ダイの大冒険~七竜降臨~   作:ボレロ

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 ニューヒーローの育成もジュンチョーだね。
 でも、なんだかデンジャーなエネミーが接近中?
 13班なら余裕じゃん? だけどエネミーもメニメニ……中にはガッデムな奴もいるかも?
 気をつけてね、レッツワーキン!!


クエスト3-魔王討伐-

 特訓三日目の早朝。

 とうとう、グロッキー状態のポップが起きてこなかった。

「まぁ、通常特訓の時間までには回復するでしょう」

 ポップには比較的甘いアバンだが、それでも充分スパルタである。

 

 そんなアバンは、ブラスに大きな洞窟などないか聞いていた。

「ありますぞ、島のモンスターも住んでおらん大きめの洞窟が……何に使うのですかな?」

「ええ、ちょっと暴れるので……今日の早朝訓練は、私一人に任せてもらいますよ」

 元々アバンによる特訓プランなので、断るまでもないことだと了承する三人。

「一体どんな修行をするんですか、先生?」

「詳細は後ほど……ただ、大地斬を覚えたダイ君にはその上を行く技を覚えてもらうためのものとだけ言っておきましょう。ハンパではありません、下手をすると……死にます!」

「!!……先生、それって今更じゃない?」

「アッハッハ……ですよね~」

 13班の度重なる扱きに、命の危機など何度も味わっているダイであった。

 

「ですが、私がそれを行うのは初めて……13班の皆さんと対する時同様に挑まねば……わかりますね?」

「はいっ、先生!!」

 そうしてダイ、アバン、ブラス、13班の面々は洞窟に辿り着き奥へと足を進めていく。

「ピピィ……」

「ゴメちゃん、危ない修行みたいだから離れてなきゃ危ないよ」

 加えて、ゴメがダイの周りを心配そうに飛び回っていた。

「心配なんじゃよ。ここ二日、ダイは怪我してばかりじゃからな」

「ありがとう、ゴメちゃん。でも、俺は大丈夫だから……離れて見ててよ」

 ダイの言葉に、ゴメはしぶしぶと離れていく。

 

「ではダイくん、今日は13班との特訓同様に真剣でかかってきなさい」

「真剣で!?」

「ええ、これから私の皮膚は、チェルシーさん並に硬くなりますからね」

「うら若き乙女になんということを言うのだ、アバン!」

 チェルシーの抗議を横に流し、アバンは全身に力を込め始めた。

「行きますよ……おぉぉ……ド・ラ・ゴ・ラ・ム!!」

 呪文を唱え、歯を食いしばるアバンのシルエットがみるみるうちに大きく変化していく。

 

「せ、先生が……先生がドラゴンにぃ……!?」

「火竜変化呪文(ドラゴラム)……幻の古代呪文ではないか!? まさか使い手がおったとは!!」

「ほう……実にベーシックなドラゴンだな」

 驚くダイとブラスに対し、13班の反応は冷静なものだった。

「13班の面々の世界のドラゴンとは違うでしょうが、この世界のドラゴンもあらゆる生物の中で最強と呼ばれる種族! それを倒せぬようでは真の勇者足りえません!!」

 火竜と化したアバンが、ダイに襲いかかる。

 ダイは表情を引き締め、トウコに貰った胴田貫でアバンに斬りかかる。

「くぅ!」

 だが、その感触はチェルシー同様弾かれるもの。

 強靭な前足での反撃を、かろうじて避ける。

「なら……大地斬だ!!」

「甘いッ!!」

 大地斬の構えを見せるダイに、アバンは炎を吹く。

「うわぁぁぁ!!?」

 炎に巻かれ、先ほどのように近づくことはできないダイ。

 無理に突っ込めば、消し炭とは行かずとも大やけどは免れない。

 

「私なら無理やり突っ込む……が、それはアバンの望む答えではないだろうな」

「ヒャドが使えればそれもありだが……魔法が未熟なダイは、得意分野でなんとかするしかない」

 アバンの目論見は13班に伝わった。

 ならば、肝心のダイはどうか?

