大魔王ゾーマ「バーバラを何とかしてやれ、ルビス」   作:Amur

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番外編 ドラゴンクエストⅣ ~導かれし者たち~
エビルプリーストの憂鬱


 幻魔王デスタムーアの侵略から気が遠くなるような長い年月を経た地上に、再び邪悪なる存在の魔の手が忍び寄っていた。

 

【ロザリーヒル】

 

 山と海に囲まれた隠れ里。

 主な住人はホビット族だが、言葉を話す動物と少数の人間がいる。

 

 その村の北側にそびえ立つ一つの塔。

 1階はホビット族と動物のための教会があり、隠し通路を通って辿り着く上の階には一人のエルフが住んでいる。

 彼女の名はロザリー。当代の魔族の王デスピサロの恋人だ。

 

 スライム神のスラリンは世界中を旅する中で、ロザリーヒルの塔を訪れていた。

 彼がここに来るのは二度目であり、ロザリーやその友達のスライム、護衛のピサロナイトとも知り合いになっている。

 普段は静かな塔だが、どうやら今日は様子がおかしい。

 

「きゃあー! ピサロナイトさん! おやめになってー!!」

 

「ぴきー! ぴきー! 誰か助けてー!」

 

「我が主さまの……ご命令……こわす……こわす……この部屋……すべて壊す!」

 

 

「いけない、ロザリーさんとスライムくんが誰かに襲われてる!」

 

 スラリンは部屋に急ぐが――

 

「サイコキャノン!!!」

 

「ごはああああああ!?」

 

 呪文が炸裂する音と共に誰かの叫び声が響いた。

 

 

「大丈夫!? 二人とも!」

 

 スラリンが部屋に飛び込むと、そこにはケガ一つないロザリーとスライム、全身から煙を上げて倒れるピサロナイトの姿があった。

 そして4人の冒険者……彼らは師匠である大魔王に連れられて異世界を旅する中で出会ったことがある。ロトゼタシア世界(DQ11)の勇者イレブン一行だ。

 

「あら、スラリンじゃない」

 

「やあ皆さん、久しぶり」

 

 彼女は魔法使いベロニカ。

 仲間である勇者イレブン、盗賊カミュ、僧侶セーニャの三人も一緒のようだ。

 

「久しぶりね~。ここってあなたやゾーマさんがいる世界だったっけ」

 

「そうですね。ぼくらも色々な世界を冒険していますが、ここが本拠地です」

 

「へえ~。そうなの」

 

 

「スラリン様! 助けに来てくれたんですね!」

 

 ロザリーの友達のスライムが駆け寄ってきた。

 

「やあ、スライムくん。助けは必要なかったみたいだけどね。それで何があったの?」

 

「それが……突然、ピサロナイトさんが正気を失って暴れ出して……」

 

「スラリン様……。ピサロナイトさんは誰かに操られていました。いったい誰がこんなヒドイことを……」

 

 ロザリーが異変の内容を話すが、元凶はわからないようだ。

 

 

「うう……私はいったい……そなたらのおかげで正気に戻ることができた。なんと礼を言ったらいいか……。頭の中に恐ろしい声が響いた。壊せ……すべてを壊せ……と。それからは何も覚えていないのだ……しかし、身体が痛いな」

 

 ピサロナイトが倒れながら、自身に何があったかを説明する。

 ベロニカのサイコキャノンが強すぎて、まだ立ち上がれないようだ。

 

 

「ん?」

 

「どうしましたか? スラリン様」

 

 スラリンが外の方を見つめ出したので、不思議に思って尋ねるスライム。

 

「……用事が出来た。ちょっと外に出てくるよ」

 

「? はい、わかりました」

 

 

ーーーー

 

 

 ロザリーヒルから離れた森の中に、ロザリーの塔を忌々しそうに睨みつける魔族がいた。

 紫色の肌に大きな耳と手。

 法衣のような衣装を身に着けているが、その顔は醜悪そのものであった。

 

「ちっ。どこのどいつか知らんが、邪魔をしおって。……まあよいか。まだ時間はある」

 

 踵を返そうとする魔族だが、その前に立ち塞がるものがあった。

 

 スタッ

 

「魔力の残滓を追ってきたけど、あなたが犯人かな?」

 

 魔族の前に現れたのはスライム(神)のスラリン。

 

「……なんじゃ、貴様。犯人とは何のことだ?」

 

「ピサロナイトさんを狂わせて、ロザリーさんを襲わせたでしょ」

 

「……ふふふ。よく分かったな、スライムよ」

 

