大魔王ゾーマ「バーバラを何とかしてやれ、ルビス」   作:Amur

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青年期(後半) “再会”

 ルドマンの屋敷での結婚式から8年が経過したある日――

 

 

【山奥の村】

 

 辺境にある山に囲まれた村。

 正式な名もないため、山奥の村と呼ばれる。

 

 ピサロはそんな何もない村をじっと眺めていた。

 

「……」

 

 かつての魔族の王は何を想っているのか。

 数百年も前に自ら軍を率いてここを滅ぼした時のことか。

 それともそのときに討ち漏らし、後に肩を並べて戦った天空の勇者のことをか。

 

 その魔剣士に声をかけてくるものがあった。

 

「いい村でしょ」

 

 トコトコ近づいてくる者は一人の少年。幼い容姿からまだ10歳程度と伺える。

 彼の名はレックス。

 リュカとビアンカの息子にして当代の天空の勇者。

 

 レックスは石にされた両親を救うアイテムを探す旅の途中、ピサロと出会っていた。

 

「ふん。何もないところだ」

 

 子供に対しても変わらずぶっきらぼうなピサロ。レックスの方を振り向きもせずに村を見ている。

 

「それがいいんだよ。ボクはここ好きだな。この山奥の村だと王子や勇者って立場も関係ない」

 

「そうか……」

 

「ここはずっと平和さ。村が戦火に飲まれたことなんて、それこそ誰かさんが詩人を装ってやって来た時くらいしかないよ」

 

「そうか……?……っ!?」

 

 ハッとしたピサロが急いでレックスの方を振り向いた。

 幼い勇者はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべている。

 

「お、お前……ソロ……なのか?」

 

 魔族の王デスピサロが声を震わせている。

 ソロ――それは現代では伝説となった先代天空の勇者の名前。

 

()()()レックスだよ」

 

「そ、そうか……ふははっ! お前も因果なものだな。生まれ変わっても魔王退治とはな」

 

「まったくだよ。もう命を懸けた戦いは十分だったんだけどね」

 

「お前に前世の記憶があることは他の者は知っているのか?」

 

「いや、知らないよ。絶対に隠すってわけじゃないけど、あえて言ってもいない」

 

「そうか」

 

 それからピサロはしばらく考え込んだ後で、レックスに告げる。

 

「ソロ……いや、レックスよ。私は今の魔王であるミルドラース一派に手は貸さぬ。だが、お前に味方することもできん」

 

「そうだろうね。ロザリーさんと仲良く隠居してるもんね」

 

「うむ……すまんがな」

 

「いいよ。ピサロにボクのことをバラしたのはそういうつもりじゃなく、何となくだし」

 

「ふ……そうか。これからどうするのだ?」

 

「8年間石化されていたお父さんとお母さんを復活させるアイテム――ストロスの杖をようやく手に入れてね。これで二人を助けることができる」

 

「ストロスの杖……たしか、今は亡きストロス国の秘宝だったか」

 

「そうだよ。従叔母のドリスやストロス国の王子と一緒に旅をして手に入れたんだ。けど、その旅も簡単にはいかなくってね。最後に王子が瀕死の重傷を負ってさ」

 

 一命はとりとめてグランバニア城で療養してると続けるレックス。

 ちなみに本来の歴史ではその亡国の王子は旅の最後に行方不明になるはずだが、某大魔王の影響で少しずつ流れが変わっているこの世界では異なる結末を迎えたようだ。

 

「両親を助けた後は魔界に乗り込むのか?」

 

「そうなるね。ミルドラースにマーサおばあちゃんが捕まってるから助けに行く」

 

「そうか……気が向けばグランバニアに行こう。だから、ちゃんと帰ってこい」

 

「うん……ありがとね」

 

 

ーーーー

 

【ボブルの塔】

 

 高い岩山に囲まれ、船では上陸できない島にある塔。

 内部にはマスタードラゴンのチカラが封じられた宝玉『ドラゴンオーブ』が眠っている。

 

 その塔の屋上に大魔王ゾーマはやってきていた。

 

「ここか」

 

 通常の攻略方法は屋上からフックつきロープを使って進入、1階まで下りて正面の扉を開放。自由に出入り可能になるので、態勢を整えて再度進入。

 塔のどこかにある二つの竜の目を入手し、石像にはめ込むとドラゴンオーブまでの道が開ける……となっている。

 

 当然、ゾーマはロープなど使わずに悠然と空中を下りていく。

 その途中で祭壇の前に一人のシスターが倒れているのが見えた。

 

「はあはあ……2匹のとてつもない魔物が竜の目を……」

 

 ゾーマが近づくと人間の冒険者だとでも思ったのか、忠告してくるシスター。

 その魔物に襲われたのだろう、彼女は瀕死の重傷を負っている。

 

「……その2匹はまだこの塔のどこかに潜んでいるはず……見つからないうちに早くお逃げくだ……」

 

 そこまで言ったところでシスターは目の前のとてつもなくおそろしいもの(大魔王ゾーマ)を見た。そしてあまりの恐怖で気絶。

 

「人の顔を見て気絶とは失礼な奴だな」

 

 ゾーマズデビル形態ならともかく、今は完全な大魔王の姿なので怯えるのも仕方ないことだった。

 

 カッ

 