 炎を避け続けていたダイの表情の変化。

 それを、13班……そして相対するアバンが気づいたのと、ダイが意を決するようにアバンへと飛び込んだのは、ほぼ同時であった。

 当然迎え撃つは、激しい火炎のブレス。

 自身を焼き尽くさんばかりの熱量に向かって、ダイは振り下ろす。

 持ち替えていた、ナイフを!

「アバン流刀殺法! 海破斬!!」

 剣圧が、炎を切り裂く。

 そのままアバンまで到達したそれは、強靭な皮膚さえも破り、鮮血を舞わせた。

「グオォ~!?」

 痛みに堪えかねたように悲鳴を上げたアバンの身体が、元の人型へと戻っていった。

 

「オー、痛いぃ! お、思った以上に深い切り傷がぁぁ~!」

 鼻先からピューっと血を噴く様はとてもコミカルだが、本人はのたうちまわり痛そうだ。

「……イクラ」

「は~い」

 イクラの治癒を受け、ようやく涙目のアバンが立ち上がった。

「よ、予想ではもうちょっとコメディータッチな負傷で済むはずだったのですが……ダイくんの成長は本当に早いですね」

「先生! おれ、海破斬が出来たよ!」

「大岩を、そしてチェルシーさんを斬ることで大地斬が……そして、トウコさんを捉える速度に、炎を切り裂いた剣速によって、海破斬を修得することができました。ナイフに持ち替えたのはベリーグッドな判断でしたよ」

 まだダイの技量では、刀で海波斬を放てるか微妙なところだとアバンは考えていた。

 それはダイも感じており、即座にナイフに武器を切り替えたのだ。

「ダイならばすぐにでも長剣での海破斬も可能だろう。それに自身の力量を理解することは戦う上で大事なことだ」

「そのとーり! ダイくんの成長速度なら、七日目を待たずして空裂斬の習得……すなわち、アバンストラッシュの完成も夢ではぬわぁぁい!! これも、13班の皆さんの協力あってのこと……これからも、よろしくお願いします」

 握手を求めるアバンに応えるトウコ。

 ダイの特訓も無事に成功し、訪れた和やかな空気……しかし、それは振動と共に破られた。

 

「地震か……?」

「いえ、これはこの島の魔法陣を何者かが破ろうとしている……!?」

「ほう、ガーゴイルとかいう雑魚に続いて、魔王の手下がやってきたというわけか?」

「しかし、私のマホカトールを破れるのは、並のモンスターでは不可能……まさか!?」

 ハッとした表情を浮かべたアバンは、ブラスに視線を移す。

 そこには、頭を抑え苦しむブラスの姿があった。

「こ、この強烈なエネルギー……お、覚えがある。ま、まさか……」

「じいちゃん!?」

「予感が的中してしまいましたか……皆さん警戒を! おそらく敵は……ッ!!」

 アバンの警告よりも早く、洞窟の天上が爆発によって崩れた。

 差し込む朝日……そして、その光を飲み込むような邪悪な闘気。

 黒衣の男が、アバン達の前に舞い降りた。

 

「くくく……貴様の結界を破るのは苦労したぞ」

「やはり復活していたか……魔王ハドラー!!」

「「魔王!!」」

 不敵に笑う男を、アバンは魔王と呼んだ。

「ま、間違いない。あれは魔王……し、しかもかつて以上にエネルギーに満ち溢れておる」

「ほう、見た顔だ……魔王軍の鬼面導師か? まぁ取るに足らん存在よ……勇者アバン、貴様に比べればな」

 対するハドラーは、アバンを呼んだ……勇者、と。

「勇者、アバン……? ほ、本当なの、先生!?」

「なるほど……勇者が家庭教師ならば、これ以上勇者育成にふさわしい人材はいないだろうなぁ?」

 驚くダイ。

 13班は、アバンの実力からすれば当然の話だろうと納得する。

 

