せいしゅんびより   作:skav

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文化祭をした 前編

「こんにちはー」

「あら、ゆう君。いらっしゃい。」

「卓くんに頼まれたものを届けに来ました。」

「あら、ご苦労様。なんだか今日はみんな集まってくるわね。お兄ちゃんなら外にいるわ。」

「分かりました。」

結葵はトラックの荷台から頼まれた物を下ろす。それを持って庭に行くと図面を広げた卓が縁側に座っていた。

「卓くん、持ってきたよ。廃材だけど大丈夫だったかな?一応中の方は平気だったけど。」

卓に頼まれたのは、何でも良いから木の板が欲しいという依頼だった。何に使うのかは不明だったが、外側が腐っていた木をチェーンソーで製材して持ってきたのだ。

卓は木の板をこんこんと叩いて納得の木だったのか、ぐっと親指を突き出した。

「お、ツナギじゃん何やってるの?」

「おー夏海ちゃん。お邪魔してるよ、兄ちゃんに木材頼まれたんだよ。」

「ふーん・・・あ、そうだ。ちょっとツナギも上がってアイデア考えてよ。」

「アイデア?何か悪さでもするのか?」

「ちっちっち、文化祭だよ。文化祭。」

どうやら夏海の思いつきで、文化祭をやるらしい。部屋に上がると、夏海の部屋に船員が集合していた。裁縫道具や段ボールが散乱していて、普段の夏海の部屋よりもひどい散らかりようだった。

「おー散らかってるなー。」

「あ、結葵さんこんにちは。」

「あ、結葵来てたんだ。」

「にゃんぱすー。」

蛍と小鞠は何か裁縫をしていて、れんげは段ボールに丸い穴を空けている最中だった。

「それで夏海ちゃん、誰呼ぶのか決まってるの?親御さんとか?」

「みんなーお菓子持ってきたわよー。」

「えー親は無いでしょー。母ちゃんなんて来たら文化祭が地獄絵図になるよ~」

あははは~と笑う夏海の頭上にお盆が振ってきた。ごすっと鈍い音とともに、夏海がテーブルの上に突っ伏した。

何というタイミングの悪さだが、実に夏海らしかった。

「じゃ、みんなゆっくりしていってね。あ、そうそう小鞠。このお菓子このちゃんが持ってきてくれたのよ。」

「え、このみちゃん来てるの?」

「ちょい待って。このちゃーん、こっちおいでー。」

はいはいはーいという返事とともに、廊下を小走りする音が聞こえてきた。

「おいーっす、お邪魔してるよー。あれ、結葵も来てたんだ。」

「文化祭の材料届けにねー。」

「文化祭?あの学校そんな小洒落たことしてなかったよね?」

「夏海ちゃんの発案らしいよー。」

その夏海は頭にたんこぶをこさえて、まだぐったりしていた。すると、れんげが結葵の服を摘まんで引っ張ってきた。

「れんげちゃんどうしたの?」

「これ塗るの手伝って欲しいのん。」

そう言って黒のマジックペンを差し出してきた。結構な大きさの段ボールだが、これをペンで塗るつもりらしい。

「これペンで塗るの大変でしょ、いっそのことエアブラシで塗っちゃえば?」

「えあぶらし?歯ブラシの親戚なのん?」

実物を見せた方が早いので、結葵は一度トラックの方へ行ってコンプレッサーとエアブラシを持ってきた。

「これがエアブラシ。ここからプシューッって絵の具がでるんだよ。」

結葵とれんげは外に出て、早速作業をすることにした。

「これ、真っ黒に塗れば良いの?」

「良いのん。」

結葵はエアブラシに黒の塗料を煎れて、塗料の具合を確認する。ブシューっと勢いよく塗料がはき出されて、段ボールを黒く染める。

「かっこいいのん。うちやってみたいん!」

結葵はれんげにマスクとゴム手袋を付けさせて、エアブラシを渡した。

「ここの引き金を引けば出てくるよ。思いっきり弾いて大丈夫だから。」

「分かったのん。」

れんげはエアブラシを両手で持って、その引き金を引いた。

ブシュー・・・。

「おー、出たのん!」

「上手い、上手い。その調子で全部塗っちゃおうか。」

「うおおおおお」

何だか職人のような気分になったれんげであった。

 

