ゼロのサムライ   作:よね

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四月に年度初めで忙しかったり、五月に事故にあったりで投稿するのが大変遅れてしまいました。
これから、また忙しくなってくるので、自分のペースで書いていこうかと思います。
読んでくださっている方たちもこんな私の小説でよければ読み続けてもらえたら嬉しく思いますので、これからもよろしくお願いします。


第4話 フリン、異郷で初めて悪魔を召喚す

 オスマン氏とコルベールは、『遠見の鏡』で一部始終を見終えると、顔を見合わせた。

 

 コルベールは震えながらオスマン氏の名前を呼んだ。

 

「オールド・オスマン」

 

「うむ」

 

「彼は勝ってしまいましたが……」

 

「まあ、君の話を聞いていたからのぅ。当然の帰結じゃな」

 

「それでも私が話したのは、彼の魔法についてだけでしたが…。魔法を使わなかったのは想定外でした。手加減した魔法で実力差をわからせると同時に、周りに自身の力を示す。そうすると思ったんですが……しかし、あの動き!やはり彼は『ガンダールヴ』だからあのよう動きができたのでしょうか!」

 

「さあのぅ」

 

 コルベール氏は、オスマン氏を促した。

 

「オールド・オスマン。王室に報告して、指示を仰ぎますか?」

 

「それには及ばん」

 

 オスマン氏は、重々しくいた。白いひげが、厳しく揺れた。

 

「どうしてですか?これは世紀の大発見ですよ!現代に蘇った『ガンダールヴ』!」

 

「ミスタ・コルベール、『ガンダールヴ』はただの使い魔ではない。それに王室が彼に対し害意ある行動を起こさないとも限らない。そうなったとき、私たちは責任を取ることができない。彼に対しても、王室に対しても」

 

「そのとおりです。始祖ブリミルの用いた『ガンダールヴ』。その姿形は記述がありませんが、主人の呪文詠唱の時間を守るために特化した存在と伝え聞きます」

 

「そうじゃ。始祖ブリミルは、呪文を唱《える時間が長かった……、その強力な呪文ゆえに。知ってのとおり、詠唱時間中のメイジは無力じゃ。そんな無力な間、己の体を守るために始祖ブリミルが用いた使い魔が『ガンダールヴ』じゃ。その強さは…」

 

 その後を、コルベールが興奮した調子で引き取った。

 

「千人もの軍隊を一人で壊滅させるほどの力を持ち、あまつさえ並のメイジではまったく歯が立たなかったとか!」

 

「で、ミスタ・コルベール」

 

「はい」

 

「その彼は、ただの人間だったのかね?」

 

「ただの……まぁ、普通の人間かどうかという意味ではただの青年でした。」

 

「そんなただの少年を、現代の『ガンダールヴ』にしたのは、誰なんじゃね?」

 

「ミス・ヴァリエールですが……」

 

「彼女は、優秀なメイジなのかね?」

 

「いえ、というか、むしろ無能というか……」

 

「さて、その二つが謎じゃ」

 

「ですね」

 

「無能なメイジと契約した青年が、何故『ガンダールヴ』になったのか。そもそも何故人間が使い魔となったのか。まったく、謎じゃ。理由が見えん」

 

「そうですね……」

 

「とにかく、王室のボンクラどもに渡すわけにはいくまい。連中はまったく、戦が好きじゃからな」

 

「ははあ。学院長の深謀には恐れ入ります」

 

「この件は私が預かる。他言は無用じゃ。ミスタ・コルベール」

 

「は、はい! かしこまりました!」

 

 オスマン氏は杖を握ると窓際へと向い、遠い歴史の彼方、想いを馳せる。

 

「伝説の使い魔『ガンダールヴ』か……。いったい、どのような姿をしておったのだろうなあ」

 

 コルベールは夢見るように眩いた。

 

「『ガンダールヴ』は、あらゆる『武器』を使いこなし、敵と対峙したとありますから……」

 

