魔法少女LyrischSternA’s   作:青色

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32話 約束は突然に

「シュテルちゃん?」

 

 宇宙の景色が見えるフロアの一角。

 待ち合わせの場所であるフロアの中にナノハの声が響く。

 

「お待ちしておりました。ナノハ」

 

 それに答える私は完全武装。

 ナノハのバリアジャケットの色違いだった私の殲滅服は、今や少しだけデザインが異なる。度重なる戦闘と、何よりも騎士達との訓練で得た知識により追加と改造を成した。胸に付いていたリボンはアーマーに変わり、肩当てが付いた。スカート部分も腰当てが追加された。両手にはガントレットが追加され、特に左手のガントレットは爪を模した装備になっています。防御力を重視した火力特化仕様です。

 武器は右手のルシフェリオンは相変わらずですが、左手の爪を模したガントレットはクロスレンジでの攻撃を強化するための物です。

 

「シュテルちゃん、その格好は?」

 

 メッセージには話があるので来てくださいとしか書いていません。だからか、完全武装の私を見て、少し気後れしているように見えます。

 

「今の私を見ていただきたいと思いまして。今後のナノハの参考になればと」

「そうなんだ? シュテルちゃんのバリアジャケット凄く格好良いよね」

「ありがとうございます。今までの研鑽の結果です」

 

 ナノハと比べ、私はかなり重装備です。シグナムとスピードで競争しても勝てませんでしたから、逆に敵の攻撃に耐えながら火力を活かした攻撃を数多く叩き込むために考えた、私なりの答えです。

 

「いかがでしょう。参考になりましたでしょうか?」

「うん。私ももう少し装甲を厚くしてみる。薄くしてもフェイトちゃんみたいに動けないし。それに、その方が射撃や砲撃が安定するかも」

「そうですね。私達は砲撃手ですから落ちないことを優先したほうが良いでしょう。拠点確保も私達の努めですから、多少の攻撃は跳ね返せるくらいが良いと思います」

 

 薄い装甲だとヴィータの攻撃を耐えられないのです。シールドの上から叩き潰されたのは、いい思い出です。

 

 さて、そろそろいいでしょうか? ナノハも満足して頂けたでしょう。

 本題を話すことにしましょうか。

 

「ナノハ。話があります」

「話って?」

 

 そう、私にとって大事なお話があります。

 

「私に勝てたらお話をする。そういう約束の話です」

 

 この世界で、ナノハと初めて交わした約束。この世界のナノハと初めてお会いし、元々はナノハのやる気を引き出すために使った方便。元々ナノハにはいづれは話すつもりでしたから。ですがそれはいま、私とナノハをつなぐ大切な約束となっている。

 だからこそ、それを今、果たさなければならない。

 

「ええ? 今から勝負するの??」

 

 そういえば勝負でしたから、勝利条件を満たす必要がありました。ですが、今更勝利にこだわる気はありません。私はナノハと戦えれば、それでよかったのですから。

 しかし、ナノハが納得できる理由が必要ですね。

 

「いえ。勝負はナノハの勝ちです」

「どうして? 私、シュテルちゃんに一度も勝ててないよ?」

「ナハトヴァールへの最後の砲撃。とても素晴らしいものでした。それをもって、ナノハの勝利としたいと思います」

「ありがとう、シュテルちゃん。だけど私、全然勝てた気がしないのだけど」

 

 実際、最後の砲撃は素晴らしいものでした。私の収束魔法と比べても全く遜色がないどころか、ナノハ本人の魔力もあってか、とても美しいものだったと思います。

 

「ご謙遜を。あの砲撃は私の目を覚ますに十分なほどの威力でした。それに、バリアを破壊する時に行ったバレルの展開というのは良き考えかと」

「えへへ。ありがとう」

 

 実際に、素晴らしい発想でした。砲撃の弾道を確保するための砲撃で邪魔な障害物を排除するという考えは。着弾点もわかって、より確実で性格な砲撃が可能でしょう。

 今後の私の砲撃の参考にさせていただきます。

 

 ナノハが納得とまで言いませんが、ご理解は頂けたでしょう。そろそろ本題に戻りましょうか。

 本題に戻る前に殲滅服を解除して元の姿に戻る。

 戻った姿は、ナノハとよく似ている。髪型と瞳の色が違うだけ。

 

「ナノハ。私の姿から察することは出来るかもしれませんが、私はあなたのデータを参照して、この姿を得ました。魔法もまた同じく、あなたのデータから私なりに改良しています」

「そうなんだ。でも、どうして私を選んだの? ううん。その前に、どこで私のデータを得たの?」

「闇の書が蒐集で得たデータからです」

「え? でもそれって、おかしいよ。シュテルちゃんって、私が蒐集される前から存在したよね?」

「ええ。ですから、こことは違う世界で、です」

「こことは違う、世界?」

「そう。私はナノハが蒐集された後の時間軸。それも、この世界とは違う世界線で生まれたのです」

 

 私の世界。そこはここと似た別の世界。ほとんど変わらないにも関わらず、決定的な点が異なる。

 リインフォースが残るかいくかが違う。私の世界は完全に防御プログラムを分離出来た世界でした。だから、リインフォースは生きていくことが出来た。それが例え短い間であろうとも、共に過ごし、別れを言う時間があった。

 私達が存在するかしないかが違う。防御プログラムに抑え込まれていた私達は、この世界には居なかった。だから、いくら待っても出ては来ない。この世界のどこを探しても、王もレヴィもユーリも、もしかしたらフローリアン姉妹も居ないかもしれない。

 そして、この世界では私がハヤテ達と共に過ごしたが、元の世界ではそうではなかった。私達が世界に出現できたのは闇の書が破壊された後ですから。

 ナノハとの出会いも、違う。最初は闇の欠片でした。

 

