せいしゅんびより   作:skav

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転校生とバーベキューその2

結葵が外で火の準備をしていると四人と一匹が山から帰ってきた。心なしか蛍は興奮している様子だった。

「お帰りー、収穫はどうだった?」

「ゼンマイと、クサソテツが一杯取れたー!」

「いっぱい取れたのん!」

夏海とれんげが、一杯の山菜が入ったかごを結葵に渡した。

「あれ、ゼンマイは獲ってこなかったの?」

「たくさん取ってきたじゃん。よく見てよー!」

かごに入っていたのはヤマドリゼンマイでありゼンマイではない。見た目はそっくりなのだが生えてる場所が違う。

「これは違うゼンマイだね。それに夏海ちゃん、これは毒草だよ」

結葵はウルイそっくりの山菜を手にとって見せた。山菜の名前はコバケイソウと言い、食べると最悪死に至る

「ほらーやっぱり違ったじゃん。良かったー別のかごに取っておいて。」

小鞠と蛍が持っていたかごの中にはしっかりとウルイが入っていた。

「えーそれじゃあこれどうすれば良いのさー。」

「残念だけど処分するしか無いね。あとで燃やしておくよ。」

「じゃーお願い。」

「もうすぐに焼けるからみんな手を洗ってきてー。そこに蛇口があるからさ。」

待ってましたとばかりに、四人は蛇口に走って行った。

「ツナギ君、これはどうするの?」

「焼きやすいように切ってアルミホイルでバター焼きかな?」

「はーい。」

山菜はこのみに任せて結葵はイノシシ肉を焼き始める。香ばしい臭いと油の焼けるいい音が響く。

「もう焼き始めたから各人皿と箸を持って、塩なりタレなり用意して。夏海ちゃん、肉焼きは任せた。おれは別の肉を焼くから。魚も俺がやっちゃうから。」

「了解ー任せて!」

トングを夏海に渡して、結葵は冷蔵庫から燻製用の肉を出す。それと一緒にオーブンの肉も取り出した。

「うわ、でか!それも肉なの?」

「事前にオーブンで焼いたヤツと、これから燻製するヤツだよ。」

アルミホイルの包みを開いて、糸の拘束を包丁で解いた。包丁で切ってみると鮮やかな焼き色が現れた。

「はい、鹿肉のロースト完成~。」

脂身の無い鹿肉のローストはまるでマグロのような綺麗な赤色をしている。

「凄い、こんなに綺麗な色のお肉初めて見ました!」

蛍も興奮した様子で肉が切り分けられていくのを見つめていた。

「それじゃあ俺は肉焼いてるから好きに食べて。」

そう言って、結葵は燻製用の肉を七輪で焼き始めた。

 

「むぐ・・・かったいなーイノシシ。」

「良く噛みなよ夏海、のど詰まらせても知らないよー。」

「このローストしたお肉とても美味しいです!」

「もぐもぐ・・・野菜も美味しいのん」

「燻製できたよー」

「こっちの山菜も良い感じだよー」

 

