魔法少女LyrischSternA’s   作:青色

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20話 決意 12月1日

 図書館を出て雑木林を目指します。正直、もう行かなくてもいいかと思いましたが、呼び出しておいて現れないのは不自然に感じられるかもしれません。その時、ハヤテに関連付けられて考えられるのも困ります。もうこれ以上、面倒事は御免です。

 

 雑木林に到着しましたが、見渡してみてもナノハとフェイトの姿が見当たりません。出るのが遅くなってしまいましたから、もしかしたら帰ってしまったかもしれませんね。サーチャーでも飛ばしてみましょうか? 

 

「あ、居た!」

 

 声がして振り向くと、そこには髪に枯れ葉を付けたナノハと、その後ろを付いてきたフェイトの姿を確認しました。

 

「居なかったから雑木林違いかと思って、お隣の雑木林まで探しちゃった」

「申し訳ありません。お呼びだてしたのに、こちらが遅れてしまうとは」

 

 肩や髪に付いた枯れ葉を払いながら苦笑するナノハに、私を警戒したように見るフェイト。対象的な二人ですが、互いに助け合う姿は好ましいものに見えます。

 

「シュテルちゃんって、普段は眼鏡をかけているんだね。凄く似合ってるよ!」

「はい。ありがとうございます」

 

 それは自分も似合うということですよ。

 

 それはさて置き……何を話したものやら。今の段階で私から話すような事はありません。闇の書については管理局も調べているでしょうが、主についても話せませんし、守護騎士についても話せません。

 

 ああ、そういえば。あの二匹の猫がいましたね。騎士達をハヤテの眼の前で闇の書に収集させナノハ達を餌にした。しかし、今は何も言えない。下手なことをして動かれるのも好ましくはないですから。あちらからハヤテの居場所が漏れるのも困ります。

 

 ナノハとは話をしたいとは思っていましたが……しかし、今は敵同士。雑談をするわけにもまいりません。となると話を振られるのを待つほうが得策です。約束もしていますから、その事をいいましょうか。

 

「大丈夫だよ。管理局には何も言ってないから。その、フェイトちゃんは管理局の嘱託魔道士だけど、でも、今は内緒にしてくれるって言ったから、だから大丈夫」

 

 どうやら律儀に約束を守ってくれているようでですね。二人共、実直な性格ですから信用はできます。

 

「とりあえず、お二人が元気そうで何よりでした」

「お久しぶりって言うほどでもないけど、シュテルちゃんも元気でよかった」

「あの、シグナムは、彼女は元気にしていますか?」

 

 フェイトはやはり、シグナムを気にしているようです。先日の戦闘の際もシグナムに向かっていましたし、私となのはのような関係になっているのかもしれません。

 

「ええ、元気にしていますよ。フェイト・テスタロッサ。シグナムは名乗ったようですね」

「知ってるんだね。フェイトでいいよ。シグナムには勝負を預けてもらっているんだ」

「私の事もシュテルでいいですよ。シグナムは騎士ですから預けた勝負を忘れないでしょう」

 

 シグナムは訓練でも本気で戦う人ですからね……。勝負を預けたならば、確実に果たそうとするでしょう。機会があれば、ですが。さて、では約束を果たしましょうか。

 

「以前の約束を果たしに来ました。今の段階で開示できることでしたらお話します。もちろん、来ていただいたのですからフェイトの質問にもお答えしましょう」

「あれって作戦を教えてくれるだけじゃなかったんだ」

「あれは、ただの私の気まぐれですよ」

 

 あれは単純にナノハが見ているだけでは暇かもしれないと思っただけなんですが……。

 

「あの、私から良いかな?」

 

 質問はナノハではなくフェイトから先に来ました。わずかに頷き返して了承します。

 

「あなたは、シュテル達は近くに住んでいるのかな? あっ、正確な場所を聞きたいわけじゃなくて、その……この町に住んでるのかなって。私達もこの町に住んでいるから」

 

 やはり、駐屯地を作ったのですね。しかも、ナノハの家の近くに。

 