 

 

分校の文化祭は卒業生を呼ぶことになり。電話でひかげを(強引に)勧誘してから、夏海とれんげとこのみが楓を勧誘しに駄菓子屋へ行くことにした。そして小鞠、蛍、結葵、卓が残って準備を進めていた。

「ごめんね結葵。招待される側なのに手伝ってもらって。」

「全然気にしてないよ。裁縫できるひとがあまりいないんだし。はい、終わったよ。」

「はやっ、じゃあ蛍の手伝ってあげてよ。」

「あ、でしたらこれお願いできますか?」

「おっけー。」

蛍に茶色い生地を渡される。設計図を見ると、狸の着ぐるみを作っているようだった。生地を指示通りに切って、糸で縫い合わせていると、蛍が何か言いたそうにこちらを見ているのに気がついた。

「蛍ちゃん、どうかしたの?」

「へ?いや・・・あの・・・。」

「どしたの蛍?」

小鞠も蛍の様子に気がついて裁縫の手を止めた。

「その・・・ずっと気になっていたんですけど。このみさんと結葵さんって恋人同士なんですか?」

突然の質問に驚いた結葵は手を滑らせて、ぷすっと指に針が刺さってしまった。

「~~~~~~~~~!!」

「だ、大丈夫ですか結葵さん!?」

「・・・うん、大丈夫。それで、俺とこのみの関係だっけ?」

左手をぶらぶらさせる結葵の目尻には少しだけ涙がたまっていた。

「蛍そんなわけ無いでしょ。確かに二人は昔から一緒にいるけどさー」

「いや、恋人同士だよ。」

「へ?(ぷすっ)いったあああああああ!!」

「せ、センパイ大丈夫ですか!?」

今度は小鞠が針を刺してしまったようだった。目から大粒の涙を流し、刺した指を吸う。

「う、うん・・・大丈夫・・・。」

「そっかー・・・てっきりみんな気がついてるのかと思った。」

「それで、どこまでいったんですか?」

妙に食いついてくるところはやっぱり年頃の乙女だからなのだろうか。

「そうさなあ・・・キスはしたかな。」

「き、ききききき、キスウウウウウウウ!?」

耐性が無いのか小鞠は顔を真っ赤にして、仰向けに倒れてしまった。こういうところはまだまだ子供であった。

小鞠は真っ赤な顔で白目をむきながら「ダメ・・・キス・・・アカチャンデキチャウ・・・」となにやら呟いていた。

「お二人って幼馴染みなんですよね。良いな~憧れるな~・・・あれ、けど来年このみさんが大学生になったらどうなるんですか?」

「えっと・・・しばらく会えないかな?」

「そんなのダメですよ!なんで一緒に行かないんですか?」

興奮して身を乗り出す蛍の頭を結葵は押し戻した。

「はい、落ち着いてー。そうだな・・・今度は俺が待つ番だからかな。大丈夫だよ、永遠の別れじゃ無いんだし。」

「それはそうですけど・・・うぅ、納得できないです。」

「そのうち分かるよ。さ、早いところ裁縫終わらせようよ。一人脱落しちゃったんだし。」

「そ、そうですね。」

三人が帰ってくるまでに大体の裁縫が終わった。途中蛍が鼻息を荒くしながら、小鞠のサイズをはかっていたが何に使うのかは定かでは無かった。

 

 

 

 

