イキナリだけど問題がマウンテン! マモノがメニメニ溢れすぎ!
発生源は異界じゃん? ヤバイじゃん? ヒーローの出番じゃん!
頼むよオマエラ! レッツワーキン!
二度目のドラゴン襲来を受けた地球。
それらを操っていた、真竜フォーマルハウトの撃破によって世界中のフロワロは消失し、世界は一応の平穏を手に入れた。
だが、ドラゴンがいなくなっても、マモノによる被害は未だ多い。
戦いの傷が癒えたムラクモ13班は、日夜復興の妨げとなるマモノ退治を続けていた。
そんなある日、今まで発見されなかった異界化した地域が発見される。
突入し、数多のマモノの発生源となっていることを調査した13班。
最奥にて発見した、閉ざされた扉の向こう側に強力なエネルギー反応を感知。
しかし、未知の金属で構成された扉を開く方法はなかった。
本部帰還後、鉱物をコントロールできるルシェ族のマリナに扉を開けてもらう作戦が立案される。
危険が伴うため13班は反対したが、他ならぬマリナがやらせてほしいと願い出たため、作戦を決行。
13班の護衛の元、再び異界最深部へと潜っていくのだった。
「ここが、最奥?」
そう尋ねるマリナの目の前には、巨大な扉があった。
「そうだ。私たちの力でも、この扉は破壊できなかった」
マリナの言葉を肯定したのは、13班のリーダーであるトウコ。
セーラー服の見た目通り、まだ年若い彼女であるが、その戦歴はドラゴン襲来の日に遡る。
真竜ニアラ、真竜フォーマルハウトとの激戦を制してきた、ムラクモ最強のサムライである。
「ムラクモの総力を上げても、内部に解析不能な高エネルギーがあること以外は不明。危険度も未知数だ」
ゴスロリ風の見た目の少女、チェルシーは、トウコからしてもなお若い。
されど、その身には如何なる攻撃にも耐え続けた勲章である古傷が全身に残っている。
そんなデストロイヤーである彼女でさえ、扉には歯が立たなかった。
「ふ、不安だなぁ。開けたら、強力なマモノでもいるんじゃ……」
「大丈夫、イクラはわたしが守る」
「ぎゃ、逆だよマリナさん!?」
イクラと呼ばれた少女……もとい、少年は狐耳をヒクヒク動かしながら抗議する。
彼はマリナ同様、普通の人間ではない。
太古に滅びたルシェ族を、クローニングして復活させた存在の一人だ。
マリナより後に生み出された彼は、本来女性型に用意されていた容姿に、誤った性別で生み出されてしまった。
そのせいか、あまり男らしくはなく、名付け親に当たるマリナにべったり懐いている。
そんな彼ではあるが、そのサイキックとしての能力はムラクモ随一。
フォーマルハウトとの戦いでは、彼なくば勝利はなかったと二人の戦友も認めている。
「まったく、戦闘以外では本当にダメだな、イクラクンは」
チェルシーの言葉に涙目になるイクラだが、その表情が一瞬で切り替わる。
「リーダー、マモノの気配が近づいてる」
「わかっている。マリナ、扉を頼む」
「わかった。13班も気をつけて」
扉がある部屋にいたマモノは、全て片付けている。
しかし、それでもマモノは何かに吸い付けられるように、この最奥に集まってくる。
本部のナビからも、大量のマモノの接近が告げられる。
「トウコ、まだまだ本調子じゃないんだ。私の後ろで控えていてもいいんだぞ?」
「それはお互い様だ。イクラのサポートを頼むよ、チェルシー」
チェルシーの軽口を、いつもの様に流すトウコ。
しかし事実、トウコ達の状態は万全とは言いがたい。
13班の面々は、ニアラとの激戦の後もそうであったように、フォーマルハウトとの戦いでも、常人ならば再起不能となる重傷を負った。
リハビリに耐え、ようやく戦線に復帰したものの未だ本調子には遠い。
マリナを守りながら、どれほど戦い抜けるか。
そのための戦術を練っていたトウコの背後に、猛烈な悪寒が走った。
「えっ?」
マリナの声の直後に、重量のある何かが動く音。
振り返った13班の目に飛び込んだのは、開いた扉。
そして、その扉から溢れた光に飲み込まれたマリナの姿だった。
三人は躊躇することなく、示し合わせたかの如く扉に飛び込んだ。
