大魔王ゾーマ「バーバラを何とかしてやれ、ルビス」 作:Amur
結果は他に圧倒的大差をつけて『スライム』となりました!
それは見上げるほど巨大な魔物だった。
二足歩行のドラゴンといったシルエットだが、肉や皮はなく、全身が骨で出来ていた。
この魔物を『スカルゴン』と呼ぶ。
スカルゴンは何者かと戦っていた。
大きな足での踏みつけ、生者を引き裂くツメ、唐突に飛ばす骨の頭など様々な攻撃を繰り出すが、相手はそれらすべてを軽やかに躱している。
どうやら敵対者はスカルゴンより遥かに小さい、ボールほどの青い物体のようだ。
苛立ったのかスカルゴンは口から凍りつく息を吐き出す。
まともに当たればたちまち氷漬けにされてしまう恐るべきブレスだが、その相手は落ち着いていた。
───激しい炎
スカルゴンの冷気のブレスに炎のブレスが激突した。
「ギギ……!」
ブレスを押し戻され、炎によってダメージを負うスカルゴン。
動きが止まった骨竜に弾丸のごとく青い物体の体当たりが命中する。
その衝撃は凄まじく、骨竜は轟音と共にバラバラに崩れ落ちた。
「うむ、上出来だ。スカルゴン級であれば余裕を持って勝てるようになったな」
「ピキー!(ありがとうございます! ゾーマ様)」
かつて地下世界アレフガルドを我が物顔で歩き回ったスカルゴン。
それを苦も無く撃破した青い物体───スライムのスラリンだ。
スラリンはこの世界における大魔王ゾーマの最初のしもべとなっていた。
本来、魔王の魔物たちへの加護は種族ごとに均等に与えられるものだが、この世界ではスラリンしかゾーマの加護を受ける魔物がいない。
そのため、大魔王の加護を独り占めするスラリンの強化具合は凄まじいものになっていた。
ーーーー
「戻ったぞ」
「ピキー!(ただいまー!)」
「お帰りなさい」
城に戻ったゾーマとスラリンを精霊ルビスが出迎える。
ゾーマはこの世界に拠点がなかったので、ルビスの城の客間の一つを勝手に自分のものとした。ルビスとしても大魔王を目の届くところに置いておきたいので、渋々これを認めている。
「さて、ルビスよ。スラリンもそれなりに育った。そろそろダーマ神殿に行って来ようと思う」
「ダーマ神殿に?」
「そうだ。わしが格闘場に向けてスラリンを鍛えている間に夢の世界で神殿が復活したであろう」
「……さすがによく見ていますね。一応、聞きますが、滅ぼしに行くわけではありませんよね?」
「うむ。お前もようやくわしのことが分かってきたようだな」
「まあ……さすがにある程度は」
精霊ルビスは復活した大魔王ゾーマのフリーダムさに段々と慣れてきていた。
ーーーー
【ダーマ神殿】
己自身を見つめなおし、生き方を変える神聖な場所。
要するに職業を変えたいものが来る便利施設である。
「ここがダーマ神殿か。悪くないところだ」
そんな人々の職を司る神殿にすべてを滅ぼす者が降臨していた。
スラリンとルビスも同行している。
「こ、これはルビス様! まさか直々にお越しになるとは。貴方様が勇者一行を導いてくださったおかげで、ダーマ神殿はこの通り、復活しましたぞ!」
「大神官」
「おや? ルビス様のお連れの方は……え?」
「……」
「ピキー?(この人、固まっちゃいましたよ)」
時系列においてドラゴンクエスト3はドラゴンクエスト6よりかなり昔の話となるが、共通点としてどちらにもダーマ神殿が存在している。
ドラゴンクエスト4、5でダーマ神殿がないのは6でデスタムーアに滅ぼされたからだろう。
そして大魔王ゾーマや魔王バラモスの伝承を神々経由で代々の大神官は継承している。
ドサッ
「だ、大神官! 気をしっかり!」
「わしの顔を見ただけで気絶するとは無礼なやつだな」
