IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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45話 二人の打ち合わせ

 正式に名前が決定したシャルロットのISではあるが、真琴は未だに決めかねている事項があった。アンフィニ・オリゾンのカラーリングである。

 

 ラファールの流れを継承するならオレンジに近いカラーリングになるが、それはデュノア社に渡す予定のISに施す事が決定している為、なるべく被りたくないという訳だ。恐らく、デュノア社が新しいISを手に入れたら、ほぼ100%IS学園に送り込んで来るだろう。そのISに乗る人物はデュノア社の人材に違いない。

 

 つまり、なるべくシャルロットとデュノア社の関連性を出来るだけ絶ちたいのだ。下手な諍(いさか)いは起こしたくない。

 

 シャルロットとデュノア社のパイロットが問題を起こした場合、真琴は間違いなくシャルロットの味方をする。それによりシャルロットをえこひいきしているのでは、と勘違いされても面白くない。

 

 ここで真琴は晩飯の準備をしているシャルロットに尋ねるべく、キッチンへと足を運んだ。

 

 

 研究室を出た瞬間に匂ってきたのは、濃厚なミルクの香り。恐らくミルクシチューでも作っているのだろう。

 

 それはキッチンに辿りつくとさらに強みを増し、その匂いを嗅ぐだけで胃が活発に動き出す。

 

 くるるぅ~……と真琴のお腹から可愛い音が聞こえてくる。その音を聞いたシャルロットが振り返ると、そこにはシチューを煮込んでいる鍋を凝視している真琴がぽつねんと佇んでいた。

 

 その様子を見て、シャルロットはクスりと笑うと、味見用に用意していた小皿にシチューを少量取り、真琴に手渡した。

 

「真琴、味見お願いしてもいいかな?」

 

 味見、という言葉を聞いて、真琴は嬉しそうにその小皿を受け取ると、ふーっ、ふーっ、と冷ました後、ゆっくりと小皿を傾けた。

 

 シャルロットに緊張が走る。一応自分では上手く出来たつもりでいるらしいが、料理は個人によって好みの差がある。彼女は今ある食材で最高の一品を家族に提供したいのだ。

 

「……どうかな?」

 

「んと、その」

 

 何やら真琴は言い出すのに躊躇している様子。何か味付けがおかしかったのだろうかと不安にかられた彼女であったが、真琴の次の言葉を聞いてそれが杞憂であったという事を悟る事になる。

 

「……おかわり」

 

 顔を少し赤くしながらおずおずと小皿をシャルロットに差し出す真琴。その小皿に注がれてたシチューは綺麗に飲み干されていた。

 

「後一杯だけだからね?」

 

 シャルロットはクスクスと笑うと、真琴のお願いを聞いてあげるのであった。

 

「はい」

 

 真琴は小皿を受け取るとニコニコと微笑みながら飲み干すと、満足したのかご馳走様でしたと一言残すと研究室へ戻ろうとした。

 

「真琴? 何か用があったんじゃないの?」

 

「あっ……そうだ。シャルロットお姉ちゃん、ちょっといいですか?」

 

「あ、うん。ちょっと待ってね」

 

 シャルロットはコンロの火を消し、二人分のお茶を準備するとテーブルに置いた。エプロンを付けたままなのはご愛嬌か。

 

「はい、真琴。……それで用事って何かな」

 

「えと、アンフィニ・オリゾンのカラーリングについてなんですけど」

 

「アンフィニ・オリゾンのカラーリング?」

 

「はい、デュノア社にわたすISとおなじ色にしたくないので、それ以外の色でおねがいしたいんですけど」

 

「そうだなぁ……」

 

 真琴とシャルロットはリビングで寛ぎながらアンフィニ・オリゾンのカラーリングについて話し合い始める。ラファールと同じ色には出来ないとシャルロットに伝えると、ああやっぱりかと納得がいった様子で新しい色を模索し始めた。

 

