティンの形状を蛇腹状に変化させて絡め取ってしまいましたから。

 

 そこからは特に語る事はありません。シグナムに捕らえられた巨大な蛇は身をよじらせて抵抗しますが、レヴァンティンの拘束を逃れる事が出来ず、そのまま蒐集されてしまいました。

 先ほどよりは魔力も多かったですが、所詮は獣。ページは進みません。まあ、楽ですし、手早く終わったのはよかったと言えるのでは無いでしょうか。それはともかく、とりあえず写真を撮っておきましょう。

 

「ところで、先ほどから何をしているんだ?」

「むろん、画像をルシフェリオンに記憶させているのですよ」

 

 こっそりやっていたつもりでしたが、シグナムにばれていましたか。別段隠すような事ではありませんが。

 

「……それで、それをどうするんだ?」

「むろん、売るのです」

 

 珍しい写真は売れると聞きましたので、私は蒐集をするついでに画像を記憶させています。王とレヴィが出てきたときに金銭が無いのは辛いですからね。橋の下で住むのも悪くはありませんが、どうせならちゃんとした住居に住みたいものです。私のがんばりに私達3人の文化的生活がかかっていると言っても過言ではありません。

 

「そ、そうか……我々の活動が管理局に露見しない程度に頼む」

「お任せください。今すぐ売るつもりはありませんので」

 

 

 それからさらに何匹か蒐集しました。私が探し、シグナムが倒す。時には私がフォローをする事で、危なげなく、かつ手早く蒐集をしていきます。そうしていると、少ない魔力しか持たない獣ばかりとはいえ数を狩っていくので、当然ながらページも少しずつ進んでいきました。

 

「しかし、意外だったな」

「なにがですか?」

 

 10匹目の蒐集が完了した時、シグナムが私を見て言いました。

 

「いや。シュテルがまったく協力をしないとは思わなかったのだが、王の為にしか動かないと言っていただろ? だから、シュテルが進んで蒐集を手伝うとは思っていなかったな」

「ああ、その事ですか」

 

 確かに、私がハヤテの為に力を貸すのはおかしく感じるかもしれませんね。私は王以外には仕えないと明言していましたから。

 

「衣食住を提供して頂いている恩もありますので。それに、別に手を貸す事で問題が起きるわけではありません」

「それだけか?」

 

 シグナムの引っかかる言い方に私は首を傾げます。何を聞きたいのでしょうか?

 

「そうですね……ハヤテが闇の書の真の主になったとしても特に不都合はありません。それに、日頃のご恩もありますから」

「そう思っているのか。私としては、そういった理屈以外の理由もあると思ったのだがな?」

「はあ、そうでしょうか?」

「いや、私がそう思っているだけさ」

 

 理屈以外の理由とは何でしょうか。身に覚えが無いのですが、勘違いをされている気がします。

 

「……わかりました」

 

 ですが、訂正する必要はありません。このままの方が騎士達と円滑に物事を進められるでしょう。それに、たとえ否定してもシグナムは納得してくれない気がします。

 

 私の目的はあくまでも王とレヴィが出てきた時の為の種まきです。砕け得ぬ闇(U-D)を手に入れる為、より協力関係を密にできれば利益になると思われます。その為に、この状況を利用しているだけ。そこに計算はあれど、他の要素はありません。

 

「さて、では次はどっちだ?」

 

 まあ、いいでしょう。深く考える必要はありません。私は気持ちを切り替え、次の獲物へと意識を集中しました。今は理論的に行動すべき時です。それ以外は必要ありません。

 

 

 再び狩りを再開し、次々と蒐集しました。蒐集は順調で妨害もありません。周りにはいくらでも蒐集対象が存在します。もっとも、質はよくありませんが。それでも数が数です。私達は森の中の魔獣を根絶やしにする勢いで狩り続け、時たま見つかる大物は優先して狩りました。

 