「ふむ」

 

「とりあえず腕と手はあったんでしょうなぁ」

 

「それにしても、今後の彼の動向は私が監視しましょうか?」

 

「いや、彼は聡い。今のところ君のことを信用してくれているのだから、監視させる者は他から見繕うことにしよう」

 

「……では、誰に任せましょうか」

 

「……そうじゃのう」

 

 

 

 

 

ギーシュとの決闘騒ぎからしばらくして、授業のない虚無の曜日の出来事。ちなみにギーシュは決闘の後、二人の女子に頭を下げに行き、もれなく拳を伴ったお叱りを受けた。その後、以前からの軽薄な言動をすることは無くなった……とはいえないが、かなり少なくなり、人が変わったかのように魔法の練習や自分を鍛えるようになった。本人曰く「貴族として振舞うにふさわしい力を身に付ける必要性に気づいた」そうだ。思い悩んだりした時には、フリンのもとに話を聞きに行くようにもなった。

 

「ルイズ、買い物ができるような場所が近くにないか?服などを買いたいし、こちらの街がどうなっているのかも見てみたい」

 

 朝の仕事である洗濯を終え、厨房で朝食を取った後、ルイズに部屋で自分の持ち物を点検、整理しているフリンが言った。

 

「そうね、今日は休みだし、こっちのことを知るいい機会かもね。一番近い街でいいなら案内するわ」

 

「じゃあ頼む。……それと小遣いというか、こちらで使える通貨が欲しいから、これと交換してくれないか」

 

 そう言って、フリンは小さな袋の中から、美しい宝石を1つ取り出す。

 

 ルイズは呆れたような顔で言う。

 

「別に宝石と交換じゃなくても、あなたの買い物する分のお金ぐらい出すわよ……。それが主人としての務めなんだから」

 

「そう言わず受け取ってくれ。これはもしもの時、それを口に入れて噛み砕くか、飲み込むかすると傷が全て治る代物だ」

 

「そーま?に続き、あなたはまたそうやって珍しいものを平気な顔して私に見せるのね」

 

 フリンは苦笑しながら言う。

 

「持っておいて損はないし、主人なら使い魔の気持ちも汲んでくれ」

 

「まぁ、そこまで言うなら、受け取ってあげるけど……」

 

 満更でもなさそうな顔をしてルイズは宝玉を受け取る。

 

「これは見事な宝飾品でもあると同時に秘薬なのね」

 

 そう言うと鏡台から小さな箱を取り出しその中に大事そうに入れた。一緒に出していたのか、小さめの革製の袋をフリンに差し出す。

 

「じゃあ、これがあなたの財布とお金よ。足りなかったらその時にまた言ってちょうだい」

 

 フリンが袋の中を見ると、金貨がぎっしりと袋の中に詰まっていた。

 

「……こんなにもらってもいいのか?」

 

「あなたも、さっき私に同じ様な事をしてたんだけどね。宝石に対する正当な対価よ。むしろこっちが出し足りないぐらいよ」

 

「そうだったのか……。ありがとう、大事に使わせてもらう」

 

「そろそろ行きましょうか。……あなた馬は乗れるの?」

 

 そう言って、二人は部屋を後にする。

 

「……乗ったことはないな。似たようなものがいるが……一緒に乗るか?」

 

「似たようなもの?」

 

「グリフォン」

 

「は?」

 

「……以前言ってなかったか?サムライは悪魔を使役し、悪魔を討つ者だと。悪魔というのは人に害をなす獣だと考えてくれ。そして、使役した悪魔を仲魔と呼ぶ。……そして俺の仲魔にはグリフォンがいるからそれに乗って街に行こうって言っているのだが……」

 

「聞いてないわよ、そんなこと。つまり使い魔(あなた)の使い魔ってこと?どこにいるのよ、その使い魔は?しかもグリフォンって幻獣じゃない!」

 

