魔法少女LyrischSternA’s   作:青色

18 / 36
17話 饗宴の後に 11月25日

「はぁはぁ、はぁぁっ……ふうぅっ」

 

 深呼吸終了。なんとか、上手く制御できたかな?

 

 シュテルちゃんの魔法にも負けなかった。次々と捕捉して破壊できた事に違和感を感じた時、レイジングハートから警告の声が上がって。最後の魔力弾を相殺した時、見えたのは砲撃体制に入ったシュテルちゃんだった。

 

 その時、心の中に浮かんだのは……私の砲撃を砲撃で迎撃してきたシュテルちゃんの姿。

 

 最後は結局、崩れてしまったけど。だけど、威力はちゃんと相殺できたよね。魔力爆発はレイジングハートが自動で防御してくれたから、私は無傷。バリアジャケットが所々破損しただけ。でも、無理をしすぎちゃったから、体はちょっときつい、かな。今まで感じたことがないような重い倦怠感が体を襲う。あ……レイジングハートは?

 

「レイジングハート、大丈夫?」

No problem(大丈夫です)

 

 壊れたところは……ないかな? 良かった……撃ち負けそうになった時、思わず連続でカートリッジを使っちゃった。エイミィさんからカートリッジシステムは危険だって聞いていたのに。それでも私は負けたくなかったから。気づけば……。

 無理ばかりさせてごめんね、レイジングハート。エイミィさんにも謝らないと。きっとすごく心配させちゃったから、帰ったら怒られそう。

 

「まだ、安心するのは早いですよ」

 

 声に反応して顔を上げる。上空に左手を振り上げたシュテルちゃんが見えた。鈍い風切り音が聞こえて、シュテルちゃんの魔力が左手に満ちていく。頭上から突進してくる!? これ、そういえば前も――。

 

 また同じ手なんて、くらわないよ!

 

「レイジングハート、お願い!」

Protection Powered(プロテクションパワー)

 

 レイジングハートが自動でカートリッジをリロードしてくれて、プロテクションを張ってくれた。重くなった体を叱咤して、シュテルちゃんに右手を向ける。手の平を中心に守りの膜が広がっていく。今までのプロテクションとは違う感じがする。

 

 一瞬、シュテルちゃんの姿が目の前から消える。

 

 どこに? 上? 違う、魔力反応は正面!

 

「ヴォルカニックブロー!」

 

 とっさに手の平を再びシュテルちゃんの方に向ける。間に合った。正面から突っ込んでくるシュテルちゃんの握られた拳に渦巻く炎が、私のバリアにぶつかる瞬間に見えた。互いの魔力が、真紅の炎が私のプロテクションにぶつかって赤く爆ぜる。

 

「はああ!!」

「くっ!?」

 

 重い、重いよ、これ!

 

 衝撃に押されて、わずかに後退する。でも以前なら、きっとこれで撃ち抜かれていたよ。耐えられるのはレイジングハートのおかげ。体が悲鳴を上げる。でも、大丈夫。まだまだいけるから!

 

 でも、このままだとバリアの魔力が減衰して、いつか撃ち抜かれちゃう。

 

「レイジングハート、お願い!」

Barrier Burst(バリアバースト)

 

 爆発のイメージがレイジングハートから伝わる。うん、私も信じているから。あとは私は頑張るだけ!

 

 魔力が手の平に、もっと集める。再びカートリッジをリロード。シュテルちゃんの右手とぶつかっている場所に集まっていく。これで!

 

「やはり、砕けませんか」

 

 冷静なシュテルちゃんの声が聞こえてきた。思わず顔を見る。いつもと変わらない表情の少女が私を見ている。何故かこの後に何が起きるか知っているように見えたけど、そんなわけない! 行くよ! 

