モンスターハンター ~碧空の証~   作:鷹幸

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 突としてレオンたちの前に現れた女性、リザ。
 彼女は、レオンの姉であり〝ハンター〟としての師匠でもあった。

 その後、「ケルビの角」納品の依頼を受け、渓流へ向かったリザ、レオン、ソラ、ナナの四人。
 そこでレオンは、渓流に「何か」がいることに感付く。
 彼らは、依頼を進めるとともにその正体を突き止めようとする。
 そしてついに、彼らはその姿を目撃する……。


第23話 極色彩の鳥

「あれは……クルペッコ……」

 

 そう呟いたのは、リザだった。

 

 クルペッコ――別称、〝彩鳥(さいちょう)〟。鳥のような骨格の躰に、黄緑を基調とし赤や黄で彩られた体色、特徴的な形をした(くちばし)をもつ、鳥竜種のモンスターである。

 

「あれが、クルペッコ……」ソラは名前を反芻(はんすう)する。

 

 視線の先にいる渓流を闊歩(かっぽ)する極色彩の鳥は、緑から赤への美しいグラデーションをもつ周囲の景色に溶け込んでいるようでもあった。

 

「けっこう、色彩豊かなんだ」とレオン。

 

「クルペッコは……」リザが話し始める。「そこまで危険度の高いモンスターではないけれど、動きがトリッキーで、翼についた火打石を使って繰り出される(ほのお)の攻撃は危ないわ」

 

「……姉貴は、闘ったことがあるのか?」

 

 レオンが訊くと、リザは首を振った。

 

「闘ったことはないけれど、見かけたことは何度かあるわ」

 

「それにしても、なかなか可愛らしいモンスターだね」ソラが言う。

 

「なんでそう思う?」レオンが訊いた。

 

「見た目っていうか、動きっていうか……、とにかく、可愛らしさがあるなぁ、って」

 

「温泉のクルペッコのオモチャも、なかなか可愛らしかったみゃ?」ナナが横から言う。

 

「確かに、何かと愛嬌(あいきょう)のあるモンスターではあるわね。……でも、悠長に構えている暇はないわ」リザは、元来た道の方をチラリと見る。「早めに依頼を済ませて、村長とギルドに判断を仰ぎましょう」

 

 彼らは身を翻すと、エリア2にとんぼ返りした。その後、他のエリアを回り、ケルビの角を入手した彼らは、拠点へと戻る。そして、ケルビの角を納品すると、ユクモ村への帰路を辿った。

 その後、ユクモ村に着いた彼らは、村長に報告しようとした。だが、いつもの場所に村長の姿がない。いつもの場所とは、紅葉(もみじ)の木の元にある腰掛けのことである。

 

「……あれ? 村長、どこだろう?」

 

「定位置にいないなんて……珍しいな」

 

 ソラとレオンが顔を見合わせて首を傾げていると、リザが後ろから声をかけた。

 

「なら、ギルドにでもいるんじゃないかしら?」

 

「あ。そっか」

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、ユクモギルド。

 村長は、集会浴場のクエストカウンター前に立っていた。彼女はリザたちの姿に気がつくと、微笑んでお辞儀をした。

 

「あら、おかえりなさいませ」

 

「村長……」リザが前に出る。「報告することがあります」

 

「……なんでしょう?」

 

「クルペッコ1体を、渓流で確認しました」

 

「あら」村長の表情に変化はない。「珍しい子ですわね」

 

「……どうしましょうか?」リザが訊く。

 

「ギルドマネージャー、どういたします?」

 

 村長にギルドマネージャーと呼ばれたのは、垂れた耳と、顔を覆うほどの髭が特徴的な竜人族の男性。彼は、カウンターの上に座ったまま、酒を片手に話し始める。

 

「……うんにゃ、捕獲でもしてもらおうかねぇ。そこまで凶悪なモンスターでもあるまいし……、チミらの実力なら、問題ないだろう」そこまで言って、彼は酒を飲んだ。

 

「捕獲、ですか……。承知しました」リザは軽く頭を下げて、他の三人に目配せをした。「それじゃ、準備しましょうか」

 

 各々が返事をして、ギルドから出ていこうとするリザについていく。

 ギルドを出た彼らは、ギルドの前の長い石段を下って、踊り場に出た。

 