一瞬の迷いは、要救助者の死に繋がる。
それを数多の任務で身に染みて知っていたから。
ほぼ同時に飛び込んだ三人の意識は、光の溶けこむように霧散していった。
「くっ……?」
トウコは目覚めと同時に周囲の気配を探り、立ち上がった。
ドラゴンとの戦いで、睡眠を含め異常状態に陥るのは日常茶飯事。
混乱しようが眠ろうが、回復した瞬間にドラゴンに斬りかからねば命はない。
そんなギリギリの戦いを続けた結果、身に染み付いた警戒行動である。
チェルシー、イクラも目を覚まそうとしている。
周囲の風景に見覚えはなく、どうやら洞窟内……しかも、かなり温度が高いことから火山帯に近いと推測する。
「ミイナ、ミロク、聞こえるか? 応答してくれ」
ムラクモ本部へ連絡を入れるが、応答はない。
「リーダー、マリナさんは!?」
「不明だ。二人共、体に異常はないか確認。なければマリナを」
探すぞ。そうイクラに言い切るより早く、事態に変化が生じた。
「きゃあ!!」
「マリナさんの声だ!」
悲鳴の方向へ飛び出すトウコたち。
どうやら外へ繋がっているらしく、次第に光が差し始める。
「なんだ貴様らは!?」
怪物の口のような形状の出口を抜けると、足元に大穴が開いていた。
その前には法衣を着た男と、周囲には傷つき倒れた人々の姿。
「さっきの魔物娘の仲間か!? イオ!!」
男の手が輝いたかと思うと、爆発がトウコたちを襲う。
「待て! 争うつもりはない!」
「くっ、私の呪文を……デルパ!!」
ほぼ無傷で爆発を逃れたトウコの説得に、男は聞く耳を持たなかった。
男が腰から取り出した筒から、煙と共にサソリのようなマモノが姿を現れる。
「マモノを操るのか? サイキックかと思ったが……未知の能力者か?」
「いえ、今のはサイキックの力じゃありません!」
「考察は後。今はマモノを討伐する!」
トウコは、友であるイズミから譲り受けた名刀、絶刀泉美を抜いた。
「残ッ!!」
抜刀からの崩し払いは、サソリの硬い表皮を物ともせず、一撃の元に両断した。
「ば、馬鹿な……ル、ルーラ!!」
狼狽した男は、先ほどのように言葉を唱えると、遥か空へと浮かび、みるみるうちに遠ざかっていった。
「追うかい、リーダー?」
「いや、それより要救助者の治療が先だ。イクラ、ここは頼む。チェルシー、私たちは大穴内部を調べるぞ」
イクラは頷き、倒れた人たちに駆け寄った。
トウコ、チェルシーは大穴へ飛び降りる。
「さっそく居たぞ、マリナだ」
降りた先は、灼熱のマグマで赤く視界を染め上げていた。
そのマグマから少し離れた地面に、マリナが倒れている。
「マリナ、しっかりして!」
「ん、ぅ……トウコ?」
目を覚ましたマリナは、ゆっくりと立ち上がる。
かなりの高さがあったはずだが、怪我はないようだ。
「大丈夫か、痛いところは?」
「大丈夫。そんなに心配しなくても……イクラみたい」
クスリと笑うマリナに、思った以上に焦っていたことにトウコは気がついた。
「(いかんな……倒れた姿を見ると、どうしても重ねてしまう)」
マリナの容姿も声も、かつて命を落とした仲間によく似ている。
ルシェの元になっている素体は、S級能力者の遺体だと言われている。
それ以上は、調べたことはない。
生まれがどうあれ、彼女はマリナという人間なのだから。
「それで、なにがあった?」
「目覚めたら、みんなが倒れていて……助けを呼ぼうとしたんだけど、外に出たら男の人に攻撃されて、穴に足を滑らせたの」
「ほう、全殺し確定だなぁ」
チェルシーの目が怪しく光る。
クールな印象が強い彼女だが、マリナを好いている気持ちはムラクモ一同と同じである。
「れ、レオナ~~!!」
洞窟内に、少年の声が響き渡った。
駆けつけると、そこには少女を抱えた少年がいた。
「だ、誰だ!?」
「私の名前はトウコ。ムラクモ機関13班のリーダーを務めている。聞いたことはないか?」
「む、むら、くも? なんだよそれ? バロンの仲間じゃないのか?」
明らかに警戒している少年に、トウコは自分の身分を明かすが、反応は鈍い。
「証はないが、信じて欲しい。君たちを救助させてはくれないか?」
