魔法少女LyrischSternA’s   作:青色

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補完的設定及び追加設定有り。


4話 訓練 7月

 やっと待っていた日が来ました。今日は午後からハヤテが病院に行く日です。それはつまり、家に残る数名が自由に時間を使える日でもあります。

この日に合わせて訓練を手伝ってもらうという話でしたので、私は朝から少し落ち着かない気分でした。朝も早く目覚め、家事の手伝いも上の空。興奮気味だと自覚しています。

 

「はやて、いってらっしゃい」

「行ってくるわね」

「シャマル、私が押そう。では、行ってくる」

「ゆっくりとしてきてください」

「病院でゆっくりも微妙な感じやな。それじゃ後は頼んだね」

 

 ハヤテとシグナムとシャマルを送り出すと、次は私達が外出をする出番です。私は急いで台所に向かいました。急ぐ理由は、刻限がハヤテの帰宅する午後4時までだからです。今は午後1時ですから、あまり時間がありません。台所に付くと事前に購入していた飲み物を水筒に入れ替え、氷を入れた後に再び玄関に戻ります。玄関ではすでに2人が私を待っていました。

 

「お待たせ致しました」

「水筒を持っていくのか?」

 

 私の手に持つステンレス製の水筒をヴィータが呆れたような目で見る。

 

「今から向かう先は砂漠ですから、水は必要でしょう」

「そうか? あたし達が水不足で死ぬなんて事は無いだろ。飛んで帰れるしな」

「そうですね。ですが、汗を書いた後に飲むと美味しいのではないでしょうか?」

「だったらキンキンに冷えたのが良いな!」

「抜かりはありません」

 

 途端に態度を翻すヴィータは見た目通りの子供に見えました。まあ、私達に年齢はあまり関係ありませんが。

 

「二人共、時間が無いのではないのか?」

 

 子犬から元の姿に戻っているザフィーラの言うとおり、こうしているだけですでに午後1時10分です。時間が無駄に経ってしまった。

 

「わかってるよ、ザフィーラ。それじゃ行くけどさ、シュテルは次元転送って出来るよな?」

「知識としてはあります。ですが、実際に使った事はありません。そもそも、守護騎士では無いですから、使用できない可能性があります」

 

 今回の訓練場所は別の次元世界です。この世界とは違うため、移動するための転送魔法を使う必要があるのですが、私は知識として知っていても、使用した事はありません。そもそも、守護騎士達の使う次元転送は守護騎士システムの特殊魔法であり、普通の魔法とは異なります。その為、使えない可能性が高いと考えられます。

 

「ならば行きは俺が運ぼう。帰りに試してみるといい」

「わかりました。それではお願い致します」

 

 まずは体験をしてからという事でしょうか? どちらにしても、早く訓練をやりたい私としては、運んで頂けるのはありがたいですね。水筒を肩にかけて、私はザフィーラに向かいました。

 

「では申し訳ありませんが、宜しくお願い致します」

「シュテル」

「はい?」

「何故、俺の背にまたがるのだ?」

 

 なにを言うんでしょうか。この犬は。

 

「動物で移動といえば、背にまたがるのが常識では無いのですか?」

「ど……いや、別に……構わんが」

 

 早く行ってください、ザフィーラ。

 

 

 

 ザフィーラの次元転送は少し長かったと思われます。移動先は遠かったのでしょう。移動距離によって時間がかかるため、緊急時の離脱では使いづらそうです。到着したのはどこか別の世界の砂漠です。周囲を見渡しても、砂と青い空に2つの太陽しか見えません。

 

「ついたぞ。ここなら好きなだけ暴れられるな」

 

 確かに周囲は砂しかありませんし、人も住んでいない未開の世界ですから、管理局にも気づかれにくいでしょう。

 

「それで、どうすんだ? ぶっ叩けばいいのか? あたしは訓練なんて知らないから、どうすればいいのかわからねえぞ」

 