 そもそもの話、私が守護騎士(ヴォルケンリッター)と共にハヤテの前に姿を表すのがおかしかったのです。

 私はこの世界のイレギュラー。いわば世界のバグ。

 まあ、バグはバグなりに良い影響を世界に与えたと自負していますが。悪くは無かったです。

 

 ナノハに私の世界について話す。

 リインフォースが生きていた事。ナハトヴァールが存在していて闇の欠片をばら撒いて暴れた事。永遠結晶エグザミアやマテリアルの事。私がユーリに敗北した事も。

 ナノハは驚いた表情をしながらも、最後まで静かに聞いてくれました。

 

「そう、なんだ」

「はい。これが私の真実です」

 

 長い時間、話をした気がします。少し飲み物が欲しいです。

 

「何か証拠があればよかったのですが、当時はその発想がなく。まあ、あってもこの世界には持ち込めなかったとは思いますが」

「ううん。証拠なんて要らないよ。シュテルちゃんが話すことなら、きっと真実だと思うから」

「ありがとうございます。そう言っていただけると助かります」

 

 ナノハの言葉に頭を下げる。信じて頂けないとは思っては居ませんが、それでも少しは嬉しいものです。

 

「シュテルちゃん」

 

 ナノハの顔が真剣味を帯びる。

 

「どうして急に、話す気になったの?」

「それは」

 

 一瞬、言葉が詰まる。

 頭の中で返事が幾通りも生まれては消える。どう言えば悲しませずに済むかを考えてしまう。

 視線が自然と下を向いてしまう。自分の足元が見えるのに気がついた。

 案外、私も根性がないですね。

 

「行っちゃうの? 元の世界に」

 

 答える前に答えを言われてしまいました。ナノハには隠し事は出来そうにありませんね。

 言われてしまえば、私は開き直るしか無い。

 顔を上げ真っ直ぐにナノハの瞳を見る。強い、とても強い意志を感じる。

 

「はい」

 

 だから、私は話せる。ナノハならばきっと、大丈夫だと信じているからです。

 

「約束を果たしてサヨナラなんて、私は寂しいよ」

 

 だが、意外にも私の返事を聞いたナノハは悲しそうな顔になった。

 その表情が曇る。そんな顔を私はさせたくはなかったのですが。

 

「私ね。シュテルちゃんと、もっとお話をしてみたかった。魔法の話とか、学校の話とか、もっとたくさんの話がしたかった。うちにも遊びに来てほしかった。家族を紹介したかったよ。一緒に遊びに行くのもいいかなって。はやてちゃんやフェイトちゃんを誘って」

 

 想像できます。道を歩きながら、他愛もないことを話す光景が。

 時にはカフェテリアで何かを食べながら話すのも良いでしょう。

 山の上で共に魔法を語らい。

 時に互いに杖を向けあって空戦技術を磨き。

 大地を砲撃で穿つさまを。

 

 なるほど、それも確かに楽しいでしょう。

 

「なのに、もうお別れなんて。これから沢山お話ができると思ったのに。そんなの、悲しいよ」

 

 それは素晴らしい想像でした。魅惑的な提案です。確かにもっと戦ってみたかった。

 

「ありがとうございます、ナノハ。その思って頂けるのは光栄です」

 

 ですが、それでも私は留まる事を選ばない。私には戻る理由があるのですから。

 それは、ナノハもわかってくれるはずです。

 

「確かに私は旅立つつもりです。ですが、それは永遠の別れを意味するものではありません。何時か必ず私は戻ってきます。私もナノハ達に紹介したいのです。私の家族を」

「うん。私も会いたいな。シュテルちゃんの家族」

 

 ナノハの瞳に、薄っすらと涙の影が浮かぶ。私の心を理解して、きっと納得しようと努力してくれている。

 だから私は卑怯にも納得しやすい材料を提案する。

 

「はい。ですから、約束しましょう。私とナノハの新しい約束を」

 

 ですが必ず約束は果たします。果たさない約束を私はするつもりはありませんから。

 

 

 リインフォースに自分も行くと話しました。そうか、とだけ彼女は言いました。予想していたのかもしれません。

 騎士達には納得できない表情で詰め寄られました。ハヤテを置いていくつもりかと言われるのは辛くはあります。しかし、私の意思は変わりません。ですが、それでも心が揺れてしまう。別れは辛いものですから。

 

 私は旅に出るのです。それは永遠の別れではありません。そう、伝えるのが精一杯でした。

 

 私の意志が固いと知ると、ヴィータは怒って部屋を出て行ってしまった。見た目の年齢が似ているせいか、ヴィータとはよく一緒に遊びました。訓練も一番協力して頂きました。なにより、ヴィータはとても身内思いの人です。彼女の気持ちを裏切りたくはありませんが、私の気持ちもわかっていただきたいです。

 他の騎士達も納得してはいません。ですが、それでも仕方ないと思ってくれてくれてはいると感じます。私達マテリアルと騎士達の関係は同じようなものです。誰一人欠けては成り立たないシステムの一つなのです。だからこそ、最後には納得できるのではないでしょうか。

 

 騎士達への想いはとても大きい。ですが、それでも私は止まらないと誓いました。

 悲願への道で――たとえ、何が起きたとしても。

 私の想いは変わりません。

 

 

 さて、そろそろ明日に備えるべく準備をしましょうか。身辺整理は旅立ちの基本だったはずです。

 ああ、そうでした。忘れるところでしたね。

 後でハヤテの様子を見に行くとしましょう。あの様子では寝坊してしまうかもしれません。

 一応、手紙を置いておくことにしましょうか。

 

 私はハヤテと約束しましたからね。ですから、決して絶望や悲しみで終わらしたりはしませんよ。


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