そしてその週末。文化祭が開かれた。

「なんだ、ひかげちゃん結局来たんだ。」

「しょうがないだろーあんな強引に誘われたんだからさー。」

「えへへ、私の巧みな話術が功を奏したね。」

「巧みじゃねーよ、あの時突っ込み入れすぎて通行人に笑われてすっごい恥ずかしかったんだからな!」

そんな会話を聞きながら、分校の前に立つ五人。

「今思うと良くこんなぼろ屋に毎日通ったよな。」

屋根は少し朽ちていて、窓ガラスも白くかすんでいた。一カ所だけ綺麗なのは夏海が割ったからだ。

「ここに来るのも久しぶりだなー」

「ウチは去年まで去年まで通ってたからそんな気はしないなー」

「ウチは毎日来てるよ~」

「俺も時々修理をしにきてるからなー。」

ぎしぎしと音を立てる廊下を歩くと、昔の習字が張り出されていたりしていた。さすが面倒くさがり屋の一穂である。

そして、教室の入り口のところでへんてこな触覚を生やしたれんげと、猫耳を付けた蛍が出迎えていた。

「皆さん、わざわざ足を運んで頂いてありがとうございます。」

「らっしゃいん!」

まずれんげの格好につっこんだのは楓だった。

「なんだその格好は、虫の触角か?」

「触覚じゃないのん。これは皆さんご存じのーキリンさんなーん!」

「なんだそりゃ・・・分っかりにく。」

手伝っていた結葵でさえ分からなかったのだから、楓が分からなくても無理は無い。

「キリンに猫・・・あ、動物喫茶か。」

「ユウユウ気づくの遅いのん。」

「てっきりお遊戯で―」

「だ、ダメですよ結葵さん!先に言っちゃ!」

蛍に叱られ、結葵はとっさに口を閉じた。

「結葵ー折角みんなが準備したんだから、ネタバレは良くないよー。」

「・・・ごめんなさい。」

このみにも叱られ、結葵はできるだけ口を挟まないと心に決めた。

「ねえ、これもう入っちゃって良いの?」

「あ、はい、どうぞ。」

蛍のオーケーをもらい、ひかげが教室のドアを開ける。すると、そこに妙な生き物が立っていた。

紙袋に段ボール製の耳のようなモノを付け、垂れ目気味の黒い点が哀愁を漂わせている。

かろうじて、後ろから突き出ているポニーテールで夏海だと判断できる。

「ウッス!みなさんご存じUMAです!」

見た目通り、本当に未確認生物だった。何か実在する生物だったとしたら、似てないとかそう言う話題に持って行けるが、未確認生物と言われてしまったらもう何も言えなかった。

その未確認生物に誘導されて、用意されたテーブルを囲んで椅子に座る。

「夏海・・・だよな?」

「夏海ではありません。かの有名な未確認生物UMAです。」

「・・・どのUMAだよ。」

楓と、ひかげがつっこむが案の定微妙な空気が流れ出した。それを察したのか、UMA(夏海)は自分の仕事をすることにした。

「ま、それは置いといて。ご注文は何にしましょ?」

先ほど蛍に手渡されたパンフレットを見ると、ケーキや食べ物、それに飲み物が書いてあった。

ちなみに材料はほとんどが結葵提供のもので、見たことのある名前もちらほらとあった。

「ねえねえ、結葵。このなかでおすすめはなに?」

それをいち早く察知したこのみはUMA(夏海)ではなく、結葵に聞いた。

「そうだな~・・・やっぱりローズヒップかな?女の子には。それと移動で疲れてるであろうひかげちゃんにはジンジャーティー。一穂さんみたいによく寝たい人はカモミールティーかな。」