育ち盛りなのか野菜も山菜も肉もあっという間に食べ終わってしまった。

「今日はありがとうございました。すっごく美味しかったです!」

「大体家にいるから気が向いたら遊びにきてよ。」

「はい!」

「じゃーねーつなぎー」

「またなのーん!」

「ごちそうさまー」

四人はこの後どこかへ遊びに行くらしく帰って行った。

「は~腹減った・・・。」

「そうだねー。」

肉を焼くのに忙しかった結葵はあまり食事にありつけなかった。それはこのみにも当てはまった。

「じゃあ、ここからは二人でバーベキューかな。」

家に戻った結葵は冷蔵庫から肉を持ってきた。こっそりとこのとき用に肉を切り分けておいたようだ。

「おー用意周到だねー」

「さて、第二回戦と行きましょうか。」

「おー!」

新しい炭に入れ替えて、結葵はロースト用だった肉の塊を一口大に切り始めた。

「これって、あのロースト用のお肉だよね?」

「うん、下味がついてるから焼けばすぐに食べられるよ。そうだ、魚も持ってくるよ。昨日釣ってきた魚がまだ残ってるから。」

結葵は生け簀から魚を数匹持ってきて手際よく内蔵などを取り除いて,串を通していった。塩を塗りつけて、炭火を囲むように魚をセットした。

「何か手伝おうか?」

「これは朝から手伝ってくれたお礼だよ。本当ならこのみちゃんもお客さんなんだから。ほら鹿肉焼けたよー」

良い感じに焦げ色のついた鹿肉をこのみは嬉しそうに口に運んだ。味を楽しむかのようにしばらくかみ続けて、飲み込む。

「これ・・・ハーブで香り付けしてるの?」

「家で取れたヤツだけどね、味はどう?」

「すっごく美味しいよ!」

満面の笑みを結葵に向けていた。さすがは鹿肉が大好きなことはある。結葵も一口食べてみる。

適度に塩こしょうで味付けされていて、ハーブの風味が肉のうまみを引き立てていた。

「このみちゃんみたいに凝った料理はできないけど、これはこれで美味しいね。」

「大丈夫、これも立派な料理だよ。」

結葵はできるだけ素材をそのまま食べる調理が得意で、このみは素材を工夫する料理が得意であった。美味しそうに鹿肉をほおばるこのみを見て、結葵の気持ちが少し安らいだ。

「大勢で食べるのも良いけど、ゆっくり二人で食べるもの良いねー。」

「じゃあたまに誘ってよ。」

「良いよー。」

「本当?絶対だからね!約束だからね!」

なぜか必死に食いついてくるこのみに結葵は少し動揺した。そこまで食いついてくるとは思わなかっていなかった。

「じゃあ、良い肉が入ったらまた呼ぶから。」

「うん!あ、山菜が良い感じに焼けたよ。」

このみがアルミホイルの包みを開く。山菜とバターの焼ける香ばしい香りが食欲をそそる。

「はい、ツナギ君。あーん。」

箸でつまんで結葵の口へと運ぶこのみ。何をしようとしてるのかは明白。すこし戸惑いつつ、結葵は口を開けた。口にの中に山菜が運ばれて口を閉じる。なぜか口の中に箸を残したままこのみが固まっていた。どうかしたのかと重い、結葵はこのみと目を合わせた。思いの外近い場所に顔があったのでどきっとした。

「なんだか子犬にエサあげてるみたいでおもしろいね。」

「・・・かなり恥ずかしいんだけど。」

お返しとばかりに結葵もこのみの手から箸を取り山菜を箸でつまむ。

「はい、あーん。」

「あ、あーん・・・。」

顔を赤くしつつもこのみはおずおずと口を開けて、結葵はにやにやしながらこのみの口に運んでいった。しばし租借し飲み込む。いまだ顔は赤い。

「け、結構・・・いや、凄く恥ずかしいねこれ。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

しばし沈黙。魚の焼ける音だけが二人の耳に届いていた。

「さ、魚もそろそろ大丈夫でしょ。」

「そ、そうだね・・・。」

少々平静を欠いた結葵は軍手をせずに串を掴んでしまった。

「あっつい!!」

「大丈夫!?」

当人以上に慌てたこのみは結葵の手首を掴んでなんと、自分の口で咥えてしまった。

「ちょ、ちょっと!?このみさん!?」

やけどした部分をいたわるように一通りなめ回して口から離す。

「お母さんがいつもこうやってたから。」

「・・・それはアナタのお母さんだからです。」

改めて軍手を付けた結葵はこのみの分の魚を皿に置いて、自分の魚は片手で持つ。

「はい、魚焼けたよー。」

「ありがとー。」

結葵は片手で持ったまま岩魚にかぶりつく。明らかに骨をかみ砕く音が響く。その様はまるで獣のようであった。対するこのみは綺麗に骨を取り除いて、箸で食べていた。

「おー、アグレッシブだねー。」

「こっちの方が性に合うんだよ。」

川魚の香ばしい味と香りで結葵は何とか先ほどの光景を忘れようとしていた。

「んー美味しいねーこの岩魚。」

このみはどこ吹く風で岩魚の味を楽しんでいた。

 

 

 

その日の夜、自室で昼間のことを思い出してもだえるこのみの姿があった。

「う~なんでやっちゃったんだろ・・・。」

二人だけになってから舞い上がっていた節があったかもしれないが、自分でも大胆だったと思う。人差し指を唇に当てていると、昼間の感触が鮮明に浮かんできてまた恥ずかしくなる。

「~~~~~~~~!!」

枕を顔に押しつけて足をバタバタさせる。そして枕を胸元で抱きしめながら仰向けになり、天井を見つめる。

「・・・ちょっと大胆すぎたかなぁ?」

焦りと言われれば確かに焦りはあった。このみは現役の女子高生で平日はほとんど結葵には会えない。対する楓はいつでも会うことができる。学校で友達と昼食を取っているとき、楓と結葵が楽しそうに食事をする風景を想像して、ちょっと胸が痛むこともしばしば。学校がいつもより早く終わる時は早く帰ることしか考えていなかった。

「重症・・・だね、完全に。」

顔を合わせたら嬉しい、二人だけならもっと嬉しい、次の日会えなくなった途端寂しくなる。

「大好き、私は君のこと本当に大好きなんだね・・・桐生結葵くん。」

久しぶりに心地の良い眠りにつけそうだった。


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