「……わかった。嘘はついてないみたいだ」
じっとトウコの瞳を見つめていた少年だったが、警戒を解き、少女を抱えトウコに近づいた。
「頼むよ、レオナを助けてくれ! 魔のサソリに刺されて、毒が全身に回ってるんだ!」
レオナと呼ばれた少女を見ると、その顔色は蒼白を通り越し、土気色に変わろうとしている。
「魔のサソリの毒は、毒消し草じゃ消せないんだ。キアリーが使えるじいちゃんのところに行かないと!」
「(キアリー……イオ、デルパといい、聞いたことのないスキルだな)」
毒消し草、という言葉に手持ちのポワゾルを思い浮かべる。
これが効果が無いとは思わないが、未知の毒には最上の解毒で万全を期すべきだとトウコは考えた。
「よし、チェルシーは少年とマリナを。私はこの少女を運ぶ」
トウコは少年からレオナを受け取ると、壁を蹴りながら降りてきた大穴まで飛び上がった。
「す、すごいや!! って、うわぁ!?」
「ほれ、行くぞボウヤ」
驚く少年と、マリナを抱えるとチェルシーもまた大穴まで駆け上がった。
「リーダー! あ、マリナさん、無事だったんですね!」
「すまないイクラ。再開の喜びは後だ」
飛び出してきた仲間が抱えたマリナの姿に、満面の笑みを浮かべたイクラであったが、レオナを見て表情を引き締める。
「毒ですね……発動、リカヴァ!!」
イクラの手から放たれた光が、レオナの体を覆う。
トウコの知る最上の解毒……それは、問題なく効果を発揮してくれた。
光が収まった頃には、レオナの苦しそうな表情は安らかなものに変わっていた。
「ええっ!? 今のは……キアリーじゃないの?」
「悠長に説明してもいいのかい? あのサソリを操っていた男は逃げてしまったんだが?」
「そ、そうだ! バロンの奴を追わないと!」
走りだした少年は、みるみる内に見えなくなっていった。
「イクラ。要救助者の容態は?」
「既に亡くなっていた方以外は、治療済みです」
「よし、少年を追おう。ここがどこかは分からないが、あの男は拘束しなければならないと判断する」
その言葉に、二人、そしてマリナも頷く。
「見失う前に行くぞ。イクラクン、要救助者とマリナのナイトは任せたぞ」
「はい、気をつけて!」
イクラの言葉を背に、トウコとチェルシーは少年の後を追いかけた。
「あの少年、中々速いな」
「ああ、チェルシーよりよっぽど速い」
トウコの軽口に、少しムッとした表情を返すチェルシー。
硬い、強い、遅いが代名詞のデストロイヤーなのだから仕方がないではないかと愚痴る。
すぐ後を追った二人だったが、少年の姿を捉えられなかった。
ただ、少年の通った形跡はいくらでも残っているので、迷うことはなかった。
「じいちゃーん!!」
少年の声と、その姿をようやく捉えたのはほぼ同時だった。
だが、その光景に思わずトウコは息を呑む。
少年が向かっているのは、無数の見たことがないマモノたちの中心なのだから。
「死ぬ気か、あのボウヤ!?」
助けに入ろうと、チェルシーが速度を上げる。
だが、それをトウコが制した。
「なんのつもりだ!」
「待て、何か妙だ」
訝しむチェルシーだったが、すぐにトウコの疑問を理解した。
少年は、マモノに囲まれていた。
しかし、どのマモノも少年を襲う様子がまるでない。
その瞳は、完全に友好的なそれであり、殺気の欠片も感じない。
「それどころか、あのボウヤに殺気を向けてるのが人間とはな」
そう、少年に向けて敵意を向けている存在は、マモノではなかった。
殺意の根源である法衣を着た老人が、トウコたちの何倍も巨大なロボットに向かって大声で叫んでいた。
「バロン! あの小僧は姫共々始末したのではないのか!? しくじりおったな!」
「くそ、死ねぇ!!」
少年に向かって走るロボットに、マモノたちが少年を庇うように立ち塞がる。
「邪魔だ、雑魚モンスターどもが!!」
「逃げろダイ! そいつはキラーマシン! 勇者を殺すために生まれた殺人機械じゃ、殺されるぞ!!」
蹴散らされるマモノ。少年のことであろう名を呼び、逃げるよう促すマモノ。
トウコたちの今までの常識が覆されるような光景であった。
「黙れ、ジジイーー!!」
