大魔王ゾーマ「バーバラを何とかしてやれ、ルビス」 作:Amur
「さあ遠慮はいらぬ。どこからでもかかってくるがよい」
「いや、ちょっと待ってくれ。たしかゾーマだったか? 唐突過ぎてついていけねーよ。何でオレたちに修行をつけるって話になってんだ?」
ハッサンがもっとも過ぎる疑問を投げかける。
「簡単なことだ。このままではそなたらの冒険は厳しいものになる。そこでこのわしが少しだけ手を貸してやろうというわけだ」
「なんだって? オレたちはこれでもムドー、ジャミラスといった魔王を倒してきた勇者パーティーなんだぜ?」
「知っておる。その上で言っているのだ」
「はあ、そうかよ……」
「この方は前にハッサンとアモスがダーマ神殿で会ったという魔族よね?」
「そうだぜ、ミレーユ。魔族だが、悪いやつじゃあないらしい」
「なぜ魔族のあなたが私たちに協力するのですか?」
チャモロが純粋に疑問だと問いかける。
「多くは語らぬが、そなたらが魔王どもに敗北するのはわしとしてもよくはないからだ」
「魔族の中でも色々あるというわけですか……」
「(魔族たちの権力争いかしら?)」
「(おそらくそれに近いと思います)」
「(それならば敵の敵は味方と考えていいのでは?)」
アモスがミレーユとチャモロの密談に参加する。
「(簡単に信用は出来ないけど、こちらから敵対する必要もないわね)」
「(そうですね。ダーマ神殿の大神官様のお言葉もありますし、未来はどうなるかわかりませんが、当面はこちらと利害が一致しているのでしょう)」
「稽古をつけてくれるんだったら、私は別にいいと思うけどね~」
赤い髪をした小柄な少女が楽天的な発言をする。
彼女こそ歴代の味方キャラの中で最高の魔力を誇る魔法使い。
魔法都市カルベローナのすべてを受け継ぐ者にして未来の大魔女――バーバラだ。
――おお……バーバラ……やはり一際輝いているな。ミレーユもまさに傾国の美女といった容姿だが、バーバラは何かが違う。これは大魔王としてその身に秘めた魔力を感じているのか?
「あなたはどう思う? レック」
バーバラが傍らの青年に問いかける。
逆立つ青髪に意志の強そうな瞳の戦士。
彼こそがレイドック王国の王子であり、当代の勇者――レックだ。
――勇者レック。近い……バーバラと距離が近くないか? この時点でもうそんな関係だったか? なにやらイラっとするが、これは嫉妬しているわけではなく大魔王から勇者への正当な感情で……。
誰に言っているのか自分の中で謎の言い訳を始める天下の大魔王。
「ボクもいいと思うよ。それに……何もしないでは帰ってくれなさそうだ」
言葉と共にレックがゾーマを正面から見据える。
――あの目。あの目だ……。曇りなき、何者にも屈しないと感じさせる輝き。血が繋がっているのかはわからん。だが――
「たしかに似ている。あの男と……」
「あの男? ボクが誰かに似ているのか?」
「む?」
――あの男……勇者ロトに似ていることを無意識の内に口に出してしまったか?
「なんでもない。古い知り合いに似ているかと思ったが、勘違いだ」
「? そうか」
「さて……異論はないようだな? そろそろ始めるとしようか」
「よーっし。じゃあまずはオレからいかせてもらうぜ」
「お前からか、パイナップルよ」
「その呼び方止めろって! オレにはハッサンって名前があるんだよ!」
「そうか。ではハッサンよ、一人でよいのか? まとめてかかってきても構わんぞ」
「ヘっ! ずいぶんな自信だな。じゃあいっちょ、お手並み拝見といきますか!」
うおおおおおおお!
