魔法少女LyrischSternA’s   作:青色

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14話 蒐集(Sammlung) 11月20日

 町から家屋の少ない郊外へと飛翔しながら対象を追跡します。相手はこの世界の住人では無いです。なぜならば、管理局の制服を着た人間でしたので。

ただし、見つけたのは今追跡している1人だけで、少なくとも感知出来る範囲に高い魔力反応はありません。ここは管理局が管理する世界では無いのでしょうか? なぜ、この世界に居るのかは知りませんが、好都合です。

 

『ヴィータ、予定地点にもうすぐつきますよ』

『結構手こずったみたいだな。こっちからも見えた』

 

 とりあえず町中での襲撃は現地の治安機関が関与してくるかもしれず、こちらにとって都合が悪かったので、町の外へと追い出す事にしました。

 ヴィータには町の郊外にある森の中で待機してもらい、私が追い立て役です。魔力を見せつけるように近づけば、予想通り相手は逃走を選択しました。複数のサーチャーでも監視していますので見失う事はありません。ただ、慣れない事ですから時間はかかります。

 

『予定地点です』

『んじゃ行くぞ!』

 

 町の郊外へと追い立て、ようやく森の前まで追い詰めました。後はヴィータの役目です。

 

「ぶっ叩くぞアイゼン!」

Flammeschlag(フランメ・シュラーク)

 

 管理局員が森へと逃げ込もうとした時、その目の前に小さな影が躍り出ました。驚いて足を止めた目と鼻の先では、すでにグラーフアイゼンをヴィータが振りかぶっており、あとは振り下ろすだけ。

 

「待ち伏せか!? シールドを!」

Round Shield(ラウンドシールド)

 

 魔法陣の形をした円形の防御シールドが展開される。でも、それは正解かどうか。ハンマー型のグラーフアイゼンがシールドと衝突する。瞬間、衝突点が爆発した。

 

「ぐっ!?」

 

 爆風が両者を襲う。管理局員の体が宙を舞うが、その目は死んで居ません。衝撃で吹き飛ばされながらも、その手には光る魔力弾が光っています。ヴィータに向けて手を突き出すと、光弾がさらに強く光りました。

 

Photon Bullet(フォトンバレット)

 

 至近距離からの射撃。

 ですが、ヴィータは避ける素振りも見せずに逆に突っ込みます。息を吸う程度の空白。後に再度の爆発音。白煙があがるが、すぐにヴィータが出てきました。

 

「そんなもん効くかよっ!」

 

 管理局員の驚愕の顔が見えます。再び振りかぶったヴィータのグラーフアイゼンが振り下ろされました。終わりです。あっけなく終わったように見えますが、奇襲しておいて手間取る方がおかしいのです。

 

 さて、倒してすぐに蒐集を開始します。あまり時間をかけるわけにもいきません。爆発音は周囲に響いていましたから、誰かが駆けつけてくる前に終わらせた方が面倒が無くて良いでしょう。

 

「やっぱ、あんま稼げねーのな。これなら魔獣を相手にした方がよっぽど効率いいよ。あっちの方が気楽だし」

 

 蒐集はすぐに終わりました。やはりナノハやフェイトのようにはページは稼げませんね。まあ、当たり前ではあるのですが。

 むしろ、そんなにページが進む相手なら簡単に戦闘が終わる事もないでしょう。温存したい魔力も消費しますし、かけたくない時間もかかってしまいます。

 

 それに、ヴィータは魔導師を襲う事自体が嫌なようです。私も気は進みませんが、これは必要な事です。

 

 ここは、消耗せずに終わった事を喜ぶべきでしょう。

 

「そうですね。ですが、必要な事ですから。それに、今回は楽に終わったのですから、いいではないですか」

「わかってるよ。まあ、時間は余計にかかったけど、魔力もたいして消費してないしな。で、そろそろ時間か?」

「慣れていないと最初に断ったはずです。それと、これ以上の蒐集は合流時間に間に合わなくなりますので、とりあえず中継世界に戻った方が賢明でしょう」

 

 今日はハヤテが病院に行く日です。蒐集は私とヴィータのみで、シグナムとシャマルはハヤテに付き添っており、ザフィーラは家を守っています。ハヤテは病院から帰る途中で買い物に寄る予定ですから、その時間に間に合うように帰って合流する事になっていました。

