とある少年が、全女性ジムリーダーのおっぱいを揉むという夢を抱いたそうです   作:フロンサワー

14 / 45

 ―――守りたい、その笑顔。この小説の裏テーマです。


13歩目 トバリシティ

 

 どうも、ライムです。シンオウ地方2人目のジムリーダーに挑むべく、トバリシティという街にやって来ました。

 さて、この街のジムリーダーはスモモちゃんって子でね。どうも、格闘技を習ってるっぽい。ジムにいる格闘家より遥かに強いとか。

 まあ、忍者やら超能力者やらのおっぱいを揉んできた僕からしてみれば今更って感じだけどね。昔の僕ならいざ知らず、今となってはやり易くなったとすら思える。

 それじゃあ、早速ジムに挑むとしますかね! コインスロットは予算不足で断念せざるを得ないし、ジムで賞金を稼いでから遊ぼう!!

 ジムの前まで足を運ぶと、入り口に女の子が佇んでいた。あのピンク色の髪、もしかして―――

 

「お待ちしていました、ライムさん! あたし、トバリシティのジムリーダーを務めるスモモといいます!」

「これはこれはご丁寧に。僕はライムっていいます」

 

 ヤンチャな子かと思ったけど、ビックリするくらい礼儀正しい子じゃないか。僕より年上な雰囲気すらあるんですけど。

 それにしても、ジムリーダーがわざわざ出向いてくれるとは思わなかったよ。いくら礼儀正しいと言っても、普通じゃ考えられないし。

 

「やっぱりライムさんでしたか! ナタネさんから色々と話を聞きました!」

「!!??」

 

 そそそそそ…… そうだった!! 森の洋館で僕、超盛大にやらかしたんだった!! 気が動転しておっぱいを揉んだの、絶対に話されちゃったよ!!

 

「あの、ナタネちゃんは僕についてどんな話をしてたの!?」

「えーっとですね…… 強くて優しいトレーナーだって言ってました!」

 

 ……た、助かったぁぁぁぁ!!

 それにしても、どうして森の洋館の件を話題に出なかったんだ? あそこでの出来事は信じてくれないだろうけど、僕におっぱいを揉まれたのは事実なのに……。

 まあ、いっか! 考えても分かんないだろうし、結果が良ければどうでもいいや。

 

「では、ジムにどうぞ!」

 

 どうやら、スモモちゃんがジムを案内してくれるようだ。

 ……だけど、少しばかり気が引けるんだよな。普段ならメシウマなんだけど、今回のジムは男臭さが半端じゃないんだよ。くそぅ、折角スモモちゃんがジムを案内してくれるのに!

 マスクを持ってくれば良かったと思いつつ、僕は地獄への扉を開いいてしまった。

 

「お邪魔し……!」

 

 出迎えてくれたのは組手の練習をする野郎共だった。しかも、半裸のゴリマッチョだ。

 酸っぱいような、しょっぱいような、よく分からない不快な臭いが鼻腔に侵略してきた。口で息しても否応無く攻め入って来る。

 帰りたい。今すぐ猛ダッシュで帰りたい。こんな場所なんて1秒だって居たくない。

 ……いや、堪えるんだ!! スモモちゃんの慎み深いおっぱいが待っているんだぞ!!

 マイナスに考えるな! 逆に、スモモちゃんの汗の匂いが混じっていると思うんだ!! というか、スモモちゃんの汗の匂いを特定するんだ!!