 スライム如きと侮っているのか、魔族は簡単に認めた。

 

「お前の予想の通りだ! せっかくだ、教えてやろう。私はあのエルフの小娘を亡き者とし、憎しみで暴走したデスピサロと勇者を共倒れにさせる壮大な計画を練っている。残念ながら、どこからかやってきた冒険者によってロザリー殺害は防がれてしまったがな」

 

 ぺらぺらと自分の計画を説明する魔族。

 誰かに教えたくて仕方なかったのか、聞いてもいないことまで話し出す。

 

「……そう。じゃあ、あなたを捕まえることにするよ」

 

「グハハハハハ! スライム風情が笑わせおるわ! これだから下級の魔物は嫌なのだ! 目の前の存在との格の違いすら分からぬのだからな!」

 

「……」

 

 笑いだす魔族を冷静に見つめているスラリン。

 

「クククク……笑わせてもらったが、私は忙しい身でな。そろそろ、帰らせてもらうぞ。その前に余計なことを知った者を始末してな――メラミ!」

 

 不意打ち気味に、大火球がスラリンに迫る。

 魔族はこの一撃で愚かなスライムが消し炭になることを確信するが――

 

「フッ!」

 

 ボヒュッ

 

 スラリンが吹きかけた息によってメラミはかき消された。

 

「なっ!?」

 

 特別な呪文や特技は使わず、風圧だけでメラミは吹き飛ばされていた。

 

「な!? そ、そんな………! い、い、息だけで私のメラミをかき消して……!??」

 

「もしかして今のが本気? メラゾーマ様使えないの?」

 

 スラリンは呪文名にも“様”をつけた。

 

「ええい! これならどうだ、マヒャド!」

 

 大きな氷柱がいくつも降り注ぐ。この世界でのヒャド系最上位呪文だ。

 

「これがマヒャド? ヒャドじゃなくて?」

 

 スラリンは灼熱の炎を吐いた。

 炎がすべての氷柱を蒸発させ、邪悪なる司祭をも飲み込む。

 

「ぐああああああああ!?――ベ、ベホイミ!」

 

 炎に耐性があるのか、丸焼きになりながらも何とか自身に回復呪文を唱える魔族。

 

「へえ。神官っぽい見た目だけあって回復も得意なんだね。じゃあ次は――」

 

「待て待て待て! スライムよ! 素晴らしい強さだ。そなた、私に仕えないか!?」

 

「仕える?」

 

 全身が焼け焦げながらも目を爛々と輝かせ、スラリンを勧誘する魔族。

 戦闘力はともかく、その精神には目を見張るものがあった。

 

「そう! 私はエビルプリースト! いずれは天空城のマスタードラゴンも、海底城の精霊ルビスも葬り去り、この世界を支配する真なる王者だ! 私の配下になれば損はさせぬぞ!」

 

「王者を名乗るのは早いんじゃないかな。これくらいなら昔戦った悪魔の王者――デーモンキングの方がよほど強かったよ」

 

「デーモンキング……? それは古の大悪魔。現代ではもはや姿を見ることは出来ん。スライムの寿命でそんな魔物と戦ったことがあるはずがない」

 

「これでも一応、スライム族の神さまだからね~」

 

「神!? スライム族の神だと?(……たしかに存在は聞いたことはある。だが、所詮はスライムの妄想だと切り捨てたが……こいつがそのスライム神だと?)」

 

「とりあえず大人しくしてもらおうかな」

 

 ドンッ!

 

「ぶげええええええええええっ!!!」

 

 高速で突撃したスラリンの体当たりが命中し、身体がくの字に折れ曲がるエビルプリースト。

 衝撃は凄まじく、枯れ木のように吹き飛んでいく。

 

 

 

「いない……動けなくなってると思ったけど」

 

 へし折られた木々を辿っていくとエビルプリーストの姿はなかった。

 力を振り絞り、何とか逃げ出すことに成功したようだ。

 

「何としてものし上がるっていう意地か。その執念は凄まじいね。放置しておくと困ったことになるかも」

 

 

 

「はあ、はあ……恐ろしいスライムだった。しかし、今に見ておれよ。進化の秘法が完成した暁には、必ず復讐してやる……! 私こそが世界の支配者だ!」

 

 

ーーーー

 

 ルビスの城――

 

 

 スラリンがエビルプリーストと遭遇してから数か月が経過した。

 あの後、プリーストは闇の世界に逃走したようで、神であるスラリンとしても追跡を断念せざるを得なかった。

 