「ISのデザインが決まらないと難しいよねぇ。ずっとラファールに乗っていたから、それ以外の色となると思い浮かべるのが難しいや」

 

「そうですか……それではレイアウト完成させたほうが良さそうですね。6わりくらいは出来ているんですけど、ランペイジやネットなどの固定武装を載せるに当たってのしょうさいが決まって無いんです。手伝ってもらっていいですか?」

 

「わかった。シチューも食べる前に温めるだけだから、僕は何時でも取り掛かれるよ」

 

「それじゃあノートパソコンをもってきますので、ちょっと待っててくださいね」

 

 真琴はパタパタとスリッパの音を立てて走って行くと、研究室のデスクに置いてあるスタンドアローンのノートパソコンと電源ケーブルを持ち出し、いそいそと戻ってきた。そしてリビングのテーブルにそれを置くと、電源を繋ぎ、スリープ状態を解除してマウスを操作し始めた。

 

「えと、これが今現在決まっているレイアウトです」

 

 シャルロットが立ち上がっているアプリケーションのウインドウを覗き込むと、そこにはアンフィニ・オリゾンと思われるISのレイアウトと、固定武装であるランペイジバンカーのグラフィックが表示されていた。

 

 アンフィニ・オリゾンのレイアウトは、ラファールのそれとは大きく異なっている。ラファールは4枚のスラスターが大きな特徴だが、アンフィニ・オリゾンにも4枚のスラスターが搭載されている。

 

 4枚の内2枚のスラスターは翼の様に配置されている。しかしラファールのそれと違い大分コンパクトになっている。その代わり、背部中央から真っすぐ生える様に搭載されている2門のスラスターはかなり大きい。バーニアと言っても過言では無いかもしれない。これはランペイジを最大限生かすための措置だ。

 

 背面中央に搭載されているスラスターにはそれ自体にジェネレータが搭載されており、そのスラスターだけで瞬時加速を最大2回まで行う事が出来る。

 

 つまり、その気になれば一瞬で2回連続瞬時加速で行う事が出来ると言う事だ。操縦者への負担は増すが、その加速力は飛躍的に上昇する。

 

 下半身のレイアウトについても、ラファールとは全くの別物と言って良い。

 

 ラファールは通常の2脚タイプ、つまり人間の足と同じ様な装甲だが、アンフィニ・オリゾンにはそれに加えてスカートが配置されている。この部分はまだフレームしか決まっていないが、当然そのスカートはただ見た目を重視して決めた訳ではない。何かしらの兵器が搭載される予定だ。その他上半身のレイアウトに関してもまだ決定していない。まだまだ煮詰めていかなければならない段階ではあるが、確実にアンフィニ・オリゾンのレイアウトは出来上がっている。

 

 後はランペイジバンカー等の固定武装との組み合わせなのだが、ここで真琴は少し詰まった。ランペイジバンカーは盾の役割を果たす装甲と組み合わせて右腕に固定することは確定しているのだが、ネットを発射する有線式のビットを何処に装填するか決めて居ないのだ。

 

 今の時点で一番有力なのはスカートだが、肩の装甲に組み合わせるのも面白い。

 

「……なるほどなぁ。スカートを付けるとなると今までより横幅が大きくなるから、回避運動は大き目に取らないと駄目だね」

 

「はい。その代わりにぶそうを追加することができます」

 

「スカート自体がブレードになるとか? ワルツを踊りながら攻撃とか面白そうだね」

 

「……スカートをパイルバンカーにするのは、どう思いますか」

 

「え“っ」

 

 どうやら、まだまだアンフィニ・オリゾンの完成は遠い様だ。

 

 

 

 

 

 二人の打ち合わせは結構な時間続いている。

 

 普段は相手の意見を尊重する事が多いシャルロットだが、自分が命を預けるISとなると話は別だ。アンフィニ・オリゾンは世界最高峰を誇る真琴が自分の為に作ってくれる専用機だ。妥協などできる筈も無い。

 

 