 

『フッ、滾るな……』

「アベサン! いつ出てきたの!?」

 

 アベサンの目線が完全に野郎へと向けられていた。良い雄をロックオンした目だな。

 

「……あれ、ポケモンじゃなくて人間だよ?」

『忘れたか、ライム。俺は人間だって構わないで食っちまう雄なんだって言っただろ?』

「冗談じゃなかったの!?」

 

 あの発言、どうやら本気だったらしい。炎の抜け道にいたゴーリキーに心の底から感謝しないと。

 それにしても、本当に末恐ろしいポケモンだ。ファーザーとは違う意味で強力なプレッシャーを放っている。ファーザー以上に味方で良かったと思えるよ。

 アベサンはパキポキと指の関節を鳴らしながら、一番ガタイの良い野郎へと歩み始めた。

 

『さて、良い雄と少し遊んでやるとしよう。帰る頃に呼んでくれ』

「……やるならトイレでね」

『分かってる。良い雄ってのは、シチュエーションにも気を遣うもんだからな』

 

 さーて、僕にはもう関係ないっと。トイレに引き摺られて行く空手家は幻覚であって、何も見てないし聞いていないよ。

 ジムの奥へと足を進め、やっとジムリーダー用のバトルフィールドに辿り着いた。長かった。本当に長かった。

 

「では、よろしくお願いします!」

「こちらこそ。そんじゃあ、1on1で頼むね」

 

 さて、いよいよ12度目のジム戦の始まりか。そう考えると、今までおっぱいを揉んできた女ジムリーダーも11人なんだよな。いや、ミカンちゃんも足して12人か。随分と夢に近づいたものだ。少し感慨に耽っちゃうよ。

 ……うん、柄にもないね。僕って過去は振り返らないタイプなのに。今はスモモちゃんのおっぱいに集中しないと。

 お互いにモンスターボールを手にした。スモモちゃんの繰り出すポケモンは格闘タイプ。戦わせるポケモンは最初から彼女だと決めていた。

 

「お願い、ルカリオ!」

「頼んだ、サッちゃん!!」

 

 宙に投げたモンスターボールからサッちゃんが現れた。しかし、相手のルカリオには目もくれずに僕へと顔を向けた。

 

『ライムさん、今回のご褒美は?』

 

 何言ってんだ、このサーナイト。

 

「……う〜ん、1日だけデートなんてどう?」

『しゃあ! こいや犬っころ!!』

 

 サッちゃんのボルテージはMAXまで跳ね上がった。なんてお手軽なやる気の上げ方だろう。

 だからって楽観視はできない。相手のルカリオは鋼タイプでもある。サッちゃんの技は等倍に抑えられるし、鋼タイプの技をくらえば効果抜群になってしまう。

 ……あれ? これ、やばくね?

 

「これより、トバリジムジムリーダー『スモモ』対、チャレンジャー『ライム』のポケモンバトルを始めます。使用ポケモンは1匹。どちらかのポケモン1匹が戦闘不能になり次第、バトルを終了します」

 

 まあ、負けたら負けたでもう一度挑むまでだけどね。もっと言えば、おっぱいを揉めるまで挑むまでだけどね。

 

「それでは、バトル開始!」

 

 審判が合図した瞬間、ルカリオは駆け出した。みるみる間に、サッちゃんとの距離を縮めていく。素早さはあっちが上か……!

 

「インファイト!!!」

 

 サッちゃんの懐に潜り込み、両の拳を連続で叩き込むルカリオ。

 インファイトとは、防御を捨てて攻めに徹する必殺の技だ。だけど、この局面じゃあ必殺と成り得ない。

 フェアリータイプ、エスパータイプは格闘タイプの技を半減できる強みを持つ。その両方を併せ持つサッちゃんにインファイトを使っても、大した効果は見込めない。

 

『これなら夜のライムさんの方がまだ激しいですよ!』

「あの、そんな覚えないです」

 

 やはり、サッちゃんに大きなダメージを負った様子はなかった。

 さてはあのルカリオ、鋼タイプの技を覚えていないな。それなら接近されても怖くない。叩くなら今がチャンスだ!!

 

「サッちゃん、サイコキネシス!」

「ルカリオ、下がって!」

 

 サッちゃんがサイコキネシスを放つ瞬間、ルカリオは大きく後ろに下がった。

 速い……! 初動のスピードが段違いだ!! インファイトで防御力が落ちた今なら、等倍のサイコキネシスでも十分に落とせる。だけど、当てるのは相当骨だぞ……!

