魔法少女LyrischSternA’s   作:青色

19 / 36
誤字脱字報告に感謝。


18話 それぞれの想いを 11月28日

 眼の前の敵に牽制の為の炎弾を送り込みながら後退する。

 

『こっちにも来た』

 

 ヴィータの方にも管理局の武装局員が来たようです。こちらには、武装局員らしき姿が6人。更に炎弾を生成して、敵に向かって放つ。このまま戦うのも面倒です。時間はあちらに味方するのですから。

 

『撤退します。次の世界に向かいますよ』

『わあってるよ! 次から次へとわいてきやがって、うぜえ』

 

 私が提案すると、ヴィータは苛立(いらだ)たしそうに返事を返してきた。捕捉されてしまった以上、もう今日は帰還するしか無さそうです。

 

 

 先日の戦い以降、管理局の対応は迅速であったと言えるでしょう。

 

 次に中継拠点に定めた場所は、たった2日で知られてしまった。集まったところを再び襲われ、結界に捕らわれる前に逃げ切りました。さすがに2回目となると、こちらも用意はしているというもの。ですが、これほど早く中継地点が攻められるのは予想外な事態です。禄に拠点を使う間もなく破壊しなければなりませんでした。

 

 その後も管理局の局員が待ち伏せをしていたり、蒐集しているとすぐにやって来る事が増えました。これもまた当初の予測以上に激しい妨害です。何度か返り討ちにして局員から蒐集もしましたが、以前よりも明らかに蒐集が進んでいません。追跡を振り切るために全く収集できなかった日もあります。この事からも、疑惑は確信へと変わりました。

 

 すなわち、私達の居場所がある程度ばれてしまった、という事です。少なくとも、地球を中心に活動して居るという事は知られているでしょう。下手をすると、海鳴市まで知られてしまった可能性があります。

 

 ただ、ハヤテの事まで知られたとは思っていません。もし知られていれば、必ず確保しようと動いていたことでしょうから。ハヤテの周囲に管理局の影は見えない事から、正確には把握されていないと見るべきです。

潜んでいる地域が絞られた。しかし、どこに住んでいるかまではわかっていない。

そんなところでしょうか。

 

 私達は元々、帰還した時も細心の注意を払っています。なるべく遠くにいくつかの転送先があり、転送後は魔力を隠して個々に別れて移動し、集合地点に集まって周囲を確認してから再び別れて戻ります。中継に使っていた拠点とは違い、ここは人も建物も多いので隠れ潜むのは難しくありません。魔力さえ隠すことが出来れば、管理局の監視網に引っかかる可能性は低いでしょう。

 

 今後は、次元転送時も気をつけなければなりません。なるべく遠くで、それでいて察知されないように。そして遠くの世界に飛ばなければならない。新たな拠点を作る意味は、もうありません。

 

 救いなのは、ここが魔法の無い管理外世界だという事。そして、この世界に配置されている時空管理局の人員が少ないという事です。この為、時空管理局は大規模に調査や監視等の介入が出来ないと予想されます。

 現地の治安要員を使うことも出来ず、人海戦術が出来ません。きっと、捜査を対応しているのはアースラ一隻なのでしょう。

 

 

 しかし……もしかしたら、近くに駐屯地を設けられているかもしれませんね。ばったり出会うのも困りますから、眼鏡でもかけた方が良いかもしれません。

 

 次元転送で次の世界に向かう途中、ふと思いつく。もしかしたら、何箇所も拠点を構えているかもしれ無いという可能性を。戸籍も住民票も無いのに、どうやって不動産を借りるのかはわかりませんが、次元管理局ならばやりかねない気がします。

 未来の知識にそれらしい出来事は思い出せません。私はフェイト・テスタロッサを参照していませんから。はたして拠点は作られていたのか……。フェイト・テスタロッサの過去は朧気にはわかりますが、出来事については詳しくは把握していません。

 

 もっとも、未来の出来事など役に立たなくなっている可能性もあります。もうすでに大きく過去は変わってしまったかもしれません。私という存在が出現した時点で変化は避けられないでしょう。

 

 いろいろと考えるところがあったため、タイムパラドックスについての本は幾つか読みました。私という存在のせいで闇の書が起動しないというのは、大変困りますから。

 結論を言えば、今の私の観測で問題がなければ良い、という事で落ち着きました。例えば、過去は書き換えることが出来なかったという事ならば、むしろ望むところです。また、もう一人の私が出てくるなど言うことがあったとしても、私達は一つのデータなのですから上書きしてしまえば問題ありません。別のデータでも関係ないのです。出来ればそのようなことがなく、存在の上書きでお願いしたいものです。