「じゃあ、ローズヒップティーとクルミのパイにしようかな。結葵は?」

「紅茶とスイートポテトで。」

「じゃあ私は結葵のおすすめでジンジャーティーと、ローズヒップゼリーが良いな。」

「私もひかげと同じヤツで。」

「ふむふむ・・・カモミールと木の実のクッキーで。」

「あいよー。」

そう言って、注文をとるUMA(夏海)は喫茶店では無くラーメン屋の雰囲気だった。

「ねえ、あの黒いヤツは―」

「ソレはウチが作ったん。さすがねえねえ目の付け所が違うん。」

一穂が気がついた穴の開いた黒い段ボール。結葵が手伝って作ったモノだが、結葵もその用途は分からなかった。

「これは、ウチが考えた最新のおもちゃなん。これをこうやって裏から顔を出して―」

そう言ってれんげは段ボールの裏から、顔だけをひょこりと出す。

「とほほ・・・もういたずらはこりごりなーん。」

それはアニメや漫画のオチでよく使われるあの演出方法を模したモノのようだった。

「こうやって遊ぶん!マンガの最後みたいなん!」

「これまた難易度の高い遊び覚えちゃったねー。」

「あー・・・よし、次は楓ちゃんの番だ。」

「ふざけんな、何で私が・・・。」

「おー駄菓子屋もやるん!」

「マジ勘弁。」

れんげの高度な完成に苦笑いする一穂、ひかげ、楓、結葵に対して唯一このみだけ朗らかに笑っていた。

「いやーさすがだね、このみは。将来良いお母さんになるよ、きっと。」

「あ・・・え・・・も、もう!何言ってるの結葵!」

「いや、だって本当のこと・・・。」

「そんな恥ずかしいこと今言う!?」

「くそぅ・・・TPOを考えずイチャイチャしおって・・・。」

お年頃のひかげは結葵とこのみが放つ”そういう”空気にイラッとしていた。

「なんだ嫉妬か?」

「駄菓子屋は悔しくないのか!?お天道様が高いウチからイチャコラしている二人が!」

「いや、別に幸せそうだから良いんじゃね?」

結葵とこのみの関係については大歓迎である楓は、ひかげとは対照的に嬉しそうであった。

ちなみにもしも、将来れんげが結婚するとしたら、親族以上に相手に厳しくなるであろうが。

「駄菓子屋に聞いたのが間違いだった。かず姉、学舎で”こういう”ことはいけないと思いませんか!?いや、そもそもアナタはそろそろ相手を見つけないとダメな年でしょう!」

「そうだねーまあ、今はウチの生徒じゃ無いから良いんじゃ無いの?うーん・・・結婚か~良い相手見つからないんだよね~。妻よりも稼ぎが悪い旦那って肩身が狭いらしいよ。ほら、この辺って農家ばっかだし、私公務員だし。」