「だからモシャスをするか顔を隠すかしてくださいと言ったのです!」
「わしには変装をする趣味はない」
「趣味の問題ではないでしょう!」
ゾーマへの対応に慣れてきたのか、色々と諦めたのか普通に大魔王にツッコミを入れる精霊ルビス。
ーーーー
「な、なるほど……話は分かりました(まったく分かりませんが)」
目が覚めた大神官はルビスから事情を説明されていた。
「そこのスラリン殿を職に就かせればよいのですね」
「うむ、そういうことだ。問題なかろう? 大神官」
「は、はい。問題はありません」
大魔王に普通に話しかけられてどう対応すればよいかわからない大神官。
ルビスも最初は説明してくれたが、途中からは遠い目をして会話に参加してくれない。
「スラリンよ、いよいよだな。格闘場の猛者たちがそなたを待っているぞ」
「ピキー!(武者震いがします! ゾーマ様)」
「しかし、見たところずいぶんと強そうなスライムですな」
「当然だ、このわしが鍛えたのだぞ。現時点で海底の魔物ではあのグラ……何とかいうやつ以外は相手になるまい」
「は、はあ……(グラ? そんな魔物いたか?)」
会話を聞いているのかいないのか、ルビスは諦めた顔で遠くを見ている。
そのとき、入り口から暑苦しい声が聞こえてきた。
「よーっし! ダーマ神殿についたぜー!」
――あの一際目立つパイナップル頭! ここで出会うか!
紫色のモヒカンをした大男。服の上からでも溢れるパワーを感じさせる。
序盤から終盤まで頼りになる主人公の相棒――ハッサンだ。
「よお、大神官! 今日は新しく仲間になったアモスの職をって……うおおお! 何だコイツは!?」
大神官の側にいるゾーマを見つけたハッサンは咄嗟に身構えた。
「どうかしましたか? ハッサンさん……!?」
ハッサンに続いてやってきた男はゾーマを見て固まった。
彼は『変身』という巨大な魔物に姿を変える特技を持つ戦士。
モンストルの町を魔物から救った英雄だが、勇者パーティにおいてはボケ担当――アモスだ。
――ハッサンにアモスか。直に会うとここが幻の大地だと実感するな。二人に会えたのは素直に嬉しいが、残念ながらバーバラ含め他のメンバーはいないようだな。
「お、おい! お前、魔族だな!? ダーマ神殿をどうしようってんだ!(どう見ても並の魔族じゃねえ。こんなことならレックたちも連れてくるんだった!)」
威勢よく問いかけるハッサンだが、転職だけのつもりだったので、二人で来たことを後悔していた。
「安心せよ、パイナップルよ」
「パイナップルって、オレのことか!?」
「わしはこのスライムのスラリンを職に就かせるために来ただけだ。特にこの神殿をどうこうするつもりはない」
「いやいやいや、その見た目で何もしないとかウソでしょう!?」
明らかに普通じゃない魔族の登場に固まっていたアモスが復活して突っ込んだ。
「本当だ。そうだな? 大神官」
「え? そ、そうです。ハッサン殿、それとアモス殿でしたか。このゾーマ殿は魔族ですが、世界を席巻していた魔王ムドーとは無関係です(本当は魔王どころじゃないんですが、ややこしくなるので言う必要はないでしょう)」
「そうなのか……?」
「いくら人を見かけで判断してはいけないとは言っても限度があるのでは……」
ちなみにルビスはハッサンたちがやって来た時に姿を消していた。
勇者パーティに大魔王と繋がっていると誤解を招かないように配慮したようだ。
その後、ゾーマが本当にスライムの転職のためだけに来たと理解したハッサンとアモスは緊張を解いた。
そして無事に転職できたスラリンを連れて意気揚々とルビスの城に帰っていくゾーマであった。
キラーマジンガさんは海底の魔物枠に入ってません。