IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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3話 種 覚醒

お姉さん達に回路図とか色々用意してもらったのはいいんだけど……。これだけじゃちょっとわかんないなぁ。もっと細かい情報がないとなんとも言えないや。

 

「どう?それは量産機「打鉄」の回路図と配線図なんだけど。真琴君にはちょっと難しかったかな?」

 

よし、この際だから色々とお願いしちゃお。聞いてくれるよね、多分。

 

「えっと……その、ぶひんとかのくわしいデータがみたいんですけど……」

 

「ああ、納入仕様書ね。ちょっとまっててね」

 

「あ、すみません。そ、それとプログラムを……」

 

「……本気だね真琴君。わかった。それも用意するね」

 

「すみません。おねがいします」

 

「いいのよー。おねえさんにまかせておいて!」

 

やっぱり、大人の女の人って僕が頼み込むとだいたいお願い聞いてくれるんだよね。えへへ、次もこの調子でお願いしよっと。

 

 

 

 

 

 

さてさて、用意された説明書は全部で100……くらいかな? 思ったより少ないかも。やっぱ第二世代のISだからかなぁ。説明書って画面で見るよりも紙の方が見やすいんだよ、知ってた? だって一つのディスプレイに表示できる数って限界があるじゃん。

 

……? なにこの部品。素子の定数が大きすぎじゃない? この組み合わせだと入ってきた信号をこの部品が吸収しちゃって出ていく信号との時間差が生まれちゃうと思うんだけど……。それにこっちの素子も。うわー出てくる出てくる。これじゃ搭乗者の画面に表示される数字にもノイズが乗っちゃうんじゃないかな。こっちも変更しなきゃだめかなぁ。……こっちはコアかな? とりあえずこれは後回しっと。

 

暇な時に読んでた本がこんなときに役に立つなんてね。読んどいてよかった。

 

―――30分後―――

 

 真琴が仕様書とプログラムを比較し始めた辺りでは、おねいさん方はニコニコと子供を見守るような視線で真琴を見つめていたが、彼の雰囲気が一変してからは彼女らの笑顔も消えた。真琴に声をかけても一向に返事が返ってこないからだ。

 

 真琴は高熱を出した時、精神疾患と共に、ある才能を手に入れた。それは、後天性集中力過剰という精神疾患そのものである。本来これは先天性の物が多い。しかし真琴は後天性。先天性に見られる日常生活に必要な思考の低下などが見られない。

 

このように、集中力過剰というものは使いようによっては疾患にも才能にもなる。

 

真琴は異常とも言える程の集中力を手に入れた。一度集中状態に入ってしまうと、周囲が見えなくなり何が起きても気づかない。自身の処理能力を上回る情報の洪水に飲み込まれている。如何に難解な数式であろうと、如何に複雑な技術であろうと、常人を遥かに上回る速度と精度で学習する恐るべき能力だ。

 

そして、その精度は想像を絶する。一度学んだことは絶対に忘れないし、一回で骨をつかむため復習の必要もない。

 

そのため、一つの事を考えながら別のことを行うという、常人には中々難しい技を平気でやってのける様になっていた。更に、二つ以上の物事を同時に考えることもできるようになっていた。

 

CPUで言う、処理速度が恐ろしいほど速いために使用率が全然増えない状況に似ているかもしれない。そのため、複数の処理を同時にさせても余裕がある。という訳だ。

 

 

 

「ねぇ、真琴君? 何かわかった?」

 

「……。」

 

「真琴君?」

 

「……。」

 

「ねぇ、ま「やめておけ」……主任?」

 

「恐るべき集中力だ。今彼は近くで銃声が鳴ろうと気づかないんじゃないか?さすが、8歳でISの基礎理論をぶち壊しただけはある」

 

「すごいですね……。さっきのぼけぼけした可愛い真琴君はどこへいったのやら」

 

