IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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37話 真琴へのアプローチ

 翌日、真琴は職員室に顔を出した後一限から授業に出席し、他の生徒と同様大人しく授業を受けていた。ラファールのメンテナンスが完了し、比較的余裕が出来た為だ。

 

 2限の授業が終わり、10分休みを迎えた時、真琴はフランス政府に渡す予定のISをどうするか考え始めた。

 

 今回は全力で作成に当たる必要はない。いっその事デュノア社と手を組むを言う事も考えたが、シャルロットの立場を考慮するとそういう訳にもいかない。

 

 合理的に考えてしまえばそれも有りなのだが、生憎真琴は身内に対してそんな扱いをしない。シャルロットの事を第一に考え、デュノア社には性能の低い第3世代のISを与えて、そこから自分で考えてもらおうという結論に達したのだ。

 

 真琴はデュノア社に渡すISの構想をPC上で練り始めた。一週間あればある程度の物は作れるだろう。作り終わったら、そのデータをデュノア社に投げるだけだ。

 

 

 真琴がぽちぽちと回路を作成していた時、お手製のファイヤーウォールが組み込まれているはずのノートPCに、暗号回線で一通のメールが入ってきた。

 

 本来このPCはスタンドアローンである。では、何故メールが入ってきたと言うと、これまた束お手製のウサ耳が関係している。

 

 無線LAN機能を持っていると言う事だ。

 

 電波を受信する度に、耳が忙しなくピコピコと動き、予期せぬ動作をするとピコン! と勢い良く跳ね上がるといった具合にプログラミングされているらしい。やはり天才と言う物は、才能の使いどころを盛大に間違えるものなのだろうか……。

 

 つまり、学園が黙認、もしくは学園に気づかれないでパスとIDを入手してアクセスしてきたという事になるが……。

 

 メールのタイトルは「ちょっとお話しない?」という実にフランクな物だった。添付ファイル等は同封されていなかったが、巧妙に隠されているかもしれない。そのまま開くなど愚の骨頂だ。 念のために市販のセキュリティソフトでチェックをし、その後に真琴が自分で組み上げたセキュリティソフトでウイルスやワームなどが入っていないかチェックをした。

 

 チェックを終え、有害なソフトが入っていない事を確認すると、真琴はメールを開封した。

 

 

 

 

 

 

From:IS学園生徒会長

 

 やっほー、真琴君。ちょーっとお話したい事があるんだけど、昼休みに生徒会室に来てくれないかな? 一応学園の許可は貰っているけれど、いきなりの事で信用できないかもしれないから、ボディーガードを連れてきてもいいわよ。

 

 PS:簪ちゃんの事、ありがとう。専用機が何時まで経っても出来なかったから、少し困っていたのよ。そのお礼もしたいから、来てもらえると助かるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 このメールを見た後、真琴は首を傾げてしまった。何故、このタイミングで?

 

 新しいISの開発依頼? ボディーガードを連れてきても良いと言っている時点でその可能性は薄い。無いとは言えないが考えにくいだろう。ならば、生徒会との繋がり? 学園で真琴の保護と提携を結んでいる時点でそれも考えにくい。学園側が許可を降ろすはずもない。それじゃあ、純粋にIS開発に対する謝礼? それに関しては追伸に書かれているので、それだけという訳ではないだろう。

 

「真琴さん? 先ほどから考え事をしている見たいですが、何かお悩みでも?」

 

「あ、いえ、何でもないですよ」

 

 とりあえず判断材料が足りない。真琴は千冬に許可を取り、開いている会議室を借りて、昼休みまで更識楯無及び更識簪について調べる事にした。

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃生徒会室で一人パソコンをカタカタと弄る人物が一人。

 

 いくら休み時間とはいえ、10分しかない。さすがに生徒会に入る様な人物が授業をサボるのはマズいだろうと考えるのが普通なのだが、生憎生徒会に入る人物は一癖も二癖も有り、濃い人物ばかりの様だ。予鈴がなったが、気にすることもなくパソコンを弄り続けている。

 

(このIS……簪ちゃんの前では言えないけど、簪ちゃんにピッタリのISだわ。ミサイルで目隠しをした後、ジャマーと光学迷彩で姿を暗まして、後ろから鎌でバッサり。……真琴君もエゲつないISを考える物ね)

 

 服装から察するに、恐らく2年生。肩にかかる程度の水色の髪が印象的で、簪とは違い外側に跳ねている。全体的にどこか落ちついた雰囲気があるが、どこか「この人の前で油断をしてはいけない」と言うオーラが彼女から漏れている。束のそれとはベクトルが違うが、少なからずトラブルメーカーの気質があるのだろう。

