IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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12話 舞い降りた戦女神

 残り二日。最低でも今日中にインターフェイス関係を終わらせないと、武器の作成が間に合わなくなってしまう。

 

 まぁ後は千冬の脳波を測定して、その波形をISにインプットすればいいだけなのだが。

 

 真琴はSHRにだけ顔を出し、放課後千冬に研究所に来るように伝えると、武器の作成を始めた。

 

 

 

 撃鉄の武器だが、よくよく考えてみると防御ができないというのは少々まずい。千冬ならそれでも構わないだろうが、日本政府に渡すとなると話が変わってくる。それに、IS本体の出力が高すぎて制御できない可能性も極めて高いのである。正直問題だらけだ。

 

 日本政府に渡す撃鉄は出張が終わってからで良いだろうと判断。千冬に渡すISを撃鉄壱式、日本政府に渡すISを撃鉄弐式とすることで問題を先送りにした。

 

 

 

 刀身自体をエネルギーに変えるというアイデアを採用した真琴だが、ここで更に二つの選択肢があることに気付く。一夏の白式の様に相手のENを削るタイプにするか、ただのビームソードにするかだ。

 

 

 前者を選べば、エネルギー消費が更に増えてしまうが攻撃力は圧倒的に上がる。それこそ戦闘開始数秒で終わってしまうくらいに。

 

 後者を選べば、エネルギー消費はオーバドライブ時のみで安定して戦闘をこなすことができる。

 

 千冬の性格を考えると前者にしたいところだが、戦いが起こるとしたら防戦だろう。エネルギー効率を良くするために、真琴は後者を選択した。

 

 となると、簡単な物である。普通のビームソードより出力を上げるだけでいいのだから。柄の部分に特殊な磁場を発生させて刀身を軽く曲げ、固定化するだけで武器についての問題はサックリと片付いた。後は研究員に任せるだけである。

 

 千冬が来るまでまだ時間があるので、撃鉄の予想スペックを算出した。すると、予想外の結果が出た。オーバードライブ時に4つのスラスターを同タイミングで同じ方向に最大出力で行うと、一瞬で音速を超える事が判明したのだ。武器に回すスロットを削った影響が事態を意外な方向に傾かせる。真琴はこれ幸いとばかりに、武器にできないかと考え始めた。

 

 お分かりいただけるだろうか。音速を超えるという事は、衝撃波が発生するという事である。

 

 戦闘機が超低空飛行をし、発生した衝撃波で小屋が吹き飛んだという事例がある。その威力は相当の物だ。敵の横をすれ違う時に一瞬最大出力にするだけで、敵は吹き飛び、地面に叩きつけられる。万が一耐えたとしても体制が崩れることは必至だろう。

 

 真琴はシミュレートを続ける。20%のエネルギー消費でどれくらいオーバードライブを継続できるのか。計算だけでもしておかなければならない。千冬に恥をかかせてなる物か、最高の物を作ってやる。と、静かに闘志を燃やし始めた。

 

 

 

 

 数十回に及ぶ計算の確認及びシミュレートにより、概算は出た。最大出力で飛びまわった場合、およそ15秒。これを実用的とみるかどうか判断をするのは千冬だ。

 

 真琴のすぐ近くで鎮座している未完成の撃鉄壱式を一瞥し、真琴は思考の渦に飛びこむ。心なしか、撃鉄が一瞬だけ光った気がした。

 

 

 

 

 放課後、私は研究室へ歩を進めていた。こんなに早い時間にあそこへ行くのも久しぶりな気がする。本当なら会議があったのだが……真琴君との約束の件について教頭に話したら、そちらを最優先にするようにと会議室を追いだされてしまった。

 

 

 夕暮れ前、学園から研究所へと向かう道には清々しい風が漂っていた。しかし、何故か違和感がある。……なるほど、生物の気配がない。

 

 いつもなら蝶々やバッタなどが視界に入るはずなのだが……、清掃員が殺虫剤でも巻いたか? なんというか、一言でいうなら「無機質」な感じしかしない。だが、同時に厳かさも感じる。一体何だこの状況は。

 

 珍しい事もあるものだ。おっと、こんなことをしている場合ではない。速く研究所へ行かねば。

 

 入口の横にあるカードリーダーに教員用のIDカードを通し、扉をくぐる。研究室へと向かう廊下を歩いていると、そこに近づくに連れて先ほどの違和感は次第に強さを増していく。

 

 ……襲撃か? いや、それはない。ここの警備は厳重だ。蟻一匹ですら自由に入ることはできない。となると、真琴君達が何かやっているとしか考えられないな。

 

 研究所のドアの前に立つと、プシュッ と空気が抜ける音がし、ドアがスライドした。

 

 ドアが開いた先には普段通りの研究室があった。だが、一人も研究員が見当たらない。それに違和感の正体もまだ分かっていない。一体ここで何が起こっている?