「申し訳ありませんが、住んでいる場所については例え不正確でもお答えできません。言える事は一つだけ。もうこの図書館に私は現れないでしょう」

「そう。ごめんね、やっぱり教えてはくれないよね」

「だ、だよね……そっか、もうここには来ないんだ」

 

 ナノハが残念そうな顔をしていますが、それはもう、仕方のないことです。まさか、こっそり連絡を取るわけにも行かないでしょう。ああ、しかし。何かあった時の待ち合わせ場所には使えそうですね。

 

「あの、シュテルちゃん。シュテルちゃんはどうして闇の書の蒐集をしているの?」

「それは私の目的の為です」

「シュテルちゃんの目的って?」

「それは、お答えできません」

「じゃあ、闇の書の主さんは、どんな人なの?」

「それについても、お答えできません」

「じゃ、じゃあ普段はどこによく行くのかな?」

「それも流石に話すことは出来ません」

 

 答えがたい質問が続く。今はまだ、答えるには早すぎます。特にハヤテの事は最後の最後まで、明かすことは出来ない。最後の質問も、居場所が知られてしまう恐れがあります。

 

「シュテルは闇の書がどういうものか知っているのかな? 蒐集をして完成してしまったら、とても大変なことになるんだよ?」

 

 大変な事とは闇の書が完成してしまったら防御プログラムが暴走する話でしょうか? 今まではそうでしたが、今回は違います。最後は防御プログラムを分離して破壊するのですから、そうはなりません。

 

「ええ、知っていますよ」

「知って、いるんだ……」

「じゃ、じゃあ、シュテルちゃんは闇の書が完成してしまったら、すべてを破壊する事を知っているの? 闇の書の主さんの魔力を全部使ってしまったら転生してしまう事も?」

「そちらこそ、よく知っていますね。ええ、知っていますよ」

 

 無難に返事を返しておく。さすがに未来の話をするわけにもまいりません。起きていない出来事を話しても、それは予想でしかないわけですから。

 

「知っていて……知っていて、なぜシグナム達は破滅しか待っていない蒐集をするんだ? その……闇の書の主に命じられたからじゃないのは、アルフが守護獣の男の人から聞いて知ってはいたけど。だけども、それならば、なぜ?」

「その通り、今回の蒐集は闇の書の主は命じていません。騎士達が自発的に蒐集しています。しかし、完成した闇の書が暴走することも、暴走した挙げ句に主も殺すことも、完成後については私以外は誰も知りません。たぶん、闇の書に吸収されると記憶を消されるのか改竄されるのでしょう」

「うそ。そんな事って……」

「そ、そんな……」

 

 目を見開き絶句する二人。果たしてどのことに対して驚いたのでしょうね。どれも二人にとっては初耳だった事でしょう。

 

 先に立ち直ったのはフェイトの方。彼女は表情を改めると、私に疑惑の目を向けました。

 

「シュテルは全て知っていながら、騎士達に何も教えずに蒐集しているというの?」

「全てを知っているわけではありませんが、完成後の事は教えていません。教えたところで信じる可能性は低いでしょうし、他にも理由があっての事です」

 

 フェイトは私の説明に納得がいかない顔をする。私も嘘はついていませんが、誤魔化しているのでバツが悪い。

 

「でも、それでも伝えるべきだと、私は思う。信じてくれないかもしれないから話さないというのは、君の言い訳に聞こえるよ。シュテルはただ、自分の目的のために騎士達を利用したいだけとは言えないの?」

 

 厳しい視線。しかし私は動じない。

 

「そうですね。信じる信じないはただの方便と認めましょう。確かに私は騎士達を利用しています。私の目的のために必要な事ですから」

 

 簡単に私の話を信じるとは思いませんが、何かのきっかけで蒐集をやめてしまうかもしれません。それは絶対に受け入れられない。蒐集は私にとって絶対に必要な行為です。ですので、言えない。

 不要な要素は排除しなければなりません。

 

 それに、たとえ話しても蒐集するという可能性があったとしても、物事を複雑化してはコントロールから外れてしまう可能性があります。事をコントロールするには“蒐集すればハヤテが助かる”と、明確な目標を作り単純化したほうがコントロールがしやすいですから。

 