「レオン、捕獲に必要なアイテムはあるの?」そこで、リザが訊いた。

 

「それなら、ソラの家に置いてある。……あ、そういえば、ソラはモンスターの捕獲をするのは初めてだったよな」

 

「うん」ソラは頷いた。「初めてだよ。だから、どうしたらいいのか……よくわかんない」

 

「モンスターの捕獲は、討伐よりも難易度が高いわ」リザが言う。「でも、そのぶん、得られる報酬が良いというメリットもあるの」

 

「捕獲って、ただ捕まえるだけじゃない、ってことですね?」

 

「えぇ。例えば、この、レオンというモンスターを捕獲することにしてみましょう。そして、捕獲に用いるのは網よ。さて、ここからどうしたらいいかしら?」

 

「うーん……、網で捕まえて、動けなくすればいいんですよね?」

 

「そうね。でも、レオンが元気すぎると、網を突き破って飛び出してくるかもしれないわ。そして、安心しきっているソラは、レオンの餌食(えじき)になっちゃうの」

 

「うわぁ……、レオンに食べられちゃう……」ソラはレオンを窺いながら、少しオーバーに反応してみせた。

 

「本当に食べられないように注意してね。それで、そういうことにならないようにするには、どうすればいいかしら?」

 

「網を頑丈なものにすればいいんじゃないですか?」

 

「あ……そういう考え方もできるわね。確かに、そうだわ……、それが一番簡単な方法ね……」リザは唇に手を当てた。「でも、網は強化できないものだとしたら、どうする?」

 

「網は、そのまま……」ソラは少し考え込む。

 

「相対的に考えるといいわ。モンスターに対して網が強ければいいんだから、逆に言えば、網に対して……」

 

「あ。モンスターが弱ければいい、つまり、弱らせればいいんだ!」

 

「そうそう。レオンをボコボコにしちゃえば、いっそう捕獲しやすくなるわ」

 

「……でも、倒しちゃったら……意味が無いですよね?」

 

「そう、捕獲の最大のポイントはそこ、捕獲するタイミングにあるの。体力が残ったままだと捕獲はできないし、かといって体力を削り過ぎると、捕獲するまえに力尽きてしまう……。だから、タイミングを見極めるには、モンスターの動きをよく観察することが重要なの。そして、そのタイミングを見極めるには、モンスターの動きをよく観察することが重要よ。動きが極端に鈍くなったり、自分から逃げ出そうとしたりしたときが、捕獲できるタイミング」

 

 ソラがうんうんと頷くのを見ながら、リザは話を続ける。

 

「じゃ、捕獲の大まかな流れが分かったところで、実際の捕獲方法について説明するわ。まず、捕獲に必要不可欠なのは、〝罠〟と〝捕獲用麻酔薬〟。麻酔薬は単体で使うことはできないから、素材玉と調合して〝捕獲用麻酔玉〟にしたり、〝捕獲用麻酔弾〟にしたりして使うの。そして、モンスターを十分に弱らせたら、罠にかける。そのあと、捕獲用麻酔玉を投げつけて眠らせる。それで、捕獲は完了よ。……これでわかったかしら?」

 

「はい。よく分かりました。弱らせて、罠を仕掛けて、眠らせるんですね」

 

 ソラの言葉を聞いて、リザは頬を緩める。

 

「ふふ、大丈夫そうね」

 

「じゃ、オレは必要なものを取りに行ってくるよ」レオンは駆けだす。

 

「あ、わたしも行くよ!」と、ソラも彼の後について走っていった。

 

 肩を並べて駆けていく二人の後ろ姿を、リザは目で追っていた。

 

「……あの二人、仲がいいのね」

 

「みゃ。でも、それ以上の関係はないみゃ」

 

「あそこまで仲が良さそうだと……ねぇ。なんだか、ぶっ壊してやりたくなっちゃうわぁ……」

 

「リザ(ねぇ)、それ嫉妬みゃ?」

 

「嫉妬? さぁ、どうかしらね……。レオンは私のもの、なんだから……。誰にも、邪魔させないわ」

 

「リザ姉……なんだか怖いみゃあ」

 