 そうこう言っているうちに、二人は開けた場所の出る。

 

「間違ってはいないが、できれば仲魔と呼んでくれ。見ていればわかる。……バロウズ」

 

「了解、マスター。悪魔召喚プログラム起動」

 

 ――SUMMON OK――とガンドレッドの画面に表示され、鷹の翼と上半身とライオンの下半身を持った獣が姿を顕す。

 

「――ォォォォオオオオッ!」

 

 顕現した獣の凶暴な意志を宿した双眸がルイズを貫く

 

「ヒィッ!」

 

「グリフォン!おとなしくしろ!」

 

「チッ、ワカッタヨ。オイ、腹ガ減ッタ。アレヲ喰ワセルカ、ナニカヨコセ」

 

 グリフォンがルイズを指差して言う。

 

「……魔石でいいか?」

 

「アァ、サッサと寄コセ」

 

 フリンは懐から小さな石のようなものを取り出し、グリフォンに向かって投げた。グリフォンはそれを器用に口の中におさめ、そのまま飲み込む。

 

「デ、何ノ用ダ。悪魔ハイナイヨウダガ……」

 

 幾分か大人しくなったグリフォンが大きな鷹の翼をはためかせながら、フリンに尋ねる。

 

「用なら二つある。一つはこれからこの子の言うことを聞くこと。もう一つはお前の翼を使わせてもらう。以上だ」

 

「フン、イイダロウ。乗レ」

 

 フリンはルイズの方に向き直って言う。

 

「……乗るといい」

 

 そう言われたルイズはおっかなびっくり、フリンの後ろに隠れながらグリフォンに近づく。

 

「……乗っていいの?大丈夫?襲ってきたりしない?」

 

「……あぁ、こいつは気は短いが言うことはよく聞く。ちゃんと言い含めておいたから、大丈夫だろう」

 

「ずいぶん信用してるのね」

 

「……付き合いが長いからな。さぁ乗るといい」

 

 そう言って、グリフォンに跨るとルイズに向かって手を差し伸べた。

 

「……ありがとう。……それじゃあ、街に向かいましょうか」

 

「わかった。……グリフォン行くぞ」

 

「ヌァン人トタリトモ俺の前ヲ走ラセネェゾォォォォ!」

 

 そう叫びながら、グリフォンは空に羽ばたき、街の方へと飛びさって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その様子を二人の少女が自室の窓からグリフォン召喚から、飛び去るまでの一部始終を偶然とは言えしっかりと見ていた。

 

「……あのグリフォン話していたわね」

 

 キュルケは驚いて、目を丸くしている。そして、タバサのほうを向くと、

 

「ねぇ、彼らの後を追ってみない?運良くもう一回グリフォンが話すところを聞いたら、詳しく話聞けるかもしれないし……」

 

 タバサは黙ったまま、少しの間考え込んだ後、黙ったままこくりと頷き、彼女の使い魔であるシルフィードを呼ぶと、その背に乗り込んだ。

 

「……行こう。……早く」

 

 それを聞いてキュルケもサラマンダーのフレイムをつれて、彼女と一匹も風龍の背に乗った。

 

「ありがとう!行きましょう!」

 

 そうして、空に消えたグリフォンを追うように、風龍に乗った彼女らもまた街の方角へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 街に着いたフリンが辺りを見渡すと、石造りの街並みが広がっている。そこには道端で声を張り上げて果物や肉等を売る商人達、けして豊かとまでは言えないにしても十分に足りている人、のんびり歩いたりする人、急いでる人といった老若男女様々な人たちが取り混ぜ歩いている。市場は独特の活気を放ち、人々の雑踏や声に満たされていた。

 

「サーチモード実行」

 

 バロウズが聞きなれた声で解析を始め、ガントレットの画面に詳しい地図が表示されていく。

 

「そういえば、あなたはなんで街に来たかったの?」

 

 ルイズがフリンの方を見て聞いてくる。

 