「古い話です……それに、こうして復活を許してしまった以上、その称号も返上ですかね」

「貴様によって、我が野望は打ち砕かれたばかりか、このオレの生命まで奪った……この屈辱と痛み、一度たりとも忘れたことはない!!」

「幾千万にも及ぶ人々の命を奪っておいて、よく言うものだな」

「家畜に過ぎん人間の命と、オレの命……まるで重さが違うわぁ!!」

 怒りの形相を浮かべるハドラーが、一歩足を踏み出した。

「ダイくん、下がりなさい。ここは私が……」

「いいや、アバンさんもお下がりください……ここは、現役の出番でしょう」

 アバンとハドラーの間に、13班が立ち塞がった。

「何者だ? アバンの仲間であれば、女とてオレは容赦せんぞ!! イオラ!!」

 ハドラーの目的は、あくまでアバン。

 それを邪魔する見知らぬ人間を蹴散らすべく、得意とするイオラを放つ!!

「イオラ!!」

「なにぃ!?」

 イクラが迎撃に放ったイオラが、ハドラーのイオラとぶつかり、大爆発が起きた。

 

「ぬ、ぬうう……オレのイオラを相殺したというのか!? 人間風情が……ムゥ!?」

 怒りの視線をイクラにぶつけたハドラーは、何かに気づく。

「貴様、魔族の女か!? アバンに、人間に与するとは魔族の面汚しめぇ!!」

「ええっ? ま、魔族?」

「うちのイクラクンの面(つら)見て、汚れとは……魔王とは美的感覚まで俗人とは違うようだなぁ」

 どうやらイクラの耳を見て、種族と性別の二重で勘違いしているらしいハドラーに、その顔を置物でも眺めるかのように近づくチェルシー。

「チェルシー」

「私にやらせてくれ、リーダー。世界を手中に収めようという魔王殿の実力を味わってみたい」

 咎める言葉など軽く流すチェルシーに、トウコは諦めのため息を吐く。

「……少しだけだぞ」

「了解した」

「舐めるな、小娘がぁ!!」

 ハドラーは雄叫びと共に、拳をチェルシーの顔面へと叩き込んだ。

「ッ……さすが魔王殿、まぁまぁの拳だ……なぁッ!!」

「ぐぅッ!? ゲハァ!!」

 黒衣ごしにめり込む、チェルシーのカウンターの一撃。

 悶絶したハドラーに、更に追い打ちとして拳の嵐……鶴瓶マッハが叩き込まれる。

「人間の武闘家か……この程度の格闘技で、オレを倒せると思うなぁ!!」

 その言葉を裏付けるように、チェルシーの拳を受け、ボロボロになった黒衣の下から顕となったハドラーの肉体に目立った傷はない。

 しかし、チェルシーは何ら動じる気配を見せない。

「どうかな? ダメージが無いように見えても、蓄積しているぞ……破砕の前準備がな」

「ほざけぇ!!」

 ハドラーは雄叫びと共に、その爪を長く鋭く変化させた。

 そのまま力任せに、無防備なチェルシーの心臓へと爪を叩き込む。

「ああっ!!」

「チェルシーさん!!」

 ダイとアバンの叫びに、ハドラーもニタリと勝利の笑顔を浮かべようとし……大きく驚愕した。

「なぁ……さ、刺さらん! お、オレのヘルズクローが、心臓に届かんだとぉ~~!!?」

 チェルシーの胸に刺さった地獄の爪(ヘルズクロー)。

 魔法の防具さえ切り裂く爪が、チェルシーに僅かに血を流させるばかりで、それ以上一ミリも刺さらないのだ。

 