 ナナが困ったような顔で見上げてきたので、リザは思わず吹き出しそうになった。

 

「ふふ……なんてね。冗談、冗談よ」

 

「みゃ……リザ姉は、いつからそんな冗談を言う人になっちゃったのかみゃ?」

 

「それは、昔からよ」

 

 リザはにっこりと笑った。

 

 

 

 

 

 それから五分ほどして、レオンとソラが戻ってきた。

 

「とりあえず、シビレ罠と、捕獲用麻酔ビンを持ってきた」レオンは、ポーチを軽く叩く。

 

「捕獲用麻酔ビン?」リザは訊き返した。「空きビンに捕獲用麻酔薬でも入れたのかしら?」

 

「あぁ、その通り」

 

「レオンは、新しいアイテムを作ってるの?」

 

「まぁ……、たまにだけど。そうそう、ペイントボールの改良版なんてものは考えたな」

 

「あ。それ、まえにわたしが言ったやつだ」ソラが横から言う。

 

「そうそう」

 

「へぇ……、どんなのかしら?」

 

「〝()(よく)な泥〟と〝素材玉〟を調合させた粘度の高い泥ダンゴに、ペイントの実をすり潰して混ぜてみるとできる、持続効果の高いペイントボールだよ」

 

「ふぅん……、粘着性が高くなるから、モンスターの躰から剥がれ落ちにくい、ってことね。……まぁ、悪くないとは思うわ」

 

「だろ? 売り出せば儲かるんじゃないかな」

 

「それは……どうでしょうかね。もしかしたら、既に誰かが発案してるかも」

 

「うぅん……、そうかもしれないなぁ」

 

「ま、そんなことよりも、早く行きましょう」

 

 そう言って、リザは渓流へ向かって歩き出す。その歩調は、少し浮き足立っているようだった。

 

「何か楽しそうだな、姉貴」レオンは彼女の背中に声を掛けた。「どうしたんだ?」

 

 リザは歩みを止めて、振り返った。

 

「狩人としての運命が、私を駆り立てているのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 渓流、ベースキャンプ。

 

「さて、クルペッコはどこにいるのかしら?」

 

 リザはレオンに、期待交じりの眼差しを送った。

 

「分かってる」

 

 レオンは岸壁の縁に立つと、瞼を閉じた。

 そして、静かに息を吐き、大きく風を吸う。

 入り混じった匂いの中から、ついさっき嗅いだ匂いと、記憶の中の匂いをシンクロさせる。

 匂いの強さと風向きから、目標のいる方向と距離を測る。

 その座標を、既に脳内にインプットされた地図の上に、描く。

 ……目標は、そこにいる。

 

 レオンは目を開けた。すると、リザが彼の顔を覗き込んで訊く。「どこにいるか、わかった?」

 

「うん……」唸るような声を出して、レオンは頷いた。「クルペッコは、ほとんど移動してない。まだ、エリア6にいると思う」

 

「ふーむぅ……、じっとしているのが好きなのかしら?」

 

「それなら、わざわざこの渓流まで来ないんじゃないかな」

 

「じゃあ、紅葉でも見ているのかしらね? そうだとすれば、なかなか粋な子じゃない? お友だちになりたいくらい……」

 

「……もしそうなら、の話だけどな」

 

 レオンが不愛想に返すと、リザは肩を(すく)めるような仕草をした。

 

「もう……。レオンは、現実を見過ぎてる感じがあるわ。もっと、発想を柔軟にしなくちゃ」

 

「……んじゃあさ、お友だちになりたい相手と闘うっての?」

 

「ほら、言うじゃない……男は拳を交えて友情を育む、って。もしかしたら、人とモンスターも、そういう関係になれるかも」

 

「お(とぎ)(ばなし)の世界じゃ、そういうのはよくあるけどさ……」

 

「でも、もしかしたら、事実を元にしたものがあるかもしれないわ。そう考えると、可能性として無くはないのよ」

 

 まったく、姉の思考にはついていけないな、とレオンは思った。しかし、姉のそういう考えも嫌いではないし、むしろ面白味が感じられるので、こういう話を聞くのは昔から好きだった。

 

「さて、長々とお話をするのもなんだし、早く行きましょう」

 

