大魔王ゾーマ「バーバラを何とかしてやれ、ルビス」   作:Amur

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超神速の時の守護者

【天馬の塔】

 

 伝説の天馬ペガサスがいるとされる白亜の塔。

 神殿のような荘厳さの塔だが、現在は強力な魔物がはびこる危険地帯となっている。

 

 スラリンにルビスへの伝言を頼んだゾーマはロトゼタシア世界(DQ11)からやって来た勇者イレブン一行に会うため、天馬の塔にやってきていた。

 

「そろそろ頂上に行くか」

 

 

 イレブンたちは天馬の塔を登ったまま帰ってこない管理人のじいさんの様子を見るため、頂上までやってきていた。

 塔の頂上には天馬ペガサスの像が安置されている。像は天馬の心を持つウマと合体し、真の姿を取り戻すと言われているが、現在は何者かが仕組んだ邪悪な魔力の影響を受け、誰であれ近づくものと強引に合体しようとしていた。

 

 先程、じいさんが天馬の像と合体して魔物と化してしまったが、イレブンたちが懲らしめたことで、元の像と人間に分離させることが出来た。

 

「やれやれ、人間がウマの像と合体するなんておかしなこともあったもんだぜ」

 

 珍妙な出来事に青いツンツン髪の青年――カミュが疲れたように言い放つ。

 

「あれ、誰か来るよ?」

 

 サラサラヘアーの青年――イレブンが下の階から誰かがやってくるのを感じて振り向く。

 

 

「おじいさーん! もウ マちきれなくて来ちゃいましたー! ウマだけに!」

 

 飼い主のじいさんが戻ってこないことを心配したウマが塔の頂上までやってきた。

 

「おおっ、お前はわしの飼いウマ! すまんのう、心配させてしまったか……」

 

 そこまで言ったところでじいさんは天馬の像の方を急いで振り向く。

 

「しまった! まだ邪悪なチカラは残っておる! ダメじゃ! いまこっちに来ては――」

 

「え……? ヒヒヒーーーーーン!!」

 

 じいさんの警告も一歩遅く、天馬の像に近づき過ぎたウマは引き寄せられ、強引に合体させられてしまった。

 ペガサスもどきがあらわれた――が、そのとき周囲の空気が変わった。

 

「な……に……あれ……?」

 

 いち早く気が付いたのは赤ずきんのような少女――ベロニカだった。

 突如として塔の上空に現れた凄まじい威圧感を放つ何者か。

 目の前のペガサスもどきなど比較にならない存在の出現に、イレブンたちはすぐさま戦闘態勢に移る。

 

「おいおいおい、なんだありゃあ!?」

 

 カミュが驚愕の声を上げる中、その者はゆっくりと一行の前に降り立った。

 

「とてつもない闇のチカラを感じます。まさか……邪神ニズゼルファ!?」

 

 長い金髪の少女――セーニャが正体を推測するが、それは当たらずとも遠からずといったところだ。

 彼こそはイレブンたちが会うはずのない異世界の大魔王――すべてを滅ぼす者ゾーマ。

 

 

「ヒヒヒーーーーーン!!」

 

 存在を忘れられているペガサスもどきがいななきを上げ、飛びかかって――

 

「邪魔だ」

 

 ドオン!

 

「――ブフゥオッ!?」

 

 飛びかかってこようとしたペガサスもどきはゾーマのサイコキャノンを受けて吹き飛んだ。

 ペガサスの像とじいさんのウマとの合体が解除された。

 

「おお! 助かったか、ウマよ!」

 

「ヒヒー……いえ……死にそうです……」

 

 倒れて起き上がれないウマだが、話す元気がある程度には手加減をされたようだ。

 

「わしが言うのも何だが、回復してやったらどうだ?」

 

 倒れたウマを見下ろして冷静に言う大魔王。

 

「そ、そうですね……」

 

 セーニャが引き気味に答えた。

 

 

「おお……天馬の像からの邪悪な気配も消えた。これでもう像が見境なく合体することはないじゃろう……う――!」

 

