マテリアル-S……躯体復帰。
戦闘用全モード……使用可能。
出力限界……91%。
ルシフェリオン……完全稼働。
ここは……潮の香りがします。
「我ら、夜天の
「主ある限り、我らの魂尽きることなし」
「この身に命ある限り、我らは御身のもとにあり」
「我らが主、夜天の王、八神はやての名のもとに」
守護騎士達の声が聞こえる。
「リインフォース、私の杖と甲冑を」
ハヤテの声。
何かが砕ける音が響く。
目を開く。
暗い海の上空。足元にはベルカの魔法陣。周囲を見渡すと、目を瞑った
なぜかハヤテを囲むように騎士達が立っており、私はそこに混ざっていました。
立ち位置が間違っていませんか? これでは私が騎士の一人になってしまうのですが?
「夜天の光よ、我が手に集え。祝福の風、リインフォース。セートアップ!」
ハヤテが杖を掲げると、その杖が光る。闇の書の管制人格、いや、夜天の書の管制人格であるリインフォースとの
どうやら無事に管制プログラムを掌握したのですね、ハヤテ。
「はやて。ごめん! あたし、何も、何も出来なくて!」
「あの、はやてちゃん」
「ええんよ。大丈夫や。ちょっと眠ってたけど、シュテルが起こしてくれたから。リインフォースもわかってくれたし。それよりも、今は」
ハヤテが目をつぶる。
「おかえり。みんな」
ヴィータが泣きながらハヤテに抱きつく。他の騎士達も微笑ましくそれを見ています。
心温まる再会の喜び。
ここが戦場でなければ、ですが。
「シュテルちゃん!」
「シュテル!」
顔を上げればそこには少し煤けたナノハとフェイトの姿が。ゆっくりとこちらに降りてくる2人は、バリアジャケットが所々破けているのが見えました。
度々揺れていたのはナノハ達が戦ってくれていたからでしょうか。離れていても助けてくれる。素晴らしい関係です。
「なのはちゃんとフェイトちゃん、ありがとな。外からの呼びかけ、ちゃんと聞こえとったよ」
「ううん。おかえり、はやてちゃん」
「はやて、おかえり」
私も感謝しますよ。本当にありがとうございます。
「すまないな。水を差してしまうのだが」
ナノハ達の後ろにクロノ執務官が舞い降りてくる。
要件はわかっています。
正直、このあとは消化試合のようなもの。やれる事と言えば写真を撮るくらいしか無い。
「さっきの管理局の人やね。あの、すいません。うちの子達が色々お世話になってもうて」
「いや、それは今はいい。それよりも時間がないので、今の状況を簡潔に説明する。あそこの黒い淀み、闇の書の防衛プログラムがもうすぐ暴走を開始する。僕らはそれを何らかの方法で止めないといけない。停止の方法は僕の考えでは2つある。だが、この2つはどちらもリスクが大きい」
おや? 話がおかしいですね。特に問題なく火力に任せて倒したのではないのしょうか?
「だから、シュテル。君の作戦を聞きたい。ここまで策を練ったんだ。なにかプランがあるのだろう?」
ああ、作戦ですか……本当にふっ飛ばせばいい位しか考えていなかったのです。
そもそも防御プログラムは焼滅しましたが、
しかし、このままノープランだと言える雰囲気ではありません。皆の視線が私に集まっています。期待する様子が見える。
考えてみますか……そうですね。
「アルカンシェルで破壊してはいかがでしょうか。最も手っ取り早く確実かと」
「それは僕のプランの一つでもある。だが、それは」
「アルカンシェルは被害が大きくなるんだ。発動地点を中心に百数十キロの空間を歪曲させながら反応消滅をおこさせるから」
「シュテルちゃん駄目だよ! それは駄目!」
「なのはの言う通りだよ。そんな事をしちゃったら、街まで被害が出ちゃうよ?」
「シュテル、ばっか! こんなとこでアルカンシェルを撃ったらはやての家までぶっ飛んじゃうじゃんか!」
「駄目ですか」
反対意見多数。ヴィータに馬鹿と言われてしまいました。結界で街に人は居ませんから破壊してもいいと思うのですが。修復については管理局の職員の方に頑張ってもらって……修復完了まで何年かかるでしょうか? ハヤテの家を最優先で修復とか駄目ですか?
駄目ですね……そもそも、国際問題になってしまいます。いや……なるのでしょうか?
