「という夢を、あの時に見ていたのです」
私は話し終えて一息つく。
エルトリアの一角。数少ない人が住めるドームの中にある私達の拠点。
「えらく長かったぞ……」
「う、シュ、シュテるんが……」
「要点だけですが、数ヶ月分の夢の記憶ですので」
我らの王ディアーチェに全てを託した後、再び復活するまでの間に見た夢は、とてもとても、長い夢でした。再び復活を果たした時、私は暫く状況を把握することが出来ないくらいに混乱していました。
「シュテるんが、シュテるんがぁぁぁうわあぁぁッッ!!」
「ええい! 落ち着かんか!」
「レヴィ。よしよし」
「ぐすん。ありがとう、ユーリ」
参考元となったフェイトとは違う水色の髪をしたレヴィを、更に幼い姿のユーリが頭を優しく撫でる。それを見て、ディアーチェが呆れたような顔をしました。
レヴィはフェイトとは姿が似ているだけで中身はまったくの別物。ディアーチェもハヤテとは姿形は似ていても、似ているのは外見だけ。それは私も同じ事。ユーリは元は人間ですから、私達とは違い独自の姿形を持っています。
「まったく、ユーリに慰められるとは、情けない」
「だってぇ、シュテるんが、ちゃんとボク達の所に帰ってきてくれたんだもん!!」
顔を上げて私を見上げるレヴィの顔から、喜びが溢れて見えました。
「確かに、よくぞ帰ってくる選択をした。夢とは言え、さすがシュテル。我が槍よ!」
「シュテるん、さっすがぁ!」
王とレヴィが私を褒めてくれる。それだけで、私の幸せは充分です。
充分ですが、もう少し褒めてもらいたい。
「えっへん。もっと褒めてもいいんですよ?」
「シュテるん格好いい! 可愛い! 強い! おかえり!!」
「ありがとうございます」
「二人揃って馬鹿な事をするでないわ」
満足いたしました。
「さっきは“我がカッコイイ槍ぞ!”とか嬉しそうに褒めてたくせに~」
「そんな事、言っとらんわ! 勝手に話を改変するでない!」
このような会話は私達には必須なのです。大事なコミュニケーションなのです。
いつもの2人を見ていると、気持ちがさっぱりとして落ち着きますね。
「でも、もしかしたら本当にシュテルちゃんは違う世界に行ってたのかもしれませんね?」
赤い髪の方の自動作業機械のギアーズ、アミティエが頬に人差し指をつけて考えている。
その横に居るのはピンクの髪の頭が悪そうな方と王が評するキリエ。
「それってどういう意味なの、アミタ? 違う世界って、未来とかじゃなくて別の世界線って事かしら?」
「キリエの言う通りです。王様もレヴィもユーリも居ない世界線。いわゆる平行世界です。夢にしては、あまりにも現実味がありすぎる気がしますから」
平行世界。ほとんど同じ世界でした。違うのは私達が関わる部分だけ。
そんな世界が無数にあるのならば、もしかしたら私達がハヤテ達と住む世界も実在したかもしれません。
それはそれで楽しい日々が待っていたことでしょう。
「もしそうなら、なんだかすごく悲しいお話に思えてきますよね。決して交わらないはずの物語が交わってしまって……そして永遠に分かれてしまう、そんな悲しいお話に」
決して交わらない。永遠に分かれてしまう。
そうであるならば、確かに悲しくはなります。
皆が喋ることを止め、静かになり、場が暗くなる。こんな雰囲気にしたかったわけでは無かったのですが。
ですが、大丈夫です。こういう時は王に任せておけば。
「まったく、話が長すぎて昼食の時間になってしまったわ」
「そうですね。思わず時間を忘れて話をしてしまいました」
王の一言で皆の雰囲気が戻ってくる。元々皆、明るい性格ですから、変に落ち込むのは似合いません。
そうです。私達に暗い空気は似合わない。
明るい未来があると信じて明るく生きていくべきです。
「うー。早起きしすぎてちょっと眠いけど、今日は150階を踏破するつもりだし。でも、やっぱり眠い~。でも150階に行きたいしー。うーーー!!」
「でも、寝不足でダンジョンに行くのは危ないですよ、レヴィ」
「それはそうだけど、ボクが頑張ればみんな楽になるし! シュテるんがマドウデンタツクドウケイ? のパーツが欲しいって言ってたし!」
レヴィはダンジョン攻略にはまっています。そのダンジョンの最下層がどこまでかわかりません。
しかし、持ち帰ってくる品々は貴重なものも多く、エルトリアの再生事業には欠かせません。
まあ、半分はガラクタなのですが、それらも戦利品としてレヴィの部屋等に飾られています。
「私の方は急いでいませんよ、レヴィ」
「ならば別に急ぐ理由もなかろう。何かあってはユーリも心配するであろうしな」
「王様が優しい!!」
「いちいち、ちゃかすな!」
レヴィにからかわれ、その恥ずかしさを誤魔化す王の姿は、実に微笑ましいです。
「そうですよ、レヴィ。まだまだ先は長いのですからね」
「う~ん。じゃあ、明日にしょっかなー? 今日は王様やシュテるんのお手伝いをして、明日のために英気を養う、みたいな?」
言葉だけを見るとユーリの方がレヴィより年上のように見えてしまいますね。
ユーリがすくすくと成長しているようで嬉しい限りです。
レヴィはああ見えて、実はよく周りを見ています。見すぎて一周回ることもありますが。
「あ~ぁ。私も、もう一回寝ようかしら?」
「こら! キリエ! 今日は街の人から頼まれてた仕事があるでしょ?」
「だってぇ、寝不足は美容の敵だし~ 代わりにアミタが行ってよ~」
「いいから起きなさい!」
「えー」
こちらの姉妹も仲がいいです。本の少し前までは姉妹喧嘩をしていたとは思えないほど。
いいえ、仲がいいから喧嘩をするのです。
そういえば、私はヴィータと言い合いをしたことがありました。ゲームでは少しやりすぎました。懐かしい思い出です。
「どうした、シュテル? 気になることでもあるのか?」
「いいえ。ただ、今の私達から見れば過去の話になってしまいますが、こちらのナノハ達も元気にしていたでしょうか、と思いまして」
「そうさのう」
ナノハ達とはこの世界でも友誼を結びましたが、この世界ではどちらかというと、私が挑戦をする側。しかし、あちらの世界では挑戦される側でした。
立場が違うだけで受ける印象も異なる。私の前に立ちはだかる壁だったナノハ。私を打ち破ろうと駆けてくるナノハ。
ですが、世界は変われども、その心の有り様は変わらなかった。
「なに、あやつらの事だ、元気にしておるに決まっておるわ。特にあの子鴉めは年を取っても呑気に料理でも作っておるだろうよ」
「そうですね。何事もなく元気で居てくれればいいです」
私にとっての小鴉は、やはりあちらの世界のハヤテになる。元気でいてくれれば良いのですが。
パセリは大丈夫でしょうか? 実はブラックタイガー農園を作る計画もあったのですが。
シャマルの料理の技術はどこまで伸びたのか。
シグナムは免許を取れたでしょうか?
