モンスターハンター ~碧空の証~   作:鷹幸

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第20話 大量発生の謎

 家を出たレオンは、大きく伸びをした。秋の匂いを(はら)んだ、ひんやりした風が、全身に当たる。遠くの山々は白い霧に覆われていて、色づき始めた紅葉を見ることはできなかった。これは、ユクモ村が山間に位置しており、秋の朝方は霧が発生しやすいからだ。

 ここ最近、渓流においての大型モンスターの目撃情報は無く、小型モンスターが増えすぎて困っているという報告も聞かない。いわば、ハンターにとってみれば稼ぎ時ではない。

 レオンにとっても、ここ数日は退屈な日々だった。

 

(ま、平和といえば平和でいいんだけどな……)

 

 新しいモノや発見を追い求める身としては、「暇」の一言でしかない。採取依頼のとき、この地域でしかお目にかかれないような代物を目撃することはあるが、それもごく少量の発見であり、興奮には値しないことが多い。やはり、狩猟こそが新鮮な感覚を養ってくれるのである。……かといって、モンスターとばかり戯れるのも、本意ではない。

 レオンは赤い髪を掻くと、身を翻し、家の中へ戻っていった。

 彼は、ソラの家に居候させてもらっている。ソラは、この村の専属ハンターの娘。だが、彼女の父が村を出払っているため、家の部屋が一つ空き、レオンはそこに住まわせてもらっている。

 ソラと彼女の家族、二匹のオトモアイルーと共に朝食を済ませると、レオンは部屋で、レウスシリーズを装備し始めた。途中、ナナが入ってきてどんぐりネコシリーズと大型のブーメランを装備し始める。

 

「よし」

 

 頭以外の防具を着け終えたレオンは、ぱん、と胸を叩いた。そして、大剣――レッドウィングを掴んで背中に掛ける。

 部屋を出ようとすると、ユクモノシリーズを纏った格好のソラが、開いた戸の縁に肩をかけていた。

 

「最近、狩猟依頼が少ないし、なんだか……ハンターっぽい感じがしないね」

 

 およそ一週間前のアオアシラの狩猟で、ソラはかなり自信をつけ、ここ最近はモンスターを狩りたくてウズウズしていたようだ。彼女もまた、レオンと同様、退屈な日々を過ごしているのだろう。

 

「とくにモンスターも現れないし、個体数も正常」レオンは溜め息を漏らす。「至って平和だな」

 

「……じゃあ、今日も採取依頼をこなすだけ、かぁ」ソラは残念そうな顔をした。

 

「毎日のように大型モンスターが出現するよりはマシだろ?」

 

「それは……そうだけど」

 

「毎日のようにご馳走が食べられるならいいニャ」とタイガ。

 

「アンタはそろそろ食べ物から離れなさい」とナナ。

 

 そんな会話を交わして、依頼を受諾するため彼らは村長の元へ向かう。村長はにっこり微笑み、彼らを迎えた。いつもの場所、いつもの動作だ。

 いつも同じ場所にいて退屈しないのだろうか、とレオンは思うことがある。

 しかし、その山のように動かぬその不動の姿勢は、村長としてあるべき姿なのかもしれない。何事にも動じぬその冷静さ。自分を崩さないその強い心。まさに、敬服すべき対象である。

 

(この村長が焦るとしたら、どんなことで焦るんだろう……)

 

 村長の焦る姿を少し見てみたい気もしたが、それは野暮なことなのかもそれないと、レオンは心の中で首を振った。

 

「村長、今日はどんな依頼がありますか?」ソラが訊いた。

 

「依頼はあるのですけれど……」ゆっくり、はっきりとした声で村長は話し始める。

「それよりも、ギルドからの連絡がありますわ」

 

「えっ? それは……?」ソラの目が輝いた。

 

「〝ジャギィの個体数が増加傾向にある。調査されたし〟というものですわ」

 

「……ジャギィ?」

 

 ジャギィと言えば、渓流でもたまに目撃される、小型の鳥竜種(ちょうりゅうしゅ)である。薄い水色と橙色の(からだ)を持ち、尾の横側には小さな黒い(とげ)が生え、頭部に襟巻(エリマキ)のようなヒレを有しているのが特徴的な肉食モンスターだ。

