IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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僕からISを取ったら何が残るんだろう?

僕はただの子供だ

イギリス政府とまともに対話することすら許されない。

今までも、そしてこれからも織斑先生に守られながら過ごしていくの?



―――嫌だ。

そんなのは嫌だ。

織斑先生には悪いけど……ちょっと意地悪させてもらお。

僕が普段から何でパソコンを弄っているのか、教えてあげるよ。


24話 大人しい奴程、キレると怖い

「よく来てくれた山田博士。……それに、篠ノ之博士」

 

「私はどうでもいいんだけどねー。ちーちゃんが行くっていうから付いてきただけだし」

 

「……黙っていろ束。忙しい身だろう、早速会議を始めたいのだが」

 

「それもそうだな。それでは、皆席についてくれ」

 

 イギリス政府の重鎮の一言で皆席につく。皆、表情だけ見れば朗らかだが、その内面では何を思っているのか、互いに知る事は叶わない。

 

 千冬が国枝に合図をした。それを確認すると、国枝は用意していた資料を相手秘書に手渡した。

 

 それはブルースカイの仕様書だった。簡易的な物になってしまうが、事前に準備していた物だ。

 

 これは真琴の許可を貰ってIS学園で事前に準備していた物である。本来ならこういった仕様書などは経済産業省の輸出許可が必要である。しかしIS学園は超法規的存在であるため、その手続きは省略してある。

 

 それを抜きにしても、この仕様書を作成するには相当の苦労がかかった。

 

 何しろ、色々と忙しかった真琴の助けを借りる事が出来なかったため、IS学園に在籍している研究員だけで作成しなければならなかったからだ。

 

 紆余曲折を経てようやく纏まった仕様書だが、ここで国枝のチェックが入る。

 

 修正を再提出を繰り返す事数十回。そうして完成した仕様書の原本は、研究員の手垢と涙で汚れていたのであった。

 

 

「今渡したのはブルースカイの仕様書だ。詳細や疑問点などは、記載されているアドレスに連絡して欲しい。……さて、事後承諾となってしまうが、ブルースカイはイギリス政府主導という事で話しを進めて頂きたい。既にIS学園では生徒達に話しはつけてある」

 

「……ほう? それだとこちらに随分と利益が有るが、事後承諾というのは頂けないな」

 

「よく言う。山田博士の機転がなかったら、今頃ブルースカイの情報は世界中に開示されていたぞ?」

 

「違いない。一つ借りができたな」

 

「結局さー、イギリスってまーちゃんが欲しいんでしょ? はっきり言えばいいのに」

 

「黙っていろ束。……どうした真琴君?」

 

「……。」

 

 剣呑な雰囲気が会議室を包み始める。真琴は腕を組みながら目を閉じ、話しをずっと聞いている。いち早く真琴の異変を察知した千冬が彼の様子を伺うが、真琴が動く様子はない。

 

「真琴君、言いたいことが有ったら言うと良い。代理人を立てているとはいえ、本人が会議に出席しているんだ」

 

「……それでは、ひとつ」

 

 真琴は猫耳を取り外してゆっくりと目を開け、そのまま立ち上がりイギリス政府のメンツを一瞥すると、会議室の奥に設置してあるホワイトボードに歩み寄った。彼が纏う雰囲気は大人のそれと遜色はない。そして、一流の学生を相手に講義する超一流の教授の様に語りだした。

 

「……皆さんはISの本質を見ていますか?」

 

「飛行パワードスーツだ。今はどの国でも軍事転用しているな。抑止力の要と認識しているが」

 

「……やはりそうでしたか。それでは、僕は協力することはできません」

 

「……契約書を破棄すると言うのか?」

 

「それはそのまま履行という認識でいいですよ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「技術的な交流を持つ気はありません。あくまでただの交流として契約を履行させていただきます」

 

今まで真琴が見せたことがない刺々しい態度に、一番驚いていたのは千冬だった。

 

「おい、真琴君……」

 

「千冬さん、ちょっと黙っていてもらえますか」

 

「……分かった。何か考えが有るのだろう? 君の意見を言ってみろ」

 

