魔法少女LyrischSternA’s   作:青色

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13話 揺れる心 11月14日

「シュテル。すまないが、そこの線を取ってくれ」

「コードですね。はい、どうぞ。これは出力に繋いでください」

 

 近くにあったビデオデッキにつなぐコードをシグナムに渡します。シグナムは受け取ると掃除の為にいったん外していたビデオデッキに繋げようとしますが、どうも上手くはめる事が出来ないようで、カチャカチャと金属がぶつかり合う音がしばらく響きました。間違いなく繋ぐ場所を間違っています。

 

「シグナム早くしてくれよ。せっかく録画したのに、あたしの見たい番組が見れないじゃねえか」

「ああ、すまんな。すぐに終わるから待っていてくれ。くっ! なぜ合わん!? どれがシュツリョクだ……」

「ヴィータ、急かしたらあかんよ。録画は逃げたりせえへんから、大人しく私とお喋りしながら待ってような?」

「はーい」

 

 相変わらずシグナムは機械の扱いを苦手としています。しかし、まったく扱えないわけではないので、見ていると代わりたくなりますがシグナムの為にも我慢しましょう。本人はなんとか克服しようと頑張っていますし、ここで私が代わっては意味がありません……ただ、助言はしておきましょうか。せめてコードの先端部分と同じ色の場所にはめ込むのだというくらいは。

 

 

 今日は朝からゆっくりとした時間が流れています。リビングではソファーに座ったハヤテとヴィータが楽しそうにお喋りをし、その足下でザフィーラが眠っていました。

 シャマルは台所を楽しそうに磨いています。シグナムはビデオ相手に悪戦苦闘していますが、騎士達の表情は明るく、辛い様子はまったくありません。とても平和な私達の日常風景と言えるでしょう。

 

 私自身も昨日のナノハとの戦闘後の余韻に浸っていました。最後まで諦めない姿は、さすがナノハ。砲撃戦、スターライトブレイカーと私のルシフェリオンブレイカーとのせめぎ合いは、とても楽しかったのです。やはりナノハとの戦闘ほど心躍る戦いはありません。いつか、己のすべてを出し切って互いに戦い合いたいものです。

 

 

 余韻に浸ってばかりも居られない現状が残念です。昨日の戦闘後に私が午前中は蒐集を休む事を提案しました。この後に管理局がどう動くか予想出来ないのですから情報を収集する事を優先するのは当然でしょう。

ですので、状況を監視するために、町の各所に私のサーチャーが配置されています。何かあればすぐに察知できるでしょう。決して魔力の消耗が激しいので休んでいるわけではなく、管理局の動きを警戒しての事です。

 

 騎士達には話していませんが、時間を区切って交代で蒐集し、夜間は外出せずに魔力の回復に努めるという計画は、騎士達の魔力を温存して消耗を避ける考えからでした。

 消耗さえしていなければ、ナノハやフェイトがデバイスにカートリッジシステムを搭載したとしても、騎士達が遅れを取る事は無いと判断したからです。以前におこなった模擬戦でそう感じました。

 

 私という存在が加わる事で蒐集に余裕が出来ましたし、蒐集に焦る騎士達のブレーキ役になれたからこその計画です。そのおかげで、騎士達には余裕が生まれ、焦りもなくなる……と、考えていたのですが、昨日の一件でそうではないというのがわかりました。

 

 

 昨日、ナノハを蒐集した後ですが、私とヴィータとシャマルの3人がかりでユーノを倒して蒐集した時には、シグナムがフェイトを、ザフィーラがアルフをそれぞれ倒しており、予定通り3人と1匹からの蒐集は成功しました。ページも一気に300ページ以上も稼ぎ、かなり早い段階で半分を超える勢いです。

 この勢いのままであれば、遅くとも来月早々には蒐集が完了するでしょう。騎士達もそう思っているのか、表情は明るく精神的に余裕がある様子です。

 

 ですが、そうはなりません。なぜならば、次元航行艦アースラが介入を始めるからです。

 これまでは蒐集を無人世界で行う事で管理局に知られる事も無く監視の目をくぐり抜けてきました。個人転送で行ける世界は限られていますから、いずれは管理局とも戦わなければならないとしても、知られるのは遅ければ遅いほど良い。たとえ管理局に知られるとしても、アースラの人達、特にナノハとの出会いが遅くなればなるほど蒐集は有利になるはずでした。

