これは偶然? はた迷惑なデスティニー?
NGO世界救済会も、ムラクモも手助けできないけど、それでも人助けしちゃう?
……さっすがヒーローじゃん! でも今度は国産なドラゴンが進行中?
やっちゃう? やっちゃわない? オマエラの判断で決めちゃうべし! グッドラック!!
城塞王国リンガイア。
世界最大の堅牢さを誇るその国が、一夜で滅亡の危機に陥った。
第一に、魔族の計略によるモンスター軍団の奇襲。
パプニカの三賢者に並ぶ魔導の使い手である、リンガイアの大神官デスカール。
彼は魔族に魂を売り、自身と配下をアンデッド化していたのだ。
デスカールの手引きで侵入した、魔族(ガルヴァス)に率いられしモンスター軍団と、突如アンデッドと化し牙を向いたデスカールの配下たち。
大混乱に陥ったリンガイア城下に、更なる混沌が押し寄せた。
第二の危機……全世界規模の、ドラゴンの襲来である。
突如として咲き出した、命を奪う毒花「フロワロ」と、空一面を覆う見たこともないドラゴンの群れ。
王国最強の剣士である、「北の勇者」ノヴァがオーザム救援に向かっていたリンガイアには、どちらも致命傷。
魔族が勝とうが、ドラゴンが勝とうが、リンガイア消滅は避け得ぬ運命であった。
それを塗り替えた……否、撃ち破ったのは天より舞い降りた三人の戦士、ムラクモ13班。
民を蹂躙していたドラゴンは、次第に標的をその僅か三人へと移す。
それは、13班にとってはまさに重畳。
民の防衛など考えることなく、わざわざ獲物から向かって来てくれるのだから。
彼女らは神ではない。
リンガイアの全てを守れるはずもなく、建国以来最大の血が大地に流れた。
ただ、同様に血で染まったオーザムとの決定的な差がひとつ。
流れた血の半分が、ドラゴンのモノであり……
その死屍累々の中心に、真紅に染まる13班がいたことである。
◇
「なるほど開発は進捗なし、ですか」
「ええ……生き残った国中の職人、科学者に当たらせているのですが、行き詰まりを感じているようです。前回伝えた開発品の量産は、多少数が揃い始めてはおりますが」
王城にてトウコと言葉を交わすは、リンガイアの将軍バウスン。
ドラゴンが全滅し、城下に咲き乱れたフロワロが散り終えた後、国内の混乱を収められたのは彼の手腕によるものであった。
13班にはドラゴンを屠る力はあれど、所詮は異邦人。
民や兵を落ち着かせるどころか、信頼さえ得られない。
そこへ、バウスンは13班の保証人を名乗り出てくれた。
猛将と名高い名声に加え、ドラゴンと魔族の襲撃でも先陣を切り、生き残ったほとんどの人がその勇姿を目撃していたこともあり、彼が言うならばと13班への疑いの目も減少していったのだった。
「で、その量産装備は雑魚竜程度ならどうにかできそうなのか?」
「先の戦いでは、我が軍の標準装備では歯が立ちませんでしたが……この武具なら、歯を食い込ませはできるかと。並の武器では、私を含めても数少ない闘気を扱える者たち以外、抵抗さえできませんでしたからな」
13班の手が届かぬところで、ドラゴンを阻もうとリンガイアの兵士たちも勇敢に立ち向かった。
だがそのほとんどは、民の代わりの餌食にしかなりえなかった。
近代兵器に身を包んだ自衛隊や、世界最強の米軍さえも壊滅に追い込んだドラゴン相手に、大量鋳造品の剣と鎧で武装した兵士が対策も無しに挑めばどうなるかなど、言うまでもないこと。
せめて魔法使いの援護があれば、多少違ったのかもしれない。
なれど、リンガイアの有力な魔法使いは全てがデスカールの配下たちであり、ほとんどがアンデッド化し、デスカールと共に撤退していた。
故に、対抗できる力を持つのは、バウスンなど一部の実力者のみだった。
それを覆す最も簡単な方法が、装備の充実。
ドラゴンの身体は、余すところない資源の塊である。
日本が二度のドラゴン襲来を打ち破ることができたのも、ドラゴンの爪先一片まで研究し、利用し尽くしたことにある。
リンガイアでは技術もノウハウも足りないのか、ようやく最低ランクの装備が開発できただけだが、それでさえ光明をもたらす躍進には違いなかった。
「ですが、肝心の兵たちの士気は絶無に等しい。再びドラゴンと対峙できる者がどれだけいるか……」
ドラゴンの一方的な虐殺は、生き残った兵士たちを戦意喪失させるに充分な出来事であった。
癒えぬ恐怖が刻まれてしまった彼らが戦闘などできるはずもない。
「王族も遠征軍も、行方不明……まぁ、身命を捧げた相手が一気にいなくなれば、こうなるか。改めて自衛隊はよくやってくれたと、リンたちには頭が下がるよ」
魔族襲撃の報に、リンガイアの王族は親衛隊と共に避難した。