 ホッとした様子で向き直るじいさんだが、勇者一行と大魔王の放つ空気に息を呑んだ。

 

「おじいさん……あなたはウマと一緒に下に降りていたほうがいいわ」

 

 ベロニカがじいさんを安全な場所まで下がるよう促す。

 

「そ、そうさせてもらおうかの。この場にわしらはお邪魔の様じゃからな」

 

「ひ、ヒヒーン!」

 

 そそくさとじいさんとウマは塔を降りていった。

 

 

 悠然と異世界の勇者一行を見渡す大魔王ゾーマ。

 ベロニカは自分だけ見られている時間が長いように感じたが、気のせいだろうと考えた。

 

「お前は……邪神ニズゼルファか?」

 

 一行を代表して、そして勇者としてイレブンが正体を確認する。

 ベロニカも前に出てきて勇者の隣に並ぶ。最初に大魔王の姿を見たときは気圧されてしまったが、すでにその顔は毅然とした表情に変わっている。

 

 ――魔法使いとして強い威圧感を感じているだろうに、その小さな体でも怯まずに睨んでくるか。ふふふふ、それでこそベロニカだ。

 

 内心で満足気に頷きながら、返答する大魔王。

 

「それは違うな。わしの名はゾーマだ」

 

「ゾーマ……? 聞いたことがない名前だな」

 

 カミュが少しホッとしたように言う。目の前の存在が邪神ニズゼルファとは違うと分かって、少し安心したのだろう。

 だが、魔力や闇のチカラを感じることができる魔法使いと僧侶の姉妹、そして勇者は警戒を緩めない。

 

「わしの名を聞いたことがないか。まあ、そうであろうな」

 

 ――やはりロトゼタシアにこの名は知れ渡っていないか。ゾーマを倒すために生み出されたという説もある『メラゾーマ』がある点からDQ11の時代にすでにゾーマ(オレ)が存在している可能性はあるがな。

 

「それで、そのゾーマさんがどんな理由でいきなり現れたんだ?」

 

「いきなり現れたのはそなたたちの方だろう」

 

「!?」

 

「わしがこの世界全体を観測していたところ、そなたらがこの天馬の塔に現れた」

 

「……」

 

「わしが見たところ、四人ともこの時代の者ではないな。異なる時空よりやってきた来訪者であろう?」

 

「……そうだよ。ボクたちはこことは別の世界から来た」

 

 イレブンは自分たちがロトゼタシアという世界から来たこと。

 この世界を含めて、複数の世界で歴史が歪む事象が発生しているため、それを正しい状態に戻すために旅をしていることを説明した。

 

「そうか」

 

「けど、よく私たちが別の世界から来たってわかるわね」

 

 ベロニカがすぐに自分たちの素性を看破した大魔王に警戒したまなざしを向ける。

 

「この世界でわしに知らぬことはない」

 

「そう言うってことはあなたはこの世界の神様か何か?(見た目はこれ以上ないくらいに魔王っぽいけど)」

 

「神……ではないが、同居している者がこの世界を見守る精霊ではあるな」

 

「つまりいきなり異世界から現れたボクたちの目的を確認しに来たということ?」

 

「まあそんなところだ」

 

「別にオレたちを襲いに来たわけじゃないのか?」

 

「特にそんなつもりはない」

 

「ほー……すまねえ、ちょっとタンマだ」

 

 カミュが軽い感じで作戦会議を申請する。

 

「かまわん」

 

 許可をもらえたので、こっそりと話し合う一行。当然、ゾーマは超感覚ですべて聞こえているのだが、空気を読んで何も言わない。

 

「(あいつの言葉を信じるならとりあえず大丈夫か?)」

 

「(いやいや、大丈夫なわけないでしょ。魔力だけじゃなく、あの額の大目玉とかヤバいわよ。もっと見た目で判断しなさい、見た目で)」

 

「(見た目で判断したら、お前なんかただの子供だろう)」

 

「(それならアンタなんかただのチンピラでしょ)」

 

「(なんだと、このガキ!)」

 

「(なによ!)」

 