 そして、大型の蟻のような魔物を狩ったとき、シグナムが蒐集を終了した闇の書のページを確認すると、今度は満足そうに頷き私に闇の書を差し出してきました。

 

「そろそろ帰った方がいいだろう。予定のページ数も稼げた事だ。ヴィータ達との合流時間もある」

 

 シグナムがそう言いながら闇の書のページを見せてくれました。元々のページから8ページも蒐集が進んでいます。大して苦労もしなかった事から、それほど稼いでいたとは思いませんでした。魔力もかなり温存出来ています。この調子で進めば予想以上に早く集まるかもしれません。

 

 それに、時間も時間です。集合時間に遅れるとヴィータが五月蠅そうですね。ヴィータは自分で遅れるときは一言謝って済ませますが、待たされると不満そうに文句を言うので困ります。

 

「そうですね。では戻りましょう」

「ああ。私はシャマルに連絡を入れてから戻る。待っているだろうからな」

「わかりました。では、私は先に移動いたします」

 

 シャマルとは次元の壁を超えて通信をする事が出来ます。闇の書の機能というよりは、シャマルのデバイスであるクラールヴィンの能力のようです。これは、私にも適応されており、私もシャマルと次元間通信が出来ます。

 

 この能力ゆえにシャマルは常に元の世界でハヤテの側にいる事になっています。何かあれば全員に連絡できますから、ハヤテの身に危険が迫った時などの緊急事態にも素早く対応できるというものです。

 

 

 次元を超えて地球に戻ります。初めて次元を超えた時はザフィーラに連れてきて貰いましたが、今では自分で転送しています。何度も飛んでいますから、この次元転送も慣れたものです。

 しかし、私にも使えたのは意外でしたね。まあ、私も闇の書の一部なのは間違いないのですから、使えない事は無いのでしょうが。どうも腑に落ちません。

 

 シグナムとは別れて何時もの集合場所に向かいました。日が落ちて暗くなった廃ビルの中を進み屋上の扉を開けると、すでにヴィータとザフィーラが待っています。どうやら蒐集は予定通りに進んだようですね。2人の様子から少なくとも機嫌は良いようですので、蒐集は上手くいったように思われます。

 

「やっと来たな。遅せーよ、シュテル」

「申し訳ありません。少し蒐集するのに手間取りました」

「ふーん。シュテルとシグナムが手間取るなんて、そんなに強い相手だったのか?」

「いえ。数を狩るのに手間取っただけです。今日行った世界は、あまり質が良くなかったものですから」

 

 蒐集対象を潰さないようにする訳ですから、一撃で倒すなどは出来ません。必然的に手数が多くなり、時間と労力はかかります。数も狩るわけですから尚更時間はかかってしまいます。

 

「遠い世界にわざわざ行ったってのに外れを引いたんだなー」

「それでも予定以上は蒐集してきたぞ」

「シグナムか」

「お。シグナムも着いたのか。これで全員集合だな」

 

 屋上の入り口が開いたと思えば、シグナムが出てきました。返事をした事から聞こえていたのでしょう。少し苦笑しながらヴィータの前まで歩いて止まりました。

 

「それで、そちらの収穫はどうだ?」

「ああ、なかなか良かったよ。結構大物が多くてさ。ただ、数が少ないのが難点だったけど」

「そうか。それは良かったな。では、さっそく闇の書に蒐集を」

「おう」

 

 ヴィータが手を闇の書に翳すと、魔力の光が闇の書へと伸び、蒐集が開始されました。騎士達は闇の書が無くともリンカーコアから魔法情報を奪う事が出来るようです。ただし、それは一時的に保管するようなもので、直接蒐集するのに比べて劣化してしまいますが。

 

 蒐集はしばらく続き、ページがゆっくりとめくられていきます。6ページを数えた時、伸びていた光が途絶え、蒐集は終了しました。

 

