IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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9話 真琴と打鉄とブラコンと

 結局、クラス代表戦はセシリアの圧勝で終わった。

 

 8基のビットから放たれたビームと斬撃は容赦なく白式を打ち抜き、切り刻んだ。一夏は成す術もなくあっという間にシールドをゼロに減らされ、無常にも戦闘終了の合図がアリーナに響き渡る。

 

『試合終了。勝者―――セシリア・オルコット』

 

 

 

 

 

「おつかれさまですセシリアさん。はい、どうぞ。タオルとスポーツドリンクです」

 

「ありがとうございます真琴さん、今着替えるのでお待ちになっていて下さ。」

 

「わかりました……セシリアさん。ちょっといいですか?」

 

 

「あら、何ですの?」

 

 しゅるり。静かな更衣室に衣擦れ音が響き、何とも落ち着かない雰囲気が続く。

 

 ここで真琴は自分の考えを述べた。このままではブルースカイの情報を開示しなければならないこと。そして、その対策を施すためにイギリス政府と対話する機会を設けなければならないということを。

 

「そうですわね……わたくしとしても、ブルースカイの情報が他国に漏れるのはなんとしてでも防ぎたいところです。わたくしのほうからイギリスの研究所を介して何とかできないか聞いておきます。その際にはわたくしも同行しますわ」

 

「できればいきたくないんですけど……みんな、ぼくのことを「第3世代のISを作れる技術者」としかみてくれないですし……」

 

「真琴さん……。わたくしの為にここまでして下さるのは大変ありがたいのですけれど、もう少しご自分を大事になさった方がいいですわ」

 

「難しいですよね。ぼくは新しいISをつくりたいだけなのに」

 

 

 

「イギリスのIS研究室に行く必要があるだと?」

 

 

 翌日、真琴は千冬の元へ行き前から考えていた事を打ち明けた。

 

「はい、このままだとイギリスのISの情報がせかいじゅうに開示されます。たいさくを打たなければなりません。……行きたくないですけど」

 

「なるほどな……。最初からブルースカイはイギリスの研究所主体で行い、真琴君は手伝いをしたに過ぎない、という事にするつもりか。それならイギリス政府も頷いてくれるだろう。むしろ、あっちにとってはデメリットがない交渉だ。何か要求できるぞ?」

 

「ぼくは、見たことないISをみて、さわって、そして作りたいだけです。それいがいには何ものぞみません」

 

「良いだろう、護衛には私とオルコットがつく。学園の許可が下りたらすぐにイギリス政府に打診していいか? 早ければ明日にでも許可が下りるはずだ」

 

「えっとですね、すでに外交関係についてはセシリアさんにお願いしています。なので織斑せんせいには学園のほうをおねがいします。あと、できればイギリス行きはよっかごぐらいでおねがいします」

 

四日後という言葉に千冬は首をかしげる。

 

「何か予定でもあるのか?」

 

「念のために、がくえんにきょかがとれたら織斑せんせいにカスタマイズした打鉄をわたしておこうかとおもいまして。……その、色々ととこわいですから」

 

 真琴は自分の立場を理解していた。いくら織斑千冬とはいえ、生身では複数のIS相手は厳しいだろう。そこで、護衛に必要な武力を千冬に預けることにしたのだ。

 

「学園に許可が取れればかまわない。反応速度を上げたくらいでは満足できないのだろう? 打鉄がどのように改造されるのか楽しみにしているよ」

 

「わかりました。では、にっていが決まったらけんきゅうしつにご連絡ください」

 

「わかった、ではな。……ああ、体調管理には気をつけろよ。缶詰になったら、イギリス行きの話はなかったことにするからな」

 

「はい、それではけんきゅうしつに行ってきます」

 

 立ち去る真琴の背中には、どこか疲労の色がうかがえた。それを千冬が見逃すはずもなく、一人対策を練り始める。

 

(……真琴君が自分の立場を理解し始めたか。私達がしっかり守ってやらないと潰れてしまうな、これは)

 

 千冬は受話器を取り、どこかへ連絡を取り始めた

 

 

 

 