「ふふっ、おっと、今度はすごい勢いで数式を書きだしたぞ。みんなみておけ、彼がどういった世界で物事を考えているのかを」

 

「はいっ!」

 

結局、真耶が戻ってくるまで真琴は思考の渦から戻ってくることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まーくんおまたせ! ってあれ? 国枝主任、どうしたんですが皆立ちつくしちゃって」

 

「しーっ。いま真琴君が、我々でも理解の及ばないレベルで、1と0の世界にダイヴしているんだ」

 

「え?」

 

真耶が真琴の方を見ると、そこには8つのディスプレイ、8個のキーボードを前にし、無表情で作業を続けている真琴の姿があった。感情の読み取れないそれは、まるでロボットだ。

 

「真琴君はいつもああなのか?」

 

「ええ、ISの参考書を読んでる時はすごかったですよ。ほっぺを引っ張っても気づく素振りがありませんでしたし」

 

「末恐ろしい才能だ。このまま成長すれば、彼は篠ノ之束を超えるかもしれん」

 

「私としては、どんどん高みに登ってほしいですね。それこそ、誰にもたどり着けない領域に」

 

国枝主任と真耶が会話していると、キーボードを叩く音が止まった。どうやらひと段落ついたらしい。

 

「ふぅ。……あっ、おかえりお姉ちゃん」

 

 

すぐさま姉に駆け寄る真琴をみて、研究所の皆は温かい視線を送っていた。それと同時に幼い研究者に敬意を払っていた。

 

「真琴君。何か問題点の改善とかはできたかい?」

 

姉にうりうりされている真琴に、国枝が問う。それに気づいた彼は姉の手から離れ、自分が作業をしていたスペースに戻り、いそいそと準備を始めていた。

 

「は、はい。えっと、いちおうこれがほうこくしょ? なんですけど……」

 

そういってディスプレイで立ち上げたのは余裕で数十枚は行くであろう電子データだった。

 

「えっとですね、さいしょのもんだいてんなんですけど。」

 

そういって真琴は電子データの一枚目を表示させた。

 

「いまつかってるぶひんだと、たぶんはいってきたしんごうにたいして、でていくしんごうとじかんさが……」

 

「……そうだね、打鉄はレスポンスが悪い。それは我々研究者達の大きな問題点なんだ」

 

「それなんですけど、えっとどこだっけな……」

 

研究所にページを送る音が響き渡る。無駄話をしている研究者は誰もいない。

 

 

「ああ、あった! えっとですね、たぶん、このぶひんがわるさをしているとおもうんです」

 

「……続けて?」

 

「は、はい!で、ですね。もうちょっとここのIC(集積回路)とそのまわりのぶひんのおおきさをかえればいいとおもいます」

 

「ICの中は?」

 

「あ、はい。それはこっちです」

 

続けて、違うディスプレイにプログラムが表示された。ここまで来ると真耶には何が何だかわからない。ぽかーんと口をあけてただ見る事しかできなかった。

 

「えっと、ここのきじゅつなんですけど、このままだとここによけいなループがあってですね、そのぶんICからでていくしんごうがおそくなるとおもうんです」

 

「……どう変えればいいと思う?」

 

「あ、はい。へんこうしたプログラムがこっちです」

 

また違うディスプレイに異なるプログラムが表示される。小さな変更点もあれば、全く新しいプログラムに変わっている部分もあった。

 

「ちょっと見せてもらっていいかな」

 

「あ、はいどうぞ。……あの、すいません。ぼく、のどがかわいちゃって」

 

「今用意させよう、誰かこの小さな研究員に飲み物を頼む」

 

「はい、すぐに」

 

「それでは、私が見終わるまで待っててもらえないかな」

 

「あ、はい。わかりました」

 

おずおずと椅子に座る真耶に近づいていく真琴を見て、国枝は優しい視線を送っていた。

まぁ、他のおねいさん同様真耶も彼を膝の上にのせていた訳だが。そこは割愛しよう

 