 極端ではありますが、結果が変わらなければ過程はどうでもよい。平行世界に行くようなものです。

 

 そう。どうでもいい。過程など、どうでもいいのです。

 

 私が目指すべきはディアーチェとレヴィが復活し、システムU-Dを手に入れることです。押さえなければならない点は、闇の書の完成と防御プログラムの暴走とハヤテからの分離、そして破壊。それ以外については、重要事項ではありません。

 つまり……ハヤテが、騎士達が絶望しない世界であっても良いのです。

 

『おいシュテル、着いてるのか?』

『こちらも到着しましたよ』

 

 返事を返しながら、先程の考えを検討してみる。以前思いついた事ではあるものの、その後は保留にしていた考えです。決して難しい課題ではないと思います……しかし、優先順位は低い。

 これから私達は、より厳しい状況に置かれていきます。管理局の追跡は厳しくなり、ハヤテに残された時間は減っていく。余裕など無いと言えるほどに。私達は更に追い詰められていくかもしれません。そのような情勢下で他の事まで考えて動くのは、やはり効率的とは言えないでしょう。

 

 だが諦めもつかない。

 

 ハヤテと騎士達との生活は短いとは言えません。関係ないとは言えないほどに。戦いにおいても、騎士達との連携も慣れたもの。私を信じてくれる騎士達を裏切るなど考えたくはないものです。

 

 ふと、ナノハの姿が思考の片隅に過る。最初に出会った姿は、思ったよりも弱々しいものでした。だが、実力差があるにもかかわらず何度も向かってくる姿は時代は違えど変わらぬ姿で、やはりナノハはナノハなのだと再確認したものです。そして、二度目の邂逅では私の攻撃を全て凌ぎきり、それどころか私に肉薄までしてみせた。

 

 私はこの時代に来て知ることが出来ました。立ち向かう勇気と、決して諦めない心を。それこそがナノハを構成する重要な因子であると。フェイト・テスタロッサが私に言ったナノハとの違いを。

 

「遅せーぞ、シュテル」

 

 正直、不安はあります。ですが、まぁ……ヴィータが泣く姿など、見たくはありません。

 

 色々と背負うのは非効率なのでしょうが……しかしやはり、諦めたくはないものです。

 