 

(8歳でこんなISを作れる物なの? 彼が新しく作ったISの基礎理論についての授業を受け持つみたいだし、正に篠ノ之束の再来、か)

 

 彼女は真琴についての情報を集め続ける。

 

(それに、人脈もかなり有るみたいね。織斑千冬、篠ノ之束、日本政府にイギリス政府、更にはドイツ政府との繋がりも有り……と)

 

 果たして、この人物は味方に回るのか敵に回るのか、真琴のさじ加減一つと言った所か。

 

(親からの勘当か……まだ8歳なのに。IS学園っていう盾はあるけど、篠ノ之博士に変わって世界から狙われる立場になったというのは、予想以上にきついみたいねぇ)

 

 齢八つにして、そこまでの立場に上り詰めてしまった真琴の事を考え、生徒会室でパソコンを弄る少女は少し胸を痛めつつ、それでも情報収集を怠ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

(生徒会長……更識楯無(さらしきたてなし)。更識家……対暗部組織)

 

 昼休みまで後30分という所で、真琴は情報収集を終えた。

 

(学園にも暗部が入りこんでるってこと……?)

(でもそれだと僕が未だに狙われないっていうのもおかしい)

(ひょっとしてこの人が未然に防いでたのかな)

(何かお礼とかしたほうがいいのかな……)

 

 様々な推論が頭を巡る。しかし解のない公式は解くことができない。いくら状況証拠が出揃っていてもそれで結論に至ることはできないのだ。

 

 行き場を無くした情報は真琴の頭の片隅に居座り、消すことのできないしこりを生み出す。

 

 さすがに一人で行くのは無謀だ。ここは姉の次に頼りになる織斑千冬にボディーガードを依頼するのが上策だろうと判断し、真琴は職員室へと歩を進めた。

 

 

 人間と言うものは、慣れない環境下に放り込まれても、一週間もすれば慣れてしまう物である。客寄せパンダになってしまい、初日こそビクビクと姉の影に隠れながら校内を歩いていた真琴であったが、今は生徒達の視線などどこ吹く風といった感じで廊下を歩いていた。

 

 そして職員室へたどり着き、真琴は一直線に千冬の元へと向かって行った。

 

「織斑せんせい、いまお時間をもらってもだいじょうぶですか?」

 

「ん? ああ、真琴君か。生徒会室だな、さっさと行くぞ」

 

 さすがに頭の回転が速い。昼間にメールの事を相談し、この時間に此処に来たという事実だけで千冬は話の流れを理解した様だ。ボディーガードの件については話していなかったはずだが……。

 

「あいつは何時も飄々としているが、油断ならん相手だ。後ろに私が居るから大丈夫だとは思うが、万が一と言う事もある。油断するなよ」

 

「わかりました。それでは、時間もおしてますし、早くいきましょうか」

 

「ああ。こっちだ、ついてこい」

 

 千冬の後に続いて職員室を後にし、生徒会室への道を歩き始めた。

 

 しかし、真琴は何処に行くにしても注目の的になる。彼は既に気にしていないが、さすがの千冬も少々気になっている様だ。ヒソヒソと噂話をしながら此方の様子を伺う生徒を一睨みしてその視線を蹴散らすと、溜息を吐きながら真琴に同情していた。

 

「真琴君も大変な立場になってしまったな。世界中から様々な呼び名が付けられているぞ? 奇跡の頭脳、ISの申し子、技術者から見れば既に神様とまで呼ばれてすらいる」

 

「……もっとかっこいいほうがいいなぁ」

 

 

 

 他愛もない? 会話をしながら千冬の後をついて歩いていた真琴だが、生徒会室の前にたどり着くと、表情から笑みが消えた。その表情は、どこかイギリス政府と対峙した時の彼を彷彿とさせる。

 

「準備は良いか? ……聞くまでも無かったか」

 

 千冬は真琴の表情を確認すると、ドアをノックした。少しして「どうぞ」と短い返事が返ってきたのを確認し、二人で生徒会室の中へと入って行った。

 

 

 そこには、顔が引き攣った水色の髪の少女と、「だからやめておけと言ったのに……」と小さく呟きながら溜息を吐く三つ編みの少女が居た。

 

 

「こ、この展開は予想外だわ……まさか織斑先生をボディーガードとして同行させるなんて……。さすが真琴君、やるわね」

 

「会長、だから呼ぶなら直接会ってアポイントメントを取った方が良いと、あれほど言ったじゃないですか」

 