 

 真琴は研究室に戻った後早速前日改造した打鉄の改造を行い始めた。さすが第3世代の改造まで行わされていた研究員達である、真琴が簡潔に改造案を伝えると、すぐに自分の持ち場に散って行った。

 

 真琴にとって、ISを弄るのは真耶と一緒に遊ぶ次に好きな事だった。それは今日体験した嫌な事を忘れさせると共に、真琴のモチベーションを保つために必要な事でもある。

 

 なんか大事な約束があった気がするが、今はこっちが優先だといわんばかりに頭の片隅に追いやっていた。

 

 打鉄は国産の第2世代である。そのため国家機密という程の物ではない、すぐに改造の許可は下りた。学園所有の物のため、IS学園を統括しているであろう日本政府主導の改造案ということにする。IS学園の研究室と日本政府のIS研究室は別物であるため、これならアラスカ条約に抵触することはない。

 

(法律ってめんどくさいよね。みんなで仲良くISを使えばいいのに)

 

 頭の中に、今日の昼に面会した国際IS委員の顔が浮かんでくるが、真琴は頭を振り、再び作業に戻った。

 

 反応速度については既に一般の学生が使っても問題ない、むしろオーバースペック気味になっているが、それでも千冬が自由自在に使うことができないだろう。打鉄の性能が千冬に追いついていないのだ。搭乗することになる千冬は世界最強のIS使いだ、お粗末な改造は千冬に恥をかかせることになるだろう。

 

 打鉄にはラファールのようなスラスターが付いていない。個別にイグニッション・ブーストを連続して行うことができるようにするために、新たにスラスターを取り付けることにした。

 

 打鉄とラファールは基礎こそ同じだが、回路は微妙に違っている。4枚のスラスターをラファールから複製し、打鉄に取り付けようと思ったが打鉄にはICからスラスターへと繋がるポートが余っていない。これに真琴はしばらく悩む事となる。

 

 少し考えた後打鉄本来のスラスターへと繋がる回路を、新しく取り付けるスラスターの回路に置き換えることにした。このため新たに回路上のパターンの再配置を施すことになり、研究員達に自らCADで書き起こした基盤のアートワーク(基盤のパターンの詳細を書いたもの)を手渡した。これで基盤は問題ないだろう。

 

 次にスラスターを制御するプログラムだ。幸い4個のスラスターを制御するプログラムは、前日ラファールに用いたプログラムが使えるので一から作り直す必要はない。細かい修正を加えるだけで問題ないだろうと判断。これも研究員にまかせることにした。恐らくバグが少なからず見つかると思うが、頑張ってもらうしかない。

 

 レイアウトの変更を行う前に、充電効率と容量の最適化も行っておかねばならない。机上の空論とはいえ、あらかじめ作っておかないと後が大変である。打鉄に関してはこの改造はまだ施していないため、結局一から部品の選定を行うことになった。

 

 この時点で午後8時を回っている。タイムリミットがそろそろ近い。国枝から上がってきた各々の進捗状況に目を通し、本日は帰宅することになった。

 

(まだまだ駄目だなぁ。織斑先生は世界最強のIS使いらしいし、こんなんじゃ全然スペックが足りてない)

 

 真琴の思考は留まる事を知らない。妥協を知らないそれは正に、超一流の研究者。彼の頭の中では、一体どの様な事象が浮かんでは消えているのか、誰も知るよしもない。

 

 

 

 

 帰宅をする前に、真琴は教員室に立ち寄った。愛する姉と敬愛するブリュンヒルデに報告を行うためだ。

 

 

「おつかれさまです、織斑せんせい、お姉ちゃん」

 

「あ、まーくん。織斑先生から話は聞いたよ。イギリスに行くんだってね……。織斑先生が一緒に行くんだったら大丈夫だとは思うけど気をつけてね?」

 

「うん。だいじょうぶだよ。えと、織斑先生。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

 

「なんだ? ISの事についてか?」

 

 本体の改造については方向性が決まっているが、武装については千冬に合わせるしかない。

 