 

 こういう日は変則的にならざるを得ません。時にはご近所の方との付き合いでシャマルがハヤテの側から離れるときもありますし、各人の予定が重なる事もあります。今までは、そういう時は1人で蒐集する事もありました。

 本来ならば蒐集は2人で実施しなければならないのですが、こういった時は安全が確認された世界なら大丈夫だろうという事でルールが変更されっています。ちなみに変更を要求したのはヴィータです。焦る気持ちがわかるだけに、却下できませんでした。

 

 ただ、これからは1人で動くのは厳しいでしょう。無理や油断は禁物です。

 

「怒るなって。んじゃ戻ろうぜ」

「はい」

 

 しかし、この管理局の人はここで何をしていたのでしょうか? もし、私達を捜していたのでしたら、近くに管理局の次元航行艦が来ている可能性があります。

 さすがに中継世界が見つかっているとは考えられませんが、活動範囲を絞られつつあるのかもしれません。もしそうなら、相手の指揮官は優秀ですね。中継世界を中心に活動を初めて4日しか経っていないのですから。

 

 

 転送を終え、中継世界の拠点に戻ります。転送先は拠点の中の一室で、無機質な灰色の壁に囲まれ、暗く、しかし乾燥して何も無い部屋です。今居る部屋は一階部分で、建物自体は2階建てとなっており、屋根も付いています。周囲も同じような形の建屋が並んで建っていますが、人の住まない廃墟と化していましたので、ほとんどの建物は屋根が抜けていましたから探すのに苦労しました。

 

 町そのものが何かしらの理由で廃棄でもされたのでしょう。拠点と定める場所を探す課程で探索をしてはいますが、この廃墟と化した町に人は住んでいません。ただ、壁に戦闘の跡が残る事から、ここは過去に戦場であった可能性が高いと思われます。町のあちらこちらに同様の痕跡が確認出来ました。

 元は多くの人々で賑わっていたと思われる町中央の通りは、今は瓦礫でふさがり、木々が所々で茂っています。

 

 シグナムと中継する世界を探したときに、元の世界である地球からも遠く、この世界の住人は魔法文化を持っていないというのも大きな決め手となり、ここを中継点とする事にしました。元の世界でいうところの中世程度の文明で、人口が少なく、廃墟となった町の残骸が多く見られたのも都合がよかったのです。

 もしかしたら、終末戦争とか世界大戦でも起きたのかもしれません。興味はつきませんが、歴史の研究は今は置いておきましょう。

 

「やっぱすぐに帰るのはまずいよな?」

「ええ、追跡されているかもしれませんから。サーチャーを飛ばして監視しますので、しばらく待機してください」

 

 ここに戻ったら必ずサーチャーを町の周囲に飛ばし、不審な動きがないか監視しています。転送先を追跡されれば、すぐに管理局の武装局員が飛んでくるかもしれません。

 一応、建物にはシャマルが簡易の結界を張っていますのでセキュリティーは万全ですが、廃墟と化した町全体を監視するには自分たちでしなければなりません。不審な事が無いか確認しておくのは必要な事です。

 

「しっかし暇だよな。ここ、なんにもねえし」

「仕方ありませんね。これでも飲んで我慢してください」

「いや、別に喉が渇いてるわけじゃないんだけど」

 

 水筒を差し出すと、ヴィータは文句を言いながらも受け取りました。こういう時は何かを口に入れるに限ります。今度はお菓子も持ってきた方が良さそうですね。

 

「ふう。仕事の後の一服って感じだな。あ、そういえば。さっき蒐集した奴も管理局の魔導師だったけど、やっぱあいつらって、あたし達を探してるんじゃないか?」

「その可能性は高いでしょう。人からの蒐集は手控えているとはいえ、魔導師が蒐集されれば管理局もある程度は私達の活動範囲に目星くらいは付けるでしょう」

 

 さて、今のところは追跡された様子も、おかしな動きもないようです。中継世界を決めてから4日、その世界を中心に蒐集活動をしていますが、まだ管理局側に大きな動きはないのでしょう。蒐集活動も妨害にはあっておらず、比較的良好な状況であると判断できます。

