「やるのか? シュテルに止められてはいるが」
「止めてもあたしはやるよ、ザフィーラ。シュテルには悪いけど、あたし達には、はやてには時間がねえんだ」
シュテルとの約束を破る事になるのはわかってるけど、今更引けない。引く気もない。
今日はあたしとザフィーラが日中に蒐集をする日だ。いつものように他の世界に渡って魔物相手に蒐集すると言って出てきた。けど、実は次元世界を渡って少し蒐集した後、すぐに元の世界に帰ってきた。
例のデカイ魔力反応の奴を蒐集する為に。
シュテルのいうリスク回避の話は理解できる。でも、理解出来ても、目の前に大物がいるのに狩らないなんて、あたしには我慢できなかった。
シュテルはあたし達とは違う。仕える主も、存在も。はやてはシュテルも家族として扱っているけど、あいつの方はそうは思っていない。いつも一歩あたし達から距離をとっている。だから、はやてへの想いは、あいつとあたしじゃ違う。だからきっと、あたしの焦りはシュテルには理解できない。
今でもはやては苦しんでいるかもしれないんだ。そう考えると、居ても立っても居られなくなる。はやてが苦しむのを1日でも早く終わらさなきゃならない。そして、1日でも早く元の、はやてが笑って居られる生活に戻るんだ。
その為だったら、あたしはなんだってやれる。
「そうか……わかった。それで、見つかりそうなのか?」
手伝ってくれるつもりなのか? ザフィーラはあたしの監視役だと思ってたんだけど。
「いいのかよ。あたしを止めないのか?」
「ふっ。止めて聞くお前ではないだろう。それに、俺も主への思いは同じだ」
やっぱりザフィーラもあたしと同じだ。
「そっか。じゃあいいけど。例のでかい魔力反応だけど、あたしはシュテルほど感知能力は高くないから、はっきりとはわかんねえ。けど、目星はつけてんだ。シュテルもこの辺りにいるとは言ってたから、遠くには居ないはずだよ。絶対に見つけ出してやる」
「別れて探すか。早く見つけなければ、シュテルに我らの事が露見する。まず、間違いなく止められるだろう」
あいつに見つかったら、きっと説教されるだろうな。あの無表情な顔でチクリチクリと言いそうだ。けど、きっと最後には許してくれると、あたしにはわかっている。ため息くらいはつきそうだけどな。
それに、なんだか……あたしがこうする事もわかっている気がするんだ。それが免罪になるってわけじゃねえけど……。
「あいつ、こういう約束ごとには五月蠅いもんな。わかったよ。あたしが広域結界を張って閉じ込める」
「了解した。闇の書は預ける」
「オッケー。じゃあ行くよ」
ザフィーラを見送ってあたしはグラーフアイゼンを水平に構える。ザフィーラに張って貰ってもよかったんだけど、あたしの結界もそう簡単には破られないし探知能力もある。早く見つけるならうってつけだ。
「行くよ、グラーフアイゼン。封鎖領域展開」
『
三角形のベルカの魔法陣を展開させ、あたしは魔法を発動させた。あたしを中心に周辺の景色が、色が一変する。あたしが望む相手以外を排除しながら。それと同時に魔力反応を探る。それなりに領域を広げたが、まだ出てこない。
まだ……まだか……いた!
「魔力反応! 大物みっけ!」
動く様子は……無いか。近くにもう一つ魔力反応があるけど、こっちはそこそこか。この町で異様にデカイ魔力反応。魔法の無い世界には不釣り合いだ。だけど、どんな奴かはしらねえけど、あたしが負けるはずもねえ!
「シュテルには悪いけど、はやての為だ。行くよ、グラーフアイゼン」
『
ザフィーラに知らせるまでもない。すぐに見つけて一気に倒してやる。どうせここは管理局の奴らはいねえんだ。だったら、後はどうにでもなる!
目標までの最短距離を突っ込む。時間が惜しい。急がなきゃシュテル達が来ちまう。そうなったら……まあ、それでも今更止めたりしないだろうけど、面倒な事になるかもだしな。終わった後なら、いくらでも怒られてやる。
だから、今はまだ来るんじゃねぇぞ。
『
動き出したのか? 自分たちの住処を知られないために? へ~。こっちに向かってくるみたいだな。好都合だ。
魔力反応は、やっぱ2つ。同時に2人相手だと手こずるかもしれないか?