 

 作業ブースを抜けISの実験スペースに到着した。そこで目に入ったのは研究員が総動員でISを弄っている光景だった。瞬間、違和感の謎が分かった。……ISが人を載せていないのに起動しているだと!?

 

「真琴君! これはどういうことだ!」

 

 ISのすぐ傍にはISとリンクしているノートパソコンのディスプレイを、何やら難しい顔で見つめている真琴君がいた。一体、どういうことだ。

 

「あ、おつかれさまです織斑せんせい。どういう事とは?」

 

「何故ISが人を載せていないのに動いている? 無人では動かないはずだ!」

 

 

 分からない、真琴君は一体何をしているんだ。彼の事だから危ないことはしないと思うが……。

 

「えっとですね、人間がはっするでんきとおなじ信号をおくっているんです。これならISも起動だけはできるんですよ」

 

「な、何だと……?」

 

「もう何を見ても驚かないと決めたつもりでいたけど、さすがにこれにはたまげたよ」

 

 声がした方に振り返ると、そこには国枝主任が立っていた。

 

「お疲れ様です。国枝主任もご存じではなかったのですか?」

 

「こんな事、知っていたらとうに論文にまとめているよ。しかし驚いたよ。真琴君がいきなり私の体に測定機を装着し始めた時には」

 

「織斑せんせい。時間がありません。さっそくそくていを始めたいんですけど……」

 

「あ、ああ分かった。それで、私は何をすればいいんだ?」

 

「えっとですね、おくにある装置のちゅうしんにすわってください」

 

 真琴くんの視線の先には、人一人が座れるスペースだけ残して機材が大量に置かれているスペースがあった。中心にはリクライニングシートらしき座席が置いてある。

 

「これでいいのか?」

 

「いまから織斑せんせいの頭にパッチをそうちゃくします。ちょっとつめたいですけどがまんしてくださいね」

 

 私が椅子に座ると、研究員達は装置の準備を始めた。

 

「これを今から言う箇所に付けて下さい。測定は数分で終わりますので」

 

 研究員の言葉に従い、パッチを頭の数か所に装着する。数十秒後、フォンという音と共に機械が一斉に作動し始めた。……あまり気分の良い物ではないな、速く終わらないものだろうか。

 

「織斑先生、頭の中で銃の撃鉄を起こすイメージを強くして下さい」

 

「撃鉄?銃は余り使った事がないのだが……」

 

「それでは、これをどうぞ」

 

 手渡された物は、一丁のリボルバー式拳銃。……本物じゃないか。弾薬は入っていないみたいだが。

 

「実際に撃つ動作など、色々してイメージを頭の中に残しておいて下さい。それと同時に、他の要素でも良いですから何か強く思い描いて下さい。強ければ強い程明確に脳波が測定できますので。」

 

 研究員達も難しい事をいう。二つの事を同時に考えろと。しかも抽象的すぎるじゃないか。さて、強いイメージか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は守らなければならない。世界で唯一の存在になってしまった為狙われ続ける一夏を、IS学園を、……そして将来を担う存在になり、世界から狙われるであろう真琴君を。二度とあのような事件をおこしてなるものか。絶対。そう、絶対だ。今度は守りぬいて見せる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 作業スペースに無機質な機械音だけが響き渡る。その時、ブザーが鳴り機材の動作が止まった。これで測定は終了か?

 

「ありがとうございました。……すごいですねぇ、ここまで強いいしってあるものなんですね」

 

 

頭のパッチを外し、真琴が操作しているノートパソコンの画面を覗き込んだ。するとそこには、所々色が変化している脳の3D画像と、それを数値化しているであろうグラフが表示されていた。

 

 

「どうだったんだ?これならISに組み込めそうか?」

 

「もんだいありません。これだけ強いのうはなら、ISもさいそくで反応してくれるはずです」

 

「それはよかった。まだ終わりじゃないんだろう? 最後まで試験に付き合うぞ」

 

 

 

 

 

 

 脳波のデータをISにインプットし、試作型撃鉄は完成した。後は検証が残っている。

 