「自分の持ち物を整理していたら思いのほかいらないものや、もう使えないものが出てきたからな。売れる物なら売って、必要なものが見つかれば買おうかと思って」

 

「ふーん、そうなんだ……ところで、こちらの街を見た感想は?」

 

「……思っていた以上に賑わっていて驚いている」

 

 フリンは市場にいた人々からミカド国にいたような商人にはない何かを肌で感じていた。

 

 ――自分の故郷であり、当たり前に過ごしていたあの国が歪んでいたことに今更気付くとはな……やはり、東のミカド国にいた住人は神や天使にとって都合のいい国民だったのだろうな……

 

「ぼーっとしてどうかしたの?」

 

 ルイズが思考に耽っているフリンの顔を覗き込むようにして聞いてくる。

 

「……いや、大丈夫。久しぶりにこういう場所に来たから、少々その熱気にあてられたみたいだ」

 

「まぁ、大丈夫ならいいわ。ぼーっとして迷子にならないでよね」

 

「……気をつけよう」

 

「で、何処に行きたいの?」

 

「そうだな……まずは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、フリンはルイズに見慣れない物や店、建物のことを聞いたり、雑貨屋や、服屋によっていらない物を売ったり、必要なものを買い足したりしていった。一通り、買い物を終えたあと、フリンはカフェでクックベリーパイに舌鼓を打っているルイズに言う。

 

「ここには、武器屋はあるのか?鍛冶屋でもいいが」

 

「武器屋か鍛冶屋ね。確かあったはず……場所は……えっと……えーっと……」

 

「いや、あればいいと思っただけだから、無理に思い出さなくてm「思い出したわ!たしかピエモンの秘薬屋の近くにあったはず。案内するわ」……そうか、助かる」

 

 ルイズはそう言うと、今までいた大通りの方から細い路地の方へ歩を向けて進んでいく。そこにはゴミが落ちていて薄暗く、悪臭が鼻につくと思えば、獣の汚物が転がっていて、大通りと違い酷い有様だった。

 

「まぁ、人通りの少ない通りならこんなものか」とフリンは小声でごちる。

 

 ルイズはというと更に細い路地へと進んでいき、辺りをキョロキョロと見回している。

 

 そして……「あ、あった」と嬉しそうに呟いた。その視線の先には剣の形をした銅の看板が下がっていた。どうやら、そこが探していた武器屋であるらしかった。それから、ルイズとフリンは、石段を上り、頑丈そうな扉をあけ、店の中に入っていった。

 

 店の中に入ると壁や棚に、所狭しと剣や槍が乱雑に並べられ、立派な甲冑が飾ってあるのがフリンたちの目に入る。店の中は昼間だというのに先ほどいた路地よりも暗く、数ある武器を薄く照らすのは、少数のランプの灯りのみだった。

 

 店の奥でパイプをふかしている店主と思わしき小太りの男が二人に気づき、品定めするような目をしながら、声をかけてくる。

 

「いらっしゃいませ、貴族の旦那方。うちはまっとうな商売しておりますので、お上に背を向けるような後暗いことはしてませんや」

 

「客よ……とは言っても用があるのは彼だけだけどね」

 

 ルイズは腕を組んで言った。

 

「これは失礼しました、では旦那。この店には何の用で」

 

 フリンは背や腰、背嚢に差していた数本の剣を取り出し、店のカウンターに置いた。

 

「……これらの剣を研ぎ直して欲しい。手入れはしているが本格的な道具や設備がなかったからな。あと、こっちの三本は買い取るか、鍛え直して欲しい。鍛え直したとしても、あまり使えないだろうが」

 

「こりゃたまげた。貴族が剣を持ち込むだなんて!……しかし、貴族が剣を持ち込むこと自体珍しいのに何本も持ち込んでくるとは滅多なことではありませんな」

 

 そう言うと、店主は剣の方へ目を移す。

 