だったら、先制攻撃で分断してやる。
「アイゼン!」
『Jawohl』
空中で急停止する。ついでに手に鉄球を出す。今回は単発。デカイのをお見舞いしてやる。
『
アイゼンを振りかぶってボール大の鉄球を頭上へ上げる。そしてそのまま、ハンマーヘッドを叩きつける!
「いっけ! 目標は連中のど真ん中だ!」
ぶっ飛んでいく鉄球を尻目に、あたしは高度を下げて低空を疾駆。探査妨害の魔法もかけておく。目的は、鉄球を囮にした敵の視界外から飛び込んでの一撃。これで、どっちかを先に潰してやる。
ここからじゃ見えないが、相手の2人が移動を止めたのがわかった。もう少しで連中が見える。鉄球のスピードを調整して、シュワルベフリーゲンが当たる頃合いにはアイゼンをぶち込めるようにする。
相手はビルの上か? へ~。足を止めたって事は、迎撃するか防御するつもりみたいだな。これは見ものだ。
目標のビルに到着して裏に回る。周辺では一番高いビルだ。魔力の位置は屋上か? どうやら、まだみつかってない。これなら。
「ふん。どの程度出来るかはわかんねえけど、この程度で死んでくれるなよ」
鉄球の速度を一気に上げる。むろん、囮なので加減はしている。これで死なない程度に倒れてくれたらありがたいんだけどな。
『
「来るよ、なのは! 全周囲に気を配るんだ!」
「うん、大丈夫! って、え? 人じゃない?」
『
「ちょ、ちょっと、なのは!? 防御! 防御して!!」
混乱してるのか。なら、今だ!
視界の外から躍り出る。ビルの屋上には1人の女と……一匹。守護獣、いや、管理局なら使い魔か。どっちでもいい。丁度鉄球が当たって女が防御しようとしてる。ならば、狙うのは女の方だ!
「ぶっとべえっ!」
「え!?」
「いけない!」
白い服を着た女の方が驚きの声を上げて振り返ろうとする。そこに使い魔の方が割り込んできた。予定とは違うが、こいつも一緒にぶっ飛ばす!
「ランドシールド!」
小動物が緑色の盾を展開した。防御型か? でも、関係ねえ!
「テートリヒシュラーク!!」
振りかぶったアイゼンを叩きつける。赤い魔力光が小動物の貧弱な盾に向けて尾を引く。
ぶつかった瞬間、短く互いの魔力光が散った。
「うわああああっ!!」
「ゆ、ユーノくん!」
軽い手応え。女の横を吹っ飛んでいった。だが、上手く防御された。相手が軽すぎて、打撃のダメージが上手く入ってない。少しビルから浮いていたから、有効な打撃を与えてないか。それともわざ吹っ飛ばされたか?
丁度、女の方もあたしの鉄球をシールドではじいた。
「ユーノくん、大丈夫?」
ふっとんだ使い魔に女が駆け寄り、使い魔を抱き上げようと膝を曲げる。あたしは無視かよ。警戒心がなさすぎる。こいつ、素人か? まあ、その方が楽ができて良いんだけど。魔力だけは、でかい。
「う、うん。大丈夫だから。心配しないで、なのは」
使い魔の方はあたしを警戒してすぐに立ち上がっている。まだこっちの方が戦闘慣れしてるな。すぐにアイゼンを叩きつけようかとも思ったが、使い魔が女とあたしの間に立って邪魔してきた。
状況を立て直す。どの程度の実力なのかは、さっきので大体わかった。この魔術師はシュテルよりは弱い。戦闘経験も浅い。何百何千と戦ってきたあたしには及ばない。厄介なのはむしろ使い魔の方だ。
「よかった」
安心したような声を発した女は、立ち上がって振り向く。まだ子供なんだろう。その顔は幼い……は?
女の顔が……な……なんだアレ? 立ち上がってこちらを振り向いた女の顔は……だって……あの顔は……。
「な、なんでシュテルがここに居るんだよ!!」
「ふにゃっ!?」
は? なんで。どういうことだ、これ? どうして?
どうなってんだよ!