「肩に浮遊式固定ユニットをつけるのはどうでしょうか?」

 

「甲龍みたいな武装を想像すればいいのかな。でもあれって無線式だよねぇ。ネットは有線にするんでしょ?」

 

 

 ただし、自分の持論を全開にしている訳ではない。真琴の意見を聞き、それを踏まえた上でこうしたらいいんじゃないか、と真琴に持ちかけるのだ。パイロット視点からの意見は貴重な物であるから、真琴もそれを決して無碍にはしない。

 

 

「スカートはぜんぶで6個くらいのパーツでこうせいして、各々のスカートが武器になるっていうのはどうでしょう?」

 

「う~ん……仮に搭載するとしても補助武器がメインになりそうだね。……パイルバンカーは1個でいいからね?」

 

 

 二人で話し合い、意見を出す度に真琴の持つマウスは忙しなく動き、微調整や外見の変更を続けて行く。いつの間にかヘッドパーツの作成にまで手は伸び、気づくとおおよそのレイアウトは出来上がっていた。

 

 

「いっそのこと第4世代にして、通常モードでも数種類の形態をもつISというのはどうでしょうか」

 

「僕はそれでも構わないけど、それだとレイアウトを考えるのが大変そうだね」

 

「以前考えていたパッケージがあるので、それを流用すれば時間はそれほど……」

 

 

 と、その時目覚まし時計の音が部屋に鳴り響く。これは21時以降研究を続けてはいけないという制約から部屋に置いた物で、これ以降はリビングでもIS関連の話はしてはいけないというルールが決められている。

 

「あ……もうこんな時間だ。ごめんね真琴、お腹すいたでしょう?」

 

 言われて気づいたのか、くきゅるぅぅぅ~~……と可愛い音がリビングに響いた。

 

 

 深夜、真琴を寝かしつけた後、千冬、真耶、シャルロットの3人はリビングで打ち合わせを行っていた。

 

「さて、明日の手続きの件に関してだが……。デュノア、後悔はしないな?」

 

「はい。僕はフランス、そしてデュノア社と決別します」

 

「安心して下さいデュノアさん。明日は織斑先生を含む数人の教員が護衛に当たりますので、先ず武力介入は起きないと思います」

 

「デュノア、念の為この書類に目を通しておけ。入国管理局で亡命認定される際に恐らく質疑応答がある」

 

 そういって千冬が手渡してきたのは、簡単に言うとQ&Aだ。

 

 質問されるであろう項目が列挙してあり、それとシャルロットの境遇を踏まえ、理想的な解答を出せるように纏めてある。千冬からも説明はあるが、一番重要なのは本人の意思だ。

 

「……分かりました。全て答えられる様にしておきます」

 

「まぁ、一晩で覚えられるだけで良い。後は自分の境遇を虚偽なしに報告すれば、十中八九亡命は認定される」

 

「入管は9時始業だ。ここからだと車で一時間程掛るから、それに合わせて行ける様に準備しておけ」

 

「分かりました。こちらで準備しておく必要がある物はありますか?」

 

「そうだな……スパイ活動を行ったと言う証拠等が有るか?」

 

「はい。僕のノートパソコンに送信済みのメールが有ります。通信記録も残っています」

 

「ならそれを準備しておけ。後は身元が保証出来る物が有れば何でも良い」

 

「分かりました。デュノア社の社員証と学生証を準備します」

 

 シャルロットの表情は硬い。まぁ、これで自分の人生が決まってしまうのだから、仕方無いと言えば仕方無いのだが。

 

「デュノアさん、無理かもしれないですけど余り無理をしないで下さいね。明日は事実だけをしっかりと報告すれば大丈夫ですから」

 

「……有難うございます真耶さん」

 

 深夜の打ち合わせはまだまだ続いて行く。いよいよシャルロットの行く末が決まろうとしていた。

 




――おい、定時連絡はどうなっている

――先ほど有りました。どうやら、無事山田製作所に潜入できた様です

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