第0話、追憶
2本の
「……」
激しい衝撃で意識が飛んでいたようだ。リタは仰向けに倒れていた。割れたヘルメットの隙間から空が見えている。
空は赤かった。時刻はもう夕刻だった。咳き込むと同時に鉄の錆びたような血の匂いが鼻についた。もう自分は長くはないだろう。
傍らにはリタに致命傷を負わせた敵兵――若年兵がいた。リタと彼はわずか1日の出会いだったが、消えてしまった時間ループの中では、彼と共に幾度の戦場を駆け抜けてきたはずだ。自分以外に
しかし運命はどこまでも残酷だった。ギタイのループを脱出できるのはただ一人。どちらかは死ぬ必要がある。
その事実に気付いた時、リタは慄然とした。少しして冷静を取り戻すと、いささかリタは彼に甘すぎたとのだと思い直した。
最初のループに巻き込まれた時、上官だった大切なあの人を失った。リタにとって初恋だったあの人。ほろ苦く、甘い、そして悲しい記憶……。その時から、リタは戦場でのみ生きると決めていたのだから。
その気になればリタは確実に彼を殺す事はできただろう。油断している背後から一撃を喰らわせば間違いなくリタが勝者となっていたはずだ。記憶にはなくとも幾度の戦場を駆け抜けてきたであろう戦友をそんな卑劣な手段で逝かせたくはなかった。正々堂々、決闘をする道を選んだのだった。
負けはしたが後悔はしていない。リタに匹敵する戦闘技量を持っている事が確認できたのだから。彼がいる限り、人類はギタイに簡単に負ける事はないだろう。
「ずいぶんと長い戦いだった……。もう夕刻なのだな……」
今日の一日も長い戦いだった。午前中、自分達のジャパン・フラワーライン基地は敵ギタイの大群によって奇襲を受けた。味方は大打撃を蒙っていた。民間人も含めて数千人単位の死傷者が出ている事だろう。それでもUS特殊部隊を中心に奮戦したおかげで戦線は持ち直した。敵の司令塔であるギタイサーバももう目の前に倒せる位置に来ている。後は彼が全て引き受けてくれるだろう。
「夕焼けだ。綺麗な色だよ」
彼は涙声になりながら答えた。彼の声も耳から遠くなっていく。体がやけに重かった。
「感傷的な奴だ……」
リタは精一杯微笑んだつもりだった。
(リタ、待って……)
どこからともなく自分を呼ぶ女の声が聞こえる。この戦場にはリタと彼しかないはずだ。どうやら幻聴のようだった。天使か悪魔か判らないが、どうやらお迎えが来たようだった。
(あたしと一緒に来て戦ってくれる?)
(ああ、そうだな。この世界は彼が役目を継いでくれる。戦争がある世界ならどこでも構わないぞ)
(それが絶望に覆われた世界だったとしても?)
(ふふっ。それなら、なおさら遣り甲斐があるな)
リタは不敵にも微笑んだ。
(リタらしいね)
姿が見えない相手の女は微笑んでいるようだった。やがてリタの意識はすっと闇の中へと落ちていった。
【あとがき】
リタの『ALL YOU NEED IS KILL』世界における最後の戦いです。
そして、最後に出てきた幻聴(?)がリタが転移させたのかもしれません。
タイトルを変更。後は誤字修正のみです。(2018/1/12)