 

「急なことで申し訳ありませんが、よろしくお願い致します」村長は深々と頭を下げた。

 

「わかりました! それじゃ、みんな行こう!」

 

 ソラが張り切って言うと、四人は橋を渡って、渓流へと続く道を辿り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「……でも、調査なんて、パッとしないなぁ」

 

 道中、ソラが道端の小石を蹴りながら言った。

 

「ま、これも立派な仕事だよ」レオンはソラに目を向けた。「それに、〝ハンターという仕事をきちんとやり遂げるんだ〟みたいなことを言ってたじゃないか」

 

「そういえば、そうだったね」ソラは舌を小さく出して片目を瞑った。「あぶないあぶない」

 

「でも、これくらいの調査なら、ギルドの方で出来るはずなんだけどな」

 

「うーん、これって、お父さんの代役みたいな感じかなぁ」

 

 ソラはもう一度小石を蹴った。

 

「でも、これが良い経験になるんだったら、それはそれでいいかも」

 

 蹴られた小石は、道を逸れてどこかへ消えた。

 

 

 

 十分ほどして、彼らはベースキャンプに到着したが、調査が目的で支給品は無いため、ベースキャンプを通り過ぎて、エリア1へ向かった。

 エリア1には、ガーグァが3匹だけいた。何の変哲もない、いつも通りの風景が広がっているだけだった。草を這う虫を(ついば)んでいるガーグァを横目に、彼らはエリア4へ向かった。

 

 エリア4に差し掛かる手前、甲高い鳴き声のざわめきが聞こえた。

 彼らは物陰に隠れて、フィールドの様子を確認する。

 ジャギィの群れ。十数匹はいるだろうか。(せわ)しなく動き回るものもいれば、その場にじっと居座っているものもいる。

 ジャギィは、単体なら雑魚でしかないが、群れでいるとなるとかなりの脅威となる。仲間同士の意思疎通による俊敏な連携攻撃に翻弄されるハンターも少なくない。

 

「か、かなり多いね……」

 

「確かに多いな。しかも、ジャギィノスもいる」

 

 ジャギィノスは、雌のジャギィで、灰色と橙色の躰に、垂れ下がった耳が特徴だ。雄のジャギィよりも大きいため、俊敏性は欠けるものの、突進や体当たりの攻撃力はジャギィよりも高い。

 普段、ジャギィノスはあまり見かけないが、今回ばかりは、同じエリアに4、5匹ほど確認できた。

 

「こんなに集まって……祭りでも始めるつもりなのか?」

 

「あのモンスターたちも踊ったりするのかなぁ」

 

 冗談を飛ばせるのは余裕がある証拠だが、目の前に広がる光景には余裕など無かった。ジャギィに占拠されているのだから。その光景は、「増加傾向にある」というより、「大量発生」といった方がしっくりくるものだった。

 

「ジャギィは群れで行動しているモンスターだから、多いのは普通だけど……」

 

「ここまで多いのは……何かあるわね?」ナナが言った。

 

「結果には必ず原因がある……これも表裏一体、か」レオンがぼそりと呟いた。「……でも、これだけの群れを率いるとなると、統率するリーダーの存在が必要不可欠になってくるんだよな」

 

「あ、それって、ドスジャギィ?」

 

 ドスジャギィ――別称を【狗竜(くりゅう)】という鳥竜種のモンスターで、ジャギィやジャギィノスの群れを束ねるリーダーである。

 

「あぁ。だから、奴が近辺にいる可能性は極めて高い」

 

 そんな話をしているうちに、〝奴〟は姿を現した。噂をすれば何とやら、だ。

 薄紫と橙の躰に、頭の周りの大きな襟巻。姿はジャギィを大きくしただけのようだが、強靭な四肢、鋭い鉤爪、威圧の眼光は、見る者を圧倒するほどの存在感を(かも)し出している。

 

「あれが……ドスジャギィ」

 

 いつか聞いた、〝百聞は一見に()かず〟という言葉を、ソラは思い出していた。文献にあった絵や写真でドスジャギィの容姿や大きさは把握していたが、実物を見るとそれがよく分かる。そして、写真で見るよりも遙かに大きい。