なぜか、ザフィーラがネコ達に囲まれて埋もれる姿が目に浮かびます。
「まあ、なんだ。こっちの世界が片付いてからにはなるが……フローリアン姉妹にシュテルが夢で見た世界に行く装置を作らせて、シュテルが世話になった礼の一つでも言いに行くのも良いかもしれぬな」
王の言葉が身にしみます。やはり、王は臣下には甘い方です。
「まあ、なにか痕跡をたどれたら可能かもしれないけど、どうかしらね?」
「そうですね。何か向こうのものがあれば良いのですが、夢ですし」
「もしくは向こうにこちらの物があるとか?」
「それならば解析可能かもしれませんけど、夢ですから」
「そうなのよね~」
さっそくフローリアン姉妹が検討を始めてくれています。
どちらにしても、このエルトリアを救ってからになるでしょう。
「ありがとうございます、ディアーチェ」
「うむ、気にするでない。臣下の願いを聞くのも王の努めよ」
「おー、王様がデレてる~」
「デレてなどおらぬわ!」
「ツンデレ~」
「つんでれですー」
「ユーリまで真似をして言うでない。まったく、こやつらわ」
やいやい騒がしくなる。
家の中が明るく活性化するような感覚。
「さあ、行くぞシュテル! 今日は少し手の混んだものを作ってやるかのお」
「ボク王様カレーがいい!」
「私も! 私も王様カレーがいいですぅ~」
「我慢せい、レヴィ、ユーリ。今から作っておると昼食には間に合わんわ」
我が家の一番人気は王様カレーです。
ですが、煮込むのに数時間かかりますから。
「なんでー!? いいじゃん、いいじゃんか、美味しいのに!」
「まあ、流石に今から作るのは無理よね」
「昼食が夕食になるのはちょっと。この体は燃費が悪いですから」
「レヴィ、我儘は駄目ですよ」
「ユーリまで!? じゃあ、夕食は王様カレーでお願い!」
「わかったわかった。夕食に作ってやるから騒ぐでない」
「やったー!」
「楽しみですね、レヴィ」
今日はカレーで決まりですね。具はエビを入れましょう。
皆がそれぞれ自分仕事に戻っていく。
私はこっそりと手元のルシフェリオンを操作する。
記録された写真達。
奇妙な魔獣。
変わった町並み。
困った顔をするナノハとフェイト。
笑う守護騎士達。
静かに佇むリインフォース。
微笑むハヤテ。
家の前で共に写った集合写真。
「シュテル、どうかしたのか?」
「どうしたの、シュテるん?」
確かな記憶。
私の魔力の残滓はあの世界にも残っている。
そもそも、最初に来ていた服はたぶん、まだ消えずに引き出しの中。
フローリアン姉妹の協力も得られる。
王の許可も得た。
ならばもう、迷うことはありません。
まずはこの世界を救いましょう。
そして、交わした約束を果たします。
――いつかきっと、必ず
「いえ、何も」
あなたに会いにいきます――
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→ End
DLC
あとがき
長い間お付き合い頂き、ありがとうございました。
本当は未完で終わらせていました。
元々一人称の小説を書く練習台でしたが、未完で終わらすつもりはありませんでした。
しかしリアルが忙しいくなり放置が多くなると書けなくなり、そのままに。
去年の年末、PC内のデータを移す作業をしました。
その時に見つけた書き溜めていた分をサイトに投稿しました。
せっかく書いたのに勿体ないくらいの軽い気持ちで放出して、終わりのつもりでした。
なので、連載(未完)にしたのです。
ですが、それで今も見てくれている人がいることがわかりました。
その感想を見て、最後まで書こうと決意しました。
ここでは名前を出しませんが、本当に驚きました。
感謝します。
あなたのおかげで書く気力が湧きました。
そして、感想をまたもらって、それも嬉しくて、何時の間にか書き終えていました。
感想を書いてくれて、本当にありがとうございます。
完成しましたので通常の投稿に移動させておきます。
元々は通常投稿だったのですが、練習のつもりでしたのでチラシの裏に移しました。
評価を気にしながら書くくらいなら評価はいらないです。
ですが、もう完成したので元に戻します。気にする理由がなくなりましたし。
最後に、
読んでくださった全ての人達に感謝します。
誤字脱字報告、とても助かりました。
いつかまた、どこかの小説でお会いしましょう。
ありがとうございました。