「だって、メールの方が社会人っぽいじゃない」

 

何やらぎゃあぎゃあと言いあいをしている生徒会会長と書記? 議長? 良く分からない立場の人物を見て、真琴の白衣の肩がずり落ちた。

 

「えっと……織斑先生?」

 

「……怒られている方が、生徒会長、更識楯無だ」

 

「は、はぁ……」

 

「……んんっ! 良く来てくれたわ、真琴君。ようこそ生徒会へ。私が生徒会長の更識楯無よ」

 

デスクに両肘をつき、組んだ両手を顔の前に持っていき、キリッと凛とした表情を浮かべながら更識楯無は歓迎の意を表した。しかし、その雰囲気を即座にぶち壊す人物が楯無の真横に。

 

「お嬢様、今更取り繕っても手遅れです。諦めた方が良いかと」

 

「……虚ちゃん、いくらなんでもそれはないんじゃない?」

 

「紹介が遅れました、私は布仏虚(のほとけうつほ)。お嬢様に仕えています。……本当ならもう一人紹介しなければいけないのですが……済みません、まだ此処に来ていないので後にさせて下さい」

 

 と、その時。何やらバタバタと廊下を走る音が聞こえてきた。相当慌てているのが伺えるが、何処かその足取りはおぼつかない様に聞こえる。

 

「ふ~、まにあっ……てないのかなー? ちょっちまずいかも?」

 

「遅刻よ本音。昼休みに来客が有ると連絡したじゃない」

 

「いや~ははは、ごめんねお姉ちゃん。限定メロンパンを買うのに時間かかっちゃって~」

 

 その時、生徒会室に鈍い音が響いた。本音と呼ばれた少女の頭にとても良い角度で拳が着弾し、彼女の頭からプスプスと煙を立ち上げていた。

 

「申し訳ありません。この子は布仏本音(のほとけほんね)。私の妹です」

 

「い、いたぁ~い……。くらくらするぅ」

 

 本音は目を回し、ついでに頭の上にヒヨコを回しながら、フラフラ~……と真琴の元へ向かってくる。千冬は出席簿を手にしたままピクりと眉をひそめたが、同じクラスメイトで、しかも更識家に仕える立場の人間がこの場で真琴の身をどうこうする気はないだろうと判断し、彼女の動向を見守っていた。

 

「あ、あの、大丈夫ですか? すごくいいのが入った気がするんですけど……」

 

「お星様がいっぱい~……あははぁ~……まことが三人に見える~」

 

 

 

 

 

 本音がリカバリーするまでに時間がかかると判断した千冬は、彼女を放置して楯無との話し合いを進める事にした。

 

 

「私は問題が有ると判断した時のみ横やりを入れるとしよう。そら、さっさと話を進めろ」

 

「やりにくいなぁ……それじゃ真琴君、まずはお礼を言わせてね。ありがとう、簪ちゃんの力になってくれて」

 

「簪さん……撃鉄弐式の事ですね」

 

「ええ、誰のせいと言う訳でもないんだけど、簪ちゃんに回されるはずの専用機って七割くらい作って放置されてたのよ」

 

「日本政府からしりょうはいただきました。打鉄弐式ですね」

 

 永久凍結されてしまった打鉄弐式の資料は、真琴が一番有効活用できるだろうと、日本の代表候補生に優先的に回すという約束で全て引き取っていたのだ。

 

「ええ、打鉄弐式を作っていた倉持技研なんだけど、急遽白式の開発が入ったみたいで……。白式に専念したという訳」

 

「そこで日本政府からいらいがあった撃鉄弐式が簪さんにあてがわれた、と」

 

「その通り」

 

「そのおかげでー、かんちゃんに少しだけ元気がもどったんだよ~、お手柄だねまこと!」

 

 何故か本音が真琴の頭を撫でている。

 

「あまり時間が無いぞ。更識、さっさと本題に入ったらどうだ」

 

 腹の探り合いの様な会話が続く中、痺れを切らした千冬が促しはじめた。

 

「んー……もうちょっと話していたかったけどしょうがないか。それじゃあ本題に入るわね」

 

「あ、はい」

 

 本題に入るという楯無の言葉を聞いて、真琴はノートPCを取りだし、いそいそとファイルを立ち上げ始めた。その様子を見て、楯無はニヤりとほくそ笑みながら

 

 

 

 

「真琴君、貴方、生徒会に入らない?」

 

 

 

 

 真琴の動きがピタりと止まった。

 




―――……(何を考えているんだろうこのひと)

―――……(え? え? ノーリアクション?)

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