 ゾーマはシスターを氷柱の中に閉じ込めた。

 いまにも息絶えそうな彼女だが、この特殊な氷の内部は事実上、時が止まっている。半永久的に仮死状態を維持することができた。

 

「ルビスのところにでも送っておくか」

 

 フッとシスター入りの氷柱が消えた。

 

 

ーーーー

 

 ルビスの城――

 

 

「ルビス様! どこからかシスターが閉じ込められた氷柱が送られてきました!」

 

「中のシスターはひどいケガを負わされています!」

 

「まさかミルドラースのやつの挑戦状でしょうか……?」

 

 さらりと濡れ衣を着せられそうな魔界の王。

 兵たちは騒ぐが、城主のルビスは冷静に氷柱を確認して告げる。

 

「なるほど。これはゾーマが送ってきたものですね」

 

「え? ゾーマ様が……?」

 

「どこかをふらついているときに瀕死のシスターを見つけたのでしょう。死なないように氷柱に封じて送ってきたというわけです。ゾーマは回復呪文は苦手ですからね」

 

「な、なるほど」

 

「しかし、見ただけでよく状況がわかりますね、ルビス様」

 

「ふふ……まあこれでもあの男の妻ですからね」

 

 ちょっと自慢げな精霊ルビス。

 

 

ーーーー

 

 

 ズガアアアアアアアアアンンッッ!!!

 

 突如、ボブルの塔に轟音が響き渡った。

 

「な、なんだあああ!?」

 

「ぬうう!?(こ、これはミルドラース様……ではない。しかし、感じる魔力はあのお方と同等――いや、それ以上……! 信じられません。一体何者……?)」

 

 驚愕するゴンズとゲマ。

 彼らこそシスターを襲った2匹のとてつもない魔物である。

 ゴンズは準魔王級、ゲマは魔王級の実力を持っている。

 

 2匹が驚いている間も轟音は収まらず、塔を揺らす。

 

「ゲマ様! こりゃ、何の音でしょうか!?」

 

「塔を破壊しているのかと思いましたが……違うようです。どうやらこれは、障害物を粉砕しながら移動している音のようですね」

 

「移動してる音!? 意味が分かりませんぜ」

 

「おそらくですが……直線状にしか移動しないから、目の前にある物はすべて破壊しているのでは? 言っている私も意味が分からないのは同じです」

 

 理解したくないという顔の邪教の使徒。

 

「どうしますか? ゲマ様」

 

「……うかつに近づくのは危険すぎますね。間違いなく我々よりも強大な相手です」

 

「なっ!? ゲ、ゲマ様以上……」

 

 魔界の王ミルドラースの側近。実力では大教祖イブールを上回るとも言われるゲマ以上の存在と聞いて震えるゴンズ。

 

「……(もしかすればミルドラース様すら凌駕するかもしれませんが、それは言わなくてもいいでしょう)」

 

 どう手を打つべきか考え込むゲマ。

 結局、彼が選んだのは無難に“見”であった。

 

「しばし、様子を見ましょう。撤退するのはこの者が何をするか確認してからです」

 

「わ、分かりました……」

 

 内心で混乱していても表面上は冷静さを保つゲマ。

 ゴンズは見るからに腰が引けている。

 

 マスタードラゴンの復活阻止のため、ボブルの塔にやって来た二人。

 実際のところ様子見は悪手なのだが、この非常識な侵入者の正体を考えれば最善手ともいえる。

 

 

 塔に響き渡る轟音。その原因は言うまでもなくゾーマである。

 

 シスターが倒れていた場所からドラゴンオーブまでは真っすぐ降下していけばたどり着ける。

 途中には床や障害物、何より封印された竜の石像があるのだが、ゾーマにとっては何もないも同然だった。

 すべて破壊して進んでいる。

 

 塔には地上でも最高ランクの魔物が闊歩しているのだが、どう見てもヤバい奴にちょっかいをかけてくる者はいなかった。

 

 

「ふむ。これだな」

 

 台座には青く光るオーブが力強いオーラを放っている。

 

「さて、マダオ(マスドラ)に届けてくるか」

 

 ゾーマはドラゴンオーブを手に入れた。

 

 

ーーーー

 

 

「ではゆくぞ! 天空の花嫁(ビアンカ)はミルドラース一派の前線基地であるイブールの大神殿に囚われている! まずはあそこを叩き潰すのだ!」

 

 ドラゴンオーブで本来の姿とチカラを取り戻したプサン――マスタードラゴンはリュカ、レックス、タバサのグランバニア王家一家を背に乗せて大空を飛んでいた。

 

 “叩き潰す”など威勢のいいことを言っているが、本人の仕事は運んで終わりである。

 

 

「行ったか……」

 

 グランバニア一行が大神殿に突入するのをピサロは見つめていた。

 

「大教祖イブール程度は苦もなく倒すだろう。問題はその後だが……まあ、あいつなら負けることはあるまい」

 

「なにやら嬉しそうですね、ピサロ様」

 

「む? そうか?」

 

「ええ。もう会えないと思っていた友人に、思いがけず再会したような顔をしています」

 

「いやに具体的だな、ロザリー……」

 

 普段から妻には隠し事が出来ないが、いつにも増した鋭さにピサロは苦笑する。

 




大神殿に向かうときのマスドラの脳内ではBGM『敢然と立ち向かう(ムドーの城へ向かう)』が流れている。



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