 事前に話をしていたのですが、詳細な話はしたわけではありません。結局、私も訓練方法に詳しくはないのす。ですので、やり方は実践に近い方法を取らざるおえない。

 

「はい。基本はそれでお願いします」

「本当に良いんだな? 潰れても知らねえぞ?」

「本当にいいですよ。ただし、こちらは回避や迎撃行動を取ります。私に一撃を入れればヴィータの勝ちという事でいいですか?」

「それでいいよ。あたしとグラーフアイゼンからどこまで逃げきれるか、試してやる。アイゼン!」

Bewegung(ベヴェーグング)

 

 ヴィータの呼びかけに待機状態だった鎖で繋がれたハンマーのミニチュアであるグラーフアイゼンが武器形態に戻る。それは長柄のハンマーという武器の形をしたアームドデバイス。ベルカの騎士が使う武器。特徴としては、武器の性能重視で魔法のサポートはミッドチルダ式のデバイスに比べると劣っているという感じです。

 

 同時に展開される騎士服はバリアジャケットの一種で、ベルカの騎士が着る防具。全体的に赤を基調としたそれは、甲冑には見えない。かぶっている帽子には、ヴィータがハヤテに買ってもらった"のろいうさぎ"と同じような顔をしたヌイグルミが付いている。

 

「それでは私も準備いたします。起きてください、ルシフェリオン」

 

 ポケットから取り出した丸い紅色の宝石を掌に乗せると、宝石はすぐに杖の携帯に変化します。私のデバイスはルシフェリオン。杖の形をした私の半身。そして、バリアジャケットを展開する。私達は殲滅服(ヒートスーツ)と呼ぶそれは、紫を基調としたナノハのバリアジャケットの色違い。

 

「では、俺はここで周囲を警戒をしておこう」

「お手数をお掛け致しますが、お願い致します」

「それよりも、怪我には二人共気をつけた方がいい。怪我をした事を主が知れば、きっと心配されるだろう」

「あたしは大丈夫だ。そんなヘマはしねえ」

「私も大丈夫です。それでは開始しましょう」

「よし! それじゃ先に行くからな」

 

 ザフィーラに注意を受け、先に空に上ったヴィータを追って私は靴に羽を生やして空へと舞い上がる。真紅に輝く炎の羽。ナノハとは違う私の翼です。

 

 マテリアル-S、躯体稼働中

 躯体稼働率99%

 リンカーコア正常作動

 出力限界91%、戦闘可能

 ルシフェリオン安全装置解除

 

 この時代で初めて躯体(くたい)が復帰した時に比べ、調子はとてもいいです。適当な高さに登ると止まり、ヴィータと対峙するように止まる。魔力の供給源であるリンカーコアから全身に魔力を送り、戦闘に備えます。これは腕力や防御だけでなく、聴覚や視力すら上げる。魔法とは、実に便利なものですね。

 

「シュテル。最初っから叩いていいか?」

「ご自由にどうぞ。特に制約は設けません。一撃を入れれば終わりでいかがでしょうか?」

「わかった。よし。今からビシビシ行くからな。覚悟しとけよ」

「何時でもどうぞ、ヴィータ」

「アイゼン!」

Pferde(フェーアデ)

 

 ヴィータの足が魔力の風を纏う。それから察するに、これは移動用の魔法。

 

「行くぞ、シュテル!」

 

 声と同時に突っ込んでくるヴィータ。

 一瞬、姿が残像のように流れる。

 あまりの早さに対応が遅れてしまう。

 

 迎撃は不可。防御を。

 

「プロテクション」

 

 振り上げられる長柄のハンマー。

 

「テートリヒ・シュラーク!!」

 

 重い衝撃が杖を襲う。叩きつけられた場所が火花のように互いの魔力が散っていく。

 威力はまだまだ、耐えられるレベル。互いの魔力がせめぎ合うが、私の防御は崩れない。

 

「チッ。かてぇ」

 