「えっとですね、ISの武器についてなんですけど。織斑せんせいはどういったぶきが得意ですか?」

 

「私はISに乗ってそこそこの年数が経つが、ずっと近接用のブレードをメインにしていた。遠距離用の武装はあまり使わないと思ってくれてかまわない」

 

「それでブリュンヒルデと呼ばれるまでのぼりつめたんですか。すごいですねぇ……」

 

ぽかーんと口を開けて見つめてくる真琴を見て、千冬は微笑みながらクシャクシャと彼の頭を撫でた。

 

「一つの型を極めれば、それは武器になる。ピーキーだろうが使いこなせればいいのさ」

 

「……わかりました。それでは、ブレードに特化したきたいにします」

 

「ああ、それでいい。強いて言うならブレードは刀の形を模した物にしてくれ。後は出来上がった機体に乗ってみてからだな」

 

「わかりました。それではお先にしつれいします」

 

 ぺこり。何時もの様に丁寧にお辞儀をする真琴に、千冬は手をヒラヒラと振りながら返事を返した。

 

「ちゃんと時間は守っているようだな。明日は社会の授業があるからちゃんと出席するように」

 

「はい、それではしつれいしますね」

 

「まーくん。お姉ちゃんももう少しで帰れそうだから、待っててもらえないかな?」

 

 チラリと時計を見やると時刻は8時半を回っていた。

 

「うん、それじゃあ、お姉ちゃんのよこにいるね」

 

 真琴は自分の机でパソコンを開き、真耶の残務が片付くまで打鉄の改造計画を練っていた。

 

 

 

かぽーん

 

 久しぶりのドキドキ☆お風呂TIME☆ミ! 二人は湯船の中でじゃれあっていた。

 

 

 真琴は母性の塊を後頭部に押し付けられ、山の間から頭だけを出している。柔らかいそれは真琴を優しく包み込み日ごろの疲れを昇華させていく。なんかその他にも色々と昇華されていきそうな勢いだが。

 

 

 一方、最近お互いの都合が合わずご無沙汰だった真耶は、にへら~……と割と姉が弟に向ける表情としては危ない笑みを浮かべ、蕩けながらもう離さないと言わんばかりにむぎゅむぎゅと豊満な胸を押し付けていた。

 

「お姉ちゃん……やらかい……」

 

「ふふっ。最近まーくんと一緒にお風呂に入れなかったからね。今日はゆっくり入ろうね?」

 

「うん」

 

 真耶は後ろから真琴に抱きついたまま離れない。なんていうか、こう、お気に入りの人形?みたいな感じなのだろうか。というか、そういうことにしておこないと危なそうだ。うん、そういうことにしておこう。

 

 

 

 ◇

 

 何時ものように真耶と真琴は一つの布団に入っている。真琴はすぐに寝入ってしまったため、真耶は静かに真琴を愛で始めた。

 

「えへへ、まーくん……」

 

 学生の頃、理想の男性のタイプは?と聞かれて弟と即答した真耶。ブラコンここに極まる。血縁関係になかったら、真琴の将来の相手は100%真耶に決まっていただろう。

 

 最愛の相手を胸に抱き、真耶は顔を赤くして悦に入っていた。ああ、危ない。

 

「まーくんとずっと一緒にいられたらいいのに……私も一緒にイギリスに行きたいなぁ」

 

 むぎゅむぎゅ。真耶の愛は天井知らずである。このままどこまでも! とはいかないので、ひたすらスリスリと体を摺り寄せることで妥協した。というか、妥協しなかったらどこまで行くのかちょっとだけ見てみたい気もするが、なんか天の声が聞こえてきたのでそろそろ止めた方がいいだろう。

 

 

(それに、織斑先生から連絡もあったし……)

 

 昼過ぎに真耶の元に一本の連絡が入っていた。相手はもちろん、千冬だ。

 

(「真琴君が世界の裏に気付き始めているから気を付けた方がいい」か……)

 

 

「まーくん……お姉ちゃんが守ってあげるからね」

 

 

 真耶のスリスリむにむにTIMEは、それから30分程続いた。

 




―――ZZz……

―――んっ……

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