 

「ルカリオ、インファイト!」

「ッ!?」

 

 まさか、インファイトだけで押し切るつもりか!?

 流石はジムリーダーだ。最善策だとしても、並のトレーナーは簡単に決断できないぞ……!

 再びサッちゃんの懐に踏み込もうとするルカリオ。だけど、2度も接近を許すようなミスはしない!

 

「サッちゃん、ムーンフォース!」

『了解です!』

 

 サッちゃんが突き出した両手から光が放たれた。

 

「ルカリオ!」

「―――ガウッ!!」

 

 直撃する寸前、驚異的な速度で孤を描くように回り込むルカリオ。この切り返し速度、かなり戦い慣れているルカリオだ。

 新たな指示を出そうにも、ルカリオは既にサッちゃんとの距離を縮めていた。

 

「ガァヴ!!」

『あんっ! あぁん!!』

 

 ルカリオのインファイトがサッちゃんに叩き込まれる。

 威力は低い。だけど、ダメージは確実に蓄積されている。ここらで状況を打開しないとマズイ!!

 

「サッちゃん! そのままルカリオに抱きつくんだ!!」

『ええぇぇぇぇ!!??』

「ベッドの同伴を許可しよう!」

『ぐへへへへっ! 逃がさないぜぇ犬っころ!!』

 

 ガッチリとルカリオに抱きつくサッちゃん。ルカリオが必死に抜け出そうとしてるけど、サッちゃんの両腕は一向に緩む気配が無い。

 

「決めるぞ! ムーンフォース!!」

 

 サッちゃんに拘束された今の状況なら、素早さなんて関係ない。超至近距離から放たれたムーンフォースはルカリオに命中した。

 爆風が吹き荒れ、2匹の姿を完全に覆ってしまった。

 煙が晴れていく。バトルフィールドには地面に臥したルカリオと、小踊りをしてるサッちゃんの姿があった。

 

『ライムさん! 今回のデートは思い切ってイッシュ地方の観覧車なんてどうですか!? ああでも、ポケウッドも捨て難―――』

「うん、後で考えようね〜」

 

 サッちゃんをモンスターボールに強制送還する。だって、このまま聞いてたら確実に長くなるし。今はスモモちゃんのおっぱいを揉むのに集中しないと。

 

「驚きました……。まさか、エスパータイプのサーナイトがルカリオの腕力を上回るなんて……」

「あれだよ、愛のパワーだよ」

「成る程! 愛、ですか!!」

 

 納得したかのような表情を見せるスモモちゃん。多分、LIKEの方だと解釈したんだろうな。LOVEの方だとは夢にも思っていないだろうな。

 さて、どうやってスモモちゃんのおっぱいを揉もうか。忍者と超能力者を相手取ってきた今なら、正面突破でもいける自信があるぞ。

 

「それでは、あたしに勝った証としてコボルバッジを受け取って―――」

 

 倒れこんでおっぱいを揉もうとしたら、グギュルルルルルルルル! という大きな音がジムに響いた。なんか、スモモちゃんの方から聞こえてきた気がするんだけど……。

 スモモちゃんに目を向けると、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。ああ、やっぱりお腹が減ってたのね。

 

「……ご飯、ご馳走する?」

「いいんですか!?」

 

 

 

 

★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 最寄りの飲食店で、スモモちゃんと一緒に昼食を食べている。僕はカレーライスの並盛り、スモモちゃんは特盛りだ。

 特盛りにも拘らず、スモモちゃんのカレーライスはどんどんと量が減っていく。

 うん、スモモちゃんの食いっぷりは見てて心配になるな。あの小さな体で特盛のカレーライスを食べれるなんて、質量保存の法則はどうなってんだ。

 

「ご馳走様でした!」

 