注意を促したマモノに、キラーマシンと呼ばれたロボットが矢を放った。
「じいちゃん!! う、うおおおおお~~!!!」
「この気配は……ボウヤか!?」
ダイと呼ばれた少年が叫ぶ。
その瞬間放たれた闘気が、トウコたちの元まで届いた。
突然ロボットの周囲が突風に包まれ、巨大な矢は目標から大きく外れた。
「うおお!! バギ……クロス!!」
突風がダイの周囲に集まり、巨大な真空波となってキラーマシンを襲った。
「っ……今のは?」
ダイの額に、模様が浮かび上がったのをトウコは見た。
そこからイメージされたのは、人類の敵……竜。
「呆けるなよ、リーダー。あのロボット、まだ倒せたとは思えん」
「す、すまない。少年……いや、ダイくん、無事か?」
「さっきのお姉さん、ついてきたの?」
「んん? ダイよ、こちらの方々は? レオナ姫のお付きにはいなかったはずじゃが……」
その会話を遮るように、キラーマシンは立ち上がった。
「そんな魔法が通用するかぁ!!」
襲いかかるキラーマシンの前に、チェルシーが立ちふさがった。
「あ、危ない!!」
「馬鹿が、死ねぇ!!」
ダイの叫びも虚しく、キラーマシンの拳がチェルシーを捉えた。
小さなチェルシーが無残な姿を晒すのを幻視するダイであったが、現実は予想せぬものだった。
「軽い拳だ……しっ!」
「な、ぐああああ!?」
キラーマシンの巨体から放たれた拳を、チェルシーは額で受け止め、殴り返した。
吹き飛んだキラーマシンのボディは大きくへこんでいた。
「ば、馬鹿な!! キラーマシンのボディをあんな……ええい、バロン、何をしておるか!!」
老人のヒステリックな叫びに、起き上がったキラーマシンは再びダイたちへ襲いかかる。
「はぁぁ!!」
その行動を、トウコは許さなかった。
神速の連続突き、八双大蛇突きがキラーマシンのボディを串刺しにしていく。
「ぐぁぁ!? あ、ありえん、このキラーマシンの装甲がいとも簡単に……こうなったら、レオナ姫だけは確実に!!」
キラーマシンは、その方向を大きく変えて走りだした。
その先は、先ほどダイたちが進んできた森。
ダイの生存からレオナの生存も悟ったキラーマシンの操者バロンは、せめてレオナを殺すことで計画を成功させようと企んだのだ。
「させるかぁぁ!!」
トウコ、チェルシーよりも早く、ダイは怒りの声を上げる。
その額には、再び竜のような紋章が浮かび上がっていた。
「ベギラマぁぁ!!」
「ほう」
感心の声を上げたチェルシーの脇を通り、ベギラマの閃光がキラーマシンを直撃した。
「馬鹿め、キラーマシンに魔法は通じぬと……はぁ!?」
「うおおおお!?」
嘲笑う老人の声が次第に焦りに変わる。
ベギラマを受けたキラーマシンが、悶え苦しんだ後、動かなくなったからだ。
「傷じゃよ。キラーマシンについた傷から入り込んだベギラマの熱に、中の人間は耐えられなかったのじゃろう」
ダイにじいちゃんと呼ばれていたマモノの言葉を肯定するように、キラーマシンの頭部から男が転がり落ちてきた。
「さっきの……バロンとか言ったな」
「む、無念……」
老人は観念したように俯き、マモノたちに拘束された。
「一件落着か……だが、ここは一体どこなのだ?」
トウコは改めて周囲を見渡した。
目の前に広がる、大海原も、背後の山脈も、まるで見覚えがない。
そして、人の言葉を理解するマモノに、マモノと仲良い少年、ダイ。
トウコの常識は既に通用しないことばかりだ。
「ともあれ、イクラにもマモノを不用意に攻撃せぬよう、伝えねばな」
「あ、トウコさん……だっけ? レオナたちのところに行くの?」
「ああ、ダイくん。良ければ着いてきて欲しい。君の仲間のマモノと、私の仲間が争っては不味いからな」
トウコはその場をチェルシーに任せ、ダイと共に森まで駆けていく。
脇を走るダイを見ると、先ほどの異様な迫力はもう感じられない。
「(不思議な少年だ……にしても、これからどうなるのだろう)」
トウコは僅かな焦りを抑え、今は己にできることをやろうと、気持ちを改めるのだった。
不定期更新になると思います。
感想、評価があると嬉しいです。