 

「よし」

 

 レオンは軽く頷くと、(きびす)を返して、エリア1に戻ろうとする。

 

「えっ? もう帰っちゃうの?」

 

「あぁ」レオンは顔だけ振り向いた。「原因が判明したからな。ドスジャギィが群れを率いてやってきた――これさえ分かれば、問題ない。それに、これ以上進んだら、あの群れに襲われるだろ?」

 

「あ、あぁ……。確かにそうだね」

 

 あの群れに突入していくのは自殺行為だ。また、群れを避けて探索を続けたとしても、どこかで遭遇する可能性も否めない。無事に帰り、報告する義務があるのだから、この判断は至極(しごく)真っ当なものであるといえる。

 彼らは、狗竜の軍団に背を向けると、足を進めた。

 

 村へとんぼ返りしたレオンたちは、ドスジャギィの出現を村長に報告した。村長の返答は、ギルドに伝えておきます、ということだった。

 しかし、ドスジャギィ討伐の命が下りそうな予感がレオンにはあった。

 ジャギィやジャギィノス、ドスジャギィたちは、縄張り意識が非常に高い。ゆえに、村人が誤って彼らのテリトリーに侵入してしまった場合、ジャギィたちに襲われ、命を落とす危険がある。人命は最も優先される事項であるため、ギルドが討伐の命を下す可能性は十分に考えられる。

 

「よし、今からユクモ農場へ行こう」レオンは提案した。

 

「へ? ユクモ農場?」ソラは呆気(あっけ)に取られたような表情になる。

 

「少しやることができたんだ」そう言って、レオンはナナに耳打ちした。

 

「……そう、わかったわ」何かを了承すると、ナナは駆けていく。

 

 ソラがキョトンとしていると、レオンは彼女の背中を押した。

 

「さぁ、早く行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 ユクモ農場は、いつもと変わらない姿を見せてくれた。変化がある部分を挙げるとすれば、農作物が成長している点だろう。

 彼らは農場の平坦な場所へ向かい、腰を下ろした。

 

「ここで何するの?」

 

 ソラが訊くと、レオンはすぐ答えた。

 

「ドスジャギィと、奴が率いる群れの掃討作戦を練る」

 

「え? どういうこと?」

 

 ソラの頭上に、たくさんの疑問符が載っかっている。レオンには、彼女の言いたいことが分かっていた。「討伐命令も出ていないのに、なぜそんなことをしなくてはいけないのか」ということだ。

 

 レオンは、先ほど考えていた、ジャギィの群れの危険性について述べた。ソラは、それを聞いて理解できたようだった。

 

「……確かに、あれだけの数がいれば、村の人たちはユクモの木も採りにいけないもんね」ソラはうんうんと頷く。

 

「まだ討伐令は出てないけど、先に作戦を練っておいても問題はないからな」

 

「うん」

 

「そこで、道具(アイテム)の説明と確認をしておこうと思う」

 

「そういえば……、アオアシラを狩ったときには、道具なんて使わなかったね」

 

「そう、身一つで掛かっていっただけだった」

 

 そのとき、ナナが大きな道具袋(ポーチ)を抱えてやってきたので、レオンは「すまないな」と言って彼女からポーチを受け取った。

 

「でも、今回は、狩猟対象が1体じゃなくて複数だ。正面からぶつかっていくだけの戦闘は危険性(リスク)を伴う。というわけで、道具(アイテム)の分類と種類、用途について簡単に説明しよう――」

 

 

 ハンターが使用する狩猟に関してのアイテムは、おおまかに、自分自身に使用するもの、モンスターに対し使用するものの、武器で使用するものに分かれる。

 

 自分自身に使用するものには、治癒回復系、能力増幅系がある。

 治癒回復系には、怪我の治癒や止血効果のある【薬草】・【回復薬】・【応急薬】、スタミナをつけることのできる【携帯食料】や【こんがり肉】、毒や火傷などの状態異常を回復するものがある。