 だが、その邪悪なる司祭がついに地上に戻ってきた。

 それを察知したスライム神は師匠である大魔王ゾーマの居城にやってきていた。

 

「お久しぶりです、ゾーマ様」

 

「うむ。久しいな、スラリン。昼食がまだなら食べていくがいい。ルビスの料理の腕はなかなかのものだぞ」

 

「い、いやですね、ゾーマ。それほどでもないですよ」

 

 誉められて照れる精霊ルビス。

 謙遜しつつも、エプロンをつけてやる気は満々のようだ。

 さっそく料理の準備に取り掛かる。

 

 

「ロザリーヒルに行ったのか。ホビット族の隠れ里だったな」

 

「はい。そこでベロニカさんたちに会いました。今回も時空間を越えた異変の解決をしていたようです」

 

「ほほう、ベロニカと仲間たち――勇者イレブン一行か。そういえば、わしも少し前に山奥の村で会ったな。モシャスでスライムに変身して戻れなくなった少女を元に戻そうとしていた」

 

「ゾーマ様がそんなところに行ったら騒ぎになりませんか?」

 

「他の村人には見つかっておらんからな」

 

 和やかに話は弾むが、スラリンが爆弾を投下する。

 

「ゾーマ様。そのロザリーヒルでエビルプリーストという魔族が暗躍していました」

 

「エビルプリーストか。無論、知っておる。当代の魔族の王の側近の一人だ」

 

「その魔族は下剋上を狙っているようで、魔族の王と勇者の共倒れを画策していました。そして、その後はルビス様をも葬り去って世界を支配するって言ってましたよ」

 

 その瞬間、周囲の空気が凍りついた。

 

「…………ほう」

 

 ゾーマは変わらず悠然と構えているが、見る者が見れば、内に秘める魔力が増大しつつあることが分っただろう。

 

「ルビスに手を出すと……それはつまり、わしへの挑戦ということか?」

 

「そういうことじゃないですかねー」

 

 スラリンは適当な返事を返す。

 

 話題のルビスは可愛らしいエプロンをつけて、ぱたぱたと食事の準備をしている。

 その姿をしばらく眺めた後で、大魔王は笑いながら告げた。

 

「ふっふっふっふ……面白い。久しくいなかったな、そういうやつは」

 

 笑ってはいるが、スラリンは尊敬する大魔王が静かに怒っていることを理解していた。

 

「行きますか?」

 

「ああ」

 

 

「盟友~」

 

 タイミングよく普段は深海を遊覧している邪神ニズゼルファもやってきた。

 どうやらスラリンが声をかけていたらしい。

 

 

ーーーー

 

【デスパレス】

 

 地上における魔族たちの拠点。

 かつては魔族の王デスピサロが統治していたが、いまでは元配下のエビルプリーストが下剋上を成功させ、支配している。

 

 彼は【進化の秘法】という邪法を極め、自身を究極の生物に進化させることに成功した。

 それにより、絶対の自信を得たことで、満を持して世界の支配に打って出たというわけだ。

 

 

「ではどうしても私に忠誠を誓えないというのだな?」

 

「当たり前だ! 卑劣な姦計によってデスピサロ様を殺害した貴様に誰が従うか!」

 

 エビルプリーストは穏やかに問いかけるが、デスピサロの配下だったライノソルジャーは一蹴する。

 

「なんのことだ? デスピサロのやつは愚かにもエルフに骨抜きにされ、挙句自滅したと言ったであろう。まったく、魔族の長としては失格もいいところだったな」

 

「き、貴様! この期に及んでぬけぬけと!」

 

「ふ、まあいい。私に従わぬのなら出て行ってもらおうか」

 

「言われずともこんな城からはすぐに出て行くわい!」

 

「おや、勘違いをしているな。出て行ってもらうというのは私の領土からだ。そしてこの世界も闇の世界も私のもの……」

 

「なっ!? 貴様、まさか」

 

 ゴウッ!

 

 エビルプリーストは右手に巨大な火球を創り出した。

 スラリンにメラミまでしか使えないのかと言われたことがショックで、必死に修業した結果、初期形態でもメラゾーマが使えるようになったプリーストさん。

 

「私に従わぬ魔族に価値はなし! 消えるがいい!!」

 

「お、おのれ、貴様アアアアア!」

 

 メラゾーマによってライノソルジャーの命が奪われようとしたそのとき――

 

 

 ボゴオオオオオオン!!!