「知らんのか、三流魔王。良い武器使って戦果が得られん時は……やる気が足りんのだッ!!」

「ガハァッ!? グ、ブハァ!!」

 デストロイヤーのスキル、ドリルクロウラー。

 ねじ込んだ一撃が、ハドラーの腹部の肉を裂く。

「ふぅぅぅッ!!」

 ヘルズクローが抜け、自由となったチェルシーが放ったのは、頭突き。

 大地を踏み締め、弾頭のように突撃したハドラーの胸板。

 

 洞窟中に響く、潰れ、砕ける音。

「お、げぇぇ~!!」

「おいおい、美少女が胸に飛び込んでやったのに血反吐を吐き散らすなんて、ショックで泣いてしまうそうだ」

 チェルシーのわざとらしい言葉など耳に入らないのか、ハドラーは窪んだ胸を押さえ、ジリジリ後退していく。

「おのれぇ! もはや容赦せん! バラバラになって悔いるがいいわ!」

 ハドラーの両腕に溜まっていく魔力。

 先ほどのイオラに酷似した、更に強力なエネルギーを解き放つ。

「イオナズン!!」

 自身最強の呪文が、チェルシーに飛んでいく光景。

 この瞬間、ハドラーは勝利を確信した。

「イオナズン!」

「ば、ばかな!?」

 先ほどの焼き直しとばかりに、イクラのイオナズンで相殺されるまでの短い夢であったが。

 

「私の時間はおしまいか、リーダー?」

「ああ……魔王の実力を鑑みるに、チェルシー一人では逃げられる可能性がある。確実に撃破するぞ」

「ここで世界の暗雲を晴らして、気分よく帰れるようにしましょう」

 トウコの言葉に、チェルシーも異論はない。

 わざわざ敵の親玉が出てきて、倒せる状況にある。

 真竜フォーマルハウトの強襲によって、多くの命が奪われたことは13班の記憶に新しい。

 その時倒せる力があればと、13班の誰もが一度は悔しさに震えた。

 トウコは、この世界に深く関わるつもりはない。

 だが、わざわざ禍根を断てる状況を見逃すなどということもありえなかった。

 

「く、クハハハハハ……!! オレを逃さんだと? 世界の暗雲を晴らす? 不可能なことを二つも重ねる……実に滑稽だな」

「どういうことだ?」

「一つ、貴様らごときオレの敵ではない。二つ……万が一、億が一にでもオレを倒せたところで、貴様らに待っているのは絶望だ……未だにオレが魔王だと思っているのだからな」

「な、なんだと!?」

 アバンの驚愕の声が上がる。

 13班もまた、その言葉の真意を考える。

 かつて魔王を倒した勇者と、その部下が認めたこのハドラーという魔族は、間違いなく魔王のはず。

 つまり、復活する過程で何か魔王ではなくなる事態が発生したことになる。

 

「魔王……いや、ハドラー。お前はどのように復活した? いや……復活させられた、のか?」

「ククク……人間にしては察しがいいではないか。その通り、オレはある御方の力で蘇ったのだ……かつて以上に強靭な肉体を与えられて、な」

「何者だ、そいつは……!!」

「大魔王……バーン!!」

 これまで、アバンが仮想敵として想定していた存在、魔王ハドラー。

 その前提は、他ならぬハドラーによって破られた。

 