 プロテクションは対物理攻撃では優秀です。しかも真正面からの打ち込みでは、そう簡単には崩れません。防御膜の魔力が減衰するものの、ヴィータの方が先に尽きるでしょう。

 

「そちらは余裕ですね。ヴィータ」

「当然。まだ全然本気を出してないからな!」

 

 ふと力が弱まると、ヴィータは後ろに一気に下がりました。私も魔法を止めて後ろに下がる。いつの間にか、ヴィータの足から移動魔法は消えています。どうやら、あの魔法は長くは持たないようですね。私にも良く似た魔法がありますので、次はそれで対応できるでしょう。

 

「んじゃ次は少し本気を出すからな」

「そうは言わず、全力でかかって来てください」

「ばっか。それじゃシュテルの訓練にならないだろ。それに、あたしが本気で戦う時は、はやての為だけだからな」

 

 久しぶりの戦闘にいつの間にか私も高揚していたようです。目的を忘れそうになっていました。これは訓練です。少し自重しましょう。

 

 それにしても、ヴィータは思った以上に冷静です。戦闘を好まないような様子も、普段の印象とは異なります。以前抱いていたイメージは、今はもうありません。

 

「そうですか。残念ですが、仕方ありませんね」

「お前もシグナムと同じでバトルマニアなんだな」

 

 シグナムは戦闘が好きなのですか。次はシグナムに頼んでみましょう。今なら受けてもらえそうな気がします。

 

「いいか。カートリッジ使って攻撃すっから、ちゃんと受け止めるなり避けるなりしろよ」

「はい。お願いします」

「行くぞ。グラーフアイゼン、カートリッジロード!」

Explosion(エクスプロズィオン)

 

 ヴィータのデバイス、グラーフアイゼンが返事をすると、擦過音がしてハンマーの頭の部分が伸びる。続いて勢い良く元に戻ると炸裂音が響いた。

 それは一時的に魔力を高める弾丸がデバイスに供給された音。カートリッジシステム。ベルカ式の特徴です。

 

Raketenform(ラケーテフォルム)

 

 グラーフアイゼンの姿が変化する。今までのハンマーの頭の片側部分にロケットの噴射口のようなものが付き、逆側には先端の尖った突起。より衝撃を一点に集中させた姿。その効果は、ナノハが一方的に負けるほど。このまま受ければ、防ぐのはかなり難しいでしょう。ならば。

 

「カートリッジ ロード」

 

 手元から聞こえる炸裂音。一時的にルシフェリオンの魔力が膨らむ。私のデバイスであるルシフェリオンもまた、カートリッジシステムを搭載しています。武器は同等。後は個人の力比べ。

 

「ラケーテン!」

 

 噴射音と共にヴィータが回転を開始。その場で回って加速を得るつもりですか。そのおかげで短い時間ではありますが、迎撃も可能。いえ、迎撃は危険。

 

 防御か回避か。

 

 ですが、選ぶのは最初っから決まっています。

 

 ヴィータが回転を止め、突撃に移る。

 噴射口から激しく噴出する炎。

 速度は先ほどと変わらず早い。

 まさか、先ほどの移動魔法はこれを擬似的に体験させるためなのでしょうか?

 

「ハンマーーッ!」

 

 振り下ろされるハンマー。

 私は右手を上げ、魔法を選択する。

 

「ラウンドシールド」

「でええああッッ!!」

 

 右手に等身大の円状魔法陣の盾が浮かべる。

 そこにヴィータの攻撃が突き刺さった。

 

 再び互いの魔力がぶつかる。

 先程よりも激しく魔力光が散る。

 先端を尖らせ、さらに推力を得たヴィータのハンマーは強引に私のシールドを打ち砕かんとする。

 赤い魔力光と紅色の魔力光。

 良く似た色が周囲に飛び散った。

 

 だがしかし、それでも私は動じない。

 

「な、くそ。また硬く――ッ!」

「さすが――ですが、まだいけます」

 

 互角の力。

 しかし、分は私にある。

 