「やっぱ直接じゃないと劣化するな。10ページ分位はあったのにさ」

「まあ、こればかりは仕方無いだろう。こちらは8ページだったから、合計で14ページにはなった」

「なんだよそれ。それなら、あたしの方が闇の書を持って行けば良かったんじゃないのか?」

「そうだな。だが、せいぜい1ページ程度の差だろう」

 

 別れて蒐集する方がページは稼げます。しかし、闇の書を持っていなければ劣化してしまうのが問題です。本当ならば1日で20ページ以上を稼ぐのも可能なはずですが、劣化する為、思うように集まりません。それに、常に2組に別れられるわけでもないのです。今のところ、平均蒐集ページは10ページ程度でしょうか。

 

「遅くはねえけど……」

「焦っても仕方無いぞ、ヴィータ。まったく蒐集が進まなかった時も過去にはあったはずだ。その時に比べれば順調に集まっていると思うが?」

「それはそうだけど……わかってはいるんだよ。だけどさ……」

 

 ヴィータの顔は、その時とは事情が異なると言いたそうにしています。それは、そうでしょう。今回は今までとはずいぶんと違っていますから。状況も、動機も。ですから、焦るのも無理はないのかもしれません。

 

 それはともかくとしても、確かに今の方法は効率的とは言えないでしょう。別にヴィータの気持ちを考えてと言うわけではありませんが、早いにこした事はないですから……何か、そう、別け方を変えてみるのも良いかもしれません。そうですね……。

 

「なるほど……確かに別れての狩りは効率的とは言えません。狩りの時間を6時間に切り、朝7時から昼13時と、昼13時から夜19時に別れるというのはどうでしょうか?」

「ふむ。それならば劣化によるロスは無いが……しかし、さほど蒐集出来るページに差があるとは思わないが?」

 

 疑わしそうな目で見るシグナムですが、その答えは間違っていません。私が考えたのは蒐集のページを増やす事では無いのですから。

 

「個人で見れば蒐集の時間が減ります」

「……なるほどな」

「何が"なるほど"なんだ? あたしには、さっぱりわからないぞ。ザフィーラはわかった?」

「言わんとする事くらいだが、なんとかついて行けている」

「なんだよ、あたしだけわかんないのか?」

 

 仕方無いですね。ヴィータは良くわからなかったようですから、簡単に説明しておきましょう。

 

 効率よくと考えれば、劣化でページが減るのは無駄なのです。では、その無駄を無くすにはと考えたとき、ページを増やすのは蒐集に費やせる時間や帰宅の事を考えると難しいでしょう。出来なくはないでしょうが、そこには無理が生じると思われます。

 

 また、魔力の消耗を考えれば、蒐集の時間を減らせるのは大きいでしょう。今はまだ、魔力の消耗が激しい状況ではありません。これは、次元世界を守っている司法機関である時空管理局との戦闘が始まっていないからです。もし管理局にマークされるようになれば、自由に蒐集出来なくなりますし、無駄に魔力も消耗していきます。

 

 管理局との戦いが始まってからが本番です。その引金が何かはわかりませんが、今から備えておくのは戦略的に考えれば必要な事でしょう。ナノハ達との戦闘で騎士達が劣勢になっていくのを黙って見ているわけにもいかないですから。

 

「そこで時間を作ろうと考えたのですよ」

「ふーん……あー。なるほどな」

「これならば空いた時間で他の事が出来ますよ。たとえば、ハヤテと一緒に居る時間が多くなるとか」

 

 ハヤテの名を出すと、3人の顔が変わりました。少し卑怯ですが、これは私にとっても有益な事なのです。今は揃って狩りをしていますが、その為に1人の自由時間は少ない状況です。もし時間で別ける事が出来れば、自由に使える時間が増え、私も好きな事に時間を使えます。

 