「(お姉さまも、カミュさまも喧嘩しないでください!)」

 

「(見た目はともかく、全身から発せられる威圧感は尋常なものじゃないよ)」

 

「(私もイレブンさまに同意します。あのゾーマという方からはとてつもない闇のチカラを感じます。それこそ、私たちが倒したウルノーガすら凌駕するほどの……)」

 

「(よし、それなら直接聞いてみるか)」

 

「(え、あんた直接聞くって……)」

 

 

「待たせたな、タイム終了だ。ところで、あんたにちょっと聞きたいんだが」

 

「なんだ?」

 

「オレはあんま感じないんだけど、ウチの仲間たちがアンタからとんでもない闇のチカラを感じるって警戒してるんだよ。さっきの話だと、別に悪いことを企んでるんじゃないんだよな?」

 

「なるほどな……」

 

 ゾーマはその質問に少し思案してから答えを返した。

 

「まず、そなたらは思い違いをしている」

 

「思い違い……? 何についてだ?」

 

「そなたらは闇に属する者を悪のように考えているようだが、闇が悪なのではない。たまたま闇が得意なものに悪が多いだけだ」

 

 悪の根源、闇の大魔王ゾーマは語る。

 

「む……」

 

 その言葉に勇者イレブンは考え込む。

 

「考えてもみよ。闇のない光だけの世界ではそなたらは満足に眠ることも出来んだろう。光も闇もどちらも揃った状態こそ自然なのだ」

 

 かつてアレフガルドから光を奪い去り、永遠の闇の世界(不自然な世界)に変えた大魔王ゾーマは語る。

 

「……そうね。闇そのものは決して悪ではない。そのことは分かっているつもりだったんだけど」

 

 ゾーマの言葉に納得の表情を見せるベロニカ。

 魔女っ娘に見た目がヤバいと言われてひそかにショックを受けていた大魔王だが、その態度に満足気だ。

 

 ただ、この場に精霊ルビスがいれば“お前が言うな”と激しいツッコミが入ったことだろう。

 

「闇に属する者にはニズゼルファのような悪もいれば、そうではない存在もいるということですね」

 

 ――個人的にはニズゼルファは善も悪もない存在で、ラスボスを張っていたころのゾーマこそ悪の親玉だと思うがな。

 

 それからも勇者一行はしばらくゾーマと話したことで、このままロトゼタシアに帰っても問題ないだろうという結論に至った。

 

 

「ところでさっきの黒い球を飛ばしたやつは何? 魔力を感じたから呪文だと思うけど……何の呪文かまったく分からなかったわ」

 

 大魔法使いを自称するベロニカが未知の魔法に興味を引かれて尋ねる。

 

「あれはサイコキャノンという呪文だ。無属性高威力で使い勝手がいい」

 

「へえー、無属性! それは珍しいわね」

 

「なんなら覚えてみるか?」

 

「え? いいの?」

 

「これも何かの縁だ」

 

 ――DQ11には他にも無属性呪文があるしな。この程度ならかまわないだろう。

 

 さりげなくベロニカ贔屓をする大魔王。

 

 

 ベロニカは【サイコキャノン】を覚えた!

 

 

ーーーー

 

【ロトゼタシア】

 

 勇者イレブン一行の故郷であるドラゴンクエストⅪの舞台となる世界。

 世界の中心にはロトゼタシアに生きるすべての命の源とされる巨大な樹――命の大樹が浮かんでいる。

 そんな偉大な世界樹が……恐怖に震えていた――。

 

 

「なるほど。これが命の大樹か。なかなか興味深いな」

 

 未来の世界から大魔王ゾーマが観光気分で乗り込んできたのだ。

 イレブンたちが天馬の塔からこの世界に帰還するときに、時空の流れを観察することで、ロトゼタシアにやってくることができた大魔王。

 

 ゾーマの全身から立ち昇る闇のオーラは大樹にとってまさに天敵。

 自身にとって毒の塊にも等しい存在に物見遊山で散歩をされては命の大樹(聖竜)もたまったものではない。

 いまは少しでも早く大魔王が去ってくれるように、ただの木のフリをしてやり過ごそうとしていた。

 

 ――この大樹(聖竜)の系譜がいずれ闇に染まり、竜王になるのか。なかなか感慨深いな。……いや、竜の女王の子である竜王が闇に染まったのはゾーマの呪いとの説もある。詳細は不明だが、仮にここで闇の祝福を与えて呪い耐性を付けたら未来は変わるのだろうか?