 右手で相手を少しずつ上に上げる。

 魔法陣のサイズを小さく、しかし強固に構築する。

 そこに開いた隙間に左手に持つルシフェリオンを向け、私は魔力を軽く練り込む。

 

「ヴィータ。避けてください」

 

 警告をしてからリンカーコアからルシフェリオンに魔力を供給。

 ルシフェリオンを砲口とみなし、私は魔法を解き放つ。

 

「ディザスターヒート!」

「うおっ!?」

 

 赤い火球を三連射。

 杖をずらしてなぎ払うように撃ち放つ。

 放たれた赤い火球は、しかし、ヴィータに当たること無く虚空へと吸い込まれた。

 避けられた火球は青い空へと進んだ後、赤く爆ぜて消える。

 

 突撃を停止したヴィータは寸前で上へと飛ぶ事で回避していた。

 

「あっぶねえ。警告が無かったら当たってたかもな」

「大丈夫です。当たってもヴィータのバリアジャケットは貫けませんので。多少焦げるかもしれませんが」

 

 グラーフアイゼンが空薬莢(からやっきょう)を排出する音がする。ヴィータは危ないと言いつつも余裕のある表情です。警告をしましたから、避けるのも実は苦労しなかったのかもしれません。もっとも、警告をしなかったからと言っても、防御をしながらの攻撃です。威力は弱く、照準も制御も甘い状態。果して当たったとしてもヴィータを止めることが出来たかどうか……。

 

「今の、相手を離す為の牽制では使えるかもな。でも、まあ、それでも向かってくる相手にはキツイと思うけどな」

「相手次第という事ですか。覚えておきます」

 

 本当は、これで一撃を入れて相手にダメージをと考えたのですが、さすがに負担が大きいです。防御魔法を維持しながらの砲撃は、少々無理がありました。

 やはり、ナノハの使った方法が一番なのかもしれません。プロテクションの上位魔法を使用して防いだ後、バリアバーストによって爆発させる方法。闇の書から見ていたそれは、なかなかのものでしたが、しかし、あれは相手だけでなく自分も吹き飛んでしまいます。そのせいで次手に遅れが生じるかもしれません。

 そもそも、自身よりも強い相手にどこまで通じるか……。いいえ、やってもみずに推測だけしても無意味です。やはり試してみなければ。

 

「んじゃ、次はどうするだ? もう一回突撃するか?」

「ご自由にと言いたいところですが、もう一度やってみたいです」

 

 私が希望を告げると、ヴィータは軽く頷いた。

 

「それじゃ、もう一回突撃する。少し距離を取った方がいいか?」

「いいえ、このまま続けましょう。少し試したいことがありますから。それに、一撃を入れれば勝ちというルールもありますから、不利な状況だからと逃げるわけにはいけません」

「あったな。そんなルール。忘れてたけど」

 

 最初は模擬戦闘のつもりだったのですが、本当に訓練の手伝いをしてもらっています。きっと私がクロスレンジでの対応方法を模索しているとザフィーラから聞いたのでしょう。

 

「そうですか。まあ、無くてもいいです。これは訓練ですから」

「だな。あたしもその方がいい。それじゃもう一回行くぞ。アイゼン!」

Explosion(エクスプロズィオン)

 

 デバイスから聞こえる擦過音がすると、続けて炸裂音が響く。再びカートリッジを使って構えるヴィータは、どうやらもう一度叩くつもりのようです。

 

「どうぞ。もう一度防御します」

「今度はそうはいかねえぞ。その鉄面皮を引き剥がしてやるからな! アイゼン、最大出力!」

Jawohl(了解)

 

 再び加速が始まる。今度は回転しながら速度を上げつつこちらへと飛んでくる。

 これは、さらに加速を上げて打撃力を高めるつもりですか?

