進撃のワルキューレ   作:夜魅夜魅

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秘密結社組の話が続いていたので、久々にミーナ達登場です。

ミーナ達新兵の朝食時の様子です。一昨日は中止になった行軍訓練が実施される事を告げられます。

(side:ミーナ)


第45話、行軍演習の朝

 トロスト区内にある駐屯兵団宿舎。兵団選択式を終えた第104期新兵達は、依然としてにこの施設に滞在していた。通年ならば所属兵団が決まった後は各々の配属先に赴くはずだが、今年は総統府からの通達により、他地区の新兵も含めて調査兵団への一時預かりとなっていた為である。調査兵団は3兵団中もっとも小規模な組織である。当然六百人近い新兵を受け入れられるだけの宿舎を持っておらず、大組織である駐屯兵団の施設をそのまま使わせてもらっている格好だった。

 

(やっぱり知っている顔は少ないなぁ)

 新兵のミーナ・カロライナは朝の食堂で周囲を見渡して思った。食堂は大勢の新兵達で賑わっていたが、大方が他地区の新兵達で、見知った顔は少なくなっていた。恒例となっていたエレンとジャンの喧嘩も今となっては懐かしく感じられた。

 

「ほら、頬っぺたに食べカスがついているわよ。拭いてあげるからじっとしていて」

「はは、ちょっと恥ずかしいよ」

 変わらないのは公然でもいちゃいちゃしているハンナ=フランツのカップルぐらいなものだった。

 

(あの二人だけは変わらないね……。あっ、いけない。サシャは……まだ来ていないよね~)

 ミーナは大事な事を思い出した。サシャ・ブラウス――同室で仲の良い友人なのだが、食事時だけは明確な敵だった。食い意地が強いサシャは周りの知人の食べ物をつまみ食いする悪癖がある。以前ならエレン、トーマス、アルミン、クリスタといった連中もいたので、被害を受ける確率自体が低かったのだが、最近は仲間が減ったせいでミーナの食事が頻繁に狙われてしまうのだった。そこでサシャがベットで惰眠を貪っている内に部屋を抜け出して食堂に来たのだった。

 

「よぉ、ミーナ! こっち来いよ」

 コニー・スプリンガーが手を振って声をかけて来た。コニーは小柄だが敏捷性に優れた新兵である。直情的過ぎるのが欠点だが、卒業成績は暫定2位で優秀だった。(仲間が大勢戦死したため繰り上がった) 少し離れた場所にはジャンと同期の少女兵3人がいた。最近ジャンは暫定首席の上に、トロスト区防衛戦で表彰されるほどの戦功を挙げたという事で女子連中からの評価も高くなっているらしい。いわゆるモテ期に入っているようだった。

 

「コニー、おはよう」

「んでよ、サシャの奴は?」

「え? 先に出て行ったと思ったけど……」

「まあ、あいつがいると俺らの食事が減っちまうからな」

「あ、あはは……。だよね」

ミーナは苦笑いを浮かべた。

「実はオレ、話し相手がいなくてよ」

コニーはそう言いながらジャンをちらっと見遣る。ジャンは女子に囲まれておりご機嫌の様子だった。立体機動装置のより高度な使い方を解説したりしていた。女子連中はきゃーきゃー言って騒いでいた。

 

「なんか納得いかなねーな。オレやお前(ミーナ)だって巨人を討伐しているのによ」

「別にいいんじゃない。表彰されたのはジャンだったし、それに実際、ジャンは活躍しているじゃない?」

「だけどエレンやその他大勢死んでいるんだぜ。オレははしゃぐ気にはなれねーな」

コニーは首を横に振りながらそう言う。コニーはお調子者だと思っていたが、思ったより仲間を想う気持ちが強いようだった。

 

「そ、そうだよね」

 ミーナはとりあえず相槌を打つしかなかった。エレンの名前を出された為、ミーナの心はちくりと痛んだのだった。片脚を失う重傷を負ったにも関わらず、ミーナやアルミンを逃がす為に囮の役目を果たして散っていった戦友。自分の無力さをつくづく思い知らされた。ペトラ先輩とは言わないまでもそれなりの腕があればエレンを助ける事が出来たのかもしれない。