それが最後の目撃情報となり、ドラゴン襲撃後は王以下誰の安否も確認できていない。
幸いと言えば語弊はあるが、崩れた隠し通路で貴族、親衛隊が数名息絶えていたが、王の遺体は見つかっていない。
また、オーザム救援に向かったリンガイア遠征軍も行方知れずとなっていた。
正確には、一割にも満たない帰還兵たち以外が。
ノヴァ含む主力艦隊とは帝竜遭遇後すぐに分断されて、船は変容した海洋生物……「マモノ」とドラゴンに襲われ続け、命からがら祖国に帰還したのだった。
彼らの証言で、やはり存在した帝竜に制海、制空権を奪われた事実と、マルノーラ大陸が絶望的状況にあることを知ることができた。
そんな現状に、底に落ちた士気が回復するわけもない。
「チェルシー」
軽い口調で王と、バウスンの息子であるノヴァの生死不明を口にするチェルシーを、トウコが諌める。
「お気になさらず。王の安否は心配ですが、我が息子はリンガイア最強の魔法剣士……生きていると確信しております。……心配なのは、意地になりドラゴンに特攻でも仕掛けていないかだけです」
バウスンは息子の生存を信じつつも、溜息をこぼす。
プライド高く、人々から「北の」勇者と呼ばれることにさえ不満を持っているという自信家。
13班が現れた時、息子ならば間違いなく斬りかかっていったでしょう、と申し訳なさそうに語っていたことをトウコは思い出していた。
「……ドラゴンたちは、こちらに気配さえ感じさせない奇襲を仕掛けてきます。かつて、私たちと変わらぬ才能を評価された人々も、未知の脅威の前に抵抗することもできずに散っていきました」
ムラクモに集められたS級能力者たちは、その多くがあの日を越えることができなかった。
入隊試験を兼ねた弱小なマモノ退治をしていたあの日、人類はドラゴンの脅威に晒された。
圧倒的な帝竜の力に、トウコもチェルシーも塵芥の如く蹂躙された。
ガトウ、ナガレ、ダイゴ、ネコ……彼らの助けが僅かでも遅れていれば、二人も無数の骸に加わるしかなかった。
「ドラゴンへの復讐心より、祖国の心配をしてくれることを祈りましょう。……話は変わりますが、頼んでいた調査の件は?」
「避難民への聴取は大方終わっています。今夜までには予測分布図をお渡しできそうです」
13班は、バウスンに魔王軍とドラゴンの拠点調査を依頼していた。
魔王軍に誘拐されたマリナに、帝竜の根城。
そのどちらも土地勘の無い13班がやみくもに探し回って見つかるものではない。
とはいえ、危険度が増大した現状で国内全域に調査部隊など回す余裕などはない。
そこでバウスンは、リンガイアに逃げてきた避難民たちから情報を得ることにした。
どこの村、町から来たのか、被害はどれほどか。
それを地図と照らし合わせれば、ドラゴンの活動具合が見えてくるはずである、と。
「誰一人避難さえできず、滅ぼされた村々もあるようですが……むしろ、その近隣も要候補になるのでしょうな」
「出来上がった物を見て、後は勘で動きますよ。魔王軍の方は、難しいようですね」
「フロワロとドラゴンが出現後、魔王軍の出現報告はありません。みなさんには悪いと思いますが、このまま魔界に帰ってほしいのが本音ですよ」
「デスカールか、ガルヴァスのどちらかふんじばっておくべきだったな。マリナを攫ってどうする気だ?」
「……マリナさんが心配ですけど、明日からは帝竜捜索に力を入れるべき……なんですよ、ね。心配と言うことなら、僕らが離れたリンガイアの防衛力も同様ですけど」
イクラは憂鬱な表情と噛み合わない、合理的な行動方針を口に出す。
13班としてのキャリアは短いイクラも、その中で理不尽な選択を迫られたことは少なくない。
先輩である二人が、それ以上に血反吐を吐く想いをしてきたことも知っていた。
だから、何の情報がなくとも、何を置いてもマリナを助けに行きたいと叫ぶことを押し留めていた。
「引き続き、調査は進めましょう。戦力に関しても今回量産した武具を交渉材料に、戦える者を募ってみます。個人的には避けたかったのですが、民や冒険者からも……」
「バ、バウスン将軍!」
バウスンの言葉を遮るように、血相を変えた兵士が飛び出してきた。
「何事だ。まさかドラゴンか?」
「はっ! いえ、そうですが、少し違って……」
本当にドラゴンが本格的な再襲来をしてきたのなら、こんな報告を待っている余裕などない。
それに、そのときは物見から緊急用の狼煙に加え、全域に届く鐘が鳴らされる手はずとなっていた。
「斥候部隊が緊急帰還! ま、魔王軍、超竜軍団がこちらに向かっているとのことです!」
「なにぃ!? 魔王軍め……この機を利用し、リンガイアを滅ぼすつもりか……!!」