 

 噴射音がさらに激しく耳朶を打つ。

 唸るような音が徐々に早くなり、風きり音が身を切るが如く届く。

 だが、それでも私の選択は変わらない。

 

「ラケーテン!」

「カートリッジ ロード」

 

 振りかぶられるハンマーを目の前に再びルシフェリオンから炸裂音が聞こえ、魔力を供給する。

 ナノハ。あなたの魔法を試させて頂きます。

 

「プロテクション・パワード」

 

 穿たれる寸前で防御障壁を展開。

 差し出した右手を中心に、これまでのプロテクションとは違う重厚な障壁が生まれる。

 だが、それは相手も同じ事。

 今まで以上に強力な一撃が目の前に迫った。

 

「ハンマーーッ!!」

 

 今までとは比べ物にならない衝撃が魔法を行使する腕に走る。

 三度ぶつかる赤と紅の火花。

 グラーフアイゼンの噴射口から更に激しく炎が噴出する。

 推力が、私を押す。

 今までと全く違う。

 激しい魔法の火花が、さらに凄まじく青い空を染める。

 

 ここから反撃を、そう思った矢先。

 押し戻そうとした瞬間、魔法で創りだした絶対防御のシールドに異音がする。

 

 ヒビが、入った?

 

「ぶち抜けーーッ!!」

「くっ――これほどとは!」

 

 グラーフアイゼンの先端が、シールドへと食いこんでくる。

 ナノハの時とは明らかに違う。

 あれは、度重なる蒐集の行使によって疲弊した後だから?

 これが、ヴィータの全力――。

 

 ――ですが。

 

「負けるわけには、いかないのです。バリアバースト!」

 

 リンカーコアからの魔力の流れを全てシールドへ。

 シールドに食い込まれた一点に向けて魔力がシールドの曲面を伝って流れる。

 自分の負傷を恐れては勝てない。

 さらに収束させた魔力の塊をグラーフアイゼンの先端に向ける。

 シールドの表面が激しく波紋を広げ初め、あとは。

 

 爆発する。

 

 2人の中心で魔力が弾ける。

 衝撃が身を襲い、噴煙が視界を隠す。

 

「うわあっ!?」

「くっ。まだです!」

 

 衝撃に耐え、後ろに流れる勢いに空中でブレーキをかける。

 軋む体に、思わず唇を噛んで我慢する。

 

 まだ、勝っていない。吹き飛んだだけ。

 突然の爆発に互いに後ろへと飛ばされ噴煙から出れば、ヴィータは吹き飛ばされて空に身を投げ出しいる。

 

 まだ体勢を立て直せていない。

 今ならば確実に当てられる。

 

 先に立て直し、杖を腰溜めに構え直す。

 

「ブラストヘッド」

 

 手に持つルシフェリオンのヘッド部分が音叉状に変更する。

 より魔力を杖の先端に集めやすくした砲撃特化のフォルム。

 私のルシフェリオン本来の姿。

 

「ルシフェリオン!」

 

 私の声と共に再び響く擦過音(さっかおん)。リロードされた弾丸が内部で炸裂する。

 魔力を供給された私はヴィータにルシフェリオンの先端を向けた。

 

 撃つまでに時間が掛かる大技は出来ない。

 だから私は選択します。

 最も早く撃てる砲撃魔法を。

 

「ブラストファイア」

 

 ルシフェリオンの先端に魔力が集中する。

 4つの環状魔法陣が杖を中心に回転し、砲塔と化す。

 魔力の球体は即座に大きく育った。

 

 目標捕捉。

 

 照準固定。

 

「ファイヤ――ッ!!」

 

 砲撃開――。 

 

「そこまでだ! シュテル止めろ!」

 

 声と当時に砲撃寸前のルシフェリオンが上へと跳ね上げらた。

 目の前に青い狼の姿が現れ、砲撃状態のルシフェリオンの4つの円環は白い刃で貫かれ、膨らんだ赤く燃える真紅の魔力球は砲撃を留め置かれ、溜められた魔力が拡散する。

 

 邪魔をしたのは、ザフィーラですか。

 