 

「た、立ち話もなんだし、座ろうか?」

「そうだな」

 コニーとミーナは並んで座る事になった。さっそく朝食を摂る事にした。ちなみに献立は肉入りのスープとパンだった。

 

「ところでよ、今日も待機なんだろうか?」

「どうだろね? 昨日はあんな事があったけどさすがにないんじゃない?」

 ミーナはそう返した。昨日はミーナを含めた新兵全員に敷地内待機が命じられており、外出も不許可だった。捕獲していた被験体巨人が殺害されるという事件が発生したからである。そればかりか見張りの兵までもが殺されており、駐屯兵団の先輩兵士達はピリピリとした緊張が漂っていた。街の出入り口(北門)に検問が敷かれて出入りは厳しくチェックされているそうだが、未だに犯人は捕まったという話は聞いていない。

 

「ミーナ、ミーナったら」

 自分を呼ぶサシャの声が聞こえた。振り向けばサシャが駆け寄ってきた。

「冷たいですよぅ。わたしを置いていくなんて」

 サシャがやってきた。幸い食事の大半は胃の中に消えておりサシャに奪われる心配はなかった。

「あ、ごめん。だってサシャ、声を掛けても起きなかったんだもん」

「いじわるですねぇ。あっ、でも今日は朝からいい事がありましたよ」

サシャはなぜか上機嫌だった。見ればサシャは紙袋を一つ持っていた。

「お前のいい事って食い物の事しかないからな」

「コニー。よくわかりましたね」

「だろな」

 

 サシャは一呼吸置くと訳を話し出した。

「実はさっきヒッチさんに薫製(くんせい)の肉を頂きました」

「ヒッチ!? まさか、憲兵団の?」

ミーナは意外な名前が出た事に驚いた。憲兵団新兵のヒッチ達は、兵団選択式直前、自分達南区訓練兵に言いがかりをつけて罵倒してきたからだ。あの場は駐屯兵団のリコ先輩が一喝して収めたが、不信感は残ったままである。

 

「そうですよ。事情も知らず罵倒してしまったお詫びだと言ってましたよ」

「おいおい、サシャ。あそこまで馬鹿にされていて食べ物で懐柔されたのかよ?」

 コニーは呆れ顔だった。

「そんな事ないですよ。食べ物をくれる人はいい人に決まってます」

「信じられるかよ?」

「コニー、食べ物は大事ですよ。それを他人に差し出せるのは心が広い証拠ですから」

「やっぱり食い物につられたんじゃないか。ミーナだってそう思うだろ?」

「えっ? ま、まあ、そうですね」

「な、なんなんですか? ミーナまで……」

 サシャは納得していないという表情で首を傾げていた。

 

「新兵全員! 注目!」

 食堂にいる全員に呼びかけた人物がいた。調査兵団幹部のエルド・ジンだった。兵団選択式でも説明役を務めていた熟練兵(ベテラン)である。

「昨日は中止した行軍訓練だが、本日午後、訓練を実施する。ウォールローゼ南西地区に出陣、密集隊形を維持しつつ、ウドガルト城へと向かう。ああ、ウドガルト城というのはかなり昔に廃城となった城だ。盗賊の住処になっているとも噂されるからその哨戒の意味も含めている」

 どうやら行軍訓練を一日遅れで実施するとの事だった。行軍といっても壁内のウォールローゼなので巨人と遭遇する可能性はない為、安全な訓練だろう。

 

「今回は我々の演習に先立ち、駐屯兵団所属の偵察気球部隊を投入している」

「!?」

 新兵達はざわめき始めた。偵察気球の事は講義で聴かされていたが、まさかこれほど早く再度、実運用されるとは思っていなかったからだ。確かに前回、調査兵団の技術班がシガンシナ区の空中偵察を行ったとそうだが、課題も多く試験段階だと聞かされていたせいである。