 

~~~~~~

 

 

 フェイトちゃん、凄い人気だった。

 

 今日、フェイトちゃんがうちの学校に転校してきたのだけど、休み時間にみんなが押しかけて大変なことになってた。季節外れの珍しい転校生だからって、みんなちょっと興奮しすぎだよ。アリサちゃんが間に入らなかったら、きっとフェイトちゃんは目を回していたかも。

 

 ふと、思い出して、横を歩くフェイトちゃんをちらりと見てみると、目が合って、思わずほほ笑みかけたら、同じく微笑みを返された。なんだかこういうの、良いよね。一緒におしゃべりしながらお家に帰るのも。

 今日はアリサちゃんとすずかちゃんは用事があって先に帰ってしまったけど、次は4人でお喋りしながら帰りたいな。

 

 こういう事、シュテルちゃんとも出来たら良いのに。

 

「どうしたの、なのは?」

 

 あっと、顔に出ていたかな?

 

「ううん。なんでもないよ。ちょっとシュテルちゃん達の事を考えていただけ」

「そうなんだ……もしかしたら近くに住んでいるかもしれないんだよね」

 

 そう。もしかしたら海鳴市にシュテルちゃん達がいるかも知れない。エイミィさんからの報告は、私達に衝撃をもたらした。こんな近くに住んでいたかもしれないなんて……そんな事、誰にもわかるはずないよ。だって、私は住んでいるけど、そんな気配を感じたことなんてなかったし。

 そもそも、ジュエルシードを巡ってフェイトちゃんと戦っていた時に、エイミィさん達が調べていた。なのに、今まで見つからずに済んだなんて。

 

「また、戦うことになるのかな? 今度はこの町で」

「うん。その可能性は大だよね」

 

 シュテルちゃんが戦わずに話してくれるなんて、考えられないよね。他の騎士さん達もお話を聞いてくれそうにないし。もし近くに住んでいるなら……お話を聞いて貰える機会が出来るかもしれないけど。きっと、あまり教えてはくれない気がする。

 

 もしかしたら、闇の書が復活したのはPT事件が終わった後かもしれないってクロノくんが言っていたっけ。ジュエルシードが何か干渉した可能性もあるかもしれないけど、ここがまた事件の中心になるなんて、すごい偶然。

 

 だから、この近くに闇の書の主さんが潜んでいる可能性が高いとクロノくんもリンディさんも考えてる。もうすぐ活動の拠点にしているアースラが整備の為に使えなくなる事も関係して、ここ海鳴市に駐屯する部隊とアースラに駐屯する部隊に別けることになった。

 アースラが使えなくなったら一時的にすべての機能を移す為の準備で、先に司令部の機能を一部移すために、リンディさんと、そしてフェイトちゃんが家の近くに引っ越すことになって。フェイトちゃんが私と同じ学校に通うことになった。

 

 それは私にとっては凄く嬉しいことだよ。だって、フェイトちゃんと一緒に学校に行けるなんて! 一緒にお買い物とかしてみたいな。フェイトちゃんは友達とお買い物とか、遊びに行くのもした事ないだろうし。せっかくフェイトちゃんと一緒に居られるんだもん。もっと沢山、楽しい事を教えてあげたいよ。

 

「そうだ! 今度、この町の事を案内してあげるね。美味しいクレープ屋さんとか、あんみつ屋とか。文房具を買うならどこが安いとか!」

「うん。ありがとう、なのは。楽しみにしてるね」

 

 んー私も楽しみ! フェイトちゃんは素直で可愛いなぁ。やりたいこと、いっぱい出来ちゃった。何からしようかな? やりたい事が多いと迷っちゃうよね。あ、そうだ。アリサちゃんやすずかちゃんも誘って、みんなでお出かけしてみようかな?

 

「そういえば、レイジングハートは大丈夫だった?」

 

 幸せでいっぱいになりそうな心に、急ブレーキがかかった感じがした。なんだか、怒られる気がする……。

 

「う、うん。大丈夫! マリーさんに検査してもらったけど、大丈夫って。でも、精密な検査が終わるまではカートリッジシステムは禁止されちゃった。けど、大丈夫だよ!」

 

 言葉遣いが変になった気がする。国語は苦手だからなぁ……これじゃあ、大丈夫としか言ってないよね。

 

「なのはは無理しすぎだよ。体にも、すごい負担がかかってたって聞いたよ?」

「あーうん。慣れてなかったから、すごく体が重く感じたんだ。だけど、ちゃんと眠ったし、あれからしばらくは魔法の練習もお休みしてたから、今は全然平気だよ」

 

 本当に今はあの時の倦怠感も無いし、体に異常も見られないから大丈夫なんだけど。

 

「でも、カートリッジシステムは不安定なシステムなんだから、もう無茶はしちゃだめだよ」

「うん、ごめんなさい。もう無理なんてしないから、大丈夫だよ」

 

 納得してくれたかな……。フェイトちゃんは心配性だよね。心配してくれるのは、ちょっと嬉しかったりするけど。

 

「なのはは私と戦っていた時も無茶ばかりしていたから、心配だよ」

「それは……でも、フェイトちゃんだって無茶してたし」

 

 あの頃はフェイトちゃんの方がずっと無理をしてたと思う。お母さんに認めてもらおうと、自分の身を顧みずボロボロになりながらも必死になってジュエルシードを手に入れようとしていた。

 私はユーノくんにアースラの人達が居たけど、フェイトちゃんはアルフさんと二人。あの頃のフェイトちゃんは辛く悲しくて、そして寂しい感じがした。

 

 でも、今のフェイトちゃんからは感じない。きっともう、あんな無茶な事はしないかもしれないけど……。

 

「じゃあ、二人ともに無茶な事はしない。で、どうかな、フェイトちゃん?」

「うん、そうだね。二人とも、無茶はしない」

 

 また新しい約束が出来た。約束する度にフェイトちゃんとの絆が強まっていく感じがして、フェイトちゃんとの距離がどんどんと近くなっていくように思えた。シュテルちゃんともいつか、こういう風になれるかな?

 

 なれたら良いな。うん、そのためにも頑張らないと。

 

「じゃあ、帰ったら訓練を一緒にしようね」

「うん。私ももっと、強くなりたい」

 

 私達の影が夕日に照らされて、長く伸びてる。影だけ見ると、大人の女性みたいに見えた。大人になってもこうやって、二人で一緒にいられると良いな。

 

 

~~~~~~

 

 

 みんな、最近忙しいんかな?

 

 朝食の時間は、みんなおるんやけど、シグナムもヴィータもザフィーラも、シュテルも家を開ける事が多なった気がする。昼食はおったりおらんかったり。夕食もバラバラに帰ってくるし。

 まあ、みんながそれぞれにやる事があるんやとはわかってはいるんやけど……なんや最近、すこし寂しい。もうちょっと、何か言うてくれてもええと思うんやけど……そう思うんは、わがままなんやろうか?