 

 今更嘆いても仕方無い事ではありますが、昨日の蒐集によって予定は大幅に変更しなければなりません。今はまだ、アースラの戦力は少ない状況と予想されますが、時間が経てば武装局員が派遣され、ナノハやフェイトが戦線に復帰し、やがて私達の根拠地もある程度絞られてしまうと考えられます。ゆえに、今後は時間との戦いになっていくでしょう。

 

「なあシグナム。まだ見れないのかよ?」

「もう少し待て。シュテル、繋ぐ線と同じ色が上下に2つにあるのだが、どちらに繋げばいいんだ?」

 

 それはビデオ1とビデオ2でしょうか。確かに見ただけではわからないかもしれません。代わりたくてウズウズしてきますが、ここは我慢しましょう。シグナムもまた、自分自身の苦手な分野と戦っているのですから。

 ただ、やはり少しは手伝いましょうか。ヴィータがそろそろ我慢の限界です。

 

 今までも何度かシグナムの横に付いてテレビや電話の操作方法などを教えた事があります。本人は足の不自由なハヤテが出来ない事を代わってあげたいと思っているのでしょう。

 今は出来ませんが、いずれはハヤテの送り迎えもしたいと言っていましたから車も動かしたいようです。シグナムならば時間はかかれど成し遂げる事でしょう。

 問題は戸籍無しで免許を取れるのかという事ですね。無免許ではハヤテに怒られてしまいます。

 

「あ、そろそろお昼の準備をせんとあかんな。今日はみんなお昼は食べるんよね?」

 

 ようやくビデオとテレビを繋ぎ終えたというのに、もうそんな時間ですか。壁に掛かる時計を見れば、すでに11時をまわっています。

 

「ああ、そうですね。今日は私は出かける用事はありませんから、家に居ます」

「あたしは昼からゲートボールに行く予定だけど、はやてのご飯を食べてから出かけるつもり」

 

 今日の蒐集は私とシグナムはお休みです。午後からはヴィータとザフィーラが出る予定で、これは昨日の勝手な行動に対する本人達なりの償いのつもりなのでしょう。私とシグナムの分も集めてくると意気込んでいました。無理をされては困るのですが……2人の気持ちを考えれば、あまり強くも言えません。今日は2人が帰ってくる時間が少し遅くなりそうですね。

 

『シュテル、町の状況はどうだ?』

 

 念話でシグナムに聞かれましたのでサーチャーに意識を集中しますが、感知できる範囲では魔力の動きはありません。空を魔導師が飛んでいる様子もありませんし、問題はないでしょう。

  

『はい。今のところ特に目立った動きはありません。魔力も検知されていませんので、昨日から管理局も動いていないのでしょう』

 

 時空管理局については、昨日の戦闘後にナノハ達を回収しに来た事をシャマルが見ています。それ以降は現場を調べる事もなく沈黙を保っていました。

 私達を警戒しているのは間違いありませんが、今は上空からの監視にとどめているのか、それとも管理局の本部に戻ったのか。ここからではわかりません。

 

「シュテルは今日はどうするん?」

「私は図書館にでも行くつもりです。返却期日が迫っている本がありますので」

『そうか。だが、我らの存在が明るみに出た以上、今後は蒐集先で管理局に見つかるかもしれないな』

 

 ハヤテに答えながらシグナムの話について考えます。シグナムは昨日の一件で、管理局に魔力の源、リンカーコアの蒐集が知られてしまった事に懸念を抱いています。

 闇の書が活動を開始したと管理局に知られた以上、監視や妨害は当然の事です。それに対する対策については、私もすでに考えてはいます。問題は、管理局、特にアースラの人達をどうやってこの世界から離すかでしょうか。

 

「ほんなら私も図書館に行こうかな? 私も返す本があるから丁度ええしな」

「はい。一緒に出かけましょう。またお勧めの本を教えてください」

『この世界で見つからなければ、特に問題はないでしょう』

 

 どちらにしても、今すぐどうにかなる話ではありません。まだ、あちらには本格的な捜査をする準備が整っていないはずですから。それに、他にも理由があります。

 