雄叫びを上げて突っ込んだハッサンは飛び上がり、とびひざげりを放った。
だが、ゾーマに命中する瞬間、その姿がフッとかき消えたことで空ぶってしまう。
「どこにいった――!?」
「後ろだ! ハッサン!」
着地する瞬間に聞こえたレックの声を信じ、即座に振り向き、その勢いを次の攻撃に繋げる。
「まわしげり!」
ドオン!
激しい打撃音が聞こえたが、渾身の蹴りはゾーマの右手で受け止められていた。
「ハア!? ウソだろ、その見た目で魔法タイプじゃねえのかよ!」
「いや、そなたの見立ては正しい。わしは魔法タイプだ――ドルマ」
まわしげりを防いだのとは逆の手から暗黒弾がハッサン目掛けて放たれた。
「ぐああああああ!」
ドルマによって上空に吹き飛ばされるハッサン。
「ハッサン!」
レックがそちらに駆け寄ろうとするが、それを大魔王は待たない。
「やはり全員まとめて相手をしよう。いくぞ――」
ゾーマが軽く手を前に振ると、パーティーの上空に無数の氷柱が降り注いだ。
「いけない! マヒャドよ!」
ダーマ神殿でいえば上級職の賢者にしか使えない高等呪文だと察知したミレーユが警告する。
「あたしに任せて!――ベギラゴン!」
バーバラがギラ系最強呪文ですべての氷柱を相殺する。
「見事だな、魔法使い。まさかわしの呪文を相殺するとはな」
ただの優秀なだけの魔法使いであれば、ベギラゴンですら大魔王の氷結呪文に抗えず、氷漬けにされていただろう。
なぜ対抗できたか? それは彼女がこの時点においてもその片鱗を見せる――未来の大魔女バーバラだからだ。
ラスボスや裏ボス、主人公たちが入り乱れたある作品において、大魔女として覚醒したバーバラは人間キャラで最高の魔力を誇る。
その数値はバラモスやムドーといった歴代の魔王すら凌駕し、ラスボス・裏ボスの中でも上位に食い込めるほどだ。(全キャラでなら1位はゾーマ)
ゾーマがルビスに語ったバーバラの話はあながちデタラメというわけでもない。
つまり、彼女は魔力だけならば神々や大魔王の領域に到達するのだ。
――ふふふふ……さすがはバーバラだ! さすがは後に伝説となる大魔女! こうでなくてはな……。
「ではこれならどうかな?」
続けてゾーマが巨大な氷塊を生み出し、パーティーの中心目掛けて放り投げる。
それはあまりにも巨大で先程のように即座の相殺は難しいように見えた。
バッ!
「ぬうううう――ぐあああっ!」
何とか戻ったハッサンが前に飛び出て氷塊を受け止めるが、勢いは止まらず跳ね飛ばされてしまう。
だが、軌道を変えることは成功し、パーティーへの直撃は免れた。
「――!」
相棒を心配するも、彼が作ってくれた隙を逃さず、素早く接近するレック。
ゾーマへと迫る途中、突如としてその足下に氷柱が飛び出すが、紙一重で躱す。
二本目、三本目と出現する氷柱を高速で左右に動くことで対処しながら、大魔王との距離を縮めていく。
「ほほう、やるではないか」
――冒険も中盤でまだまだ成長途中だろうに、食らいついてくるか。さすがは勇者といったところだ。
氷柱に対処されながらもどこか満足気な大魔王。
ちなみにゾーマが使用している氷の呪文をミレーユはマヒャドと言ったが、拡散、収束などタイプは異なるが、すべて通常のヒャドである。
「くらえっ!」
レックのはやぶさぎりが放たれた。
眼にもとまらぬ剣速だが、ツメをかかげて受け止めるゾーマ。
「ふんっ!」
剣ごと放り投げられるも、なんとか受け身を取って着地するレック。
ハッサンも起き上がってそれに並ぶ。立て続けに大魔王の呪文を二発も食らって割と余裕のあるこの男も大概に規格外である。
「おい、とんでもねーぜ。あの魔族の大将、実はムドーの上司でしたとかないよな?」
「ダーマ神殿の大神官がそれは違うと宣言したであろう」
「そうだけどよ」
「どうした? そなたらは何もせぬのか」
そう言うとゾーマはアモスやチャモロの方を向いた。
「む……! 隙を伺っていただけです! では私がダーマ神殿で転職した結果、身に着けたとっておきをお見せしましょう」
そう宣言するとアモスは身を低くして、大きく息を吸い込んだ。
「かあっ!」
アモスの口から燃え盛る火炎が吐き出された。
「バギマ!」
間を空けずにチャモロが真空呪文で竜巻を発生させる。
炎のブレスと竜巻が迫るが、ゾーマはその場から動かずに一言呟いた。
「凍れ」
カッ!