 

 

 轟音と共にデスパレスの天井が吹き飛んだ。

 

「なんだ!?」

 

 エビルプリーストが上を見上げると、とてつもなく巨大な腕が見える。

 かぎ爪のついたその腕がデスパレスの天井を破壊したのだろう。

 

「な、なんだあいつは……?」

 

 天井を吹き飛ばした何者かが玉座の間をのぞき込んできた。

 

 それは誰も見たことがない存在だった。

 甲殻類のような鎧に全身が覆われ、並のドラゴンよりはるかに大きい身体。

 

「誰だ、貴様! ここをデスパレスと知っての狼藉か!」

 

 虚勢を張るエビルプリーストだが、明らかに未知の化け物に気圧されている。

 配下の魔物たちは震えて声も出せない。

 

「我はニズゼルファ……。闇の深淵より生まれし存在。邪神と呼ぶ者もいる……」

 

「ニズゼルファ……邪神だと!?」

 

 シュタッ

 

「やあ、久しぶり」

 

 スラリンがニズゼルファの腕から飛び降り、玉座の間に降り立った。

 

「! 貴様はスライムの神!」

 

「闇の世界に逃げていたと思ったけど、地上に出てきたんだね」

 

「ぬかせ……! もはや私は貴様など遥かに凌駕した存在になった! いつぞやの借りは返すぞ!」

 

 ――スライム神にニズゼルファという謎の邪神か。油断は出来ぬ相手だが、私とて進化の秘法を極めた魔族の支配者。何もせずに逃げるわけにはいかん。ここは一当てして実力を探るか。

 

 だが、彼は後に自分が甘かったと理解する。

 プライドなど捨てて即座に逃げるべきだったのだ。

 さらにとてつもない存在が最後にやってくるのだから。

 

 

 巨大な魔法陣が描かれ、中から何かが出現する。

 

 ガカッ!

 

 その者が姿を現すと、漏れ出す冷気の影響で、玉座の間にいた魔物は凍結してしまった。

 

「な……こ、今度はなん――!?」

 

 エビルプリーストは怒鳴り声を上げようとするが、かの者を見て言葉が止まる。

 

 頭には二本のツノ、額には第三の目があり、豪奢な衣装を纏っている。

 すべてを滅ぼす者――大魔王ゾーマの降臨だった。

 

 悠然と佇む中でも立ち昇る、あまりにも膨大な闇のオーラ。

 そのチカラはかつて魔神ダークドレアムと死闘を繰り広げたときよりも更に増している。

 

「そなたがエビルプリーストか。なんでもわしに挑戦したいらしいな」

 

「あ、あ、あ、あ……あ…………」

 

「本来は玉座にて待つ主義だが、城で暴れると妻が怒るのでな。こちらから来たというわけだ」

 

 

 エビルプリーストは理解した。

 進化の秘法を極めて、魔王級のチカラを手に入れたことで、逆に理解できてしまった。

 

 目の前の存在の強大さに。

 そして自分の野望は終わったということに。

 

 

ーーーー

 

 

 エビルプリーストの主君だったデスピサロは恋人であるロザリーが死んだことで自暴自棄になり、理性なき魔獣へと姿を変えた。

 

 しかし、勇者ソロ一行がロザリーを蘇生させ、ピサロの元まで連れてきてくれた。

 恋人の呼びかけにより、魔獣から元の魔族の青年の姿を取り戻せたデスピサロ。

 

 勇者たちに感謝するピサロだが、まだ諸悪の根源であるエビルプリーストが残っている。

 共通の敵であるエビルプリーストを倒すべく、魔族の王と勇者一行は手を組んでデスパレスにやってきたのだった。

 

 

「やってくれたな、エビルプリーストよ。私を魔族の王失格と断じるのは理解できる。だが、ロザリーを害しようとしたことは許せん。その代償を払わせて――?」

 

「どうした? ピサロ」

 

 颯爽と玉座の間に飛び込んだピサロだが、何故か動きを止めている。

 訝し気にその視線の先を確認するソロ。

 

 そこにいるのは法衣のような衣装を身に着ける邪悪なる司祭。

 かつて闇の世界で一戦交えたエビルプリーストに違いなかった。

 

「……」

 

 だがどうにも様子がおかしい。

 有り体に言えば、覇気がない。

 玉座にも座っているというよりは、枯れ木が乗っているような印象を受ける。

 

 枯れ木(プリースト)の方も一行に気が付いたのか、消え入りそうな声で語り掛ける。

 

「……ああ。デスピサロに勇者一行か。私が悪かった。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

 

「待て待て! お前に何があった!?」

 