「ええよ。そうやな……前に教えた注目新人作家さんが新しい本を出しててな、これがまた深い話なんよ。シュテルにお勧めの一冊や」

「それは興味があります。ぜひ教えてください」

『一応、私が広域探査魔法でヴィータちゃん達が行く世界を調べておきますね』

「あー。すみません、ハヤテちゃん。私は今日はちょっと。ご近所の奥様達とお茶会をする約束があって」

『むしろ、この世界から管理局の視線を逸らす為、別の世界で派手に暴れた方が都合が良いでしょう』

『そうね。相手の目を誤魔化すためには、そうした方が良いかも。撹乱にもなるし』

 

 目撃情報がこの世界だけであるというのは、やはり問題です。調査対象がここのみに絞られてしまいますから。

 

「気にせんでええって。いつもシャマルには付き合って貰ってるしな。帰りに買い物もして帰るから、今日は奥様達とゆっくりしておいで。シュテルには悪いけど、買い物も付き合ってくれるか?」

「ええ、いいですよ。今日はエビフライにしましょう」

「ではシャマルの代わりに私が付き添います。荷物持ちは必要でしょうから」

「ありがとうなシグナム、シュテル。さて、そうと決まれば食事の準備や。シャマルとシュテルは一緒に手伝ってもらってもええか?」

「はーい。今日は何を作ります?」

 

 エビフライの件は却下されたのでしょうか? 気になります。

 

 

 ハヤテとの話は終わり、それぞれが動き始めます。私も手伝うべく立ち上がって台所へと向かいますが、私達の会議はまだ終わっていません。

 

『じゃあ、これからは人が居る世界で蒐集した方が良いって事か?』

『それでは蒐集は進まなくなるのではないのか? 無人世界での蒐集は管理局の妨害を受けないためという話だったはずだが』

『はい。ザフィーラの言うとおりです。ですが、状況は変わりました。今は、この世界から管理局を離すのが先決かと。ただ、あまりやり過ぎますと、被害がある世界を調べ統計から個人転送で行く事の出来る範囲を特定されれば、ここが中心であるとわかってしまいます』

 

 被害が起きる地点を結び、その中心点となる世界を疑うのは当然でしょう。たとえ移動時間をバラバラにしても、被害が起きる世界が増えれば、それは知られてしいます。ですので、対策の1つとしては、中心をずらすという方法が考えられますが、これにも問題があります。

 

『えーと、例えばだけど。ここから別の世界に転送して、その世界からさらに転送で行ける範囲の世界で蒐集すれば、すぐにはわからないわよね?』

『ふむ……なるほど。中継点を作るというわけか。確かに、それならばすぐにこの世界だとはわからないが……』

『はい。問題は魔力と時間を余分に消費する事です。その為、蒐集の効率は落ちるでしょう。また、中継する世界に安全な転送地点を設けなければなりません。下手をすると、飛んだ先で管理局の魔導師に待ち構えられているという可能性もあります』

 

 中心をずらすという事は、拠点となる地点を変えるという事です。中継する世界が1つ増やせば、2回分余計に転移する必要があり、魔力も時間も同様に余計に消費します。

 魔力も時間も有限です。増やす事は出来ない以上、無駄に費やす事は出来ません。そして、安全な拠点の確保は必須でしょう。

 

『時間と魔力が減るのは痛いよな。まあ、はやての安全の方が大事だけど』

『蒐集を主が眠った後にするのはどうなのだ?』

『それしか時間は取れないけれど、はやてちゃんって、よく夜更かしするのよね』

『我らが蒐集をしている事は主はやてには秘密だ。主が起きていらっしゃる間は夜に蒐集はできん。当然、主か起きている時間が長ければ蒐集する時間も短くはなるな』

『でもさ、それしかないんじゃねえの? それとも、また前みたいに別れて蒐集するのか? 効率は悪いんだろうけどさ』

 

 私達の時間は増やせませんが、蒐集する時間は無理をすれば増やせます。ただ、私の当初の考えから逸脱してしまいますので、あまり賛成できません。騎士達は知らない事ですが、これからの蒐集は厳しくなっていく事を私は知っていますから。

 

 そう。全てはナノハとの邂逅から始まる事になります。戦いは徐々に激しくなり、熾烈を極めるでしょう。詳細な状況の推移はわかりませんが、このまま余裕を保って蒐集する事は困難になるのは明白です。

 やがて騎士達の魔力は消耗していき、精神は摩耗するに違いありません。最後にはページを完成させる事が出来ずに闇の書の餌になる可能性も高いのです。

 

