IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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10話 打鉄は続くよどこまでも

 翌朝真琴は少し速く目が覚めた。息苦しかったからである。理由は……言わなくてもわかるだろうが、一応説明しておく。見事な双子山に埋もれて呼吸をすることが難しくなっていたからだ。

 

 ああ、またこのパターンかと真琴は手なれた様子でもぞもぞと動き出した。いつもならこれで拘束が弱まり抜け出せるのだが、今回は違った。見上げると、そこにはにへら~…とうすら笑いを浮かべた姉の顔があった。ああ、姉の愛が痛い。

 

「ん~……ん~っ」

 

 

結局真耶が目を覚ますまでの15分程、真琴は柔らかい双丘に埋もれ続ける羽目となった。

 

 

 

 

「で、真琴君のイギリス行きに同行したいと?」

 

 SHRの15分前、真耶と千冬はSHRの内容についての打ちあわせを終えた後、真琴のイギリス行きについての話をしていた。当の本人はというと、ぽかーんと口を開けながら真耶の服の裾を引っ張りつつ彼女を見ている。どうやら彼も知らなかったようだ。

 

「はい、研究員とはいえまだ8歳です。さすがに織斑先生が同行すると言っても少々不安が……」

 

 確かに、姉からすればいくら顔見知りだとはいえ少人数で海外に放り出すのには抵抗が大きい。現在イギリスに行く事が決定しているのは、真琴、千冬、国枝、教頭の4人だ。

 

「しかしだな山田君。君まで同行するとなると、一組を担当する職員が居なくなってしまう」

 

「ですが……」

 

「まかせておけ、真琴が私のためにISをチューンしてくれているんだ。政治的な圧力だろうが軍事的な介入だろうが、手は出させん」

 

 千冬の真剣な表情を見て、さすがに真耶も折れるしかなかった。その証拠と言わんばかりに、ひとつ、寂しげにため息をついた。

 

「……わかりました。真琴の事、よろしくお願いします」

 

「ああ。それではSHRに向かうとしよう。」

 

 

 

 

 何時もと変わらない一年一組のSHRが始まる。が、一つだけ違う連絡事項があった。

 

「ああ、それともう一つ連絡事項がある。真琴君が4日後に出張することになった。保護者として私もそれに同行することになる。順調に事が進めば一週間程で戻って来れるだろう。それまで私のクラスは山田君にまかせることになった。皆、私が居ないからといって気を抜かないように」

 

 当然、疑問に思ったクラスメイトから疑問の声が上がる。

 

「せんせー、なんで真琴君が? それとどこに?」

 

「詳しくは言えない。機密事項に当たる」

 

 四日後という事でイギリス行きが予定より一日遅くなってしまった真琴だったが、当の本人は内心喜んでいた。まぁ、それだけ新しく作る打鉄カスタムをいじくる時間が長くなるからだが。

 

「真琴君、一限に社会の講義がある。研究所に行くのはそれを受けてからにしてくれ」

 

「わかりました」

 

 SHRは生徒達の疑問を残す事になった。

 

 

 

 

 

 

「それでは、社会の講義を始める。現在の社会情勢についてだが……」

 

 学生向けの講義が始まった。しかしここにいるのはISに関しては一般人以上に知識がある人間だ、皆真剣に授業を受けている。

 

「さて、ここまで色々と社会情勢について述べてきたが、誰か今後どうなるか予想を立てられる者はいるか?」

 

 千冬の言葉に皆静まり返った。分からないんじゃない、答えにくいのだ。その証拠に皆チラチラと真琴の様子を伺っている。言ってもいいのか……。そんな雰囲気がクラス中に漂い、何とも気まずい状況が続いている。

 

「何だ誰も答えないのか。それでは……オルコット、答えてみろ。お前なら答えられるだろう」

 

千冬に指名され、オルコットは一瞬真琴を見やると静かに答え始めた。

 

「……はっきりとはお答えできませんが、より強いISを手に入れた国が経済的にも軍事的にも成長を遂げる。こんなところでしょうか」

 