眼も眩むような光が発せられ、次の瞬間にはバギマと火炎の息は空中で凍結して、氷のオブジェとなっていた。
「はあっ!? いやいや、おかしいでしょう!」
明らかに異常な光景にアモスがツッコミを入れる。
「なにがおかしい」
「いや、私の火炎の息もそうですが、バギマが凍るはずが……」
「そ、そうですね。バギマが……竜巻がその形のまま氷漬けになるはずがありません。あれは真空の刃で実体はないはずです」
「あるはずがない……か。それはルールや概念に縛られた者のセリフだ」
「え……それはどういう……」
「例えばある世界では低温には絶対零度という限界があるとされる。だが、そんな
冷静に語りかけるゾーマだが、じわりじわりとその身には魔力が高まりつつあった。
バーバラやミレーユなど特に高い魔力を持つものはそれを感じ取り、冷や汗をかいている。
「形なきものは凍らない? 否――神も精霊も英雄も、
――勇者ロトと呼ばれる男の不屈の闘志のみ!
すべてを滅ぼす者である自分を滅ぼした唯一の存在を思い出し、無意識のうちに膨大な魔力が全身を駆け巡る。歴代の大魔王や邪神と比較しても最強と謳われる魔力が勇者一行に解き放たれ――
「う、あああああああ――!?」
――ハッ!?
一瞬にして、あれだけ荒れ狂っていた魔力がウソのように鎮まった。
――オレは何をしようとしていた? バーバラの悲鳴に気付かなかったら勇者たちの冒険はここで終了していたぞ。ゾーマの身体に精神が飲み込まれて……いや、オレの自我ははっきりしている。歪だった心と体が馴染んでいこうとしているのか?
「……うむ。まあ、こんなところだろう」
「え?……あ! 終わったのか。あまりにも真に迫っているから修行だってことを忘れそうになったぜ」
我に返ったハッサンが思い出したように言う。
「さすがは魔王を倒した一行だ。なかなかよい動きをする。今後も精進するがよい」
言いたいことを言って大魔王ゾーマはやって来た時と同様、唐突に去っていった。
「レックよ。正直、魔王を二体も倒して俺たちは調子に乗ってたのかもしれねえな」
「ああ。そうだね、ハッサン。あのゾーマさんにはまったく歯が立たなかった」
「あの人(じゃないけど)はそれを教えにきてくれたってことなのかな?」
バーバラが非常に好意的な解釈をする。ゾーマさんがこれを聞いていたらにっこりである。
「あの魔族さんの考えはともかく、たしかに思い知らされたわね。この先に待っている魔王を相手にするには私たちはまだまだ未熟だと」
ミレーユが神妙な面持ちで同意する。
「よし、みんな。海底には新たなる魔王がいるって話だけど、そいつに挑むのは納得できるぐらい強くなってからだ」
レックがリーダーとして宣言し、仲間たちも皆、賛成するのだった。
その後、
彼らが海底を進むころには、機械の魔神と呼ばれるキラーマジンガをも初見で撃破するまでに成長していた。
それを聞いた海の魔王グラコスは逃亡準備をはじめる――
ル「すごい魔力を感じたのですが、なにかしませんでしたか?」
ゾ「さあな」