 それは、本来であれば私にとって問題とはならない事でした。騎士達がどうなろうが蒐集さえしてしまえば、あとはディアーチェとレヴィが復活するのを待てば良いだけですから。

 闇の書の闇、防御プログラムもナノハ達が倒してしまうでしょう。騎士達もハヤテが闇の書の管制融合騎を掌握してしまえば復活するのですから、何も問題はありません。

 ゆえに、私が蒐集に関与するのは蒐集速度を速めるためだけのものでした。

 

 ですが、ふと考えてしまうのです。イレギュラーである私という存在は、例え小さな滴のひとつであるとしても、水面に落とせば大きな波紋になりえてしまう。昨日の一件から、その事が証明されてしまったと考えるべきでしょう。私は盤面の外から眺めて居るだけの存在ではないのです。

 

 なので、歴史が大きく変わってしまうかもしれません。下手な手を打てば、闇の書が起動しない事もありえてしまう。

 それは、とても困ります。慎重を期さなければなりません。

 

 また、別の可能性も考えられます。例えば……騎士達とハヤテの不幸な出来事を防ぐ事とかです。

 

「シュテルどうしたん? じっと見つめられると、なんや恥ずかしいやん。私の顔に何かついとる?」

 

 いつの間にかハヤテの顔を見つめてしまっていたようです。私を見てハヤテは微笑を浮かべていました。その顔はとても幸せそうに見えます。そう、とても幸せそうです。ですが、騎士達を目の前で殺され、醜く歪むハヤテの顔と、その慟哭の深さを私は知っています。

 

「いいえ、何でもないですよ」

 

 止めましょう。今は余計な事は考えるべきではありません。私が考えるべきは、蒐集を効率よくおこなう事で早く闇の書のページを完成させるという一点のみ。それだけのはずです。

 

 ですが、色々とありえなかった未来について考えてしまうのは仕方がないでしょう。

 

 例えば、管理局に協力を依頼するという可能性。しかし、今まで何も出来なかった管理局に期待するのは博打を打つようなものだと感じます。それは危うすぎるでしょう。

 騎士達に闇の書の完成で起きることを伝えてみるというのも、どうでしょうか? やはり、蒐集が止まる可能性が捨てきれません。短い人生を穏やかに過ごしてもらう、などと考えられても困りますからね。

 

 タイムパラドックスについては、深い知識はありません。今度、図書館で借りて読んでおきましょう。

 

『深夜に限定してですが蒐集をおこなうのに反対は致しません。ただし、これも交代制にすべきかと。それと、蒐集を終えて帰る時間を決めておいた方が良いでしょう。ハヤテが起きる時間に居なければ、やはり不審に思われるでしょうから』

『シュテルちゃんがそういうなら、私も反対はしないわ。でも、はやてちゃんに心配だけはかけないでね』

『ああ、わかっている。では、今日は試しに私とシュテルで行く事にしよう。ただし、今回は中継する世界の下見が中心で戦闘はしない。有人世界は中継する世界を見つけてからにしよう。帰りは4時くらいがいいか?』

『そんくらいの時間なら、はやても寝てると思う』

『では、話はここまでだ』

『わかりました。シグナムの指示に従いましょう』

 

 話がまとまり、会議は終了となります。結局は夜も蒐集を行う事になりましたが、今後の管理局の妨害を考えれば仕方がないでしょう。ただ、少し制限をしましたので、まだ負担は軽いはずです。これは今後の布石に必要な事なのです。

 

「そうか? ほんならええけど……あっ!わかったで! 大丈夫や、夜はエビフライを作ってあげるからな」

「いえ、別にそう言うわけでは……作ってはもらいますが」

『お前まさか……エビフライの事をずっと考えてたんじゃねえだろうな?』

『ヴィータは私をなんだと思っているのですか?』

 

 食への拘りはレヴィの担当で私ではないはず。ただ、好物をいただける機会があるのならば、逃す手はないと考えているだけですよ。

 