 

 集まった魔力を爆破。

 

 衝撃に体が持っていかれ、煙で視界が覆われてシュテルちゃんが見えなくなる。思った以上に衝撃が強いよ。

 痛い、けど大丈夫! すぐに体勢を建て直さなきゃ。

 

 

 煙から飛び出るまで吹き飛ばされたけど、すぐにレイジングハートを構え直した。体がギシギシと痛む……シュテルちゃんは、どこ? シュテルちゃんなら、すぐに追撃をしてくると思ったのに、何もおきない。爆発後の白煙が晴れていくけど、そこにも居ない。

 移動した? どこに?

 

「本当に、素晴らしかったです」

 

 声がしてハッと上に視線を移すと、少し離れた高い位置に砲撃戦前と変わらない姿のシュテルちゃんが空に浮かんで立っていた。あれほど膨大な魔力を撃ち合って、さらにクロスレンジでも戦闘をしたのに、そんな事があったとは思えない程、変わらない姿で。

 不意打ちみたいな攻撃をしたのに、まともに受けていないの? バリアジャケットに乱れが見えないよ。どうしてそんなに余裕があるの?

 

「デバイスが変わっただけではなく、空戦機動も射撃精度も、お見事です」

「ほ、本当? シュテルちゃんに呆れられたらどうしようかって思ってたのに」

 

 褒められても、シュテルちゃんの姿を見て不安が募ってくる。もしかして、本当は言葉ほど褒めていないんじゃないかって。だって、私と違って完全に無傷で、私と違って無理なんてしていない様に見えて、そして、私と違ってまだまだ余裕があるように見えるから。

 

 ずっとフェイトちゃんと訓練を積んできた。クロノくんにも手伝ってもらった。シュテルちゃんの魔法を参考に改良も加えた。ディバインシューターは早くて強固なアクセルシューターになった。

 

 だけど、私の魔法はシュテルちゃんにちゃんと届いていたのかな? 私の魔法は、どこまでシュテルちゃんに追いついたのだろう? 

 

「そんなはず、あるわけないでしょう。しかし、この日が来る事を考えて鍛えてきましたが、すでにその差は、ほんの僅かしかないように感じます」

「流石にそれは……ちょっと言い過ぎかも」

 

 シュテルちゃん……それは過大評価だよ……。

 

「実力差が僅かしか無いって、そんな事無いよ。私なんて、ついていくだけでやっとなのに」

「そんな事無いですよ。本当にナノハは強いです。魔法技術も、そして心も」

 

 あ、笑った。私を見てシュテルちゃんが微笑んだ。今だに追いついた気はしないけど、だけど、その背中は見えた気がした。なんだか気が抜けてくる。緊張がとけたのか、倦怠感が戻ってきた……体が、重い。

 

「ですがまだ。超えさせる気はありません」

 

 シュテルちゃんの表情が変わる。そう。まだ戦いは終わってなかない。気を引き締めなきゃ。私はまだまだ戦えるよ!

 

「もう使い切りましたよね? では、第二段階へ」

『Master!』

「え? きゃっ!?」

 

 レイジングハートの警告。突然、ワイヤーが空間から生えてくる。とっさに逃げようとしたけど間に合わない。気づくと足から首まで縛られた。緑というには薄い色の魔力光。これは、前にシュテルちゃんを縛ったチェーンバインドを壊した人のだ。じゃあ、近くにまた潜んでたって事? 完全に油断していた。シュテルちゃんばかり見ていて、下なんて全然見てなかった。

 

 こんなので!

 

「くっ! なんで!?」

 

 ワイヤーを破壊しようとするけど、上手く魔力が練れない。魔力が足りない? カートリッジは、全部使っちゃった。使うにはマガジンを交換しなきゃならない。だけど、腕を動かせなくてレイジングハートに手が届かない。

 

「えっ? わっ!?」

 

 体が地面に吸い寄せられる! ぶつかると思ったら、寸前で止まった……。

 

 私を縛るワイヤーの先に、目を(つむ)って顔を(うつむ)かせた女の人がいつの間にか現れていた。金色の髪で、優しそうな雰囲気。他の騎士さん達とは違って、ゆったりとしたローブのような服。足元のはベルカ式の三角形をした魔法陣が浮かんでる。