「もっとも、それは騎士達も同じ事。私達は同じ闇の書から生まれたとはいえ、別々のプログラムですから」

「別のプログラム? じゃあ、やっぱりシュテルちゃんは守護騎士じゃないんだね?」

 

 私の魔法は騎士達とは違いミッドチルダ式です。そのことからも、私と騎士達が違う事ぐらいは想像できるでしょう。

 

 私達は全く異なる存在なのです。私の存在理由は騎士達とは違う。目的もまた騎士達のそれとは異なるのです。

 

「私は闇の書の主を守る守護騎士とは違います。騎士達が主の為であるならば、私は王の為に動きます。ゆえに、私にとって騎士達の目的とは、私の目的を成し遂げる為の過程、もしくは手段に過ぎませんでした。元々、私にとって騎士達とは、目的を異とする部外者だったのです。少なくとも最近までは、そう思っていました」

「思っていた? それは今は違うという意味なのかな?」

 

 私と騎士達の関係は共闘していただけ。共に生活をしていたのは、効率がいいからです。ただ蒐集を早く終わらせ、完成を急ぐだけだったはず。それがいつの間にか、それ以外の事にも頭を悩ますようになってしまった。

 

「そうですね。いつしか、その関係は変わってしまっていました」

 

 しかし、いつからでしょうか? 騎士達の蒐集を見ることが辛く感じるようになったのは。その先に待ち受ける絶望を避けたいと考えるようになったのは。

 

「私はもう、他人事だとは言えなくなりました。だからこそ私は、決して彼女達と彼女を切り捨てたりはしません。約束します。隠していることも、時が来れば必ず全て話します。ですが、それはまだ。今ではないのです」

 

 私は目的を見失ってはいません。ただ、もうそれだけでは満足できなくなったのです。結局は救われるのがわかっていても、涙を流し絶望の声を上げるハヤテを、涙を流し葛藤する騎士達を見たくはない。ただ、それだけなのです。

 

 以前の私ならば気にもしなかったでしょう。結果救われるならば、過程などどうでも良いではないですかと考えていました。ですがハヤテと共に歩んで、騎士達が変わっていくのを見てきましたが、どうも私も変わっていたようです。それは、私にとって決して不快な出来事ではありませんでした。

 

「シュテルの気持ち、すごく伝わってきたよ。なんだかちょっと、ほっとした……けど、それでも話さないのは間違っている、と思う。事情を知らないから、何も知らないから、私には何も言う権利はないのかもしれないけど」

「私はなんだか、ちょっと悲しいなって思ったかも。そんなに想っているのに、どうして話せないのかなって」

「出来ればこの事を騎士達には秘密にしていただきたいものです。もし話すならば、それは私から話をしたいですから」

 

 言いづらそうにするフェイトの顔には戸惑いが見てとれました。一方のナノハからは納得できないという感じを受けます。少し話しすぎましたか。

 二人がどうするのかはわかりませんが、何をしても結局のところ何も変わらない気もします。騎士達が私を信用してくれるように、私もまた信頼しています。これは、私の甘えなのでしょうけど。

 

「シュテルちゃんの目的って教えてもらうわけにはいかないの? 私も手伝いたいなって思って。シュテルちゃんがそんなに強く思う騎士さん達や主さんが悪い人なんて思えない。でも、このままだと……」

 

 正直に言えば手伝ってもらいたい気持ちはあります。その方が楽に進む可能性も捨てきれません。ですが、これ以上、余計は要素は加えたくない。私のコントロールから離れてしまう可能性は避けたいのです。未来を知る優位性を捨てる結果にもなりかねないですから。 

 

「残念ながら今の段階で手伝ってもらうことはありません。しいていえば、闇の書の完成まで放って置いてください」

「で、でも。例えば管理局の技術者さん達に闇の書を調べてもらったら、もしかしたら主さんや騎士さん達が消えなくていい方法があるかもしれないし」

 

 管理局に委ねても、今までの事から考えて解決するとは思えません。ああ、そういえば……二匹の猫について思い出しました。教えることは出来ませんが、牽制くらい入れておきましょうか。

 