やんわりとオブラートに包んだ様な回答をする。本人が目の前にいる手前、明確な回答を出せないでいた。

 

「そうだ。では、より強いISを手に入れるためにはどうしたらいい? オルコット、続けて回答しろ」

 

「っ! ……優秀な研究者と、試験を行う為の十分な設備が必要ですわ」

 

「その通りだ。皆もう分かっていると思うが、オルコットの第3世代のISはイギリス主導とはいえ、真琴君の手により改造が施されている。クラス代表戦でその性能は見ているだろう。学園に存在するISの中で、あのISはトップクラスの性能を持っていると見ていい。つまり、イギリスは一歩リードしたという事だ」

 

 教室に静寂が訪れた。代表候補生ではないとはいえ、IS学園に在籍する生徒は母国に将来を有望視されてここに居る。腕を磨いて代表候補生になり、より強いISに乗ることを誰もが望んでいた。セシリアは、皆が抱く希望、欲望、野望を誰よりも速く手に入れたことになる。

 

「だが、決して真琴君に無理強いをしないことだ。オルコットのISの改造は彼が自ら望んだ物、誰かに頼まれて施したものではない。無理に迫った場合、それ相応の罰が与えられると思え」

 

更に気まずい雰囲気がクラスに漂う。しかし、これは言っておかなければならないことだ。クラス代表戦直後、上級生や他の代表候補生が実際に自分の目で見たイギリスのISの情報を母国に送っていた。恐らく、近いうちに誰が改造を施した物か露呈してしまうであろう。千冬はあえてこのタイミングで言う事により、釘を刺した。イギリス主導という点と、真琴に無理な干渉を行ってはいけないという点だ。

 

 イギリス政府には事後承諾という形となってしまうが、今言っておかないと大打撃を受けるのはイギリス政府だ。この際仕方ないだろう。

 

 その時、クラスの静寂を破って予鈴が鳴った。

 

「本日の社会の授業はここまでとする。先ほど言った件、しっかりと守れよ」

 

 千冬は颯爽と立ち去って行った。

 

 さて、こうなると気まずいのは真琴だ。休み時間だと言うのに誰も席から動こうとしない。どうやって真琴と接点を作ろうか考えているのであろう。

 

 真琴にも思う部分はある。できればIS云々を抜きにした人付き合いをしたい所だが、そういう訳にもいかないという葛藤が渦巻き始めている。

 

 だがしかし、今は千冬に渡す予定のISの改造で手いっぱいだ。真琴は誰とも会話をすることなく、さっさと研究所へ向かうことにした

 

 

 先日、ラファールのスラスターを打鉄に組み込み、それに対応したプログラムを作成した所だ。だがこれだけでは足りない。まだ、千冬が満足に扱う程には至っていない。

 

 残り4日、真琴はどのように改造を施すかしばし考える事にした。

 

 やはり、千冬の操縦能力に打鉄カスタムが追いついていないという点を解消するのが先決だ。反応速度を30%上げた程度では全然足りていない。

 

 処理速度を上げる為には部品の選定を一からやり直さなくてはならないが、さすがにそこまでに時間はない。せめてCPUだけでもどうにかできないかと真琴は考え始めた。

 

 CPUをより良い物に変更するにはコストがかかる。しかしこれは国と学園から改造の許可を貰えている為問題はない。それに対応するプログラムを作り直す必要はあるが。そうなると、避けては通れない問題にぶつかる。そう、発熱だ。エネルギーを通すと、どうしても発熱してしまう。処理能力が増えると、消費エネルギーもそれに比例して増加、芋づる式に発熱も増加する。つまり、熱問題は避けては通れないのだ。

 

 ポート数が同じで、なお且つ処理能力を現行のCPUより大幅に上回る物を組み込むことにした。これで、通常時のCPU処理は問題ない。

 

 更に、真琴はスロットを使って冷却装置を組み込む事にした。これで熱対策は万全だ。しかし、まだこれでも足りない。世界最強のIS使いには、どんなISでも釣り合わないのだろうか。

 

 ここで、真琴は一つのアイデアを思いついた。足りないのなら、無理矢理足らせてしまえばいい。

 