 ただ、今日もそうですが、管理局の魔導師を蒐集する機会が増えてきたように感じられます。やはり、そろそろ活動範囲を絞られていると判断すべきでしょう。

 

 そう考えると、やはり拠点の移動も考えた方が良いかもしれません。少し早いですが、次の中継点を探しておくべきでしょう。反撃を受ける前に移動しておけば、相手に与える情報も少なくなるでしょうし、管理局の捜査を攪乱できるかもしれません。

 

「なあシュテル。もういいだろ? まだ時間かかるのかよ?」

「いえ、そろそろ終わりましょうか。追跡は確認されていません」

「んじゃ、もう帰ろうぜ。こんなとこに長居したくねえし。それに、あたしはお腹が減った」

 

 そうですね……今日にでもシグナムとシャマルに話しておきましょうか。事前に相談をするように言われていますから。

 

「相変わらず、ご飯が好きなのですね」

「ばっか。飯が好きなんじゃねえよ。はやてが作ってくれた飯だから好きなんだろ!」

 

 私達にはまだ余裕があります。ご飯を気にかけていられるくらいには。ですが、それももうすぐ終わる。

 

 管理局との戦いは、まだまだ始まったばかり。ナノハ達が本格的に立ち向かってくるようになれば、今までのように管理局に対して楽に勝つのが出来なくなる。活動範囲は絞られ、これから更に厳しく妨害されるでしょう。ハヤテに残された時間は短くなり、余裕は焦りへと変わる。

 

 そして最後には全てに裏切られる。

 

 蒐集は確かに彼女達を結果的に救います。それがわかっていても悲しく思ってしまうのは、何故でしょうか?

 