「なお、当訓練には事前に通達されている以外に何らかの想定が盛り込まれているとの事だ。全員、壁外を進軍すると思って油断する事無く行動せよ! 以上だ」

そういい残してエルドは去っていった。エルドの言う”何らかの想定”とは緊急事態が発生したと仮定して、訓練を行うという事だろう。

 

 残された新兵達はみな怪訝な表情を浮かべていた。

「昨日、あんな事件があったのにもう訓練再開かよ?」

「犯人も見つかっていないというのにね」

「もうしばらく待機が続くと思ったんだけどな」

「気球ってそんなに役立つのかな? ただ空に浮いているだけだろ?」

「”何らかの想定”ってなんだよ?」

そんな私語があちらこちらから聞こえてくる。

 

「ウドガルト城か? オレの村の近くだな」

「えっ? そうなんですか?」

 サシャがコニーに訊ねていた。

「じゃあ、コニー。里帰りしてみたらどうでしょう?」

「はは。3日前に調査兵になるって報告しに帰ったところだよ。それに訓練中に抜け出すわけにはいかないだろ?」

 コニーは兵団選択式後、休暇を貰って帰郷していた。家族に調査兵団に入る事に決めた動機も含めてちゃんと説明したのだろう。手紙だけで済ませてしまったミーナとは大違いだった。

(お母さん、心配しているかな? でも調査兵になったって言い辛いし……)

 ミーナはそんな事を考えていた。

 

「ところで、今日の演習、アルミン達は参加するのでしょうか?」

 サシャは話題を変えた。

「アルミンとクリスタか……。あいつら、全然顔を見せないよな。同じ調査兵団に入ったというのによ」

「ハンジ分隊長の技術班だったよね? ずっと研究棟の中に篭ったままだよね」

(技術班ってペトラ先輩がいるところだよね。先輩、会いたいなぁ)

 ミーナは憧れのペトラ先輩がいる技術班には強い関心を持っている。できれば一緒に同じ部署に配属される事を密かに願っていた。

「そうそう、アルミンの奴、ずっとクリスタとミカサと一緒らしいからな。おまけに技術班にはとびっきり美人の先輩もいるだろ? うらやましいよな」

「ハンジ分隊長の事?」

「馬鹿! ちげーよ! あんな女を捨てたような巨人好きの壊れた人じゃなくて、ペトラ・ラル先輩の方だよ!」

「!?」

 コニーが大きな声を発した途端、サシャの表情が固まっていた。

(え? あっ!?)

ミーナもすぐに事態を把握した。コニーの後ろに話題にしていた当のご本人――ハンジ・ゾエ分隊長が立っていたのだ。

 

「ど、どうしたんだよ!? お前ら……」

 気付いていないのはコニーだけだった。

「なんの話をしているのかな? コニー・スプリンガー君」

 ハンジは笑顔を浮かべながらコニーに話しかけた。コニーは顔が青ざめながら、ゆっくりと振り返った。

「ひっ!?」

「どうやら誤解があるみたいだねぇ。お姉さんとゆっくり話そうか?」

そう言ってハンジはコニーの肩をポンと叩いた。途端、コニーの身体は電撃に打たれたようにビクッと震えた。

「お、お許しを……。さ、サシャ、ミーナ……」

 コニーはサシャとミーナに縋る様な目線を送ってくる。助けてくれという事なのだろうが、こればっかりは自業自得だ。

「あっ!? わたし、そろそろ、支度に行かないと……」

 サシャはすかさずその場から逃げ出した。

「わ、わたしも……」

(ごめん、コニー。とてもじゃないけど助けられそうにないよ)

ミーナは心の中で言い訳しながらサシャに便乗して食堂から抜け出した。コニーはその後、ハンジからお説教と罰直(便所掃除)を命じられたようだった。




【あとがき】
コニーはお調子者なので、アルミンに対する嫉妬心もあってつい口が滑ってしまいました。
後は、お約束です。


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