~~~~~~
「これは……」
ヴィータの魔力反応。この魔力の広がり方は……結界。
「シュテル」
同じく魔力反応を感知したのでしょう。シグナムがやや厳しい表情をしています。
『はい。ヴィータが結界を発動したようです。それも、かなり広域にです』
『そのようだな。まったく、あいつは何をやって……いや、わかりきった事を聞いてしまったな』
寒くなったので少し厚着をしたシグナムはこちらを見ずに念話に変更して会話を続ける。シグナムの問い、これは簡単に答えが出ます。あの時のヴィータの様子から、なのは達と接触した事が容易に想像がつきますから。
まったく、困った人です。
しかし、これは……。これほど早く接触するとは思いもよらない事でした。予想はしてはいたのですが。これでは予定よりもずいぶん早くに管理局と戦うことになりそうです。
先のことを考えると頭が痛くなりそうです。なぜならば、絶対に間違いなくアースラが来るに決まっていますから。
「どないしたん、2人とも?」
厚着をして膝掛けをしたハヤテがこちらを見ていました。車椅子を押していたシグナムの歩みが遅くなった訳ではないのですが、何か感じたのでしょうか。私とシグナムの顔を車椅子からじっと見上げています。
「いえ。なんでもありません。それよりも主はやて、この後の予定について話をしたいのですが」
「ああ、そっか。シャマルと合流後は、2人とも出かけるんやったな」
「私は道場へ。シュテルは神社だそうです」
「そうかぁ。まあ、2人とも地域の皆さんと仲良くしてくれるんはええ事やね」
元々、ヴィータ達が帰ってきたら代わりに出る予定だったので、事前にハヤテから離れる事を伝えています。ですから誤魔化すのは簡単です。ただ、家に帰ってからの予定でしたが。
予定通りに進まないのは困りますね。まあ、困る程度ですが。
「ごめーん。遅くなっちゃっいました。ちょっと欲しかった調味料が見あたらなくて」
「いや、時間にはまだ余裕がある。こちらも今来たところだ」
ハヤテと話していると、丁度シャマルも合流を果たしました。両手には買い物袋が重そうに見え、急いだのか少し息を切らしています。
「お疲れ様、シャマル。調味料が見つからんかったん?」
『シャマルも呼んだのですか?』
「はい。何時ものスーパーだと売り切れていたみたいで。別のお店に行かないと駄目みたいです」
『ああ。急いで行った方が良いだろう。それに、何かあった時のバックアップも必要になる。特にこの世界ではな』
「そうかぁ。まあ、でも。調味料は無くともなんとかなるから、そんなに無理に探さんでもええんよ」
『私も後で行くから、ヴィータちゃん達をお願いね』
「え~と、そうですねぇ。でも、ヴィータちゃんとか期待していたみたいでしたし。はやてちゃんを送ったらちょっとだけ探してみてもいいですか?」
『わかりました。では、そろそろ行きましょう』
『そうだな。早めに合流しよう』
確かに、いざという時にシャマルの力は役に立つでしょう。以前はそうでした。ですが今回は……さすがに展開は読めません。何かが変わっている。そう思うしか無いでしょう。
「主はやて。そろそろ私達は」
「ん? ああ、もう行くんか?」
ハヤテとシャマルの会話に割り込むようにシグナムが別れる事を告げました。一瞬だけですがハヤテが少し寂しそうな表情をしたように見えました。それとも、寒くなって木々が色づき始めた事で少し感傷的に私はなっているのでしょうか?
「はい。申し訳ありません。早めに帰ってきますので、先に自宅に戻って頂いても良いでしょうか? 自宅にはシャマルが送ります」
「ええよ。シュテルも行くん?」
「そのつもりです。早く行けば早く帰れますから」
「そっか。じゃあ、2人とも気をつけてな。遅くなったらあかんよ?」
「はい。なるべく早く帰ってきます」
ええ。早く行けば早く片が付くでしょう。そうすれば早く帰れるでしょうから心配される事もないでしょう。
私とシグナムはハヤテとシャマルから別れると別々の道に向かい、途中から決められた集合地点へと進路を変えます。道すがら私は考えてしまいます。出会う事になりそうな相手の事を。
ナノハはどう私に話しかけてくれるのでしょうか。少しですが、楽しみです。
本当に楽しみです。