「ああ、それは無理です。なぜならば、管理局には主ごと闇の書を永久封印しようとする勢力があるからです」

「永久封印?」

「そんな事、聞いたこと無いよ。クロノだってリンディ提督だってそんな事は言ってなかった」

 

 それはそうでしょう。言ってしまえばその二人に止められるでしょうから。きっとまだ、疑いもかけられていないのでは無いでしょうか? この辺りで少しヒントを出しておけば、執務官の行動を抑えることが出来るかもしれません。

 

「情報の出どころについてはお話できません。とにかく、管理局の手に委ねることは出来ないということはご承知ください」

「でも、でも何か他にも手伝える事があるはずだよ。だって、そんなの、そんなの悲しよ! このままじゃ、闇の書の主さんも、騎士さん達も、シュテルちゃんだって消えてしまうかもしれないのに!」

 

 私も消えるかもしれない。そう訴えるナノハを見ていると、心の隅で炎が灯る感覚を感じました。

 

 私にとってナノハとは超えるべき壁であり、ライバルであり大切な友人です。それは、時代を超えても変わらない関係だと知り得ることが出来た。しかし、今はナノハだけではなくなっていました。シグナムもシャマルもヴィータもザフィーラも、そしてハヤテも。今の私にとっては大切な友人であり、戦友であり、共に生活をする家族みたいなものなのです。

 

「ええ、ですから私は、未来を書き換えようと思っています」

「未来を書き換える?」

 

 もしかしたら私は、ここに決意を表明しに来たのかもしれませんね。

 

「目指す先は一つのみ。ですが、その過程は定まっていません。ならば、私にとって都合がいいように書き換えるだけです」

『シュテルちゃん、そろそろこっちに来れない? ハヤテちゃんがシュテルちゃんを探してて』

 

 どうやら、タイムアップのようです。少々長いをしてしまいました。

 

『わかりました、いつものスーパーで落ち合いましょう』

「それって、どんなの?」

 

 目を瞑り、思い浮かべる。私が望む未来の姿を。

 

「それはまだ詳しくはちょっと。ですが、そうですね……誰も泣くことなく大団円を迎える、そんな感じでしょうか」

 

 理想郷のような世界を望んでいるわけではありません。ただ、騎士達やハヤテが泣くことも絶望もせずに闇の書の防御プログラムを破壊する世界を。そして、ディアーチェとレヴィが出てきた時に、笑って迎えることが出来る世界を、そんな世界を私は見てみたい。

 

「信じて、いいのかな?」

 

 心は決まりました。今の私ならば、この真摯な眼差しを正面から受けることが出来る。

 

「ナノハ」

「ん?」

 

 ふと、思い立ってナノハに左手を伸ばす。

 

「あの、シュテルちゃん?」

 

 戸惑うナノハをよそに、私はナノハの頬に手を添えた。そういえば、触れるのはこれで二度目でしたか。一度目はナノハを撃墜したときでした。あの時は、途中で砲撃を止めてシャマルに蒐集してもらったのでしたか。あれからまだ1月も経っていないというのに、ずいぶん昔の出来事のような気がします。

 

「私はナノハから多くのものを学びました。空戦機動や射撃精度、魔導運用や魔法そのものも」

「そんな事は全然無いよ。だって、私の方が」

「いいえ、ナノハ。強い弱いの問題ではないのです。それはいずれ、ナノハもわかる時が来るでしょう」

 

 ナノハとのこれまでの戦いを、私は全て思い出せます。その全ての戦いでナノハは私に教えてくれたました。

 

「そして私はナノハから心を学びました。決して諦めない強い心を。恐れず前へと踏み出す勇気を」

 

 恐れず前に進み続けるあなたに、私もまた感化されたのです。

 

「今日、あなたに出会えて、本当に良かったです」

「シュテルちゃん、もう行っちゃうの?」

 

 さて、そろそろ行かねばなりません。これ以上ここに留まっていると、自宅にまでお邪魔したくなります。それもまた楽しそうではありますが、全てが終わった時まで取っておきましょう。

 

 ナノハから離れた時、フェイトの顔が見える。そう言えば以前、闇の欠片であった時にとても失礼なことを言った気がします。それは決して正しい評価ではなかったと、今ならばわかります。彼女もまた私のようにナノハに感化された人なのでしょう。