とにかく、ここでアルカンシェルを撃てない、となると。
「では全員で砲撃して消し炭にするのはいかがでしょう。周囲の魔獣の肉体を削るのは造作もないかと」
「そこまでみんなの魔力が持つんやろか?」
「シュテル。それでは防衛プログラムの再生速度に追いつかないのではないか? 再生速度を超えることが出来たとしてもコアを破壊しなければ再生は続くが」
「コアはシグナムが気合でなんとか出来ませんか?」
「無茶を言うな。切ったこともないものを切れる保証はできない」
「シュテルちゃんって、実は脳筋だったりしない?」
「知らなかったのかシャマル? シュテルは私よりも力技を好む火力至上主義だ」
「酷い言い様ですね……」
これも駄目ですか。火力で押すのは間違いではないと思うのですが。
「では、もっと遠くの海に飛ばすのはいかがでしょう? そこでアルカンシェルを撃つのです」
「これだけの巨体をどうやって遠くの海に飛ばす気なんだ? たとえ重量が問題でないとしても、抵抗されれば転送に失敗する可能性が高い」
「防御プログラムは魔力の塊よ? 抵抗されれば失敗は目に見えてるわ。再生に全機能を集中させるくらいしないと厳しいかも」
「そもそも、海でも空間歪曲の被害は出るだろう」
「なあ、シュテル。あんた、もしかして何も考えてなかったんじゃ?」
駄目そうですね。フェイトのペットはスルーするとしまして……。
『はーい、みんな聞こえる? 暴走臨界点まで、あと15分を切ったよ! 会議の結論はお早めに!』
おや、通信が届きました。アースラですか。あと15分。思ったよりも時間がありますね。
「シュテルちゃん、なにか無い? はやてちゃんのお家がなくなっちゃうの、嫌ですし」
「いや、そういうレベルの話じゃないんだけどな」
家がなくなるのは……まあ、よく考えれば私も嫌かもしれませんね。今後の拠点として活用する予定ですし。
それに、ハヤテ達を路頭に迷わすのは私の意志に反します。
問題は地上ではアルカンシェルが撃てず、コアを破壊するだけの火力に乏しい事と、
再生能力もアルカンシェルが使えれば問題にならない。つまり――
「とにかくコアなのです。別に防御プログラム全部を飛ばす必要はなく、要は防御プログラムのコアだけを狙えばいいのですから」
「コアだけを狙う?」
「そうです。再生出来ないほどのダメージを与えるのではなく、コアを再生できないほどの速度で一撃して破壊すればいいのです。その方法でもっとも確実なのがアルカンシェルというだけですから」
「ここだとアルカンシェルは撃てない……」
「コアだけ……」
「飛ばす……」
あ! と、声を上げるナノハとフェイトとハヤテ。何かに気づいたのか3人が互いに見合ってうなずき合う。
そして、代表するかのようにナノハが一歩前に出ると口を開く。
「シュテルちゃん、空は?」
「空、ですか?」
言われて空を見上げる。結界の中なのでどんよりとして気が滅入ります……空? 空。空ですか? アースラは上にいる? つまり――。
ああ、なるほど。
「良き案ではないでしょうか」
「すまない。僕にもわかるように説明してくれ」
盲点というわけではありませんが、気づきませんでした。宇宙。そこは無限に広がる世界。そこならば百数十キロだろうが千キロだろうが爆発しようが消滅しようが、この星には被害は皆無。
宇宙は残念ながら私の砲撃の射程外ですから、意識から外れていました。反省しましょう。
「アルカンシェルは地上では撃てません。ならば、防御プログラムのコアだけをアースラのいる宇宙に飛ばせばいいのです」
「ああ、なるほど。て、おい。まさか?」
「そうです。地上で防御プログラムを丸裸にしてコアを露出し、コアだけをアースラの軌道上に転送」
「そこでアルカンシェルを撃つ、だね!」
『ふふーん、わかってるねシュテルちゃん。管理局のテクノロジーなら撃てますよー。宇宙空間だろうがどこだろうが!』
自信満々の返事が返ってくる。やはり、管理局の技術力は侮れません。よく今まで私達は戦ってこれました。
「しかし、コアを転送するには位置の特定と転送魔法の高い技術が必要だが」
「私がコアの位置を特定するわ。クラールヴィントなら可能なはずよ」
「それなら僕が転送を担当するよ。位置さえ分かれば出来ると思う」
「それじゃ、私も転送班で。私は砲撃が得意じゃないからさ」
シャマルは私が知る中で最高の補助魔法使い。探索や転送はお手の物です。
師匠もフェイトの使い魔アルフもこの分野では強い。
「俺は周囲の触手や腕を止めよう」
「僕達も手伝うよ。コアの位置特定までは暇だからね」
ザフィーラが防御を担当してくれるならば攻撃に専念できるでしょう。彼の守護獣としての力は守りにこそ発揮されるのですから。
「となると、私らがアタッカーやね」
「はやて、ぶっ潰すならあたしに任せろ! どんな相手だろうと叩き潰してやる!」
「お任せください、主はやて。コアはともかく防御プログラムを削ぎ落とすくらいならばやってみせます」
ハヤテは広域攻撃に特化しているはずです。ヴィータは鉄槌の騎士の名に恥じない攻撃力を持っていて遠距離も可能。シグナムも剣を弓のフォームにすれば遠距離攻撃ができます。よく考えると二人共、近距離から遠距離までそつなくこなせます。特にヴィータは意外と中距離戦も得意ですしね。
「じゃあ、私達もアタッカーだね。フェイトちゃん」
「うん。頑張ろう。なのは」
この2人は言わずもでしょう。
こう見れば、管理局のトップレベルと競えるだけの戦力がここにあります。
やはり私の見立てに間違いはなかった。たぶん火力ゴリ押しでも行けそうな気がします。オーバーキルなのではないでしょうか?
「こうなると、僕もアタッカーか」
「そのようです、クロノ執務官。互いに最善を尽くしましょう」
「いや、僕は氷の魔法を使うつもりなんだが……」
「そうですか。奇遇ですね。私は炎の魔法以外を使う気はありません」
「相性最悪じゃないか」
凍った物体に急に高温を当てると破裂するというのはどうでしょう? 砕け散るさまは派手に違いありません。
「とにかく、まだ時間はある。今のうちに情報の共有と攻撃の手順を相談しよう。エイミィは艦長とアルカンシェルの調整と検討を頼む」
『了解! 任せといて!』
最終局面に向け、私達は動き出しました。
この作戦がうまくいくか。全ては闇に委ねましょう。
そして、この戦いが終われば。
私の新たな戦いの幕が開ける。
その時は王とレヴィを。そしてユーリを。
必ず私があなた達を見つけ出してみせます。
どのような困難が待ち受けようと、必ず。
その時が来れば、最高の状況を用意しましょう。