 スモモちゃんは幸せそうな笑顔を浮かべながらスプーンを置いた。特盛りなのに、僕より食べ終わるのが早いって一体。

 さて、僕も早くカレーライスを食べないと。完食するまでスモモちゃんを待たせるなんて悪いし。

 残ったカレーライスを口にかき込んだ。うん、美味い。だけど、特盛りを食える気はしないな。

 それにしても、どうしてお腹を空かせていたんだろう? 減量中って訳でもなさそうだし。そういえば、ジムに一日一食って掛け軸があったような。

 

「あの、もしかして減量中だったりした?」

「い、いえ! 恥ずかしながら、今月の食費が厳しくて……」

 

 食費が厳しい? ジムリーダーだって立派な職業だし、給料はちゃんと支給される筈だよな……。

 

「あっ! そうだ!!」

「うわっ!?」

 

 突然、スモモちゃんが椅子から立ち上がった。慌ててる様子だけど、どうしたんだ?

 

「うっかり忘れていました。お父さんに今月のお金を渡さないと!」

「え?」

 

 食費を削ってまで父親にお金を渡すなんて、どんな理由なんだ?

 そういえば、スモモちゃんの父親も格闘家だって聞いたな。大会の出場費を稼ぐために食費を削っているのかな?

 あれ? よくよく考えると、ジムに父親らしき人物はいなかった気が……。

 

「あの、そのお父さんはどこにいるの?」

「えっと、トバリのゲームコーナーに居ると思います!」

 

 ……はは〜ん。大体の事情が分かってきたぞ。

 

「僕も付いて行っていいかい?」

「え? か、構いませんが……」

 

 スモモちゃんがジムリーダーの職に就いたのを良いことに、ゲームコーナーで遊んでばかりいる父親なのだろう。まあ、あくまで僕の予想だけどね。

 そんなダメ親父は僕が懲らしめてやんないと!! スモモちゃんのおっぱいを揉むのはその後だ!!

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 スモモちゃんと一緒に、トバリのゲームコーナーへとやって来た。

 耳を突くような電子音が辺り一面から響く。無性にスロットをやりたくなる衝動に駆られるけど、今は我慢しないと。

 

「えっと…… この列にいると思います!」

 

 一番右端の列で立ち止まるスモモちゃん。どうやら、この奥にスモモちゃんの父親がいるそうだ。

 僕とスモモちゃんはおっさんばかりいる狭い通路を進んだ。働け、おっさん。

 さて、スモモちゃんの父親に会う前に説教のセリフを考えないと。やっぱり、一喝するのが最善かな?

 ……あれ? そういえば、不自然に空席が目立ってきたような。

 

「あっ! お父さん!!」

 

 スモモちゃんが手を振った。やっとお父さんの姿が見え―――

 

「ッ!!!!?????」

 

 そこにいたのは、190cmはあろう大男だった。ライオンのように逆立った髪。鎧のように発達した筋肉。冗談抜きに、鬼(オーガ)を彷彿とさせるような外見だった。

 いやいやいや、なんだよこれ。もっと不健康そうなダメ親父だと思ったのに、想像と全然違う!

 というか、何でこんな鬼(オーガ)からスモモちゃんみたいな可愛い子が産まれてくるんだよ!! 母親の遺伝子強過ぎだろ!!

 オーケイ、作戦変更だ。遠回しに注意する方針でいこう。一喝なんてしたら最後、その日が僕の命日になってしまう。

 

「ふむ、スモモか。して、隣にいる小僧は何者だ?」

 

 スモモちゃんの父親が僕に目線を移した。それだけで、カイリキーに上から押さえつけられたようなプレッシャーが降りかかってきた。

 なんだこのプレッシャー……!? ファーザーと同等…… いや、下手したらそれ以上だ!!

 何この人、本当に人間!!? 人間の皮を被った伝説ポケモンとかだろ絶対!!