バウスンは報告に目眩を覚える。
こんな異常事態でも、魔王軍は行動を遅延させることなく侵略を続行している。
その事実だけで、既に戦線が保てぬこちらとの自力の差が見えてくるというものだ。
勝機などあるはずがないと、バウスンは今更ながら魔王軍の実力の鱗片を理解した。
「探す手間が省けたな」
「バウスン殿、この件……我々13班に一任して頂けないでしょうか?」
「何を……まさか、超竜軍団とあなた方だけで戦うおつもりですか!?」
そんな状況で、慌てるどころか対処させて欲しいと願い出るトウコたちに、バウスンは驚嘆する他なかった。
「我々は魔王軍と事を構えるつもりはありませんが、このまま戦争を継続させるつもりもありません。マリナの返還要請だけではなく、ドラゴン襲来の危険性を、あちらにも説明してこようと思います。そのために、大魔王バーンとやらの元まで案内してもらうのがベストなのですが……」
「魔族と話し合い……本気ですか?」
人間と魔族は神話の時代より相反する存在。
その認識は、ハドラーの出現以降更に深く根強いている。
魔族は人類の敵であり、滅ぼすべき悪である、と。
「異邦人の我々には、そういう背景はありませんので。バウスン殿、ハドラー時代から戦ってきたあなたの意見を聞かせてもらえますか?」
「……様々な問題点を捨て置いた上で……ハドラー時代も今回もですが、魔王軍という人類共通の敵にさえ人類国家は足並みを揃えて戦えたことがないのです。その有り様で、魔族と種族規模での話し合いなど夢に思ったこともありませんな」
魔王ハドラーは勇者に討たれ、魔王軍は瓦解した。
その事実は、ハドラーと勇者アバンの実力を知らず、なおかつ魔王軍による被害を数字でしか理解しない者たちにはこう映る。
『魔王軍など大した戦力ではなかったのだ。我が国の戦力だけでも倒せたのではないか?』
結果、二度目の魔王軍襲来にも大きな危機感を持たずに、自国の戦力を過信した。
リンガイアにしてもそうである。
恩を売るためとはいえ、オーザムの救援に自国の最高戦力をポンと出し、それでも魔王軍に敗れるはずがないと多くが根拠もなく信じていた。
バウスンが一人、防衛力の低下を危惧しても、息子を含め誰しもが「猛将の名が泣く」と相手にされなかったほどに。
「はは……うちの世界も、似たようなものでしたよ。ですが、国家や種族なんて括りはドラゴン相手には邪魔でしかない。上がそれに固執するほど、下には屍が積まれていくんです」
「まぁ、人類側が意識統一できていない現状、休戦にしろ和睦にしろ早計だな。まずは向こうの意思確認と、マリナの奪還を優先するさ」
「交渉が失敗しても、ここに攻め込ませはしませんよ。力づくでもマリナさんの元に方向転換してもらいますから」
「情けない限りですが、お任せしましょう。幸いと言うと語弊がありますが、もはやドラゴンの恐怖が染み付いた今、魔王軍とも戦をしたいなどという者はリンガイアにはおりませんからな。こちらのことはお任せください」
バウスンに一礼し、三人は城外へと飛び出していく。
その姿見届けたバウスンに、背後から伝令に来た兵士が声をかける。
「本気ですか!? 魔族と交渉などできるはずが……あいつらこそ、やはり魔王軍のスパイなのでは!?」
「魔族のスパイか……もしドラゴン退治に魔王軍側が積極的で、我々人類の国家が知らぬ存ぜぬとなれば、彼女たちは魔王軍と行動するやもしれんな」
「ど、どういうことです!?」
「考え方の尺度の違う、のだろうな。彼女たちは、ドラゴンという捕食者に狙われた全てを守るために戦っているのだ。そこに、地上だ魔界だ、人類だ魔族だと区別をつけてはいない。そして、我々もその意識に達しなければ、ドラゴンに食い尽くされる。少なくとも、彼女たちは本気でそう信じている」
兵士には、その考えを理解できない。
バウスンとて、全てがわかったわけではない。
「単純に考えればいい。ドラゴンの屍の山を築いた彼女たち13班が、それほどまでに恐れる敵……それがドラゴンの首魁なのだとすれば、国家や種族など気にしていれば滅びるだけだと、わからんでもないだろう?」
自分たちより遥かな強者である13班が、協力を必要としているのならば将軍として出来る限りのことをするまで。
まずは無力化したリンガイアの戦士たちに活を入れねばと、ポカンとした兵士を置いて、バウスンは歩き出していた。
大幅に遅れてしまいました。
今後も不定期スローペース更新となりそうです。
誠に申し訳ありません。
感想に返信さえできない状態ですが、評価、感想に一喜一憂しております。
VSと言いつつ出会ってすらいないのですが、次回はとうとう軍団長と顔合わせです。