 

~~~~~~~

 

 

「そういうわけで、判決は3日後に出ると決まったよ。無罪は確定。数年の保護観察処分になりそうだ」

「わー! よかったね、フェイトちゃん」

「うん。これもクロノやリンディさん、エイミィさんのおかげだよ」

 

 フェイトちゃんの裁判が早く終わりそうで、本当に良かった。

 

 フェイトちゃんと次元航行艦アースラでの戦闘訓練が終わって、地球に帰る前に食堂で休憩中にアースラの執務官クロノくんが顔を見せに来てくれた。ユーノくんは別件で本局に行って留守だったけど、裁判ではフェイトちゃんの為に証言をしてくれて、かなり有利になったってクロノくんが言っていたから、ユーノくんも頑張ってくれたみたい。

 

「いや、フェイトの頑張りのおかげさ。嘱託魔導師の試験に合格できたのも大きいかった。それに、裁判の前倒しが決まったのは、僕よりもグレアム提督が手を回してくれたおかげなんだ」

「そうなんだ?」

「フェイトがなのはを身を挺して救おうとした事を、提督がどこかで聞いたみたいなんだ。提督はそういう人材を評価なさるから、今回の件はフェイト自身が自分で勝ち取ったようなものだよ」

 

 クロノくんがいう提督って人はすごく良い人だとおもう。

 

「そんな事、無いよ。結局、なのはも守れなかったし」

「いや、提督は結果も見るけど過程をとても重視する方なんだ。ああ、それと提督がフェイトの保護観察の担当になるから明後日に提督が面接する。その時にでもお礼を言った方が良いな」

「うん。そうするよ。ありがとう、クロノ」

 

 グレアム提督って会った事はないけど、とても人情味のある人みたい。フェイトちゃんの担当にもなってくれるみたいだし、これもフェイトちゃんが頑張った証だよね。

 これでやっと、PT事件も終わるような気がするの。

 

「そういえば……なのはが襲われた魔導師襲撃事件はどうなっているの?」

 

 フェイトちゃんの言葉でクロノくんの表情が硬くなる。私が襲われてから今日まで10人以上の魔導師が襲撃を受けたのは聞いていた。

 

 ロストロギア『闇の書』

 

 私が襲われた後にクロノくんを補佐するエイミィさんから聞いたけど、闇の書は魔導師の魔力の根源となる『リンカーコア』を集めてページを増やすロストロギアで、その闇の書には(あるじ)(あるじ)を守護する騎士達が居るって。

 

「なのはが襲われた事で闇の書が活動を開始したのはわかったけど、まだ所在についてはつかめてないんだ。襲撃された世界の状況から潜伏場所と思われる世界はある程度割り出しているけど、まだ確定されたわけじゃない」

「なのはの世界が事件の中心じゃないんだよね?」

「今のところ、中心と思われる世界は別だな。ただ……」

 

 今のところ、被害にあったのは私を除けば遠い世界の魔導師さんや管理局の人達だった。珍しく言い淀むクロノくんは何を疑問に思ったのだろう? なんだか自信が無さそう。

 

「なんというか、そう。今回の闇の書の騎士達、彼女達の動きがどうにも()に落ちないんだ。今までは隠れて蒐集していたみたいで、無人世界に魔法を行使した痕跡が残っていた。被害にあったのは魔力を持つ(けもの)だけみたいだけど、なのはを襲ってからはあからさまに動きが変わっている」

「それって、ばれちゃったから隠すのを止めたって事なの?」

「まあ、そういう意味もあるとは思う。だけど、それだけじゃ無い気がするんだ」

 

 そういえば、そうかも。だって、悪事がばれたからって急に周りを気にせず暴れるのって、なんだかおかしいよ。それって、考えなし動いてるようになっているって感じるから。それに、私だったらもっと慎重に動くと思うだろうし……どうしてかな?

 

「今までの闇の書が関わる事件では、騎士達はそれこそ手当たり次第に魔導師を襲撃していたんだ。なのに、今回はなのはが襲われるまで被害がなかった」

「うーん……あのシュテルちゃんが手当たり次第って、あまり想像できないような……」

「それに、過去の事例とは異なる騎士達の行動もわからない事なんだ。意思疎通による対話能力については、いままでも確認されていた。だけど、感情を見せたという例はない」

 

 感情がない? そんな感じは全然受けなかったけど。確かにシュテルちゃんはあまり感情を見せないとは思う。でも、笑顔ははっきりと見えたし、帽子の子なんか凄く感情豊かに見えたよね? うーん、クロノくんのいう騎士とは別人?

 

「でも、あの帽子の子は驚いたりイライラしていたし、シュテルちゃんには怒ったり謝ったりしてたけど?」

「私が戦った剣士の人も人格ははっきり感じられたよ?」

「そうなんだ。今回の騎士達は感情がはっきりあるとわかる。本来なら主の為に魔力を集める、ただのプログラムに過ぎないはずなんだ」

 

 プログラムと言われると、やっぱり違和感がある気がする。冷たい感じなんか全然しなくて、むしろ熱くて激しい心を持っているような。

 

「そもそも、そのシュテルという名の魔導師についてもわかっていない」

「シュテルちゃんが?」

「守護騎士システムについてはある程度わかっていて、4人で構成されているはずなんだ。今まで5人目が出てきたという記録は無い。それに、彼女の魔法はミッドチルダ式。他の守護騎士は古代ベルカ式だから、まったく違う」

 

 そういえば、シュテルちゃんだけ魔法陣が他の騎士の人と違っていた。それは私と同じミッドチルダ式の魔法陣。丸い円形の形をしていたよね。うーん、そうだとしたら、シュテルちゃんは騎士の人とは違うの?

 