 

 なにやら思案しながら、じろじろと見てくる大魔王に大樹は気が気でない。

 

「まあ、やめておくか。それは無粋というもの」

 

 とりあえずおかしな企みはしなさそうだと、ホッとする命の大樹。

 

「ではな、大樹よ。気が向けばまた来る」

 

 二度と来ないでくれと思いながら、ただの木のフリをする大樹。

 もちろん、ゾーマは大樹に聖竜の意思があることは知っているが、無反応に対して特に気にはしていない。

 

 

「さて、次はどこに行くかな。イレブンたちから聞いた話ではウルノーガはすでに倒したらしいな」

 

 ――その状況でベロニカがいるということは歴史改変後か。残念ながら目ぼしいイベントは終わっているな。人魚のロミアの話など好きなんだがな。あの最期には凄絶な“美”を感じた。まさに死にゆく者こそ美しい……。

 

「となれば、せっかくのロトゼタシアだ。あそこに行ってみるか」

 

 

ーーーー

 

【黒い太陽】

 

 邪神ニズゼルファが肉体を取り戻したときに生まれた、かの者のチカラで維持される異空間。

 招かれざる者は覚醒した神獣ケトスのチカラを借りなければ侵入することは出来ない。

 

 

「ふむ……。予想はしていたが、特に抵抗なく入れたか」

 

 だが、大魔王ゾーマは自宅にでも帰宅するような気軽さで黒い太陽内部に入っていった。その中は闇がどこまでも広がる世界。星が瞬き、岩石が浮かぶまるで宇宙空間のようなところだった。

 

 

『誰だ……?』

 

 

 異空間に響く暗くおぞましい声。

 

 突如として何もない空間から巨大な物体が現れた。

 顔には白いマスク、甲殻類のような鎧で全身を覆い、右腕はハサミ、左腕にはガトリングガンのようなものを付けている。

 

 彼こそがロトゼタシアの歴史に太古から語り継がれる邪神――ニズゼルファ。

 

『結界が破られた感じはしなかった。どうやってこの空間に入ってきた……?』

 

「あれは光の者を拒む結界。だから闇の世界を支配するわしを拒まなかったのであろう」

 

『なに? 闇の世界を支配する者……』

 

 ニズゼルファがじっとゾーマを観察する。

 容姿こそ自身とは似つかないが、悠然と佇む中にも感じられる圧倒的な闇のチカラ。

 

 それを見た邪神はカッと目を見開いた。

 

「我が名はゾーマ。そなたならわしの言葉が真実と理解できるだろう」

 

『ああ……わかるぞ。たしかにお前は闇を支配する者……!』

 

「うむ」

 

『よくぞ来てくれた! 歓迎しよう、ゾーマよ!』

 

 ――思った以上の歓迎ぶりだ。こんなキャラだったか?

 

 邪神ニズゼルファ。

 闇が大好きな彼だが、いままでは自分が生み出した配下以外でそれに賛同してくれる存在がいなかった。

 思いがけず同志に会った邪神はかつてないほどにテンションが上がっていた。

 

 

 

「なるほど。それはたしかに聖竜が悪いな」

 

「そうだろう! 我の闇の世界をどこからかやってきた奴が光で満たしおった! まあ、激怒した我の前に聖竜など敵ではなく、始末してやったがな」

 

 大魔王と邪神はちゃぶ台を囲って談笑していた。(内容は創世神話レベルだが)

 

 

「ん?」

 

「どうした? ゾーマ」

 

「ニズよ。あちらの方にこの黒い太陽のような異空間が出現しているぞ」

 

 ゾーマが示した方角を見てニズゼルファが得心したように頷く。

 