 能力増幅系には、滋養強壮に効果のある【栄養剤】、スタミナの消費を抑えることができる【強走薬】、筋肉の働きを最大まで増強し攻撃力を高める【鬼人薬】、皮膚を硬化させ防御力を高める【硬化薬】、発汗機能を高め体温の上昇を防ぐ【クーラードリンク】、保温作用を高め体温の低下を防ぐ【ホットドリンク】、感覚器官を極限まで洗練しモンスターの位置を把握する【千里眼の薬】などがある。そのほかにも、似たような効果を持つアイテムは多数存在する。

 

 モンスターに対し使用するものには、投擲系、罠系、爆弾系がある。

 投擲系は、主に投げつけることで使用するもの。強烈な匂いと色を付着させモンスターの位置を把握する【ペイントボール】、凄まじい光量を有する【閃光玉】、モンスターの嫌う臭いを発する【こやし玉】、衰弱して罠に掛かったモンスターに投げつけることで麻酔効果を発揮する【捕獲用麻酔玉】などがある。

 生肉に毒や麻痺効果のある素材を練り込んだ【毒生肉】や【麻痺生肉】、強力な電撃で筋肉を痙攣させモンスターの動きを止める【シビレ罠】、穴に落としてモンスターを拘束する【落とし穴】などが罠系アイテムだ。

 爆弾系は、名前の通り爆弾であり、タル爆弾が主である。小さなタル爆弾から大きなタル爆弾、そして飛ぶ爆弾など……種類は豊富。

 

 武器で使用するものには、ボウガンの弾、弓矢のビン、砥石などがある。

 ボウガンの弾には属性(火、水、雷、氷、龍など)がついていたり、状態異常(毒、麻痺、睡眠など)を狙える効果のある薬品が詰まっていたりする。

 弓に装着し、矢に特殊効果を付与するビンには、状態異常を狙えるビンなどが存在する。

 

 また、調合材料としてのキノコ、魚、虫、鉱石なども、活用できるアイテムだ。

 

 

「――狩猟のときには、これらのアイテムを駆使して、強大な存在であるモンスターよりも優位に立たなければならない」

 

 ソラがうんうんと頷いているのを見ながら、レオンは続ける。

 

「ほかにも、自分で調合して作ったオリジナルのアイテムなんかもある」

 

「えっ? 何々?」

 

「例えば……」

 

 レオンは、ポーチから土の塊のようなものを取り出した。

 

「この、【泥ダンゴ】とか」

 

「ドロダンゴ……ってこれ、普通の泥ダンゴだよね?」

 

「うん、【肥沃(ひよく)な泥】と【素材玉】を組み合わせてみたんだ。これをモンスターの目に当てれば、視界を奪うことができる。しかも、粘度は普通の泥ダンゴよりも高いから、効果はかなり長く続く」

 

「それって、けっこう使えるんじゃ?」

 

「いや、難点があって……。確実に目に命中(ヒット)しないと効果が無いんだよ。目に当らなきゃ、だだの泥汚れになるだけ。これは、失敗作だった」

 

「うーん、ペイントボールみたいに色とニオイをつけてもいいんじゃないかなぁ? そしたら、目に当らなくても、モンスターにマーキングはできるよね?」

 

「あぁ……そうすればいいのか!……なるほどな、オレは基本的にペイントボールを使わないから、その発想は無かった……。作れば売れるな」

 

「ほかには無いの?」

 

「うーん、そうだな……、【捕獲用麻酔ビン】かな? 【捕獲用麻酔玉】や【捕獲用麻酔弾】はあるのに、なんで弓用の捕獲用麻酔ビンは無いんだ、と思って作ってみようとしたんだ」

 

「それで、どうなったの?」

 

「【空きビン】に【捕獲用麻酔薬】を入れただけなんだけど、普通にできたよ。でも、オレは剣士だし、使うことは無いからお蔵入りになった」

 

「わたしは弓だし、使えるよ?」

 

「そうだな。また気が向いたときに作っておく」

 

「それで、作戦はどうなるのよ」ナナが言葉を尖らせ言った。

 

「あ、そうだった。作戦を立てないとな」レオンは腕を組んだ。「……まず厄介なのは、大量のジャギィたちだ。あいつらをどうすればいいか、考えてみよう」

 