「疑問はまだある。なぜ、なのはと同じような魔法を使うのか? なぜ、なのはと同じ姿形をしているのか? 疑問は尽きないよ」

「そうかな? あまり似てないと思うけど」

「ううん。色が同じなら遠目ならわからないくらいに、なのはに似てたよ。デバイスだって、レイジングハートと色違いに見えたから。でも、性格や考え方とかは別人みたいだし、使う魔法には炎熱変換の特質があるから違うところも沢山あるけど」

 

 うーん。似てるのかな……私はあんなにかっこよくないし、あんなに強くないし。魔力光も違うし……飛ぶ姿も、杖を振るう姿も、私なんかよりずっと絵になっていた。

 

「何かしらの理由があって姿を偽っていると考えるのが妥当かもしれない。でも、魔法の特徴まで似ている事が説明できないんだ。スターライトブレイカーを真似るなんて、見るだけじゃ無理だろう? あの魔法は、なのはのオリジナル魔法で、なのはの高い集束技術だからこそ出来る事なんだ。しかも、そのなのはを上回るなんて、どう考えても異常としか思えない」

「そうだよね。どうして彼女は同じ魔法が使えたのかな?」

「それは僕もわからない。あの魔法はなのはのオリジナル魔法なはずだ。それをどこで知って、どうやって真似たのか。さっぱりわからないんだ」

 

 スターライトブレイカーは私も驚いたけど、でも同じ特性の人なら出来るとは思う。それがたまたま、シュテルちゃんだったってだけじゃないのかな? 

 

「母さんの……PT事件の資料が流出した可能性はない?」

「その線でも調べてはいるけど、可能性は低そうだな。閲覧者の身元はしっかりしているし、不正なアクセスを受けた痕跡もない。そもそも、知る事は出来ても真似できるなんて考えられない。正直、なのはのコピーだと言われた方が僕は納得する」

「それはさすがに」

「ああ、わかってる。ありえないって事はね。でも、闇の書なら魔法をコピーすることは出来るはずだ。ただ、それだと、なのはをずっと以前に蒐集した事になるんだけど、それもありえない。なぜなら、一度蒐集した相手をもう一度蒐集する事は出来ないからだ。先日の襲撃で、なのはが蒐集されているのはレイジングハートの記録で確認済みだからね。それが、それまでは蒐集されていないという証拠になるんだ」

 

 シュテルちゃんが私のコピーなんてありえないよね。やっぱり、どう考えても私となんかとは違うから。だいたい、コピーの方が強いってありえるのかな? それだと、私の方がコピーになっちゃう? でも、私はお父さんとお母さんがいるから違うし。と、なんか考えがグルグル回ってきちゃった。う~ん。

 

「もっとも根本的な問題として、なぜ真似る必要があったのか? これも謎だよ。まったく、やっている事に整合性が取れないんだ。本当に考えれば考えるほどわからなくなる」

「捜査を攪乱するため、とか?」

「その可能性が高いかもしれない。でも、そうなると謎が増えるんだ。なぜ、なのはを選んだのか? なぜ、最初の魔導師襲撃をなのはにしたのか? とかね。今の現状と合わなくなってくる。今の襲撃事件が起きている世界は、なのはの世界から遠いからね」

 

 なんだかわからなくなってきたのだけど、フェイトちゃんは話について行けてるのかな? 私はちょっとついて行けなくなってるかも。こんな時にユーノくんやエイミィさんが居れば、わかりやすく解説してくれるんだけど……。

 

「どちらにしても、闇の書について知らないことが多すぎる。この件についてはユーノの調子が戻り次第、調べようとは思ってはいるんだ。今はその手はずを整えているところさ」

 

 ユーノくん、まだ調子悪いんだ……大丈夫かな。

 

「とにかく、今わかっている事は、闇の書が活動をしていたという事だ。後は、騎士達が以前とは違うという事。正体不明の魔導師が関わっている事。被害が管理局の局員にまで及んでいる事。被害地域がなのはの世界と離れているという事。そして――」

 

 クロノくんの表情が少し変わる。 

 

「過去の事例とは異なり、しっかりとした戦略を持って蒐集している事だ。見たままを信じていては、真実にはたどり着けないかもしれない」

 

 ちらっとシュテルちゃんの顔がうかぶ。私を追い詰めた空戦戦術。圧倒的な魔法技術。そういえば、フェイトちゃん達が助けに来てくれた時から戦い方が変わった。それに、騎士の人達はシュテルちゃんを中心に集まってたような……。もしかしたら……。

 

「やっぱり、もうちょっと訓練して帰ろうかな」

「え、なのは? どうしたの急に?」

「あ、ううん。ただちょっと、がんばらなきゃって思って」

 

 もしそうなら、シュテルちゃんは私よりもずっと高い場所を飛んでいる気がする。私が見えない景色が見えてるんじゃないかって。そんな感じがする。

 

「追いつくの、大変そう」

「なのは?」

 

 私も同じ景色を見てみたい。その為には、シュテルちゃんよりも、もっと努力をしなきゃ追いつけない。

 

「じゃあ私行くね!」

「ちょ、ちょっと待って、なのは! 私も行くから!」

「2人とも、あまり無茶しないでくれよ?」

「私は大丈夫! クロノくん、またね」

「クロノ、また後で」

 

 もうすぐレイジングハートも帰ってくるし、私もがんばらないと!


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