「あれか。たしかに少し前からあるな。歴史改変前には存在しなかった空間だ」

 

「ふむ……」

 

 ――もしかしてオレがこの時代に来たせいで発生したゆがみか? 気になるな……。せっかくのハッピーエンドを万が一にも壊させるわけにはいかない。

 

「興味がある。中を覗いてくる」

 

「近いうちに確認しようとは思っていた。この機会に我も行こう」

 

 

ーーーー

 

 時空のひずみ――

 

 

 虚空に発生した謎の異空間に突入したゾーマとニズゼルファはそこの主たる存在と遭遇していた。

 

 

「ぐおおおっ……許さん、許さんぞお……!」

 

「このような世界など我らは決して認めぬ! 闇が世界を覆った失われし時こそこの世界のあるべき姿……」

 

「それをねじ曲げ、魔が繁栄せし世界を……我らを否定し生きる者どもよ! 我らは決してお前たちを許さん!」

 

 その姿は歴史改変前に存在した魔王ウルノーガの最終形態に酷似していた。

 細長い胴体を持つ骨の魔人と骨の竜人が一体となっている。

 だが、本来の色とは異なり、全身が金色に輝いていた。

 

 黄金の骨の魔人が『失われし時の怨念』

 黄金の骨の竜人が『失われし時の災厄』

 

 勇者イレブンが歴史を変えたことにより生まれた、改変後の世界のすべてを恨む時の復讐者だ。

 

 

「どうやら、我や勇者が歴史を改変したことで発生したウルノーガの怨念らしいな」

 

「そなたに聞いた魔王か。さしずめこいつはゴールデンウルノーガといったところだな」

 

「往生際の悪いことだ」

 

 

「我らこそ世界を滅ぼす怨念にして災厄なり! 今度はお前たちの時を食らい尽くし、すべてを無に帰してくれるわっ!」

 

 

「わしらを前にしても目がうつろで、意識が恨みにしか向いておらんな」

 

「しょせんは具現化した妄執よ。チカラの程度はともかく、これならばまだウルノーガ本人の方がマシであった」

 

「では引導を渡してやるがよかろう」

 

「ああ。そうしよう」

 

 

「グオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 失われし時の怨念と災厄が襲い掛かってくるが、邪神と大魔王は冷静に構えている。

 

 

「お前の時間は我のもの」

 

 ニズゼルファが失われし時の怨念から時間を奪い取った。

 

「!?」

 

 時の怨念は時間停止世界に囚われた。

 時の災厄は行動可能だが、相方が突如として行動不能となり、一瞬の動揺が生まれる。

 その隙を逃さず、ゾーマの呪文が炸裂する。

 

「サイコストーム」

 

 1発でムドー城を半壊させた無属性魔法サイコキャノン。

 サイコストームはそれを5発連続で発射する超呪文だ。

 ここが異空間でなければ、この呪文だけでとてつもない被害が出ていただろう。

 

「グアギャアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 あっという間に骨の竜人の身体が崩壊していき、激しい咆哮を上げる。

 

 ドンドンドンドン!

 

 更にニズゼルファが左腕から魔力の弾丸を連射して追撃する。

 

「アギギイイィィ――ギアアアアア!」

 

 時の災厄が苦し紛れにれんごく火炎を吐き出した。

 

「カアッ!」

 

 しかし、ゾーマが吐いた猛烈な吹雪が炎を相殺する。

 その間にニズゼルファは魔力を集中させていた。

 

「ニズゼフレア」

 

 骨の竜人の全身で闇の魔力が爆発する。

 

「アギャアアアアアアア!」

 

 ニズゼフレアの爆発に時の災厄が飲み込まれた時点で、時間停止状態だった時の怨念が動けるようになった。

 しかし、片割れの骨の竜人はもはや虫の息だ。

 

 世界への復讐にのみ思考の大半を費やしていた時の怨念は、己が滅ぼされようという段階でようやく目の前の存在に意識を向ける。

 眼前の敵を呪い殺さんばかりに睨みつけるが、ゾーマとニズゼルファにはそんな憎悪の視線など何の意味もなかった。

 むしろゾーマに至っては憎しみが増すほどにそれを食らい、糧にすらしている。

 