 

 淡い緑色の魔力光。この人だ……今まで出てこなかった闇の書と主を守る守護騎士の中で最後の人。

 

「あなたはあの時の」

「あわよくば落とすつもりでしたが。さすがでした」

 

 慌てて視線を上に向ける。上空から降りてきたシュテルちゃんが、私の正面で降りてきて停止した。

 

「ですが、魔力を消費してくれたようですし、無理をした分、体への負担は大きいはずです。それに、カートリッジも空になっていますから。簡単には抜け出す事が出来ないでしょう」

「え? じゃあ、今までの戦いは私がカートリッジを使い切るのを狙ってたっていうの?」

「次善の策です。まあ、思った以上に早く消費して頂けました。とだけ、言っておきましょう」

 

 私が全力でシュテルちゃんと戦おうとした時には、すでに罠に嵌っていたんだ……。

 

「それでは、私はこれで失礼させていただきます」

「ま、待って! シュテルちゃん!」

 

 思わず呼び止めてしまったけど、だからといって何も出来ない。ただ呆然と見るしか無いなんて。このワイヤーも解けない。これで終わりなの?

 

「また戦う機会はありますよ。では」

「シュテルちゃん!!」

 

 シュテルちゃんが去っていく。それを見るだけなんて……そうだ、まだ私に何かできる事は? シュテルちゃんが向かっているのは……クロノくん? クロノくんに教えなきゃ!

 

『クロノくん! クロノくん聞こえる?』

 

 返事が返ってこない。なんで? どうして? 通信が届いていない? じゃあ、フェイトちゃんには? アルフさんは?

 

「どうして! クロノくん! フェイトちゃん! アルフさん!」

「ごめんね。連絡をさせる訳にはいかないの」

「え!?」

 

 女の人が目を開いて私を見ている。この人が通信を妨害しているんだ……なんでそんな事を? 誰も気づいてないの? エイミィさんは? どうして?

 

「大人しく、ここで見ていなさい。すぐに終わるから」

 

 女の人の視線が上に向く。視線の先を見ると、クロノくんに魔法を撃つシュテルちゃんが見えた。でも、その魔法は見たことがない。無数の火炎弾がクロノくんを襲う。ここから見るとクロノくんの周りに真っ赤な花が咲き乱れるように見えた。

 

 奇襲を受けたように見えたけど、クロノくんはちゃんと防いでいる。一瞬、顔が左右に振られる。何かを探すように……私だよね。でも、これで気づいてもらえるかもしれない。

 

 でも、これって……。

 

 そうだ。前回と同じだ。同数で一対一をしていると思ったら、本当は1人多かったあの時と同じ……。シュテルちゃんが赤い髪の子と入れ替わるようにクロノくんに向かっていく。フェイトちゃんは剣士さんと戦ってて、アルフさんも耳と尻尾を生やした男の人と……1人余る。

 

 あっ!

 

「みんな気づいて! 本命は赤い髪の子! 赤い髪の子が何かするつもりだよ!」

「正解よ。でも、誰も気が付かないし、気付いたとしても今の状況だと何も出来ない。膨大な魔力の爆発で、結界内は一時的に音信不通になっていたし、今は通信を私が妨害しているわ。それに、ここは認識阻害の魔法であなたが見えないようにしているから」

 

 ここから見えるのはクロノくんだけ。でも、クロノくんも気づいてない? アルフさんは遠くで戦っているし、ここからだとフェイトちゃんも見えない。エイミィさんは? 魔力爆発の影響で見えてない? 誰も、どうにも出来ないの?

 

「きっと、この結界内にいる人は誰も、あなたが捕まってるなんて気づいていないわね。気づいていたら、こっちに来ようとするもの。だから、まだあなたが戦っているのか、やられているのか誰もわからない。つまり状況不明って事になるわ」

 

 それはそうかもしれないけど……。だからって、何が変わるの?