 

 

―――15分後―――

 

国枝は脱帽していた。いままで研究員が頭を抱えていた問題の約半分を、10歳にも満たない少年が一日で解決してしまったのだ。神童という肩書ですら、彼の前には霞んで見えるかもしれない。さすがに報告書の書き方は拙いものだったが、そんなものはどうでもいい。大事なのは中身なのだ。報告書を読み終えた国枝は、真耶の上でうりうりされてうれしそうに目を細めている少年に歩を進めた。

 

とても8歳とは思えない、丁寧な説明。そして、プレゼンテーション能力。国枝はこの少年の奥底に秘める可能性を見出していた。

 

 

 

「真琴君、君の報告書は読ませてもらったよ」

 

「あ、はい。……どうでした?」

 

クリクリとした目で不安げに見上げてくる少年を見て、国枝の心はきゅんきゅんしていた。そんな不安がることもないだろうに……と思ったが、社会に出たことのない少年が大の大人を前にしたら無理もないかとも思っていた。

 

「素晴らしいの一言に尽きるね。全く、これでは私達が何のためにいるか分からなくなってしまうよ」

 

「……ごめんなさい?」

 

「謝ることはないよ。私達にとってもいい薬になった。そして、この理論は試す価値は十二分にある。明日から早速部品の取り寄せを行うとしよう」

 

「あ、はい」

 

国枝はうれしそうな少年の頭をくしゃくしゃと撫でた。その時の嬉しそうに目を細めている少年を見て鼻から愛が噴き出しそうになったが、鋼の理性で耐えた。とだけ言っておこう。

 

「もうこんな時間だ、子供は家に帰る時間だよ。さ、帰りなさい。明日も期待してるよ」

 

「は、はい。おつかれさまでした」

 

「また明日ねー真琴くん!」

 

「まだまだ課題はいっぱいあるからねー。期待してるよ!」

 

「それでは、お先に失礼します。さ、まーくん帰ろっか」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

さて、今日から真耶と真琴は教員様の寮で一緒に住む事になるのだが。ここで大切な事を忘れていた。

 

「お姉ちゃん」

 

「なに?まーくん」

 

「おなかすいた……」

 

そう、大事な大事な晩御飯です! 真耶も疲れただろうが、ほぼ半日飲まず食わずでパソコンに向かっていた真琴はもうお腹がペコペコである。それはもう、お腹と背中がくっつきそうなくらい。

 

「あ、そうだね。今の時間だと……学生と一緒になっちゃうけど大丈夫?」

 

現在19時半。食堂は18時からなので、恐らく時間的にももっとも混んでいる時間だろう。

 

「ん・・・。お姉ちゃんといっしょならだいじょうぶ」

 

「そっかそっか。それじゃ食べに行こうか。ああそうだ。まーくん、ちょっと手を出して?」

 

「? うん」

 

おずおずと真琴が手を出すと、真耶はその上に一枚のカードを載せた。

 

「なぁにこれ。ぼくのしゃしんがはってある。」

 

「えっとね。それはIS学園のIDカード。これがあれば食堂でご飯たべられるんだよ。まーくんは多分今日の活躍だけで相当なお金が入ってると思うから試してみよっか。駄目だったらお姉ちゃんのカード使えばいいから」

 

「うん」

 

山田姉弟は手を繋いだまま食堂を目指した。

 

 

 

 

 

食堂に到着したが、真琴は一歩を踏み出せないでいた。何しろ見渡す限り女、女、女!

