それから数日経ったのち。
あたしは、ある村に来ていた。
その村は、峡谷地帯に切り拓かれた村で、村の後ろには崖のような山がそびえていた。
村の大通りを中心に、石造りやレンガ造りの家が軒を連ねていて、脇道もたくさんある。
あたりまえだけど、村は人間でいっぱい。たまにアイルーもいるけど、見知った顔じゃなかった。
……この村に来たのは、リザに会うためだった。
どこにいるのかはわからないけど、きっとこの村にいるはず。
ま、散策してたら、いつかは会えるかな……。そう思って、あたしは村をぶらぶらすることにした。
……それにしても、本当にたくさんの人間がいる。男の人、女の人、おとな、こども、おじいさんやおばあさん。こどもでさえ、あたしたちアイルーと身長はそんなに変わらないから、自分以外のすべてが大きく見えた。だから、ちょっと怖い。
でも、あたしに目をくれる人間なんていないから、大丈夫かな。と、そんなことを思っていたときだった。
すぅ、とあたしの影が大きくなった。
「……?」
「ナナじゃない、久しぶりね」
振り返ると、そこにリザの姿があった。
「……リザさん!」
「どうしたのかしら? こんなところで」
「みゃ、ちょうどよかったみゃ。リザさんに、お話があるみゃ」
「お話……?」
あたしは、姿勢を正して、リザの顔を見上げた。
「あ、あたしを……、り、リザさんのオトモアイルーにしてくれませんかみゃ?」
「……オトモに?」
「みゃ。このあいだからずっと考えてたのみゃ。今のままがいいのか、違う道に進んだ方がいいのか。それで、あたしなりに考えた結果、オトモアイルーとして生きていくのもいいかなと思って、あのグループを抜けさせてもらったみゃ。……リザさんなら、あたしをオトモアイルーにしてくれるかな、って……そう思って、お願いしにきたのみゃ」
「そう……」
「――だ、ダメかみゃ?」
「そう、ね……」
リザは、あごに人差し指を当てて考えるポーズをとった。数秒して、彼女は小さく息を吐く。
「……ナナ、ハンターの世界ってとっても過酷よ。恐怖は感じずにはいられないし、何より、大けがを負うことだって、命を落としてしまうことだってある。それでも、あなたは私についてくる?」
「みゃ……?」
ここで厳しい言葉。
命を落とすことだってある……。それはわかってたけど、改めて言われると、すごく怖い。
リザは、あたしを死なせたくないから、そんなことを言っているのだろうか?
ハンターなんて馬鹿げたことを考えないで、さっさと帰って鉱石運搬でもしてろ、と言いたいのだろうか?
……いや、違う。
あたしの、覚悟を見ようとしているんだ。
揺るがぬ意志を。
壊れることのない、確固たる決心を……。
もう、逃げない。
あたしは、まっすぐ突き進まなきゃ――
「……、ついていきますみゃ。どこまでも……!」
あたしが力強くそう言うと、リザは表情を和らげた。
「ふふ……。あなたの覚悟のほど、お見受けしました。それじゃ、ナナ。今日からあなたは私のオトモアイルーとして生きてもらうわ」
「……! あ、ありがとうございますみゃ!」
「でも、本番はこれからよ。私の指導は厳しいから、ちゃんとついてきなさい?」
「みゃ!!」
「いい返事ね。弟に聞かせてやりたいくらいだわ」
「リザさん、よろしくお願いしますみゃ!」
「んー、別に『さん』づけしなくてもいいのよ。呼び捨てでも大丈夫」
「……みゃ」
「それはちょっと気が引ける? なら、何でも呼びたいように呼んでね」
呼びたいように……。
何がいいだろう……?
そういえば、さっき、『弟』がいるって言ってたから……
「リザ
「ん?」
「リザ姉って呼んでもいいみゃ?」
「えぇ、何でもいいわよ。じゃ、それでいきましょうか」
「リザ姉、よろしくお願いしますみゃ!」
「それじゃさっそく、オトモアイルーとしての心得から、学んでいきましょうか」
「みゃ!」
そうして……、あたしはリザのオトモになった。
(5)に続く。