 リザは身を翻して、エリア1に向かおうとする。レオン、ソラ、ナナも彼女の後に続いた。

 二十歩ほど歩いたところで、リザは立ち止まり、顔だけを振り返らせた。そして、彼女は微笑む。

 

「もうすぐ、操虫棍の腕前を披露できるわね」

 

 

 

 

 

 

 十分ほど経ったのち。川のせせらぎが囁くエリア6で、狩人たちは陰に身を潜めていた。

 リザは顔を乗り出して、エリアの様子を窺う。そしてすぐに顔を引っ込め、レオンたちの方を向いた。

 

「……たしかにいるわね、クルペッコ」

 

「それで、具体的にはどうするんですか?」ソラが訊いた。

 

「そうね、どうしましょう?」リザはレオンを一瞥する。

 

「姉貴が先陣を切ってくればいいんじゃないか? さっきまで、楽しそうにしてたし」

 

「私がやっちゃって、いいのかしら?」

 

「問題ないよな、ソラ?」

 

「うん、全然」

 

「よぉし。なら、張り切っていきましょうか」

 

「怪我すんなよ」

 

「あらぁ……私を誰だと思ってるのかしら?」つんとした口調でリザが言う。

 

「オレの姉貴」

 

 レオンが言うと、リザは少し不機嫌そうに鼻を鳴らした。それがなぜなのか、レオンには分からない。それもそのはず、人間の心理は複雑で、表情や行動だけですべてが読み取れるわけではない。

 

「……まぁ、いいわ。それよりも、レオンの方こそ危なっかしいんだから、気をつけるのよ」

 

「まえに死にかけたから、大丈夫。無茶はしないよ」

 

 その言葉に、リザは目を細める。

 

「死にかけたの?……また?」

 

「ま、大きな怪我をした、ってわけじゃないんだが……。そのことは、いつか話すよ」

 

「そう、分かったわ。でも、今回は私に任せてくれてもいいのよ。あなたは、小型モンスターが寄ってきたら追い払ってくれればいいの」

 

「じゃ、一歩退いたところで姉貴を見学させてもらうよ」

 

「えぇ。じゃあ、最後の重要な部分……麻酔薬を打ち込むところは、ソラ、あなたに頼むわね」

 

「了解です!」

 

「それじゃ、行ってきます」リザは片目を瞑ると、髪を靡かせて躰を半回転させる。「操虫棍の……、とっておきの技も披露できるかもしれないわね」

 

 そう言い残して、彼女は彩鳥の方へ向かっていった。

 

「とっておき? 何だろう……?」ソラはレオンの顔を見た。

 

「それは、見てれば分かるはず」そう言ってレオンは、目を細めた。

 

 標的に向かって走りながら、リザは操虫棍を振り回した。虫笛が奏でる高周波音に合わせて、彼女の右腕に掴まっていた蝶が(はね)を広げてクルペッコの方へ飛んでいった。

 その音に気づいたクルペッコが、細長い首を捻って彼女の方を向く。

 その瞬間――

 

「グェッ!?」

 

 硬く、重たい衝撃が彩鳥の頭を揺らした。猟虫がクルペッコの頭部に打撃を与えたのだ。

 猟虫が攻撃と同時に体液を採取したのを確認すると、リザは操虫棍を振って虫を呼び戻した。

 迅速に戻ってきた猟虫は、赤い液体を保持していた。彼女はそれを口に含むと、ごくりと飲み込む。

 その瞬間、噴火直前のマグマのように、躰の奥底から熱いものが湧き上がってきた。そして瞬く間に、力が漲ってくるような感覚が全身を包んだ。これは、猟虫のエキスによる効果だ。

 

 猟虫が生成する特殊なエキスには、種類が四つある。

 一つ目は、赤色をした攻撃力強化エキス。これには、筋力を増幅させる効果があり、素早く、重い攻撃を与えることが可能になる。

 二つ目は、白色の防御力強化エキス。これは、皮膚を硬質化させて攻撃のダメージを軽減させる効果がある。

 三つ目は、橙の移動速度強化エキス。筋肉の疲労を遅らせる効果のあるエキスで、これにより、スタミナを保存し素早く移動することができる。

 そして最後に、緑色の回復エキス。これは、言うまでもなく治癒効果のあるエキスである。

 これらのエキスは効果の持続時間が短く、連続した効果を得ようとすれば、一定時間置きにエキスを取らなければならない。また、2種類以上のエキスを同時に摂取することで、身体能力の大幅な増幅が可能となる。