「これがにほんせいのだい3せだいのIS、「撃鉄」です。いまからぶきやスペックについてせつめいしますね」

 

 

 ISを装着した千冬は空中で停滞していた。まだ何も説明を受けていない為、とりあえず起動だけさせた所だ。

 

「ぶきはビームソードのみです。とりあえず起動してください」

 

 千冬の手が光に包まれる。一瞬の閃光の後、そこには刀身が反りかえったビームソードがあった。確認のためなのか、一度二度と、ビームソードを振り回している。

 

「しっくりくるな。これなら問題なさそうだ」

 

「そのビームソードは、はかいりょくは凄まじいですが、ぼうぎょができません。きをつけてください」

 

「ずいぶんとピーキーな物を作るのだな……。まぁ、問題はないが」

 

その言葉に、真琴は一瞬だけ笑うと待ってましたと言わんばかりに返事をした。

 

「ピーキーでも使いこなせればいいんですよね、織斑せんせい」

 

 真琴の綺麗な切り返しに、珍しく千冬が口を開けて驚いている。こうかは ばつぐんだ!

 

「ふっ、ははは……! よく覚えているじゃないか真琴君。そうだ、使いこなせれば何も問題はない!」

 

「織斑せんせいならだいじょうぶですよ、それではほかの武装のせつめいをします」

 

 

 真琴はオーバードライブについての説明を始める。それを聞いている千冬の表情は真剣そのものだ。明らかにこっちが本当の武装だということに気付いているのだろう。エネルギー消費、軌道時間、最大速度など、詳細情報を頭に叩き込んだ千冬は、真琴の説明が終わると頭の中で戦闘のイメージを始めた。

 

「私に彗星にでもなれと言うのか……。まぁいい、撃鉄は高速近接戦闘型か。オーバードライブさせなくてもかなりの速度がでるらしいし、今のところ問題点はないな」

 

「そうですか。それでは、オーバードライブを使ってください。あ、みなさんひなんしてくださいね」

 

 真琴が安全ヘルメットを装着して逃げ出すのを見て、研究員達も慌ててヘルメットを装着し、千冬から遠ざかる。それを見た千冬は、そんなに危ない物なのか……? と少しだけ不安になっていたみたいだが、真琴の腕は信用している。静かに頭の中で撃鉄を起こした。

 

 

 千冬を包み込む雰囲気が変わり始める。それと同時に近くの景色が揺らぎ始めた。この時、千冬はようやく理解した。先ほどの違和感の原因はこれか。と。

 

 

 

 ISからエネルギーが放たれ始めた。視覚化されたそれは赤いオーラとなり、千冬を保護し始める。

 

 

 その姿たるや、まるで「覇王」。戦女神が圧倒的な覇気を身に纏う。そして、徐々に研究室を包み込はじめる。

 

 研究員達は終始無言だった。いや、言葉が出せないのだ。それほど、オーバードライブさせた千冬の存在感は凄まじかった。相対するだけで、敵は物凄いプレッシャーに襲われることになるだろう。正直、息をするのもつらくなるはずだ。

 

 

 

 

 徐々にエネルギーは増大し、オーバードライブの出力がMAXになる。心なしか、研究室全体が小刻みに震えている気がする。いや、気のせいではない。実際に機材どうしが小刻みに振動し、ぶつかる音が聞こえる。

 

 

 所で千冬が一瞬うめき声をあげた。さすがにこれは厳しかったのか。

 

 

「ぬっ……」

 

「どうしました?データじょうでは正常にどうさしていますが、なにかふぐあいでも」

 

「いや、不具合という訳ではなさそうだ」

 

「ならばほかに?」

 

「何というか、……闘いたくて仕様がない。物凄く、ワクワクしている」

 

 

 脳波とリンクしたISが、搭乗者の感情を増幅しているのかもしれない。千冬は静かな笑みを浮かべていた。

 

「ここまで気分が高揚したのは暮桜に乗った時以来かもしれない。感謝する、真琴君」

 

「いえいえ、それでは、試験をかいししましょう」

 

「わかった。いつでもいいぞ」

 

「あっ……。そうちのてっしゅうを忘れていました。ちょっとまってくださいね」

 

てててっ…と真琴は駆けだし、いそいそと装置を片付け始める。

 

みんなずっこけた。どこか抜けているのは真耶譲りかもしれない。

 




―――んしょ、んっ……あ。

―――……真琴君。先ずは片付けからだな。

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