 

「私にポケモンバトルで勝ったトレーナーで、ライムさんていうんだよ!」

「ほう。しかし、ポケモンバトルなど所詮は稚児の戯れ。強さを測る上で微塵も参考にならん」

 

 ほら、価値観が違うもん。ポケモンバトルより生身の強靭さを強さの目安にしてるもん。

 

「俺に用があるのだろう? 言え。発言を許してやろう」

 

 口の中が休息に乾いていく。

 僕は言葉の裏にある意味を悟ってしまった。許されたのは発言だけであって、有象無象の用件と判断されれば容赦無く潰されると。

 ここまできたら、余計な嘘など火に油を注ぐだけ。本心から白状するしかない!

 何の為に言葉があるんだ! そう、他人と理解し合う為だろ!! あんなんでも一応は人間なんだ!! 話せば分かってくれる可能性が砂漠の砂一粒くらいはある!!

 

「……あっ、あの! スモモちゃんの為にも、ギギ…… ギャンブルを止めてくれたり…… しませかねっ!?」

「ライムさん!!??」

 

 思うように舌が回らない。だけど、言葉にはできた。

 形振り構わず、今すぐここから逃亡したい。だけど、ここで引いたらスモモちゃんの現状はずっと変わらない!!

 

「……命令? この俺に、命令だと?」

 

 あっ、僕もう死んだな。スモモちゃん、最後に君のおっぱいが揉みたかったよ。

 あと、命令じゃなくてお願いと捉えてくれれば嬉しかったです。

 

「ックク! ハーッハッハッハッハ!!! 面白い、面白いぞ小僧!! 俺を目の前にして逃げ出さず、その上命令するとは!!」

 

 スモモちゃんの父親は突然声をあげて笑い始めた。ああ、世の中にはここまで不吉な笑い声があるんだな。

 

「場所はトバリジム。種目は小僧が選べ。俺を死合いで屈服させたのなら、その話を呑んでやろう。一週間やる。其の間に己を磨くといい」

 

 それだけ言うと、スモモちゃんの父親は何処かへと歩いていった。

 

「大変なことに、なっちゃいました……!!」

 

 あの、それは僕のセリフです。

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 その後、スモモちゃんが付きっ切りで特訓を指導してくれた。スモモちゃんが言うには、基礎体力は問題ないらしい。警察から逃げる訓練が意外な場面で役に立った。褒められて普通に嬉しかったぜ。

 さて、そろそろ僕が選んだ種目が何なのかを発表しよう。それは…… 柔道だ。

 いやいやいやいや、違うから。殴り合い系の種目だと勝ち目はゼロって理由だから。そんな目で見ないでくれない? まあ、特訓中にスモモちゃんのおっぱいに触れる可能性が高いってのもあるけど!

 それから数日間、僕はスモモちゃんに投げられまくった。受け身を取る練習であって、怒らせてはいない。

 受け身ができなきゃ最悪の場合死に繋がる。この練習は最も大事と言っても過言じゃない。だから、今回ばかりは超真面目に練習に取り組んだ。決して投げられるのもイイとか思ってない、決して。

 それと、あらゆる技で投げられまくったのに一回もおっぱいに触れなかった。せててあと少し大きければ、何回かは接触する機会があったのに……!!

 なんやかんやで時は過ぎ、残るは3日になった。そして、とうとう技の練習を始めることになった。おっぱいチャンス到来!!

 

「お父さんに寝技は不要です。抑え込もうと無理矢理起き上がりますから……」

「えっ」

 

 そんな!? スモモちゃんと寝技の練習ができないなんて!!

 あまりの悔しさに血涙が出てきた。スモモちゃんと寝技の練習ができれば、隈なく全身を堪能できたのに……!!

 

「ですから、これからは投げ技を一つだけ練習したいと思います。付け焼き刃がどこまで通用するかは分かりませんが、一点特化の方が遥かにマシです。どんな投げ技がいいか、ライムさんの希望はありますか?」

「背負い投げでお願いします」

「はい! 了解です!!」

 

 神は僕を見捨てていなかった。

 背負い投げ。文字通り、背負って投げるという柔道でもポピュラーな技だ。背負いさえすれば、スモモちゃんのおっぱいに触れるぜ!!