「貴様に破れたオレを蘇生してくださった、偉大なる魔界の神!! オレはバーン様率いる新生魔王軍を束ねる総司令官……魔軍司令ハドラーだ!!」

 ハドラーの大仰な名乗り。

 本来ならば、アバンたちに大きな絶望を与えるはずのものだったのだろう。

「なるほど……確かに、お前ごときを倒しても魔王軍にダメージはない、か」

「き、貴様ァ、耳は飾りか!? オレは全知全能の魔神であらせられるバーン様の右腕! それを、お前ごときだと!?」

「右腕が、一人でこんな島までバカンスになど来るものか。せいぜい使い魔が関の山ではないか?」

 使い魔と罵るチェルシーの口撃に、ハドラーは額に大きな青筋を浮かべる。

「お、オレを……大魔王の使い魔とぬかしたかぁぁ!! ええい、アバンの前にやはり貴様を葬り去ってくれる!!」

「引かぬというのなら好都合だ! 13班、心苦しいが協力を! 魔王軍の戦力は私の想像以上……せめて、ここで魔軍司令ハドラーは倒さなくては!!」

「了解しました。行くぞ、魔軍司令ハドラー!!」

 アバンも加えた四人で、ハドラーと相対する13班。

 威勢を張るハドラーも、自身の不利は理解していた。

 しかし、彼にも引くに引けぬ理由がある。

 

 新たなる魔王軍である六軍団の長たちは、既に世界各地で侵攻を開始している。

 その最中、ハドラーはかつての宿敵であるアバン抹殺のために単独行動を許された。

 ここで失敗すれば、部下の軍団長に立場を脅かされる危険性があるのだ。

 いや、これほどの力を授かった上での敗北……粛清さえもありうる。

「(負けられぬのだ! オレの実力を示さねば、魔軍司令の座が奪われてしまう!!)」

 予想外の強敵に苦戦するハドラー。

 

『おやおや……魔軍司令ともあろうお方が、実に愚かな戦い方をするものですなぁ?』

 

 突然響いた声は、そんな彼を嘲笑うかのようであった。

 それに驚いたのは、ハドラーさえも含めた全員。

「そ、その声は……ガルヴァス!?」

「仲間がいたのか、ハドラー!!」

 そんな言葉にも、ハドラーは困惑するだけだった。

 この島にやってきたのは自分のみ……のはずだった。

 だが、聞こえてきたのは間違いなくハドラーの知る男の声。

 

『さぁ、洞窟から出てくるのだ。お仲間の魔法使いの命が惜しければな』

 

「なにっ!?」

 仲間の魔法使い。

 それに該当する人物は、たった一人しかいない。

 アバンを先頭に、洞窟から飛び出す一行。

 殿を務める13班の警戒を受けながら、ハドラーもゆっくり後を追う。

 