 心が折れて、真っ白に燃え尽きているようにしか見えない姿に、たまらず確認するピサロ。

 エビルプリーストとの死闘を予想していた一行は、すべてを諦めた態度の邪神官に戸惑いを隠せない。

 

「勇者よ、この城には捕らえてきた人間たちがいる。彼らを連れ帰ってやってくれ」

 

「ええ……」

 

 勇者一行も悪党とはいえ完全に戦う気のない相手にどう対応すればいいかわからない。

 油断させる演技かとも思ったが、明らかにわずかの戦意も伺えない。

 

「あ、あんたどうしたのよ! 闇の世界で戦った時はこう……いかにも下剋上を狙う奸臣丸出しだったじゃない!」

 

 あまりの変わりようにたまらずマーニャが叫ぶ。

 

「そう……私は神をもしのぐ力を得た……あれは夢……だったのか……悪い夢…いや…いい夢…だった……」

 

 どこかで聞いたことのある台詞を言いながら、ひとりごとを続けるエビルプリースト。

 彼は心の底から後悔し、懺悔していた。

 触れてはいけない領域に触れてしまったことを。

 

 

 ――お許しを……大魔王様……

 

 

ーーーー

 

 ルビスの城――

 

 

 和やかに食卓を囲む精霊、大魔王、スライム(神)、邪神の姿があった。

 

「久しぶりに暴れられるかと思ったら、戦う間もなく降参とはな。何だったんだ、あやつは」

 

「そうですね~(焚きつけたぼくが言うのもなんだけど、そりゃ、ああなりますよ、ゾーマ様)」

 

 神としてそれなりに長い経験を積んだスラリンはこうなることが分かった上で行動していた。

 

「見たところ、それなりのやつではあったがな」

 

 一応、エビルプリーストのことは実力者だと評価しているニズゼルファ。

 会ったのは進化の秘法を発動する前の姿だったが、邪神として何か感じたのかもしれない。

 

「戦う……? また何か厄介ごとを起こしに行ったのですか?」

 

 キッと精霊に睨まれる大魔王。

 

「……いや、そうではない。少し地上を散歩しただけだ」

 

「ふ~ん」

 

 半目でじっと見てくるルビス。

 

「……(ゾーマ様、意外とちょっと尻に敷かれてませんか……?)」

 

 空気を読んで何も言わないスラリン。

 この海底城は地上の騒乱の影響もなく、平和そのものであった。

 

 

 

「ルビス様」

 

「おや、スラリン。帰ったのではなかったのですか」

 

「ちょっと言い忘れたことがありまして」

 

「言い忘れたことですか? なんでしょう」

 

「今回、ゾーマ様が地上に行ったのはですね、悪いやつを懲らしめに行ったんですよ」

 

「悪いやつ……地獄の帝王エスターク、もしくは魔族の王デスピサロですか? しかし、ゾーマはそれらの争いに関与しない考えだったはずですが」

 

 ゾーマがその方針であり、ルビスとしても地上のことは天空城のマスタードラゴンに一任しているため、大雑把な情勢程度しか把握していない。

 

「いえ、エビルプリーストっていうもっと悪いやつです。前にボクが会った時にそいつが言ったんですよ。ルビス様をそのうち葬り去るって」

 

「それは……穏やかではないですね」

 

「その話を聞いたゾーマ様が怒って、そいつのところに行ったというのが今回の話です」

 

「え……それでは……」

 

「ルビス様のため……ということになりますね」

 

「なっ!?」

 

「ふふふ……愛されていますね、ルビス様」

 

「あ、あうう……」

 

 たちまち真っ赤になる精霊ルビス。

 それを見てスラリンはにやにやしている。

 

「では、ぼくはこのへんで失礼しますね」

 

「え、スラリン!? スラリン!」

 

 ルビスの制止の声は聞こえているが、スラリンは止まらない。

 

 呼び止めるのを諦めたルビスは急いでどこかに走っていった。

 おそらく、旦那のところに行ったのだろう。

 

「ふ~、やれやれ。最強の大魔王もこういうことは得意じゃないですからね~。弟子としてはちょっとだけお節介も焼いてしまいますよ」

 

 そうして神にまで上り詰めたスライムはルビスの城から去った。

 

 

 ちなみに天空城からデスパレスでのすべてを見ていたマスタードラゴンは吐きそうになっていた。

 邪神、スライム神、大魔王――彼らには一切関わらないようにしたいと天空の竜神は切に願うのだった。

 

 




ゾ「見てないで何とかしてやれ、マスドラ。勇者の村とかな」

マ「!?」



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