 

「状況がわからない間は下手には動けないものよ。そして、この場の指揮官は、あの黒い格好をした執務官の人でしょ? シュテルちゃんが執務官の人に状況を把握する時間も与えない。もし外に強力な仲間が居るにしても、外とも連絡が出来ないから支援を要請できない。外の管理局の人も、結界内の状況がわからないから、危険を犯してまで援軍を送るよりも状況の把握を優先する。だから動くのが遅れるはずよね? そういうわけで増援もすぐには来ないわよ」

 

 空に膨大な魔力を感じる。あれは、あの赤い髪の子。

 

「それに、あの執務官は慎重で無理をしないわ。きっと私を警戒して戦いも消極的だったでしょうね。それはシュテルちゃんと戦っていた時から、そうだった。私が結界の中に居なかったから、外も警戒していたと思うわよ。おかげで、相手にしていた赤い髪の子も魔力を温存できたわ」

 

 突然、空に巨大なハンマーが現れた。あの小さな赤い髪の子が振り回すには不釣り合い過ぎる程に巨大な。誰もそれを阻止できない。みんな、目の前に敵を抱えていて私も捕らえられているから、誰も対応できない。結界の外から増援も来る気配もないし、このままじゃ。

 

「で、でも。それでもすぐに動くはず……リンディさんなら迷っても、きっとそうするはずだよ」

「私達には、状況を把握しようとする時間、判断を迷う時間、その僅かな時間で十分なの。結界の中央に私が陣取った時点で、私達の勝ちよ」

 

 そんな……じゃあ、全部予定されていたって言うの? 私がシュテルちゃんと戦うのも、フェイトちゃんが剣士の人と戦うのも、アルフさんが男の騎士と戦うのも。クロノくんが赤い髪の子と全力で戦わない事も? リンディさんがすぐに動けなくなる事も? 全部、全部が予定通りって事? 私がシュテルちゃんに勝てない事すらも……。

 

「ちなみに、この作戦を考えたのはあなたが戦っていた相手よ。本当は私の役目なのだけど、最近は楽をさせてもらっているわ」

「シュテルちゃんが?」

 

 あ……なんだか全部、納得できちゃった。

 

 でも、なぜ話してくれるのだろ? 作戦の事まで敵である私に話す必要なんか無いのに。

 

「あの、どうして? どうして教えてくれるの?」

「フフフ、それはね」

 

 女性が面白そうに笑った。

 

「彼女と約束したのでしょ? それと彼女からの伝言で、再戦を楽しみにしています、ですって。あなたの事をとても気にしているみたいね。どうしてそこまで気にしているのかは私が聞きたいくらい。ほんと、誰かさんみたいに律儀よね」

 

 微笑する女性の視線の先で、赤い髪の子が巨大なハンマーを結界に叩きつけるのが見える。当たった場所から結界が脆く崩れていく様子は、まるで私達に敗北を告げるかのようだった。

 