 

 今、リザが摂取したエキスは、攻撃力強化のエキスである。

 全身の血が躍動しているのを感じながら、リザは速力を上げて地面を蹴った。

 

「やぁっ!!」

 

 低い軌道を跳びながら、彼女は左手に掴んだ棍を振る。

 美しい曲線を描く切っ先が、クルペッコの胸を掠めた。

 着地と同時に彼女は振り返り、もう一撃を加える。

 

「ぐぇぇ」

 

 クルペッコはよろめきかけるが、翼を大きく振って、上空に舞い上がった。

 

「……っ」

 

 その風圧で、リザはわずかに後ろへ下がる。

 クルペッコは滑空すると、リザから十メートルほど離れた位置に着陸した。

 少し距離を詰めると、彼女は棍を振って、再び猟虫を送り出す。

 風を切りながら向かってくる虫を、クルペッコは躰を振って避けた。虫が脅威であることを先程の一撃で学習したようだ。

 狙いを外した猟虫は、そのまま飛んでいく。

 リザは音を奏でて、虫を呼び戻す。

 その瞬間を見計らってか、クルペッコは翼を少し上げて、リザを目掛けて疾走し始めた。

 

「……!」

 

 だが、避けきれない速度ではない。

 リザはギリギリまで引き付けると、突進方向と垂直に回避し、通り過ぎようとする彩鳥の体側面に刃を斬りつけた。

 刹那、裂かれた柔らかな肉の間から鮮やかな緋が飛ぶ。

 そして、彩鳥が声を上げる間も無く、二度、三度と旋風(つむじかぜ)が舞った。

 

 

 

 

「はや……」無意識のうちに、ソラはそう呟いていた。

 

 俊敏な動きに、正確無比な斬撃。あれを見て、嘆声を洩らさずにいられるだろうか。

 

「あの様子だと、姉貴一人でやっちゃいそうだなぁ……」レオンは少し肩を竦めて言った。「オレたちの出る幕が無くなりそうな勢いだよ」

 

「うん。でも、わたしには最後の重要な役があるよ」

 

「あぁ……。麻酔系は、きちんと当てないと逃げられるからな、がんばれよ」

 

「う……」ソラは苦い顔をする。レオンの言葉が思いのほか効いたようだ。「ち、ちょっとだけ緊張してきたなぁ……」

 

「大丈夫。いつも通りでいいみゃ」

 

 ナナが笑みを投げかけると、ソラはぐっと拳をつくって、「うん……、がんばる」と改めて意気込みを入れた。「あ、そういえば、とっておきの技、まだ見てないよね」

 

「そうだな……。まぁ、とっておきっていうくらいなんだから、ここぞというときに使うんだろうな」

 

 そう言って、レオンは再び目を細めた。

 

 

 

 

 リザは、攻撃のあと、遠い間合いでクルペッコと相対していた。クルペッコの躰には創傷が刻まれ、ところどころが赤く染まっている。しかし、致命的な傷ではない。

 彩鳥の口から、荒い息が洩れている。怒りの絶対量は、指数関数的に増してきているに違いなかった。

 

「クルワァーッ!!」

 

 クルペッコは吼えると、両翼の先を数回、小刻みに突き合わせる。そのとき、橙の火花が散った。

 そして、彩鳥は狩人のいる方向に大きく跳躍すると、爪を勢いよく衝突させた。

 瞬間、熱風がリザの躰を、爆音が彼女の耳を貫く。

 

「……っ!」

 

 火打石を用いた、爆発攻撃。おそらくこれが、クルペッコの攻撃の中で最も危険なものだ。

 直撃はしなかったが、離れていても十分にその威力が感じられた。大タル爆弾ほどではないが、直撃すれば威力はそれ以上だろう。

 薄れゆく黒煙の中、リザが崩れた体勢を立て直そうとした、そのとき――

 

「……!」

 

 彼女の瞳の奥が、炸裂する(ひいろ)で染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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