「魔王ウルノーガの怨念よ。一度は我が肉体を破壊した貴様に敬意を表して言っておこう」

 

 何の感情も伺えない邪神の声が響き渡る。

 

「貴様は決して弱くはない。その身から感じるチカラは、このニズゼルファだけであれば、苦戦は免れなかったと感じさせるほどだ。そのことを誇ってもよい」

 

 

「グオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 失われし時の怨念は更なる憎悪をたぎらせ、チカラをみなぎらせた。

 瀕死の失われし時の災厄もそれに呼応し、残ったすべての魔力を供給する。

 

 

「ほほう……」

 

「なかなかの魔力だ。しかし無駄なこと」

 

 骨の魔人の奥の手を前にしても邪神と大魔王に動揺は見られない。

 

 

 

「「さあ我が腕の中で息絶えるがよい」」

 

 歴史の復讐者に静かなる死刑宣告が下された。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ニズゼルファは両腕を空へと掲げる。

 時空の彼方から超巨大な炎を呼び寄せた。

 

 ゾーマが腰を落とし、膨大な魔力を練り上げる。

 時空間すら凍てつくような冷気を両腕に集中させた。

 

 

「カオスマダンテ!!!」

 

 失われし時の怨念と災厄はすべての魔力を解き放った。

 その恐るべき大魔法にはよほどの神や魔王でも為す術がなかっただろう。

 

 だが――眼前にいる両者は真なる闇の支配者。

 

 

 ───終末の炎

 

 世界を焼き尽くす邪神の獄炎が解き放たれた。

 

 ───マヒャドストーム

 

 世界が凍てつく大魔王の冷却呪文が放たれた。

 

 

「ーーーーーーッ!!!」

 

 邪神の炎と大魔王の冷気はカオスマダンテごと時の災厄と怨念を飲み込み、断末魔を上げる間もなくすべてを消し去った。

 

 

 

「ウルノーガめ……これでもう復活することもあるまい」

 

 マスクを被っているので、いまいち感情が分かりにくいが、どことなく満足気に見えるニズゼルファ。

 改変前の歴史で自身の肉体を破壊したウルノーガにはやはり怒りがあったらしい。

その怨念を直接、叩き潰せて嬉しいのだろう。

 

「ん? なんだ、これは」

 

 時の災厄と怨念が滅んだあたりに砂時計が落ちていた。

 

「数字が刻まれた砂時計か。討伐速度……測定不能?」

 

 何に使うかは分からないが、とりあえず砂時計を拾っておくゾーマ。

 

 

「ではな、ニズよ。わしはそろそろ元の時代に戻る」

 

「む、そうか……」

 

 そこはかとなく残念そうなニズゼルファ。

 

「縁があればまた会うこともあろう」

 

「ああ」

 

 

ーーーー

 

 

 そして元の時代のルビスの城に戻ってきたゾーマだが――

 

「……それで?」

 

「ヨッチ村経由でゾーマの魔力の残滓を追ってこの時代に辿り着いたというわけだ」

 

 何故か目の前に黒い精霊(ヨッチ族風)の姿になった邪神ニズゼルファがいた。

 

「その姿ということは、そなた負けたのか?」

 

「うむ。お前と別れた後で黒い太陽に戻ったのだが、すぐに勇者たちが現れてな。消滅寸前までやられたが、なんとかこの精神体だけは脱出することが出来た」

 

「なるほどな」

 

 ちなみにニズゼルファとの戦いでベロニカはどこかの誰かに教えられたサイコキャノンをバシバシ炸裂させた。

 

「というわけで、しばらく厄介になるぞ」

 

「……まあ、かまわんか」

 

 

 この後、勝手に同居人(邪神)を増やしたことで、ルビスにめちゃくちゃ怒られた。

 




精霊ルビスの城・元客間(現ゾーマの部屋)

・住人一覧
大魔王ゾーマ
スラリン
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