「……それでは、先ほどの続きなのですが、僕が考えるISの本質は「宇宙進出」です。各国の思惑に振り回される様な兵器としては考えていません。セシリアさんのブルースカイはあくまで僕の通過点に過ぎません。そこの所だけはご理解下さい」

 

 真琴が今までと違う面を見せ始めた。今まで溜めこんで来た物が爆発してしまったのだろう。元々彼は頭が良い。加えて、とても早熟だ。普段はぼけーっとしているが、各国の政府やIS学会からのちょっかいを経験し、自分を利用しようという輩を散々見てきた。

 

 更に直接顔を合わせて会話するという機会が、彼の中の何かを刺激してしまったのだろう。

 

 子供と言うのは、相手の漠然とした雰囲気を読むことに関しては大人より上手い。真琴の場合、それに加え類まれなる智謀がある。イギリス政府が今何を考え、何をしようとしているのか手に取るように感じ取っていた。

 

 白衣に手を突っ込み、飄々と答える真琴を見て、誰もが驚きを隠せなかった。束という一人のイレギュラーを除いて。

 

(うん、まーちゃんの事を一目見て分かっていたけど、この子はとっても賢いね。普段ぼけーっとしているのも、周りの空気を敏感に感じ取っているからかな?)

 

「さて、ここまで僕のISについての考えを述べさせて頂きましたが、どなたか僕に共感していただける方は居ましたでしょうか」

 

 普段は周りの流れに身を任せている真琴だが、敵になりそうな輩に対しては冷たい態度を取れるみたいだ。

 

「正直な所、難しいな。私達がそれに賛同したとしても、テロリスト共が賛同するとは思えない。結局の所私達は、自分の国を守る為にISという「兵器」に頼らざるを得ないんだ」

 

「それも一つの答えだと思っています。だから、僕とは平行線。交わることのない二つの線。そう認識していただいて結構です」

 

 真琴は、自分の置かれている立場を的確に理解していた。

 

 それもそうだろう。会議が始まる時点で圧倒的なアドバンテージを持っていたのはこちら側だ。イギリス陣営は、なんとか対等な立場に持って行きたかったのだろう。しかしその目論見は、真琴の「拒絶」というカードで脆くも崩れ去った。

 

 会議が長引くと、それだけボロが出やすくなる。その隙を点かれていろいろ譲歩させてしまうのが、IS学園側としては最も避けたい事態なのである。

 

 それすらも考慮していたのか、真琴はこれ以上話す事は無いとばかりに目を瞑り黙り込んでしまった。

 

 下手に力技を用いてしまえば、真琴を機嫌を損ねる所か、IS学園、日本政府、ひいては世界全体を敵に回してしまう。

 

 間接的に脅迫をして譲歩させた所で、どんな欠陥ISを作られるか分かった物ではない。真琴は既に次世代ISにすら手が届くのではないかといわれている存在。こちらの理解を上回り、理解できないISや武装を作成して、事故や報復に出る可能性もゼロではないのだ。

 

 長期的な目で見ても、今はこれ以上望む事は難しい。それを政府はすぐに理解させられる事となった。

 

 今この場を支配しているのは山田真琴。僅か8歳の幼児にして、奇跡の頭脳の持ち主。

 

「……どうすれば、山田博士は我々に協力して貰えるのだろうか。篠ノ之博士から、何か言っては貰えないだろうか」

 

 何とか彼の独壇場を阻止したいイギリス政府は束に話しを振った。彼女をクッションとして利用することで彼の拒絶を和らげることができなだろうかと判断したのだろう。しかし、束ねは

 

「んー? かんけーないね。私は付いてきただけだから何にも答える気はないよ。話しをするならちーちゃんと話してね」

 

「むっ……」

 

 ますますイギリス政府の立場は悪くなっていく。このままだと、彼の一方的な拒絶で終わってしまう。

 

「では、織斑千冬殿。IS学園の代表として話しを伺いたい」

 

「ISの開発をしている以上、何の問題もないな。……代理人は要らなかったかもしれんな?」

 

「……それでは、イギリスから資金援助をするという事で、考えて頂けないだろうか。先ほども話したが、テロリスト達から祖国を守りたいという気持ちに嘘偽りはないんだ」

 