 

「フェイト・テスタロッサ。あなたも、もう悲しみと痛みに震える弱い魂では無いようですね」

「どうして……どうしてそれを?」

 

 驚くフェイトを尻目に、私は早々に立ち去ります。ああ、そうですね、去り際に一言だけ言っておきましょうか。

 

「もし私の道を阻むと言うならば向かってきてください。もし勝つ事が出来れば、その時は改めて全て話しましょう」

 

 今回の話し合いでナノハの心が揺れる事になっても、約束は変わりません。そして、この気持もまた、変わらない。

 

 ただし変わったこともあります。

 

「ですが、何度来ても、勝つのは私です」

 

 対等な戦いを望んでいました。それに勝利することも。そしていま、私はナノハの前を走り続けたいとも思うようになりました。

 

 だからこそ、私は負けない。

 

「それではごきげんよう。ナノハ、フェイト」

 

 スカートの端を摘んで軽く持ち上げて挨拶を終えると、来た道を引き返しました。

 

「私も! 私も次は絶対に負けないよ! だから、今度はちゃんと全部教えてもらうから!」

「私達も負けないよ。今度は勝って、私達の話を聞いてもらう。シグナムにも、そう伝えてください」

 

 ナノハとフェイトの声が後ろから聞こえてくる。追いかけてくる様子はなく、サーチャーを飛ばす気配もない。どうやら、このまま行かせてくれるようです。遅くなってしまいましたから、急がなければ。ハヤテが心配しているかもしれません。どこに行っていたのか問い詰められそうです。

 

 

 

 夜になり、約束通りハヤテと共に寝ることとなりました。他人が寝ているベッドに入るのは少々気が引けますが、約束してしまったので仕方ありません。一緒にベッドに入ったヴィータは深夜に蒐集に出かけるため早々に眠ってしまい、今はハヤテの会話の相手をするのは私だけです。

 

 童話の話や新しく出来た友人たちの話を楽しそうにします。特に私に似たナノハの話をするハヤテは少々興奮気味で、私の写真を送りたいと言い出した時は困りました。正直、私の写真を送られるとたいへんまずいので、次に会う時に驚かせてはどうかと説得するのですが、本人は早く教えたがっていた為に困難を極めました。

 今はこれで問題を先送りにしますが、きっとそのうち遊びに来るのでしょうね……戦闘以上に厄介なことです。

 

 騎士達とこの件で話し合いましたが、有効な対策は出ません。ナノハとフェイトを排除したいが、しかし主に出来た初めての友達ということで無碍には出来ない。かといってそのままだといずれ知られてしまう。だからといって遠ざけるのは難しい。

 

 結局、早く蒐集を終わらすしか無いという、現状維持な結論で話し合いは終わりましたが、いざという時はハヤテをどこかに隠すことも検討に入れなければならないでしょう。しかしきっと、その時になると躊躇してしまいそうですね。ハヤテの意思をなるべくは尊重したいものです。

 

 最後の時を迎えた時、ハヤテはどうするでしょうか? 私の言葉を聞いてくれるでしょうか?

 

「ハヤテ」

「ん? 真面目な顔して、どうしたん?」

「ハヤテは私を信用していますか?」

 

 私が聞くと首をかしげる仕草をしたハヤテは、今度は苦笑する。

 

「そんなん家族を信用するんは当たり前やん。シュテルは違うん?」

 

 その言葉に、嘘も偽りも感じられません。どうも、本当に信じていただいているようでした。

 

「そうですか。それは光栄です」

「なんかおかしいで、シュテル。変な物でも拾って食べたんやないやろうね?」

「それはヴィータかザフィーラの役目です。私の役ではないですよ」

「それはどうやろ……いや、ちゃうな。シュテルやったら、拾った後に洗って味付けして綺麗にお皿に盛り付けてからヴィータかザフィーラに出しそうやな……」

 

 実はあまり信用されてないのでは? 本当に信用していますか、ハヤテ?

 

 

 不安に打ち震えながら眠りにつき、起きると何事もない朝を向かえました。あの闇の書の管制融合機は必要な時に出てこないとは、本当に役立たずですね。


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