 

~~~~~~

 

 

 結局、私達は彼女達を捕まえることが出来なかった。

 

クロノも、リンディー提督やエイミィも必死で追跡をしているけど、たぶん無理なんだと思う。彼女達が簡単に捕まるところが想像できなかった。今は証拠集めの為に戦闘が終了した地表を走査していけど、今の所、何も見つかってはいない。なのはとシュテルという子の砲撃と最後の結界を破壊された余波で、地表は完全に更地と化していたから。アルフが匂いを嗅いで手伝っているけど、手掛かりが残っているとは思えない。

 

 それよりも気になるのが、なのはの事。

 

 敵に捕獲された事を気にしているかもと心配したけど、そんな様子が見えなかった。とても疲れているようには見えたんだけど。明るく振る舞っていて落ち込んだ姿を見ないのは良かった事だとは思う。でも、それはそれで気になる。本当に無理をしていないのかな? シュテルという、あの魔道士と何があったのだろうか?

 

 私もシグナムと互角に近い戦いができたと思う。初めて名乗られて、私とバルディッシュも名乗り返した。強い、とも言ってもらえた。まだまだ敵わないけど、決して届かない相手じゃない確かな手応えも得た、と思う。

 だけど、なのはの感じた事と私が感じた事とは違う気がする。

 

 気になって休む気にもならない。私自身、なのはをまた助けられなかったわけだし……。だから、思い切って聞いてみよう、そう思ったんだ。

 

 

 手伝いが終わって、なのはが休んでいる部屋に直行する。入ると、まだ検査が終わっていないのか医療用の機器がベッドを囲んでいた。なのはの体にコードが繋がっていて、見ているだけで痛々しい。本当に、大丈夫なの? すごく不安になってくる。

 なのははすぐに無茶をするから……。

 

「あ、フェイトちゃん?」

 

 まだ起きていたのか、なのははこちらを見てすぐにベッドの上で上半身だけ起き上がる。どこかを痛がっている様子はないけど、少し動きは悪く見えた。

 

「なのは、本当に大丈夫? 無理してない?」

「フェイトちゃんは心配性だなぁ。ちょっと見た目はあれだけど、この通り全然平気だから本当に大丈夫だよ」

 

 なのはからは辛さを隠しているような感じはしなかった。でも、なのははすぐに無理をするから……なのはがそう言うなら、体の方はきっと本当に大丈夫だと信じたいけど、包帯が所々巻かれていて痛々しい。

 

 それに……ただなんとなく、やっぱりいつもと様子が違う気がする。傷じゃなくて何か、こう……言いたくても言えない、みたいな感じで。なんだろう?

 

「なのは、何かあった?」

「え? どうして?」

 

 思いきって聞いてみたけど、返ってきたのは疑問の声。なのは自身、気づいていないのか、それとも話し難いのかな。

 

 言って良いのかな……。

 

 迷ったけれども、結局聞くことに決める。聞かずに後悔するよりは聞いてみたほうがいいと思うから。もし話してくれなくても、それは私を悪く思ってのことじゃないのはわかるから。

 

「なんだかいつもと少し様子が違う気がするよ。心がふわふわしてるというか、でも無理に押し止めようとしていると言うか……うまく言葉に出来ないのだけど。でも、もし嫌なら、言ってくれなくてもいいから」 

 

 私が言うと、なのははバツが悪そうな顔をした。やっぱり聞かなかった方がよかったのかな。心に後悔の念がわき起こってくる。やっぱり、まだ私は人との付き合い方が、友達への接し方がよくわかっていないのだと思う。

 

「ええと、あのね。その、本当はちょっと悔しくは思ってるんだ。レイジングハートがせっかく私に力をくれたのに、最後は油断して捕まってしまって、またみんなの足を引っ張っちゃったから」

「ご、ごめんなさい! そんなつもりで聞いたんじゃ無くて! そういう事を聞きたかったわけじゃなくて!」

 

 なのはを責めるつもりなんてなかったのに、どうして! 上手く言葉に出来ない自分を殴りたい。どうして私はもっとちゃんと話すことが出来ないのだろう……なんて言えばいいのかな。

 

「うん。わかってるよ。フェイトちゃんは心配してくれているんだよね。ごめんね。お話のしかたが悪くて。えっと、そうじゃなくて。実はね。確かにそんな悔しい気持ちはあるのだけど、それと同じくらい嬉しい気持ちもあるのって事なんだ」

「嬉しい気持ち?」

 