「わかりました。では、研ぎ直し等は専属の刀匠にやらせますので、しばしお待ちを。しかしそれにしても、旦那が持ち込まれた剣はどれも良いものをお持ちですな。研ぎ直しを所望された剣はともかく、買取を望まれた剣の方も先に出されたものよりかは劣るものの、なかなかのものです。本当に手放してもよろしいのですか?」

 

「構わない。それらも、今まで使っていて手元に残ったものだからな。それ以外は壊れてしまった。良い物が残って悪いものが先に無くなるのは当然だろう」

 

「まぁ、おっしゃる通りですな。しかし、大分くたびれていて、旦那が使うのに堪えないと思われているとは言え、これは鍛え直せばまだ売り物になります。これだけのものを引き取らせてもらうのですから、お気に召した武器がありましたら差し上げます。確か一本ぐらい旦那が気に入るような物があったはずです。何本か持ってらっしゃるようですが、三本も無くなれば代わりの剣も必要でしょう」

 

「そうだな」

 

「まだ、研ぎ直しや本格的な手入れが終わるには時間がかかりますから、ごゆるりと」

 

 店主との会話を終えると、フリンはヒマそうにしているルイズも元へ行き、言う。

 

「というわけで、もう少しここにいてもらうがいいか?」

 

「別にそんなこと気にしなくてもいいわよ。けど、いいの?あんなに剣を手放しても」

 

「大丈夫だ、問題ない。それに代金替わりに適当に見繕って持って行っていいってさ」

 

「そうなの?それでいいの」

 

「あぁ、意外とここにあるものは悪くない。良いものもあまりないが、気に入らなければ現金で返してもらえばいいさ」

 

「あなたがそれでいいならいいけど……」

 

 ルイズはまだ何か言いたげな顔をしていたが、またつまんなさげな顔をして店内にある武器を眺めだした。それもそうだろう、ルイズを始め基本的にメイジは刀剣の善し悪しはわからないし、武具の扱いに慣れたフリンの方が当然その造詣が深い。だから、いくらルイズがその取引に不満を持とうが、武器についての取引はフリンの判断に従ったほうが良い。それが、ルイズには自分が分からないことを勝手に進められていて、置いてけぼりにされているようで面白く無い。そして、剣をはじめとした武器にも興味がないの眺めて暇を潰そうとしても面白く無い。というわけで、ルイズはつまらなさやと退屈と一緒に暇を持て余しているのである。

 

 一方、フリンは店内にある武器を物色していた。しばらくして、雑に置いてあった武器の山の中に隠されているように置いてあった剣を発見する。店主の言っていた剣だろう、この店にある剣の中では飛び抜けて良いものであろうことがわかる。そして、その剣を持って武器の山から出ようとしたその時、何の気配を感じなかった空間から突如、低い、男の声に呼び止められた。

 

「おい、おめえ待ちな。そこの青い服を着たあんただよ。なかなか剣を見る目があるようだが、俺っちを見落とすたぁ、まだまだだな」

 

 フリンは振り向くが、そこには生物の気配はせずただ武器の山があるだけだった。

 

「?」

 

 フリンは首をかしげると、店主のいるカウンターの方へ行こうする。……と、またもや先程と同じ方向から同じ声に呼び止められる。

 

「おい無視すんな、俺っちのところへ来い」

 

 フリンは不思議に思いながら、やはり何の気配もしない武器の山の方へ向かう。そして、時折こちらに呼びかけてくる声を頼りに声の主を見つけると、そこにあったのは一本の古ぼけた剣だった。

 

「……お前か?俺を呼び止めたのは?」

 

 錆の浮いた刀身を見ながら尋ねる。

 

「あぁ、そうだ。おめぇさん俺を買わねぇか?」

 

 するとその時、店主が古ぼけた剣を持つフリンに向かって怒鳴ってきた。いや、正確にはフリンの持つ古ぼけた剣に向かって怒鳴った。

 