「ポップ!!」

 洞窟を出た先の空中に、魔族が静止していた。

 その腕には、ぐったりとしたポップの姿がある。

「何者だ! ポップに何をした!!」

「フハハ! 貴様が勇者アバンか。ハドラー殿が手こずっているので、どれほどの強敵かと思えば……有象無象の人間と変わらんではないか」

「やはり豪魔軍師ガルヴァスか! 誰が表に出てよいといった!!」

 ハドラーの怒鳴り声に、ガルヴァスと呼ばれた魔族は不敵な笑みを浮かべた。

「面白いことをおっしゃいますな、ハドラー殿。あなたの影武者である私が表に出る……そんなことを許可するお方が、まさかわからぬと仰せか?」

「ま、まさか……バーン様が!? オレではアバンを倒せぬと思って……!?」

「まさか、このように苦戦しているとは予想だにしませんでした。バーン様のご命令はただひとつ……とある令嬢を城へとお招きせよと」

「れ、令嬢だと?」

 まったく意味がわからないハドラー。

 だが、他の誰もがその言葉の意味を理解してしまった。

「おい、魔族……貴様、マリナをどうした!?」

「恐ろしい殺気ですな、確かにこれはハドラー殿には荷が重いやもしれませぬ……生粋の武人である、ハドラー殿には……」

 ガルヴァスはポップの首を締め上げ、宙吊りの形にする。

「ガ……がぁぁ!?」

「ポップ!?」

「この魔法使いの命が惜しければ、貴様らは手出しをするな。さぁ、ハドラー殿……思う存分勇者との死闘を楽しんでくだされ」

「余計なことをするな、ガルヴァス! バーン様の御用が済んだのなら、早々に立ち去れい!!」

 激しく激昂するハドラーを、ガルヴァスはまるで無視して13班に視線を向ける。

「この魔法使いの命惜しくば、私に同行してもらおう。よもや、断るまいな?」

 見せ付けるように、ポップの首に力を加える。

 もはや白目を剥き、ピクリとも動く様子は見えない。

「ポ、ポップ~!!」

 ダイの声が上がった、次の瞬間。

「ぬぅ? うおお!?」

 突如、ガルヴァスの腕がポップの体から舞い上がった炎に包まれた。

 堪らず離した手からこぼれ落ちたポップを、飛び出したアバンが受け止める。

 密かにイクラはポップにスキル、ヒートボディを発動していた。

 触れた相手を炎に包む、普段は攻撃を一手に引き受けるチェルシーに発動するスキルである。

「お、おのれぇ!! 全員始末することはできなかったか……」

 その言葉に、アバンは13班のいる方角を振り返る。

 そこには、地面に刻まれた六芒星により身動きを封じられた13班の姿があった。

「邪悪の六芒星! 今助けます!!」

「遅い!! バシルーラァ!!」

 アバンが動くよりも、13班が自力で魔法陣を破るよりも早く、ガルヴァスは邪悪の六芒星により強化された呪文を唱えた。

 バシルーラ……強制的に相手を瞬間移動させる呪文の発動により、13班の姿は天へと登り、みるみるうちに見えなくなってしまった。

 

「ああっ! トウコたちが!!」

「バシルーラ! 一体どこへ!?」

「これから死ぬ貴様らが知る必要はないわ!! 喰らえ、ベギ……」

「ベギラマァァ!!」

 ポップ、アバンを狙い、ベギラマを放とうとしたガルヴァスを、それ以上の速度でベギラマが直撃した。

 それを放ったのは、アバンでも、ポップでも、ダイでも……ましてやブラスでもない。

「ハ、ハドラー!?」

「ハドラー殿……何を!?」

「こちらの台詞だ、ガルヴァス……これ以上上官であるオレに逆らい、勝手な振る舞いをするというのなら……アバンより先に、貴様を始末してくれるわ!!」

 憤怒の形相を浮かべるハドラーに、ベギラマの熱を振り払ったガルヴァスは舌打ちする。

「私の好意を無にしおって……勝手にするが良い! くだらんプライドで魔軍司令の座を追われて、後悔しても遅いぞ!!」

 そう言い残し、ガルヴァスの姿は消えた。

 魔軍司令の座という言葉に、僅かに動揺したハドラーであったが、アバンに視線を移す。

 

「くだらん邪魔が入ったな」

「……ハドラー。マリナという女性を知らないのだな? イクラくんと同じ、あの耳を持つ女性だ」

「知らん……オレは貴様を始末するのみ。そんな女のことは、オレを倒した後に考えるのだな」

 アバン、ハドラー共に構え、一瞬の静寂が訪れる。

「13班と言ったか? あいつらの犠牲分の駄賃だ……そのポップとかいう魔法使いだけは、見逃してやろう。他は皆殺しだがな」

「彼らは死にませんよ。そして……私もお前には負けん!!」

 ハドラーが両腕に魔力を集め、イオナズンの構えをとる。

 対して、アバンは必殺のアバンストラッシュの構え。

 

 お互いの最強技が、繰り出された。

 




 豪魔軍師ガルヴァス
 ダイの大冒険劇場版のボスです。
 魔軍司令の地位を狙うハドラーの影武者という設定。
 自前の六大軍団長(ただし部下はいない)と共にダイの討伐で功績を上げようとした。
 実力的には、当時のハドラーと遜色はないが、卑怯な手も平気で使う。
 毒でダイ一行を弱らせ、死んだ六大軍団長の力を取り込むも敗北した。
 せめてアバンストラッシュが完成する前なら勝てたかもしれない。

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