「そうだな。主にも寂しい思いをさせているかもしれん。次から実行してみるのも良いだろう」

「いいんじゃねえか? あたしも賛成だ。その方が気兼ねしなくてもいいし、はやてと一緒に居られる時間が増えるしさ」

「俺は特に反対する意見は無い。後はシャマルに聞かねばならぬだろうが、賛成するだろう」

 

 シャマルが反対するとは思えませんね。帰ったら――。

 

「すでにシャマルにも伝えてある。抜かりはない」

『話はシグナムから聞いたわ。私も賛成よ。だって、はやてちゃん、最近寂しそうですもの。私だけじゃなくて、みんなもなるべくはやてちゃんと一緒に居て欲しいわ』

 

 シグナムは手回しが速いですね。念話通信でシャマルが賛成を表しましたから、これで決まりです。明日からのペアと順番を決め、時間も私の提案通りになりました。

 

「うん? 今のは……」

「どうかしましたか?」

 

 それぞれ帰ろうと出口に向かい始めた時、急にヴィータが立ち止まりました。何かを探すような顔。遠くを見る目。それは、私の予想通りならば――。

 

「う~ん。たまに、妙にでかい魔力反応を感じるんだよな。一瞬だけだから、どこかはわかんねえけど」

「ああ……そうですね」

 

 闇の書から出たときから時々感じる事の出来る巨大な魔力。この世界でこれだけの魔力を持つのは1人だけ……。

 

 ナノハです。

 

「シュテルはわかるのか?」

「それは……いえ。私もたまに感知しますが、場所までは……近くに居るのは間違いありませんが」

 

 実際、場所はわかりません。本当に短い間だけだけですから。これは予想ですが、ナノハの家やナノハ自身には探知を妨害する魔法が張られているのではないでしょうか?その魔法が緩むなり張り直すなり、もしくは外す理由が出来た時に魔力が漏れているのではないかと思われます。

 

 しかし、この事をヴィータには教えられませんね。教えれば、きっと向かうでしょう。それでは予定が狂ってしまいます。いずれ会う事になるとしても、それは遅い方が良いのですから。

 

「そっか。あれを捕まえたらページがかなり埋まるんだけどな」

「そうですね。確かに数十ページは稼げるでしょう。ですが、駄目ですよ」

「わかってんよ。はやての近くでは蒐集をしない。安全のためにだろ?」

「はい。わかっているならば良いです」

 

 今、ナノハとぶつかるわけには……。

 

「でも、この辺りに管理局なんて居ないし……」

「駄目ですよ」

「わかってるって。大丈夫。悪い事はしないって。悪い事はな。……じゃあ、あたしは先に帰るからな」

 

 どうも歯切れが悪いです。ヴィータ……あなたは。

 

 

 それぞれが別れて帰宅する為、ビルの下で別れました。帰る道中、私は一抹の不安を感じました。それは、ヴィータが焦っている事が原因なのはわかっています。

 

 今までの他の主達とは理由が違う。今回の蒐集はハヤテを救うためです。だから、焦ってしまうのでしょう。いつ、ハヤテが闇の書の浸食で命を失うかわからないから。その気持ちは私にもわかります。ですが……。

 

 もし、今、ナノハ達と会ってしまったら……時空管理局の中でも特に警戒すべきアースラのメンバーの介入が早まってしまっては、今後、蒐集にかなりの制約が付くのは目に見えています。

 

「自重して頂きたいところですが」

 

 別れての蒐集を提案したのは下策でしたか? 何か手を打つべきです。少なくとも、防ぐ為の策と……事が起きてしまったときの策を考えておきましょう。

 