「そうだなぁ……」

 

 ソラは唇に指を当てて唸る。

 

「うーん、群れを散り散りにさせて、数匹ずつ倒していくのはどうかな?」

 

「どうやって群れを分散させるんだ?」

 

「タイガに生肉を持たせて、オトリに……」

 

「ちょ、ちょっと待つニャ!」

 

 タイガは慌てたように飛び上がった。

 

「なんでボクはいつもそういう役になるのニャ!?」

 

「え? だってタイガ、まえに『焼くなり煮るなりモンスターのエサにするなりなんなりしてほしいニャー』なんてこと言ってなかったけ?」

 

「『してほしい』なんて一言も言ってないニャ!? 『好きにして』と言ったのニャ!!」

 

「じゃあ、別に問題ないってことだよね」

 

 ソラの言葉で、タイガは黙りこくってしまった。沈黙は金。これ以上傷口を広げない方が得策だ。いや、墓穴を掘ったとも言えるが、既に墓穴は掘ってしまっている。

 

「……でも、それだと、全員が生肉を持って、一人が数匹を相手にするようにしないと。絶対に分散できるとは限らないからな」レオンが反論する。「だけど、引き寄せるっていう発想は悪くない」

 

「むぅ。それじゃ、どうするの?」

 

「生肉で、ジャギィたちを(おび)き寄せる」

 

「それだと、わたしの考えと一緒じゃん……」

 

「生肉に細工を施しておくんだ。【ネムリ草】を【生肉】と調合すると、【眠り生肉】が出来上がる。奴らがそれを食えば、瞬く間に夢の中だ」レオンは人差し指を立てる。「そして、大タル爆弾で一掃。そっちの方が、武器で攻撃するより無駄に労力を使わなくて済む」

 

「おぉ……!」ソラは掌を合わせた。「アイテムを駆使してるんだね!」

 

「でも……」ナナが話し始める。「それって、ドスジャギィがその場にいないと仮定しての話でしょう? いたらどうするのよ」

 

「あれだけの群れだと、ドスジャギィが完全に統率できているとは考えにくい。群れが大きくなれば大きくなるほど、統率力は失われる傾向にある。だから、ジャギィたちをドスジャギィから引き離すことは、そこまで難しいことじゃないと思う」

 

「……ふぅん、なるほどね」

 

 ナナは、納得したようだ。

 

「じゃ、ドスジャギィがいる場合は?」

 

「閃光玉を使ってジャギィを気絶させて、その隙にジャギィを倒す。時間的制約があるのが問題だけどな」

 

「閃光玉を続けて使えばいいんじゃ?」ソラが訊く。

 

「うーん……、それでもいいんだけど、効果が薄れるからな」

 

「効果? 薄れるの?」

 

「……まぁ、慣れっていうのかな。人間だってそうだろう? 慣れてくると、以前までは辛いと思っていたことが、辛くなくなる。普通の状態になるんだ。それと一緒」

 

「あ、あぁ、そういうことかぁ」

 

「でも、全く効かなくなるわけじゃないし、最悪、それでいこう」

 

「あとはドスジャギィだけだね。どうするの?」

 

「……ドスジャギィは、罠に()めて、集中的に攻撃するんだ」

 

「罠はどう使うの?」

 

「普通に設置するだけで大丈夫だ。ただし、落とし穴は、シビレ罠より時間がかかる」

 

「じゃ、シビレ罠を使った方がいいんだね?」

 

「うん。でも、シビレ罠が効かないモンスターもいる」

 

「モンスターによって使い分けなきゃいけない、ってことかぁ……」

 

「そういうこと」

 

 レオンは、ぱん、と手を叩く。

 

「よし、作戦の確認はこれまでだ。何が起こるかは予測できないから、詳しいことはそのときの判断に任せるしかない」

 

 そう言って、彼は腰を上げた。

 

「あとは、武器の手入れと、アイテムの準備をしよう」

 

「〝備えあれば憂いなし〟だよね?」

 

「あぁ」レオンは表情を綻ばせた。「〝転ばぬ先の杖〟とも言うな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回、狗竜軍団討伐作戦決行!

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