 どういうことかと言うと、一時的にCPUへ過負荷を与えて処理能力を大幅に上げようというのだ。CPUを最高の物に替えたおかげで、耐久性については問題はない。問題は、過負荷を与えたことによる更なる発熱量をどう抑えるかだ。

 

 オーバードライブさせる際に、冷却装置に流れるエネルギー量にも過負荷を与えれば、発熱を抑える事ができると考えた真琴は、急きょパターンの変更を行った。CPUへの入力と、CPUからスラスターと冷却装置へと続くパターンを強化した。

 

 これにより、理論的には膨大なエネルギーが一気に流れても発熱の問題がなくなった。後は、細かい調整を行うだけだ。

 

 

 しかしここまで改造を施したのに、第2世代というのも少し寂しい。イメージ・インターフェイスを用いれば国内初の第3世代のISが誕生する。

 

 イメージ・インターフェイスの基礎は世界中に開示されている。各国は、この基礎理論を発展させて独自のインターフェイスを構築しているのだ。

 

 真琴は、これを打鉄カスタムに組み込むことにした。つまり、オーバードライヴをイメージで行えるようになるわけだ。

 

 ただし、このオーバードライヴは燃費が悪い。CPU、スラスター、冷却装置へのエネルギー供給の増大は、いくら回路全体の効率や充電効率を改善しても本体のシールドエネルギーで補わなければならなかった。恐らく、MAXエネルギーの20%程を消費してしまうだろうと真琴は計算していた。つまり、被弾も考えつつ闘うとなると1~2回しか使えない。千冬なら被弾はほぼしないだろう、4回と考えてもいいかもしれない。

 

 真琴は全研究員を集めて説明を行い始める。研究員達は、次はどのようなアイデアを見せてくれるのだろうかとワクワクしていたが、期日と作業量を知らされて笑顔は徐々に消え去り、気づけば皆真剣な表情になっていた。真琴が21時には上がらないといけないという点を考慮すると、また強行軍が続くだろうなぁと覚悟したみたいだ。嗚呼、研究員達のお肌の艶が無くなっていく。

 

 説明が終わった後、研究員達は早速作業へと取り掛かる。真琴は、一度本体の改造から離れ、武器の改造を始めることにした。

 

 

 

 打鉄には刀が標準装備で搭載されている。千冬は刀を模したブレードを所望していたので、これを改造すればいいだろう。

 

 打鉄カスタムのスロットは、既に6割程埋まっている。ピンポイントバリアで1割消費するから、残りは3割だ。これだけしか余っていないとなると、さすがに大掛かりな改造を施すにはスロットが足りなすぎる。スロットを拡張することも考えたが、さすがに作業量が多すぎる為期日には間に合わないだろう。3割のスロットでどうにかするしかない。

 

 思いついたアイデアは二つ。刀身にエネルギーを纏わせるか、刀身自体をエネルギーに変えるかだ。前者の利点は、エネルギー消費が少ない事だ。通常はエネルギーを纏わない普通の刀として、チャンスにはエネルギーを纏い、敵に大ダメージを与える刃として使い分けることができる。しかし、二つのタイプとなるとスロットが足りるかどうか分からない。実際に作ってみてから判断するしかないのが欠点と言ったところか。

 

 後者の利点は、常に一撃必殺の武器になるということだ。エネルギーを余計に消費してしまうが、千冬なら恐らく使いこなせるだろう。逆に欠点はというと、受けができないということだ。

 

 打鉄カスタムのタイプを考えると、短期決戦型だ。一気に攻め立てて相手に反撃を許すことなく撃墜まで持っていくのが、この機体のコンセプトになるだろう。

 

 となると、常に一撃必殺を狙えた方がいい。真琴は、後者を選択した。

 

 方向性が決まると後は速い。期日が一日遅れた為、恐らく機体のテストをした後再調整を行う時間もなんとか作れそうだ。真琴は、後を任せて帰宅することにした。

 

 

 残り三日。それでも時間は待ってはくれない

 




―――カタカタカタカタ……

―――カチッ カチッ

―――……だめだ。最初からかぁ

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