 思ってもいなかった言葉が出て、私は首を傾げる。

 

「うん。だって、シュテルちゃんに私の言葉が届いていたのがわかったから」

 

 なのはの表情がパッと明るく晴れた。

 

「私は目の前の事しか見てなかったのに、シュテルちゃんは全体を見ていて。作戦を立てて、その為に動いていくのはクロノくんに近い感じかも」

 

 確かに……彼女はそういうタイプに見えた。シグナムも彼女の指示を受けていた節はあるから。それに、前回の時はシグナムが彼女を守っていた。その様子から、彼女が騎士達の中心にいる人物なのだろうということは、容易に想像ができる。

 

「だからかな? 私と戦うのも作戦の内で、私と話すのも作戦で……褒めてくれるのも作戦の内なのかなって。実は私の事なんか相手にしてないんじゃないかって思って。それって悲しいよね。私はシュテルちゃんの事を知りたいって思っているのに、本当はちっとも相手にされていなかったのは……とても悲しいよ」

 

 目を伏せて語るなのはは、でもすぐに顔を上げた。

 

「でも、そうじゃなかったの。私の言葉はちゃんと伝わっていたのがわかったから。約束も守ってくれて、作戦の事も教えてもらったよ? 再戦も約束したんだ!」

 

 嬉しそうに語るなのはの話に、なぜ明るく振る舞っていたのか納得ができた。自分の言葉が相手に伝わっていたのが嬉しかったんだ。

 

「よかったね、なのは」

「うん。だから、あの……それで、みんな心配してくれるのが申し訳なくて。怒られちゃったけど、体の方はそんなに痛くないんだ。それで、言えなかったというか……なんと言いえばいいか。無茶までしたのに失敗して足を引っ張ったのに、こんな事で喜んでたなんて……やっぱり誰にも言えないよ」

 

 なのはは遠慮をしてたんだ。今までの違和感の理由がわかって、胸のつかえがすっと消えていく。そして、その気持ちは私にもわかった。私も約束したから。

 

「私もシグナムと約束したよ。勝負を預けてもらったから」

「フェイトちゃんもなんだ。じゃあ、一緒だね」

 

 懐かしい気持ちが蘇ってくる。ほんの数ヶ月前だというのに、とても昔の出来事のような記憶。悲しいこともあったけど、嬉しいこともあった。とても大切な記憶。

 

「シュテルちゃんが戦いを望むなら、私は逃げたりなんかしないよ。とことんお互い納得するまで戦って、それで私が勝った時にはお話を聞いてもらう」

「私も、シグナムともっと話をしてみたい。戦いを望んでいるわけじゃないけど、何かを伝えるために戦って勝つ必要があるなら、私は迷わず戦えるから」

 

 何度も刃を交えた。その度に、なのはは私に話かけてくれた。なのはと話す度に私の心は揺らいだ。母さんに捨てられた時、もう一度立ち上がる事が出来たのはアルフとバルディッシュのおかげ。そして、なのはが私に前へと踏み出す勇気を教えてくれたから。

 

 闇の書の事も主の事も忘れたりはしない。見つけて必ず、闇の書の主を捕まえてみせる。

 

 だけど、シグナムもどこか遠慮をしながら戦っている風に見えた。どうしてか時々、申し訳無さそうな顔をする。きっと何か理由があって、あんな顔をするんだ。

 

 次に戦う時が来たら聞いてみよう。私の時のようにシグナムにも何か戦う理由があるのかもしれないから。

 

 いや、きっとある。

 

 シグナムは感情のないプログラムなんかでは、決して無い。

 

 

『大変! みんな大変だよ!』

 

 突然、慌てたようなエイミィの声が通信で届いた。

 

『ビンゴ! クロノ君がビンゴだよ!』

『エイミィ落ち着け。深呼吸して、慌てずに話して』

 

 何があったのかな? エイミィでもここまで取り乱す事は珍しいと思う。

 

『見つけたの! 見つけたんだって!』

『だから何を見つけたんだ?』

 

 深呼吸をする音が聞こえ、空白が一拍置かれる。

 

『彼女達、闇の書の騎士達を見つけたの! クロノ君の指示で監視していた地球の海鳴市で! すぐ消えちゃったけど、なのはちゃんの住む町で反応があったんだって!』

 

 思わずなのはと目が合った私は何を言えば良いかわからずに、しばらく無言で互いの顔を見つめ合った。




誤字報告に感謝を。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。