「おい!デル公!旦那に失礼なことを言うんじゃねえ!旦那はお前よりずっといい剣を持ってらっしゃる。お前なんてお呼びじゃねぇ!」

 

「……コイツが話していたのか。まぁバロウズと同じようなものだな」

 

「マスター、こんなヘンテコな剣と一緒にしないで!」

「おめぇ、こんなヘンテコな籠手と一緒にするな!」

 

「……悪かったから、二人?同時に怒鳴らないでくれ。耳が痛い。……店主、これは?」

 

「意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。銘をデルフリンガーといいます。希少といえば希少ですが……とにかく、こいつはやたらとロは悪いわ、古ぼけた鈍(なまくら)の癖して客にケンカは売るわで閉口してまして……。やいデル公!これ以上失礼があったら、てめえを溶かしちまうからな!」

 

「おう、やって見やがれ!おもしれぇ!どうせこの世にゃもう、飽き飽きしてたところさ!」

 

 売り言葉に買い言葉という具合に店主とデルフリンガーは互いに罵声を浴びせるごとにヒートアップしていく。そんな中、フリンがポツリと呟く。

 

「……面白い剣だな」

 

「ほう、さっき言った見る目がないっていうのは撤回するぜ。おれのよさが解るたぁ、おまえはわかってる!」

 

「……店主、すまないがこの剣も一緒に譲ってもらえないだろうか?もちろん、金が足りないのなら支払うが……」

 

「はぁ、いいんですかい?そんな剣で?なら厄介払いということで研ぎ賃、剣代、そして、デル公含めて、100エキューで結構です」

 

「あら、安いじゃない」

 

 いつの間にかこちらに来ていたルイズが懐から財布を取り出し、金貨をカウンターの上にぶちまける。

 

「ルイズ、別にお前が出してくれなくても……」

 

「いいの、これくらい。あなたがくれたものと比べたら、釣り合ってもいないわよ。宝石と交換した時に言ったでしょ。こっちが出し足りないぐらいだって」

 

「……わかった。ありがとう」

 

 それから、フリンは研ぎ直された剣や新しく手に入れた剣をしまい、ルイズと共に店から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 店から出て行った二人を物陰から見つめる二つの影があった。キュルケとタバサである。

 

「店に入った時とあんまり持ってるものは変わらないわね。元々、何本か剣を持ってたようだし、手入れをしに来ただけかもしれないかもね。ねぇ、タバサはどう思う?」

 

「………」

 

 大通りへ向かう二人の背中を眺めているキュルケがタバサに自分の考えを話すが、当のタバサといえば、分厚い本に読み耽っている。

 

「まぁ、もうあの店に行く必要は……無いか。じゃあ、またあの二人の後をつけて行って、グリフォンをだす時か、街から出ようとした時を見計らって声をかけましょう」

 

 この言葉にはタバサは視線は本から離さないものの、こくりと頷きしっかりと自分の意思を親友に示した。そうして、二人はフリンとルイズを追うように大通りへと駆け出していった。しかし、その後ろから彼、彼女らを見守っていた影があることには彼女たちは気づいていなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう辺りが朱に染まり始めた頃、フリンとルイズは当初の目的を大体果たしたことからそろそろ家路につこうかと考えていた。そうして街の外に出ようした矢先、二人の前に見知った顔が飛び出してきた。一人はルイズが目の敵にしている美しい赤毛と整ったプロポーションを持った少女キュルケ、もう一人はそんな彼女とは対照的な少女のような体躯で、自分の背の丈を超えるような杖と分厚い本を脇に抱え込んでいる少女タバサである。

 

「あらこんなところで出会うなんて奇遇ね、ヴァリエール。ダーリンとデートでもしていたのかしら?」

 

 今の今まで、二人のことを尾行していたことをおくびに出さずに、いかにも偶然に出会ったかのようにキュルケが声をかける。尾行されていたことなど露とも知らないルイズは、出先でまで己が仇敵と顔を合わせたことを不運に思い心の中で悪態をつくと、キッとキュルケを睨んで言う。