 

~~~~~~~

 

 

「ただいま戻りました」

「おかえり、シグナム。今日はシグナムが最後なんやね」

 

 私が最後か……困ったな。適当な言い訳を言わなければならないが……。騎士として忠誠を誓う主に嘘を言うのは辛いものだ。

 

「申し訳ありません、主。少し……その、師範代に頼まれまして細かい作業をしていた為に時間が遅くなってしまったようです」

「細かい作業ってシグナムには似合わねえな。なあ、シュテル?」

「そうですね。まったく似合っていません」

 

 なぜか2人が絡んでくる。おかしな事を言ったつもりはないのだが。

 

「何を言っているんだ、2人とも。私も必要ならば細かな作業もするさ」

「そういえば、包丁でキャベツの千切りが上手くいかないからって、レヴァンティンを使おうとしたよな? 切れれば同じだからってさ」

「説明書を読むのが面倒で、カメラの操作を何度も間違えていました」

 

 笑っているな、2人とも。シュテルは無表情だが雰囲気から察するに笑っている。なによりも、ヴィータは今にも顔を崩して笑い出しそうだ。この2人、確実に私をからかって遊んでいるな。

 

 まったく、こいつらは……。

 

「2人とも、私をからかっても無駄だ。確かに苦手ではあるが、私とて必要があれば、やるときはやる。疑う理由はどこにも無い」

「別にからかってなどいませんよ。純粋に疑問に思っただけです。むしろ、話をはぐらかそうとしていませんか? 怪しいですね」

「だよな。怪しいぞシグナム」

「2人とも、そこまでや」

 

 さすが、我が主はやて。わかっていらっしゃるようだ。返事に窮していると止めに入ってくれた。このような馬鹿な事には、きつく2人に言ってもらいたいものだが。

 

「シグナムも大人やからな。大人の付き合いもあるやろう?」

「は? え、ええ。まあ、そうです」

 

 ん? なんだ……何か違う気が……するんだが。まあ、間違ってはいないだろう。

 

「やっぱりそうかー。そうやと思ったんや。道場のお兄さんは、ちょっと格好良かったし、ええ人やしな~」

「なるほど。容姿端麗な男性と年頃の若い女性ですね」

「なんだよそれ? 言っている意味がわかんねえぞ」

「何を言っているんだ、シュテルは? 主も、おかしな事を言わないで頂きたい。確かに出来た人物とは思っていますが」

 

 何? どういう事だ? なぜ、そういう話が出てくる? なんだ、おかしい。おかしいぞ、この流れは。

 

「そっかー。だから夜は当然……」

「若い男女が夜の街に消えていくのですね。不潔ですね」

「なんで街に消えたら不潔なんだ?」

「黙れシュテル。主はやて、何か誤解をしているのでは無いですか?」

 

 ま……さか。主までこの2人のお巫山戯に荷担したというのか!

 

「せやから、この話はここまでや。これ以上、シグナムのプライベートに口を挟んだらあかん!」

「待ってください、主! 少し私の話を聞いて頂きたい!」

「なるほど。納得しました」

「あたしは全然わかんねぇんだけど」

「ヴィータにはまだ早……、いや、わからなくていい。シュテル、お前は勝手に納得するな!」

 

 なぜこうなる……。

 

 

 その後、すぐに主はやてが冗談だと言ってこの会話を終わらせて貰えた。私には災難だったが……だが、まあ。終わって振り返れば、良しとすべきかと思える。

 

 蒐集が始まって以来、我々が主はやてといる時間は大幅に減っている。最近は笑う事も少なかっただろう。だからか、主が楽しんでいるとわかったとき、その楽しそうな顔が見れたので不快感はなかった。私は決して楽しんでいたわけではないが……。

 

 今後も蒐集状況によっては顔を合わさない事が増えるかもしれない。ならば……少しでも主の気が紛れるのであれば、私が道化の役を演じても良い。

 

 

 早く蒐集を完了させなければならない。主との平穏な日々に戻る為に。主の笑顔を守る為であれば、私は。

 

「いくぞ、シュテル」

「はい。参りましょう」

 

 あえて主との誓いを破ってでも、私は剣を振り続けよう。

 

 すべては主の為に。


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