 

「早速、ご指導お願いします!」

「はい! では、フォームを確認するので投げる直前までやってみて下さい!!」

 

 スモモちゃんの腕を掴む。これまでの全てに感謝しながら、スモモちゃんを背中に乗せた。

 

「ありがとうございます!! ありがとうございます!!」ポニョン

「???」

 

 不思議そうな顔をするスモモちゃん。その無垢な表情が堪らない!!

 背中に感じるのはしなやかに発達した程よく固い筋肉。そして、慎み深い柔らかさのおっぱい!

 体の至る部位でおっぱいを触ってきたけど、背中で味わったのは初めてかもしれない。また新たな境地を拓いてしまったぜ……。

 次に目指すは足だな。くそっ! 寝技さえできれば!!

 まあ、いいか。今は背中の感触を楽しむとしよう!!

 

「ライムさん、まだまだ特訓は終わりませんよ! さあ、続けましょう!!」

「ありがとうございます!! ありがとうございます!!」ポニョンポニョン

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 とうとうこの日がやって来た。やって来てしまった。スモモちゃんのお父さんとの試合。もとい、死刑執行日が。

 柔道場の中央へと足を進める。僕の前に立つのは身長190cmはあろう大男。そう、スモモちゃんのお父さんだ。

 今すぐ逃げろ、と喚き立てる心を押し殺す。逃げちゃダメなんだ。スモモちゃんの為にも、僕が僕でいる為にも。

 

「やはり来たか……。なに、逃げないとは分かっていた。お前は他の男とは違う何かを秘めているからな」

「そりゃどうも……」

 

 女の子なら兎も角、野郎に褒められても嬉しくないんですけど。こんな大男なら尚更だ。

 

「ライムさん! 絶対に無茶はしないで下さい!!」

 

 スモモちゃんの声が耳に届く。そうだ、無茶をしてでも勝たなきゃいけないんだ。ご馳走様と言ったときのスモモちゃんの笑顔を、あの日だけにしちゃダメなんだ!

 覚悟は決まった。僕は今日、この鬼(オーガ)に勝利する!

 

「それでは、試合開始!」

 

 審判の空手家が叫び、闘いの火蓋が切って落とされた。

 スモモちゃんが言うには、組まれた時点で僕の負けは確定らしい。一先ずは逃げに徹して、相手の隙を突く戦法を―――

 

「は?」

 

 気づけば、世界が逆さまになっていた。投げられた? いつ、どのタイミングで?

 重力に従って落下し、地面に叩きつけられる。その衝撃はスモモちゃんの技とは比じゃなかった。まるで内臓をシェイクされたかのような痛みが駆け巡った。

 辛うじて受け身は取れている。これで真面目に練習しなかったら、今頃どうなっていたか……!!

 いや、それよりも! 僕は試合に負けてしまったのか? こんなに早く、特訓の成果を何も活かせずに!?

 

「……このままではつまらんな」

 

 スモモちゃんのお父さんの呟きが聞こえた。

 

「ハンデをくれてやる。俺は一本を取られたら負け、小僧は立てなくなったら負けでどうだ?」

「……上等だよ!!」

 

 僕はゆっくりと立ち上がった。このままで終われる筈がない!!

 

「クックック! それでこそ、壊し甲斐がある!!」

 

 スモモちゃんのお父さんは狂気で顔を歪ませた。まるで、新たな玩具を見つけたように。

 次こそは油断しない。第二ラウンドの始まりだッ……!!

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 あれから何度投げられただろう?

 唇を切ったのか、それとも内臓を痛めたのか、口からツゥ…… と血が伝っていく。

 今までは根性で立ち上がってきたけど、そろそろ限界が近い。ダメージも相まって、今立っているのも不思議なくらいだ。

 実のところ、スモモちゃんのお父さんを投げてすらいない。勝利は絶望的だけど、僕は立ち上がるしかなかった。

 

「もういいです、ライムさん! 早く棄権して!!」

 

 スモモちゃんの悲痛な声が耳に届く。だけど、まだ棄権する訳にはいかない。この鬼(オーガ)を投げ飛ばせるだけの力が、まだ残っている!