適当な返答の次に、実に現実的な返答が帰って来た。彼女自身多少は真面目に相手を見つけようとはしているらしい。

「えっと・・・お水お持ちしました。」

気まずそうな顔をした蛍が、お盆にのせたコップを各人に配り始めた。

「あ、ごめんね変な空気で。あ、そうだ!ここは小学生の意見も聞いてみよう。」

「あ、あの・・・どんな意見ですか?」

「ズバリ、蛍の理想の男性像は?」

「え、えええ!?そ、そんないきなり・・・。」

ひかげの無茶振りに蛍も困惑気味だ。

「え、えっと・・・その、優しい人・・・です。」

「蛍さーん、優しいだけじゃ家庭は守れませんぜ~」

「こらこらひかげちゃん。小学生に意地悪はダメだって。」

「そうだよ、嫉妬して八つ当たりは、めっ!だよ。」

「うわああん!かず姉ぇ~幸せが私を虐めるよ~!」

「おーおーよしよし~。」

ついには泣きつきはじめたひかげを一穂は、苦笑いしながら頭を撫でた。

「あー注文も取ったことだし、家庭科室で料理始めますかー。」

「そうですね。じゃあ、失礼します。」

「後は任せるのーん。」

蛍と夏海はれんげを残して、教室からだて言った。

「れんげは料理作りに行かないのか?」

「ウチはお遊戯するーん。」

そう言って、れんげはポケットからリコーダーを取り出した。

「お、リコーダー吹くの?」

「ウチ一人じゃ無いん。こまちゃんもやるん。こまちゃん、お遊戯やるーん!」

「うぁ・・・。えーと、やっぱりやるの嫌なんだけど・・・。」

「何言ってるん!早くくるん!」

廊下でスタンバイしていたらしい小鞠は、やがて観念したように扉を開けた。

そこには狸の着ぐるみとパジャマを足して割ったような格好で、とても嫌そうな顔をした小鞠が立っていた。

彼女の容姿からして、非常に可愛らしくて似合っているのだが、彼女は中学二年生である。これはたまらなく恥ずかしいに違いない。

「・・・なんだそれ。」

「えっと・・・これはじゃんけんで負けて無理矢理着せられて・・・ていうか、お遊戯もれんげ一人でやった方が良いというか・・・。」

無理矢理着せられたにしては、実にぴったりサイズなのは最初から小鞠に著させるつもりだったのだろう。

結葵もてっきりれんげが著るモノだと思いながら作っていたので、少しびっくりしていた。

「こまちゃんぶつぶつ言わないで、皆にお遊戯披露するん。」

「う・・・本当にやるの?」

これから何をするのか全く想像がつかないが、小鞠のやりたくなさそうな顔から、相当な覚悟が必要なモノだと推測できる。

「・・・・・・っ!腹太鼓、やりますっ!」

倉庫まりが叫び、れんげがピョーー!とリコーダーを吹き始めた。

「ぽん!ぽん!ぽこ、ぽん!」

れんげのリコーダーと共に、そう唱えながらお腹を叩き始める小鞠。あまりにも混沌とした光景に、その場にいた全員が凍り付いた。

非常にシュールな光景に、流石のこのみも言葉を失っているようだった。

五分が経ち・・・十分が経ち・・・だんだん小さくなっていった小鞠の声が、ついに聞こえなくなった。

「・・・・・・もうやだ・・・。」

手をだらんと下げ、そう呟く小鞠はとても痛々しかった。

とぼとぼ教室から出て行こうとする、小鞠に対してこのみが拍手をしようとするが、結葵がそれを止める。

不思議そうな顔をする彼女に足して、結葵はただ黙って首を横に振った。

時には良心が心に突き刺さることもあるのだ。

心に深い傷を負った小鞠と入れ違いに、UMA(夏海)が入ってきた。

「いやーウチのこまちゃんがやらかしたみたいで・・・。かくなる上は、責任者であるウチがちょっとした余興をと思いまして。」

何かをやろうとしているUMA(夏海)は楓をどかして、テーブルの前に立った。

「ひか姉、タネも仕掛けも無いよね?」

「ん?まあ、何も無いね。」

ひかげに確認を散り、テーブルクロスの一辺を掴むUMA(夏海)。結葵が嫌な予感を察したのと、UMA(夏海)がテーブルクロスを勢いよく引いたのは同時だった。

「でい!!」

案の定テーブルクロスに引っ張られる形で、コップが宙を舞う。しかし、中身の入ったコップは結葵の素早い反応で床に落ちることはなかった。

「「おお~。」」

結果的にUMA(夏海)ではなく、結葵が目だつ格好になってしまった。

「えー・・・いかがでしょう、お楽しみ頂けましたか?ウチとツナギの即興マジックは。」

開き直るUMA(夏海)に対して、ひかげがキレた。

「頂けねーよ!!どこが手品だよ!!結葵がいなきゃ床びしょ濡れだったじゃねーか!!絶対テーブルクロス引きとかやったことねーだろ!?」

「いや~急な催しでテンパっちゃって・・・できそうなきがしたんだけどなぁ。あ、でもタネも仕掛けも無かったでしょ?」

「仕掛けろよ!!何でも良いから花咲かせろよ!!」

「よし夏海怒らないからこっち来い・・・”関節キメてやるからこっち来い”。」

ゆらりと立ち上がった楓が、怒りの形相でUMA(夏海)に歩み寄る。それに対してひかげも「やったれ、駄菓子屋!」と檄を飛ばした。

「おっと、そろそろ料理に取り組むのでおいとまさせてもらいます!」

自身の危機を察知したUMA(夏海)は一目散に教室から逃げていった。

「・・・ったく、それにしても良く反応したな。」

「まあ、いやーな予感はしてたからさ。」

「それでも五個同時にキャッチは普通はできねーな。流石ユウ。」

「はっはっは~照れますな~・・・あ、俺水飲みきったんだっけ。」

自分のコップを口に付けてから、結葵は中身が入っていないことに気がついた。そんなとき、どこからともなく水の入ったポットを卓が持ってきた。

「お、ありがとう。それと卓君、たぶんあっちは混乱してるからフォローに回ってくれるかな?」

頷いた卓は、犬の鼻を付けたまま教室を去って行った。

先ほどの騒動でも、掃除用具入れの横で、正座をしていたのだが誰一人として彼の姿を目に入れようとはしなかった。いや、そもそも目に入らなかった。

「・・・ったく、頼むぞー越谷家ー。」

ひかげがぽつりとそう呟いた。

 


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