大魔王ゾーマ「バーバラを何とかしてやれ、ルビス」   作:Amur

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前回(5話)を投稿した後で一気にお気に入りや高評価が増えて震えています。
皆様、たくさんの感想や評価、お気に入りをありがとうございます!


過ぎ去りし時を求めて

【海底の宿屋】

 

 海の魔王グラコスの居城『海底神殿』から南下したところにある、名前の通り海底にある宿。

 

「見つけたぞ! 魔王グラコス! さあ、観念しろ!」

 

 レックが宿屋のカウンターに潜んでいたグラコスを発見して剣を突き付ける。

 

「ブクルルルー! ゆ、勇者たちか!?」

 

「まさか宿屋に隠れているなんてね。普通は気づかないわよ」

 

 バーバラが感心しているのか、呆れているのか微妙な顔で言う。

 

「そうであろう! 沈没船やほこらではなく、あえてこの宿屋に潜んでいたのを何故気づいた!?」

 

「私たちには百発百中の占い師がついているのよ」

 

「グランマーズさん凄すぎないですか? 世界のどこにいてもあの人からは逃げられませんよ」

 

 ミレーユが自慢げに胸を張り、アモスがグランマーズの占いを超えた超感覚に戦慄する。

 

「つーかよ、グラコス。宿屋に隠れるって、魔王の誇りはねえのかよ?」

 

「黙れ! 誇りなど不要、最後に勝てばよいというのが我が主――幻魔王デスタムーア様のやり方だ! 宿屋だろうが犬小屋だろうが関係あるか!」

 

「幻魔王?」

 

「デスタムーアだと?」

 

 レックとハッサンが聞きなれない名前に顔を見合わせる。

 

「げはっ! いかん、また余計なことをしゃべってしまった!」

 

「なるほどな。そいつがムドーやジャミラス、てめえのボスってわけか」

 

「ぐぬぬぬ! こ、こうなれば自棄だ! 勇者の仲間の一人くらい道連れにしてやる!」

 

 ブクルルルルー!

 

 誇りは不要と言いつつ、最後の意地か、命乞いや再度の逃亡はしない魔王グラコス。

 やけくそになってレックたちに襲い掛かってきたが、一行は落ち着いて迎え撃つ。

 

 

「災難でしたね、お二人とも」

 

 縛られている宿屋の夫婦を助けるチャモロ。

 

「あ、ああ。こんな辺鄙な宿だ。今までは平和にやっていたんだが、あの魚の魔物が突然やってきて、ここに隠れさせろと」

 

「そこらの魔物なら負けやしないんだけど、あいつはマヌケっぽいくせに妙に強くてね」

 

「ああ見えてあいつは魔王の一角らしいです。強いのも当然でしょう」

 

「魔王だって!? そんなのがこんな宿屋を襲ってんじゃないよ!」

 

 宿屋のおかみさんがもっともな理由で怒りの声を上げる。

 

 

 ――ぐぶっ!

 

 

 そうこうしているうちにグラコスの断末魔が聞こえた。

 海の魔王が倒れたことで、封印されていた魔法都市カルベローナが復活することとなる。

 

 

ーーーー

 

 スライム格闘場――

 

 

「おお、ゾーマの大将! 久しぶりだな。いよいよブリーダーとしてデビューするのかい?」

 

「あらくれか。その通り、今日がデビュー戦だ」

 

「ピキー!(やってやりますよ!)」

 

「す、スライム!? 上位種じゃなくて、ただのスライムで参加するのか!?」

 

「うむ。スライムのスラリンだ」

 

「てっきり大将のことだから、噂に聞く宇宙要塞メタルスターか、はぐれメタルキングあたりを連れてくるかと思ったが……」

 

「ただのスライムで勝ち進むのが面白いのだ」

 

「なるほど。そうかもしれねえな」

 

 

 

「あらくれのアニキ! 次の試合はどいつに賭けますか?」

 

 舎弟のモヒカンがあらくれに尋ねる。

 

「……全部だ」

 

「え? 何がですかい」

 

「あのスラリンというスライムの勝ちに全財産をぶち込む」

 

「はあっ!? 正気ですかい! いくら一番下のAランクだからって、スライムに全財産って……当たるわけないですよ!」

 

「男にはいつか一世一代の大勝負の日が来る。オレにとっては今日がそれさ」

 

「あ、アニキ……」

 

 

 この日、スライム格闘場には二つの伝説が生まれる。

 一つ目はスラリンの名を持つ最強のスライムのデビュー。

 二つ目は後に賭博王と呼ばれる男――あらくれが成り上がる第一歩であった。

 

 

ーーーー

 

 ルビスの城――

 

 