 

「別にフリンが街に連れって行って欲しいって言ったから案内していただけよ。まぁ、もう帰るところだけど。ごきげんよう、ツェルプストー」

 

 行きましょ、フリン――そう言って無理やり話を切り上げると、フリンの腕を掴むとズンズンと街の外へ向けて歩き出した。ルイズが気を悪くしていることなど、知ったこっちゃないと言わんばかりにキュルケとタバサの二人は付いてくる。

 

「あ~ら、またまた奇遇ね。私たちもちょうど帰るところだったの。まぁ、私はタバサの風龍の背に乗せてもらったからすぐに学園に帰れるけどね。そういえば、あなたたちは馬で来たのかしら?ダーリンさえ良ければ一緒に帰らない?どうせ遅い馬でしょう?ルイズは一人でゆっくりと帰ってもらいましょ」

 

 キュルケはフリンの腕を組んで情熱的に誘う、横目にフルフルと肩を震わせているルイズを見ながら……

 

「言いたいように、言わせておけば……私たちはフリンのグリフォンに乗ってきたの!タバサの風龍よりずっと速く飛べるんだから!」

 

 ルイズが売り言葉に買い言葉と言わんばかりにキュルケに無い胸を張りながら自慢げに言い返す。そんな様子を見て、キュルケは計画通りと言わんばかりに笑みを浮かべてフリンに尋ねる。

 

「へぇ、ダーリンは使い魔も持っているのね、それもグリフォンだなんて。ねぇ、どうせグリフォンに乗って帰るのなら、私たちにも一目見せてくれない?何処にとめているのかしら?」

 

「……まぁ、隠すようなことでもないからいいか。見せてやるから、街の外までついてこい」

 

 そうして、一緒に街の外まで出てくると、フリンはふたりの方へ向き直り、ちょうど朝ルイズに説明したことと同じじことを話す。

 

「……こんなところか、じゃあ呼び出すぞ。……バロウズ」

 

「了解、マスター。悪魔召喚プログラム起動」

 

 ――SUMMON OK――とガンドレッドの画面に表示され、四人の前に鷹の翼と上半身とライオンの下半身を持った獣が姿を顕す。

 

「――ォォォォオオオオッ!」

 

 その雄叫びに身を縮ませながら、ルイズがそれみたことかとキュルケの方を見る。当のキュルケはそんなルイズなど眼中に入れず召喚されたグリフォンに見入っている。そして、グリフォンの方へ手を伸ばそうとした時、恐ろしい獣の声が聞こえてくる。

 

「オイ、コノガキハ喰ッテイイノカ?マダ、チッチェエガ、ソコノピンクノ髪ヤ、青髪ヨリカハ美味ソウダ」

 

「しゃ、喋った?」

 

「おとなしくしろ、この大食らい。彼女らも食うな!」

 

 そう言ってグリフォンを大人しくさせる。

 

 やはり、一度遠目から見ていたとはいえ間近で幻獣が話すのを見て驚きが隠せない。その傍らでタバサはポツリと呟くようにフリンに尋ねる。

 

「……この間の心当たり?」

 

「……あぁ、こいつではないが――何しろ俺も全てを把握できていない超然の獣だからな」

 

「……今はそれだけで十分」

 

 そう言ってタバサは街の上空に待機させていたシルフィードを呼びその背に乗り込む。一方でキュルケと口論していたルイズはそれを見て、キュルケに風龍に乗るように怒鳴り追い返した。

 

「じゃあ、また後でね、ダーリン」

 

 そう言うとキュルケも風龍の背に乗り込み、それから二人を乗せた風龍は朱く染まった翼を力強く羽ばたかせ、学園の方へ飛びさっていった。それを見た二人もまた少し時間を空けて学園へと帰っていった。


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