 

~~~~~~~

 

 

 無機質な病院の部屋の中でフェイトちゃんが眠ってる。寝台の下にはアルフさんが特殊なゲージの中で同じように眠っていた。表面上は傷一つ無くて、実際傷は無いのだけど、魔力の源リンカーコアが異常に縮小していて、今のフェイトちゃんは魔法が使えない。

 それは私も同じで、やっぱり傷一つ無いけれど魔法が使えない。アルフさんもユーノくんも同じ。

 

 昨日の戦闘の後、クロノくんやアースラのスタッフさんが来た時には、もう傷は無かったらしい。シュテルちゃんが傷を癒してくれたのかな? 私はその時には気を失っていたからわからないけど、なんとなくそんな気がする。でも、それを喜ぶ気分にはなれないよ。こんな状況じゃ……。

 

 本当は、今日はフェイトちゃんにとって大事な日だった。フェイトちゃんの裁判で証言するためにユーノくんが本局に行く日だったから。

 フェイトちゃんのお母さん、プレシア・テスタロッサが起こした事件。通称PT事件の裁判で、フェイトちゃんが無罪を勝ち取るために必要だった証言だった。

 

 でも、私が襲われて、一緒にいたユーノくんも、ユーノくんを迎えに来たフェイトちゃんとアルフさんも巻き込まれて、今は私も含めて入院をしている。裁判は当然延期になったみたい。

 

「ごめんね、フェイトちゃん」

 

 もし、あの時……私が結界を破壊できていれば、こんな事にはならなかった、よね。みんなにチャンスを貰ったのに……。

 

「私のせいで、こんな事になって」

「なのはのせいじゃないよ」

 

 あ……フェイトちゃん?

 

「ご、ごめんね。起こしちゃった?」

「ううん。気にしなくていいよ」

 

 フェイトちゃんが体を起こそうとしたから手伝ってあげる。フェイトちゃんは私以上に体力を消耗していて、まだ起きるのもきつそう。傷は癒えても血は戻らないから。

 

「遅くなったけど、助けに来てくれてありがとう。その、久しぶりに会えたのに、こんなでごめん」

「ううん。そんなに謝らないで。それよりも、なのはこそ大丈夫だった?」

「うん、私は見ての通り大丈夫だよ。歩くくらいは全然平気」

「そう。よかった……」

 

 なんだか私だけが元気で申し訳無い気がする。これもシュテルちゃんが最後に手を抜いてくれたからかな? 襲ってきた理由はわからないけど、不思議と悪意は無かった気がする。

 

「さっきの話だけど、なのはは何も悪くなんかないよ。悪いのは襲ってきたあの人達なんだから」

「うん。でも……今日はフェイトちゃんの裁判が」

「それも、たまたま今日が重なっただけ。ユーノの証言も後日に伸びただけで、なのはが責任を感じる必要なんてないんだよ?」

「でも……」

 

 でも、シュテルちゃんを悪い人だとは思えない。もしシュテルちゃんが砲撃を続けていたら……。きっと、今頃私は燃え尽きて生きていないに違いないから。

 

 私が後悔しているのは、みんなを助けられなかった事。許せないのは、みんなの期待に応えられなかった自分自身。

 

「もし私がちゃんと結界を破壊できてたら……」

「それも、なのはのせいじゃないよ。私が代わっても同じ結果になったと思うから。あの人達は私達よりずっと強かった。私なんか手も足も出なかったから……」

「そう、だね……強かったね」

 

 きっとシュテルちゃんも目が合ったあの時、私と同じ気持ちを抱いていたのだと思う。助けてくれた仲間の為にも、私の砲撃を防がなきゃって。そして、シュテルちゃんは成し遂げて、私は失敗してしまった。それが、すごく悔しい。悔しいよ。

 

「悔しいよ、フェイトちゃん」

「うん。私も悔しい」

 

 今の私では勝てない。それはよくわかった。だからもっと、もっと練習して、もっと強くなりたい。強くなって、あの時のシュテルちゃんと同じように、みんなの期待に応えたい。

 

「一緒にがんばろう、なのは」

「うん。フェイトちゃん。一緒に強くなろう」

 

 紅の炎を身にまとい月を背に立つ、あの炎の魔法使いの姿が目蓋に焼き付いて離れない。自信に溢れたその姿に私は憧れを抱いているのかもしれない。あんな魔法使いになりたいって、そう思うから。

 

 だから、私はシュテルちゃんに勝ちたい。そして、勝って約束を果たしてもらう。

 

『ええ、私に勝つ事が出来れば、必ず話しましょう』

 

 この約束、忘れたりなんかしない。

 

 いつかきっと――必ず勝ってみせるから


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