「いいですか、ゾーマ。勇者たちとの会談中には絶対に出てこないでください。私が大魔王と手を組んでいると誤解されるのはマズいですからね」

 

「わかったわかった。そう何度も念を押さずともよい」

 

 勇者一行がルビスの城を訪れようとしているため、ゾーマと鉢合わせしないよう事前に打ち合わせをする精霊と大魔王。

 

 

 

「レックとその仲間たちですね。私にはあなたたちがやがて来ることがわかっていました。私はルビス。この世界を見守る者です」

 

 穏やかに微笑みながら勇者たちを玉座の間で出迎える精霊ルビス。

 一行はその神々しい姿に畏まっていた。

 

「世界を見守るもの……って神さまみたいなものなのか……?」

 

「ここまで来れたのもルビスさまとゲントの神のお導きがあったからというわけですね」

 

「……」

 

 そのときバーバラの様子がおかしいことに気が付くレック。

 

「どうかした? バーバラ」

 

「……いや、なんだかとてつもないものに見られているような気がして」

 

「グラコスの野郎が言ってたデスタムーアってやつじゃないか? 魔王を三体も倒されて警戒してきたのかもよ」

 

 会話を聞いていたルビスがはっと何かに気が付いたような素振りを見せ、キッと虚空を睨みつける。

 

「……あら? 見られている感じがなくなったわ」

 

「ルビス様が加護を与えてくれたのではないですか?」

 

 精霊ルビスの加護がデスタムーアの邪悪な視線を跳ね除けたのではと予想するチャモロ。

 

「……んん。そうですね、もう大丈夫です。ガツンと言っておきますので」

 

「ガツンと言っておく――?」

 

 

「――世界の行く末はあなたたちの働きにゆだねられています。ゆくのです。そして解き明かすのです。世界のすべてをくまなく回れば何をなすべきか分かることでしょう。私はいつもあなたたちを見守っています」

 

「はい! ルビス様。必ずや全ての謎を解き明かし、世界を平和に導いてみせます!」

 

 代表してレックが勇者に相応しい勇ましさでルビスの言葉に応える。

 

 

 一方、そのころのゾーマは額の大目玉(サードアイ)を使ってバーバラたちをストーキング観察していた。

 

 ゾーマの大目玉(サードアイ)は非常に高性能で、多少の未来予知に加えて世界すら越えた千里眼を可能としている。

 これにより、かつては地下世界アレフガルドの玉座にいながら地上にあるアリアハンの王城をも捕捉していた。

 

 現在はその機能を同じ城の中にいる未来の大魔女(+他の仲間)に使用するという盛大な無駄遣いをしているが、本人は満足気だ。

 

「ふむ……。どうやらわしが修行をつけた後もかなり鍛えたようだな」

 

 しばらく勇者一行を観察していると、あるときルビスが上を見上げ、こちらを睨みつけてきた。

 

「……どうやらバーバラがわしが見ていることを察したらしいな。さすがの感知力と言ったところだ」

 

 ルビスが睨んでくるので渋々、観察をやめるゾーマ。

 

「やれやれ……。しかし、あれならデスタムーア以外には後れを取ることはあるまい。デュランも弱くはないが、いまの勇者一行の方が上か」

 

 勇者側、魔王側の戦力を分析しながら何気なく世界を見渡していると、ある建物を見たときにゾーマの動きが止まった。

 

 それは地上のどの建物よりも高い塔だった。

 頂上には今にも動き出しそうな天馬の像が飾られている。

 

 その塔の入り口から四人の人間が入ってきた。

 

 一人目は紫のコートを着たサラサラヘアーの青年。

 二人目は赤い帽子に赤いスカートを身に着けた赤ずきんのような少女。

 三人目は全体的に緑色の衣装で揃えた長い金髪の少女。

 四人目は逆立った青いツンツン髪のどこか勇者レックに似た青年。

 

 ――ロトゼタシア(DQ11)の勇者一行!? なぜ……いや、そうか! ヨッチ村のクエストか!

 

「まさかこの世界であの連中を見ることが出来るとはな。しかも、パーティーにベロニカ(赤ずきん風の少女)がいる。わかっているな」

 

 大魔王は魔女っ娘が好きだった。

 

「ここでベロニカがいるのは時系列的にどうだったか?……場合によっては一時、ロトゼタシアまでついていって代わりにわしが魔王ウルノーガを滅ぼしてくるのもありか」

 

 異世界の魔王が聞いたら真っ青になりそうなことをさらっと考えるすべてを滅ぼす者。

 

「せっかくだ。直接、会いに行ってくるか」

 

 まさか伝説の大魔王に観察されているとは思わない過去世界の勇者一行。

 またもや正史ではありえなかった邂逅が起ころうとしていた――。

 




魔王ウルノーガ「嫌な予感がする……!」



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