「じゃあさ、じゃあさ、IS学園の横にまーちゃんの研究所を作ってもらおうよ! そうすればまーちゃんは自分の好きなようにISを作れるし、パツキン達もおこぼれにあずかることができるかもよ?」

 

「束、真琴君抜きで話しを進めるな。……と、言う訳なのだが、どうだろう真琴君?」

 

 収集がつかなくなる前に千冬は彼女らに待ったをかけた。

 

(祖国……国を守りたい、かぁ。僕もお父さんやお母さん達には無事に暮らして欲しいしなぁ。嘘は付いてないみたい。うん、まぁいっか)

 

「それじゃー……、後は千冬さん、よろしくお願いします」

 

 ぺこりと挨拶をすると、彼は会議室を後にする。セシリアが慌てて後を追うが、その時、振り向きざまに彼が何か呟いていた。

 

「……10×10のルービックキューブ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、束のウサ耳がピコン! と起き上った。そして、束は肩を小刻みに揺さぶり始め、ついには大声で笑い出してしまった。

 

「あははは! すごいよ、すごいよまーちゃん! まーちゃんなら本当にコアを作れるかも!」

 

「おい、どうした束」

 

「今まーちゃんが呟いたのはね、ISのコアの1個目のロックを解除した後に出てくる2個目のロックなんだよ」

 

「なっ」

 

「ちなみに、ロックは全部で3個。もちろん時間制限あり! 補助ツールとか使ったら1個目のロックからやり直しになるよ。私でも2個目のパズルは10回やって4~5回解けるかなーってくらい難しいのにしてるんだけど……まーちゃんなら案外あっさり解いちゃいそうだね。ほんとにまーちゃんは面白いなぁ、興味が尽きないよ。あ、ちなみに1個目のロックはちょ~複雑な暗号にしてあるからね、全部で20ケタの暗号だから、頑張って解いてみてね~」

 

 ISのコアという物は完全なブラックボックスになっている。そのコアがどの様に作られているかは全くの謎で、現在知っている人物は篠ノ之束ただ一人。そう、現在は。

 

「彼がラファールを弄っていた時に言っていたことは嘘ではなかったのか……」

 

「織斑千冬殿 彼は認めてくれたのだろうか?」

 

「ああ、一応ギブアンドテイクという事で話しを進めていいという認識で構わない。だが、技術的な交流は難しいかもしれんな」

 

「それは追々、彼に陳謝しにいくさ」

 

「難しいだろうが、せいぜい頑張ってくれ」

 

 残るは事後処理だけとなった。

 

 

「あの……真琴さん?」

 

 真琴を追いかけていたセシリアは、恐る恐る真琴に話しかける、それに対し真琴は

 

「あ、はいなんでしょうセシリアさん」

 

 何時もの真琴に戻っていた。

 

「い、いえ……先ほどは一体どうしてしまったのでしょうか。まるで別人みたいでしたわ」

 

「う~ん……だって、せいふの人って僕の事「第3世代のISを作れる研究者」としてしか見てくれないですし、ちょっとだけ千冬さんと束さんのまねをしてみました」

 

 その言葉を聞いた瞬間、セシリアの頭上に豆電球が灯る。

 

「ああっ……。どこかで感じたことのある雰囲気だと思っていましたが……。真琴さん、もうあんな真似はしてはいけません。大人の黒い世界なんて、真琴さんが気に病む必要はこれっぽっちもありませんわ」

 

 後ろから真琴を優しく包み込むセシリア、彼女からは真琴を心の底から気遣う温かさが感じ取れた。

 

「ゆうこうなしゅだんだと思ったんですけど……セシリアさんがそういうのならやめておきます」

 

「それがいいですわ……さぁ、客間でゆっくりと休みましょう。ああそうそう、これはしっかりと付けておいてくださいな」

 

 すちゃっ。セシリアは彼のポケットにしまってあった猫耳を取りだし、装着すると今度は正面から抱きついた。

 

「ふぎゅっ」

 

 真琴の顔が双子山に埋もれる。そしてそのまま抱えあげられ、二人の影は客間へと消えて行った。

 

 

―――さぁ真琴さん、ゆっくりと羽を伸ばしましょう

 

―――むーっ、むーっ

 




―――ぎゃははは! あれちーちゃんの真似だったんだ!

―――……あれが私の真似、だと?

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