 

「はやてちゃん、これって、この後どうしたらいいですか?」

 

 今日も家にはシャマルしかおらんけど、そのシャマルも時々私を置いて家を出ていってしまうし……。婦人の会って、何をしてるんやろ?

 

「ちょっと味見させてな……うん、これなら合格や。じゃあ、次は下味をつけたこの豚ロース肉を焼いていくから、ちょう手伝って貰ってもええか?」

「はーい。何を手伝えばいいですか?」

「合図したら豚肉を取って、次にタレをお玉に半分くらいでフライパンに入れてくれたらええよ」

「了解しました、はやてちゃん」

 

 誰かと一緒にご飯を作るんは、やっぱ楽しいな。自分以外の人が食べるご飯を作るんも楽しい。

 

 贅沢になってしもたんかな……みんながおらんかった時は、たまに家政婦さんが来てくれとったけど、それこそ1人で全部やってたやん。作るご飯も1人で食べてたから、味とかよう覚えとらんし。

 

「なあ、シャマル。みんな何時に帰ってくるか聞いとる?」

「あ、えーと……ちょっと、詳しくは聞いて無くて」

 

 豚肉を2枚同時に焼きながら何気なく聞いてみたら、シャマルに申し訳なさそうに謝られた。言い難そうやった。そんな顔されたら、聞くのが悪いような気がしてくるんやけど……。

 

「最近みんな忙しいんやね。あまりお家におらんようになって、帰ってくる時間も遅いし」

 

 でも、気になるのは仕方がないやん。もう昔みたいに1人で生きているわけやないんやから。お姉さんみたいなシグナムとシャマルがおって、妹みたいなヴィータがおって、ザフィーラは……お兄さんやろうか? 犬、とはちゃうやろ。それに、シュテルが一緒におってくれる。

 

 みんな、私の大事な家族やから。気になるんは当たり前やん。

 

「別に、私はぜんぜんええよ。みんな外でやる事とかがあるんやったら、別にそれは」

 

 せやけど、口に出すんは思っている事とは真逆の事。言ってしまったら、きっとみんな無理をしてでも私に付いていようとするのは、わかってはいるんや。だから、みんなを困らせたくは無いから、我儘を言うたりせえへん。

 

「あの、はやてちゃん!」

「ど、どないしたん?」

 

 突然のシャマルの大声にビックリした。シャマルも大声を上げることがあるんやなぁ、と、妙な感想が頭をよぎってまう。

 

「えっとですね。今、ちょっと思念通話をしてみたら、シュテルちゃんがすぐ近くまで帰って来ていたみたいです」

 

 言われてすぐ玄関の扉が開く音がした。靴を揃える音が続くと、静かな足取りで廊下を歩く音がする。

 

「遅くなりました。食材は無事ですか? ハヤテは無事ですか?」

「ええっとシュテルちゃん、それはどういう意味かしら?」

 

 そして顔を出したのは、いつもの無表情な何故か伊達眼鏡をかけたシュテルの顔やった。

 

「おかえりシュテル。別に何も問題はないで……って、ああああ!!」

「え、はやてちゃん?」

 

 やってもうた……話をするのに気を取られてもうて見てなかった。慌てて取り皿に豚肉を移しはしたけど……片面が一部見事に真っ黒や。

 

「どうやら、一足遅かったようですね。まさかシャマルではなくハヤテが失敗するとは」

 

 シュテルが珍しい物でも見るような目で私が失敗した豚肉をつまんで持ち上げる。そんなに見ても、なんもかわらんよ、シュテル……。

 

「なるほど、これがハヤテの川流れといったところですか」

「ちゃうわ! 誰が上手いこと言えと」

 

 さっきまで、ちょっとしんみりとしとったのに、全部吹き飛んでしもうたやんか。なんかもう、どうでもええか。

 

「ま、まだや! まだ挽回の余地はあるでぇ。黒い部分を取ってしまえば元通りや!」

「え? あ、じゃあ、それは私がやりますね」

 

 片面黒豚肉2枚をシャマルに渡し、次の2枚を慎重に焼くで。今度は失敗するわけにはいかん。枚数は限りがあるからなぁ。次はシュテルもおるし、問題は無いはずや。

 

「黒い部分はザフィーラのフードボウルに入れておきましょう」

「シュテルちゃん、それは止めてあげてね」

「ぷっ、ふふふ……」

 