 

「暇潰しにはなった。その礼だ、これで引導を渡してやる」

 

 僕の目でも追うのがやっとの速度で突っ込んでくるスモモちゃんのお父さん。僕はそんな彼の顔に向かって血を吐き飛ばした。

 

「ッ!!??」

 

 動きが一瞬だけ止まった。その隙に柔道着の襟に手を掛け、渾身の力で背負い投げをした。スモモちゃんとの特訓があったからか、190cmの大男でも難なく技を決めれた。

 自分でも卑怯な手段だと思う。それでも、スモモちゃんが毎日あの笑顔を浮かべてくれるなら構わない!

 さあ、このままスモモちゃんのお父さんが背中を地面に付けば一本だ!!

 

「誇れ。俺を投げ飛ばした人類は貴様が初だ」

 

 地面に叩きつけようとする刹那、その声は確かに聞こえた。

 スモモちゃんのお父さんは足から地面に着地した。そのまま立ち上がったかと思うと、僕の体は宙に浮いていて―――

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 目を覚ますと、知らない天井が僕を出迎えてくれた。どうやら、ベッドで横になってたらしい。

 鬼(オーガ)との闘いの記憶が段々と蘇っていく。ああ、そうだ。投げたまでは良かったけど、僕は結局負けてしまったんだ。

 ……ホント、情けない。スモモちゃんに迷惑しか掛けていないじゃないか。

 

「……ライム、さん?」

「あっ、スモモちゃん」

 

 手を振ろうと思ったけど、痛くて動かせない。今回の怪我は前回よりもとびっきり酷い。完治するまで時間がかかりそうだ。

 

「ばかぁ!!」

「ぬぉっふっ!!??」

 

 頬に叩き込まれたのは平手打ちではなく、何故か正拳突きだった。

 視界がグワングワンと揺れる。これ、女の子が出せるような威力じゃないよ!? やっぱりあの鬼(オーガ)の娘って訳か……。

 

「無茶しちゃダメだって言ったじゃないですか!! もう少しで、取り返しのつかない事態になったかもしれないんですよ!?」

 

 まるで母親のように怒鳴るスモモちゃん。こ、怖いお……。

 

「ご、ごめん……。それに、結局お父さんを止めれなかったし……」

「……いえ。お父さんは、ギャンブルを止めて旅に出てしまいました。あんな男がいるのなら、世界を巡るのも悪くはないって」

「マジで!?」

 

 おお、結果オーライやん! 何事も実行してみるもんだねえ。

 

「本当に、あんな無茶して……」

「!!??」

 

 突然、スモモちゃんに抱きつかれた。うっひょい!! おっぱいおっぱい!!

 ……なんて言ってる場合じゃないよね。だって、スモモちゃんを泣かせてしまったんだもの。

 

「本当にごめん…… スモモちゃん」

 

 

 

 

★☆★☆★☆★

 

 

 

 

「スモモさん、料理の特訓を始めるなんてどうしたんだ?」

「いや、なんか将来の為とか言ってて……」

 

 





ヤマブキ市民「悪鬼と羅刹の雄叫びが、三日三晩続きました……」

 実は、この小説を考えて真っ先に思いついたストーリーだったりします。
 ちなみに、スモモちゃんのお父さんの外見は範馬勇次郎です。まあ、強さはあそこまでぶっ飛んでないけど準伝説ポケモンくらいなら勝てるんじゃないっすかね?

 球磨川禊→(´;ω;`)  VS  (゚A゚ )←範馬勇次郎

 みたいな感じで想像しました。
 そういや、前回もまさかの日刊2位に輝いてました。皆さん、本当にありがとうございます!! これからも応援、よろしくお願いします!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。