 

何しろ職員も生徒もほぼ100%女なのである。一学年120人と仮定して、ほぼ全員が入寮しているため、職員を含めて400人弱の女性がいることになる。さすがに全員一気に食堂に集まる訳ではないが、19時半という、最も晩御飯に適した時間だ。200人以上はいるだろう。

 

まぁいつまでもこうしている訳にもいかないので、5分ほど尻ごみした後手を繋いだ二人は食堂に突撃していった。真琴君、健闘を祈る。

 

 

券売機で食券を買い、カウンターに並び始めた時点で生徒が異変に気付いた。明らかにちんまいのが並んでいるからである。ちなみに真琴の身長は130cm。体重は25kg程しかない。年を考えたら妥当な身長だが、ここには15歳以上の女性しかいない。やはり頭一つ分小さいのである。

 

 

「ねぇねぇ、あれ誰だろう。ほら、山田先生の横にいるちっこい子」

 

「あ、ほんとだー。食堂にいるってことは生徒か先生?」

 

「あはは、先生な訳ないっしょ!どう考えても!」

 

「でもあんな小さい子学園じゃ見かけなかったよね」

 

やはり、真琴の背中に突き刺さる視線視線視線! 分かっていたことだが、さすがにこれは堪える。まるで客よせパンダだ。

 

チクチクと突き刺さる視線に耐え割烹着を着たおばちゃんの前まで進んだ。

 

「あら、みない顔だねぇ! それに随分ちっちゃいじゃないか。いっぱい食べないと大きくならないよ! ほら、これはサービスだからもっていきな!」

 

「え、あ、はい……」

 

牛丼大盛りに大盛りの天ぷらうどん。どうしろと。

 

横を見ると真耶の顔も引き攣っている。さすがにこの量はないと思ったのだろう。しかし、好意で貰ったものだ。無碍にはできない。真琴はよろよろとトレイを持って空いている席を探していた。だがしかし、重い。重いのである。今にもそれを落としそうな真琴を見かねて、ある生徒が助けに来た。

 

「大丈夫? 重いなら持ってあげるよ?」

 

「あ、すいません……おねがいします」

 

「おっけー。どこへもっていけばいい?」

 

「あ、じゃあせきがふたつあいているとこまでおねがいします」

 

ペコりとお願いする男の子とも女の子とも思える真琴を見て、生徒は優しい笑みを浮かべながらテーブルまで運んでくれた。

 

「はい! もう大丈夫でしょ。困ってることがあったらいつでも言ってね?」

 

「あ、ありがとうございます。助かりました」

 

「それにしても君ちっこいねー。って私が言えたことじゃないけどさ……」

 

なんか愚痴りはじめたぞ?このパターンはまずいと真琴は直感していた。酒に酔った母がこんな流れで一時間以上続く愚痴という名のマラソンを始めたことがある。

 

 

「ああ、ありがとうございます。弟のご飯持っていただいたみたいで」

 

真耶がやってきた。焼き魚定食だから時間がかかったのだろう。

 

「へ? 弟? 君男なの?」

 

「あ、えっと、山田真琴です。よろしくお願いします」

 

「あ、うん。よろしくね。……じゃなくて! なんで男の子がここに? ああ、男はもう織斑君がいるか……でもこの身長だと……」

 

なんかまたぶつぶつ言い始めた。愚痴る癖でもあるんだろうか。

 

「えっとですね、まーくんは研究員として本日付でIS学園に就職したんですよ」

 

真耶のその一言で耳をダンボにしていた生徒が一斉にこっちを向いた。恐るべし、女子生徒。

 

「研究員? なんでこの年で?」

 

「ああ! 今朝山田先生が言ってた弟君じゃないひょっとして!!」

 

「何それ? ちょっと詳しく教えてよ!」

 

火種に勢い良くガソリンが注ぎ込まれる。まさか姉自ら着火させるとは……。

 

「えっと、皆さん! 織斑君みたいな同い年の男の子ならともかく、ここにいるのはまだ8歳の男の子です! それにこの子は少し人見知りをする子なので、質問攻めにするのは勘弁してあげて下さい!」

 

ガソリンをぶち込んだのも消火剤をぶち込んだのも真耶だった。何がしたいんだ全く。

 




―――まーくんは渡さないまーくんは渡さないまーくんは渡さない

―――お、お姉ちゃん……

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