 もうあかん。ザフィーラが困惑した表情でフードボウルを見つめるところを想像したら、笑いが止まらへん。はぁ、はぁ……ふうっ。なんか、ほんと楽しい。

 

 

 しばらくしてヴィータが帰って来ると、そのすぐ後にシグナムとザフィーラも一緒に帰ってきた。ご飯ができる前に全員が集合したのは久しぶりな気がする。

 

 片面黒豚肉は焼けすぎて削っても硬いままで、結局刻んでみんなで分ける事にした。2枚少ないお肉は、2枚を半分にして別けることに。シグナムとザフィーラは筋肉にタンパク質が必要でしょうからというシュテルのようわからん提案で、私とシャマルとヴィータとシュテルで分けた感じになった。

 

 お風呂も3人で入った。先に私とヴィータとシャマルが入って、次にシグナム、シュテルの順や。お風呂から出た後も、みんなでテレビを見ながら何時ものように雑談をした。そんな中、1人だけ隅っこで本を読んどるんがシュテルや。

 

「シュテルもこっちに来てみんなと一緒にテレビでも見よ? 面白いよ」

 

 私が呼ぶとシュテルが少し顔を上げた。前やったら、どうぞお構いなくって言うとこやけど。

 

「そうですね。では、少しだけご一緒させていただきます」

「じゃあ、あたしの横に来るか?」

 

 でも今は、そうやない。ずいぶんとシュテルもみんなと馴染んでくれた。いろいろと手を尽くした甲斐があったっちゅうもんや。なんで伊達眼鏡をしているのかだけは、わからんけど。

 

「では、そこで……またヴィータはお菓子を食べてるんですか?」

「いいじゃん。育ち盛りなんだよ」

「育つんですか……?」

 

 そういえば、最近またヴィータが夜に間食をするようになった気がするなぁ。夏はアイスばっかり食べとったし、これはちょっと言うた方がええかな?

 

「うるせえ! あたしは燃費が悪いんだよ!」

「おい、理由が変わっているぞ、ヴィータ」

「まあまあ、いいじゃない。でも、ヴィータちゃんもちょっとは遠慮してね」

「そうやね。就寝前の飲食は、あんま体には良くないんよ?」

 

 私が言うと、ヴィータがシュンとしてもうた。

 

「うっ……はやてがそう言うなら、これで最後にする」

「結局食べるのか」

「もうザフィーラは散歩に連れて行ってやんねーからな」

「俺は散歩を楽しみにした事はないのだが……」

 

 再び笑いが起きる。

 幸せの笑顔がいっぱいや。

 

 

 

 昨日は楽しかった。

 みんな楽しそうにしてくれるのは、私も楽しい。

 一緒にご飯を作って、一緒に食べて、一緒にお風呂に入って、一緒にテレビ見て。

 そんな今が、とても愛おしくてしょうがない。

 みんなにやる事が出来て、ちょっと寂しい事はあるんやけど。

 もっとみんなにかまってもらいたいと思うのは、それは私の我儘や。

 今でも十分に、私は幸せやから。

 

 せやから、なるべく迷惑をかけんようにせんと。

 

「くっ! あぐっ!」

 

 お腹が痛い。

 いつもの発作。

 みんな外に出てて、ちょうどよかった。

 

 痛い。痛い。痛い。

 痛いっ……。

 前よりもずっと苦しい。

 なんも悪いことしてへんのに、なんで!

 

「あっ、痛……くう」

 

 痛っ……こんなん、みんなに見せれへん。

 

 心配かけるわけにはいかんのや。

 

「はぁくっ!?」

 

 痛くない。

 

 痛くないで!

 

 痛くなんか、ないで!

 

「はぁはぁ……」

 

 はぁ……。

 

 痛みが和らいでくる。

 いつもどおりの展開やった。

 大丈夫や。

 

 しばらくなかった発作が、また最近になって起き始めた気がする。発作の間隔も短くなっとる気もするし……痛みも発作が起きる度に強くなってきてる。痛くなる時間も長うなっとるし。

 

 みんなには教えられへんな。きっと心配するやろうから。病院にずっと入院するんだけは嫌やな。せっかく、みんなと一緒に居られるのに。今、私はすごく幸せなんや。

 

 だから、我慢できる内は我慢していたい。この生活を続けていたいから。願いはそれだけや。

 

 そういえば、シグナムに蒐集を勧められたことがあったなぁ。でも、私の願いはかなっとるから、だから断った。闇の書の蒐集なんかせんでええ。このままずっとみんなと居られたら、私はそれで。

 

 ずっとこのままで居られればええな。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。