「何をするのですか?」

「頭を冷やせ。その砲撃はヴィータが傷を負う」

「ああ……なるほど。申し訳ありません。傷つくのはタブーでしたね。忘れていました」

 

 そうでした。最初の約束で、傷を受けるのは禁止でしたね……。頭が冷めていく。ならば、これ以上は止めておきましょう。

 

 腕から力が抜けていくと、ルシフェリオンに込められた魔力を拡散して消します。同時に円環は消え、音叉状のヘッドは元の形へと戻しました。空薬莢を排出し、私は杖を下げて戦闘終了を告げます。

 

「それに、お前の方もひどい姿だ。一旦訓練は中断にした方がいいだろう」

 

 言われてみれば……。自分のやった事とはいえ、スカートの裾は切れ、袖は破けが目立っています。それだけバリアバーストの衝撃が強かったのですが、ヴィータを引き剥がすのに無茶をしました。

 しかし、そうしなければ引き剥がせなかったでしょう。完全にヴィータのグラーフアイゼンは私のバリアに食い込んでいましたから。下手をすれば破られていたかもしれません。

 ですが、確かにやり過ぎました。手加減なしで魔力を爆発させたのですから。

 

「くっそ。まだ頭が揺れる……」

 

 少し反省していると、ヴィータが顔をしかめて頭を振りながらこちらに来ていました。怒ったりしていないか気になります。もう訓練をしないと言われたらどうしましょうか。少し、不安です。

 

「大丈夫ですか?」

 

 恐る恐る問いかけると、ヴィータはこちらに顔を上げました。その表情に怒りがないことを見て、私は胸を撫で下ろします。

 

「ああ、あたしは大丈夫だ。ちょっと頭がクラクラするだけ」

「申し訳ありませんでした。ヴィータの一撃が予想以上に強かったので、思わず力が入りすぎました」

「まあ、あたしも少しやり過ぎたとは思ってるよ。だからお互い様だ」

「本当に申し訳ありません」

 

 頭がまだ揺れているのかヴィータはしきりに頭を振っています。

 

「いいって。それにしてもさ、まさかあそこで返されるなんて思わなかったな。あの切り返しは初めて見た」

「クロスレンジ対策の1つです。自爆技みたいなものですが」

「シュテルの防御力あってのものだ。並の防御魔法では返す前にヴィータの鉄槌に砕かれていただろう」

 

 ザフィーラの評価に相槌を打つと、バリアジャケットを修復して元に戻し地上へと一旦降りることにしました。少し水が飲みたい気分です。久し振りに攻撃を受けたせいか、口の中が乾きました。

 地上に降りて水筒を取り出して喉を潤した後、ヴィータにも渡してあげます。

 

「どうぞ」

「サンキュー。それで、今日は終わりにするのか? あたしはどっちでもいいけど」

「そうですね。魔力弾での迎撃もしたいですが……」

 

 まだ時間がありますので、今度は危険の少ない訓練に変更して続行したいです。戻ってしまっては全力は出せない為、魔力弾の数を制限しなければなりません。そういえば、ザフィーラはヴィータが騎士の中では一番魔力弾の制御が得意だと言っていましたね。

 

「ミドルレンジの戦闘は、あたしも出来るな。あたしは4つ位の制御なら出来るけど、シュテルは?」

「私は……これだけです」

 

 問われてルシフェリオンを再びカートリッジをロードさせ、パイロシューターを発動させる。周囲に12の赤い炎熱変換した魔力弾を浮かべてみせた。

 

「12個って……制御できるのかよ?」

「出来るだろうな。シュテルならば」

「はい。無理をすればもう少し増やせます」

「増やせるって、それだけ制御できるなら、あたしと訓練する必要ないじゃんか……」

「全力でやればシュテルが圧勝するだろう」

 

 確かに数が違いすぎて全力では戦えませんね。どうしましょうか。やはり合わせなければなりませんか。

 

「仕方ありませんね。では、4個に減らしてあげますよ?」

「やっぱぶっ叩く!」

「それはもう止めておけ」

 

 やれやれ。先程はあんなに冷静でしたのに、やはりヴィータの沸点は低いですね。

 

 

~~~~~

 

 

 病院から帰ってくると、シュテルちゃんとヴィータちゃんはお昼寝中でした。まるで姉妹のようにザフィーラの背中に頭を預けて眠る姿が凄く可愛い。シュテルちゃん、こんな顔も出来るのね。クラールヴィント、こっそり画像取っておいてね。

 

「留守の間、来客などは無かった」

「すまんな。2人の面倒を見てもらって」

「別に問題ない」

 

 起きていたザフィーラが律儀に報告をしてくれました。ザフィーラは仲間思いな立派な狼。最近、子犬の姿も取るけど、それはハヤテちゃんとシュテルちゃんを気遣っての事なのを私は知ってる。シグナムは笑っていたけども、わかってはいるみたい。

 

「お留守番ありがとうな。2人はお疲れさんなんか?」

「遊び疲れたようです。起こしますか?」

「いや、そのままでええよ。起こすのは可哀想やん」

「わかりました」

 

 そう返事をしたザフィーラは、2人の頭を背に乗せたまま、起こさないように自身も伏せて目を瞑った。きっとザフィーラは2人が起きるまでそうしているに違いないわ。

 

 それにしても、二人共、相当疲れたのね。本当にぐっすり眠ってる。はやてちゃんも少し眠たそうな顔をしてる。ずっと病院で検査をしていたし、車椅子だから疲れているわよね。

 

「はやてちゃんも少し横になった方がいいかも。石田先生からも今日は安静にって言われてるし」

「そうやね。私も検査してちょっとお疲れさんや。それに2人を見てたらこっちも眠くなってきたかも」

「それではベッドにしますか? それともザフィーラを枕にしますか?」

「ザフィーラの背中は一杯やから、今日はええよ。ベッドで寝る程でもないから、ソファーでちょっとだけ横になりたい」

「では、私が移して差し上げましょう」

「ありがとうな、シグナム」

 

 シグナムに運ばれたはやてちゃんはソファーで横になると、しばらくして寝息が聞こえてきた。よっぽど疲れたみたい。後片付けは私達でもできるから、大丈夫ね。

 問題は今日の夕食は誰か別の人が作らなきゃならない事かしら。

 

 夕食ははやてちゃんがメインでシュテルちゃんが手伝う事が多い。でも、今日ははやてちゃんは無理をさせれないし、シュテルちゃんは疲れて眠ってる。他のメンバーだと、シグナムやヴィータちゃんは作れないし、ザフィーラも無理。

 そうなると私しか居ない。

 

 私は料理を作るのは好きだけど、あまり評判はよくなかった。ヴィータちゃんなんて、『テラ不味い』とかいって食べようとしてくれない。でも、最近ははやてちゃんに褒められることも増えたし、今なら作れそうな気がする。

 

 うん。大丈夫。はやてちゃんとシュテルちゃんに教えてもらったレシピもあるし。夕食を作るくらい私1人でも出来るわよ。

 

「それじゃ、私が夕食の準備をするわね」

「待て。なぜシャマルが準備をする?」

「え? だって、今日ははやてちゃんは安静にしなきゃならないし」

 

 料理は結構体力を使うもの。あまり無理はさせられないわよね?

 

「それはそうだが。いや、しかし、お前が作ると主の身に危険が」

「ええぇ……それってどういう意味なの、シグナム?」

「ああそれは、いや。なんだ。味が独特というか、作り方が個性的であるというか」

「もう。大丈夫よ。ちゃんと普通に作るから。これでも、最近ははやてちゃんにも褒められるのだから。よって、今日は私が腕によりをかけて作ります!」

「ザフィーラ、今すぐシュテルを起こしてくれ」

「ちょ、ちょっと! どうしてよ?」

 

 酷い! どうしてよ、シグナム!




シュテルの使える魔法をゲーム通りにすると少ない為、必要に応じて追加します。

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