超次元特急カレイドライナー   作:朽葉周

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07 け・い・か・く

 

 

 

――某日某所

「なんネコレは……」

戦慄、と表現するのが正しいのだろう。畏れを含んだそんな言葉。幾つモノディスプレイの光源に照らされた薄暗い一室に、そんな少女の声が響き渡った。

彼女の視線の先にあるのは、一つの映像記録。それは彼女と、その脇に立つ少女、そしてある人物から供与された、三人の技術を合わせた合作である存在。

ガイノノイド・絡繰茶々丸。そんな彼女の記憶ドライブをチェックして慄くのは、彼女の“親”である、超鈴音と葉加瀬聡美の二人だった。

「空中浮遊にビーム兵器……しかもエヴァンジェリンさんの言葉が事実であれば、コレは魔法では無かったんですよね?」

「アア。現場を検証してみたガ、確かニ魔力の残留は確認出来なかたヨ」

「でも、だとしたらこの粒子光は……」

ディスプレイに映し出されるのは、翠色の粒子光を身に纏う赤い機体。露出した肌から、それが人を覆う機械鎧であるという事は理解できる。けれども、それ以外の何もかもが彼女達にとっては理解の範疇から外れているのだ。

「何でこれ飛んでるんですかね?」

「燃焼推進では無さそうネ。多分この粒子に秘密があると見たヨ」

「一番疑わしいのは魔素なんですが、ソレが否定され、尚且つ動画の言動を鑑みるに、これは科学の産物、という事に成るのですが……」

葉加瀬がその言葉を呟いた瞬間、その場に居る二人のマッドサイエンティストの瞳がギラリと輝いた。

「葉加瀬ッ! コレは我々に対する挑戦ヨ!」

「ええ、ええそうなのでしょうね!! あえて科学の言葉を名乗り、科学と魔法の混血を行く我々に対し、科学で我々を打ち破る! これはもう我々に対する挑戦としか受け取れません!!」

「その通りヨ! 第一仮にあれが量産可能だった場合、計画に支障が出る可能性もある!! これは是非とも調べねば!!」

「ええ、ええそうですとも!! しかもあの光学迷彩! エヴァンジェリンさんは領域ごとの封鎖で捕らえた様ですが、仮に魔法使いに対しても効果があるのだとすれば大変興味深い技術ですよ!!」

「具体的には矢張り技術の模倣からネ。とはいえ完全再現は難しいヨ」

「出あれば此処は先ず、我々の持てる技術での再現が可能か、からの検証を行なうべきでしょう!!」

何処かの日の光の当らないくらい闇。二人のマッドサイエンティストは、延々と気炎を吹き上げる。

目指すは打倒謎の機械鎧! 全ては自らの技術力を世界に証明するために!!

「……あの……ハカセ……ワタシの修復は……」

そんな二人の背後。神経系を焼かれた茶々丸が、一人おろおろとそんな二人を見ていたのだった。

 

 

 

    ◇

 

 

 

「しっかし千雨ちゃん不幸体質だよねぇ~」

悪魔襲撃事件から数日。いつものように食堂車両でコーヒーを飲んでいた千雨に、そう声を掛けたのは同じく食堂車のカウンターに腰掛けてほっとココアに口を付けるひびきだ。

「不幸体質って……普通だよ普通」

「いやいや、巻き込まれるのを避けようとして本命に直撃して、更にオマケで大穴にまでぶち当たるなんて、コレを不幸と言わずして何と言うのか」

「零次さんまで」

『実際千雨さんってば、一夜のうちに爵位もちの悪魔と、真祖の吸血鬼なんていう、並みの魔法使いならどちらか一方でもであった瞬間にアウトな怪物の両方に遭遇したんですから』

寧ろ魔法使い的な常識に見合わせるなら、良く生きていたと褒め称えられるレベルですよ、なんてのたまうルビー。

よくもお気楽に言ってくれるものだと内心で若干イラッ☆ミとしつつ、然しだからといってどうなるわけでも無いので言葉にならない言葉を口の中で噛み潰す。

「……怪物って言っても、此処の皆に比べれば両方とも大したことありませんでしたけど?」

「あははー、そりゃ此処の皆は総じて天壌クラスだもん。怪物クラスじゃ相手にならないよ」

他にも覇道神とか、到達者とかもいうけどねー、なんて言うのはいつもの通りお気楽な笑顔でミルクティーを傾ける辰巳だ。

何か良く解らない単語が出たが、多分突っ込んでは駄目なのだろうと脳裏にキュピーンと電流奔る千雨はその話をスルーすることを内心で決めた。

「でも、先日のあれが特大のハードラックだったってだけで、それ以外不幸体質って言う程……」

「認識阻害の施された麻帆良で、ソレを無効化する体質のために一人孤立し、

矢鱈とテンションの可笑しい麻帆良に、冷静な人格を保持してしまうという特異性故に周囲に馴染む事ができず、

果てには人払いの結界すら無効化してしまうが故に魔法使い同士、果ては悪魔や吸血鬼に喧嘩を売られる。

……これって不幸だよな?」

「………」

葵に三行で纏められ、結局反論する事もできなくなる千雨。と言うか出来ればそういう事は忘れさせてほしかった。そんなだから空気読めないというのだ。

珍しくそんな憂鬱な雰囲気を察したのだろう。葵は少し慌てたように、「そういえば」と話題を90度方向転換させて。

「そろそろこの麻帆良って学園祭シーズンに入るんだよね? 千雨のクラスって何することになったんだ?」

「ウチのクラスは……」

瞬間、千雨の脳裏に過去が過ぎる。

初めは良かったのだ、初めは。最初に出た案だと、3-Aは学園祭においてメイド喫茶をする、という事に成りかけていたのだ。

千雨的にはコレはマーヴェラスにグッドな案件だった。千雨はレイヤーだ。コスプレ大好きだ。衣装を着れば、その瞬間人格を切り替えられるほどの玄人なのだ。

もし仮に千雨がメイド喫茶をプロデュースすることが出来れば、日に五百や一千の来客なんて軽く上回れる自信はある。

問題があるとすれば、生理的に苦手な「大きなお友達」という点だが、「お触り厳禁」「撮影は一声掛けて」くらいの規約を儲け、尚且つ神多羅木先生のような見た目の恐い大人に付き添ってもらえれば問題ない。

――だというのに、だ。

肝心なところで、騒ぎすぎた結果として鬼の新田の介入を招き、結果メイド喫茶は禁止されてしまったのだ。

――何と言う暴挙! あのまま進んでいれば3-Aは歴史に名を残すメイド喫茶としての成功を得られていただろうにッッ!!

「おーい、千雨ぇー?」

「ハッッ!? ……こほん、えっと、ウチのクラスの出し物……だよな? ウチのクラスは無難にオバケ屋敷をするよ」

「あー、ベターっちゃベターな所か。食品系は衛生管理とかかなり面倒くさいから」

確かに、千雨のサポートがあればサービス面は完璧にこなせるかもしれない。然しだ。ソレを行うにはかなり面倒な衛生管理だったり、収支計算だったりという面倒くさい業務を行なう必要性が出てくるのだ。

それに比べて、オバケ屋敷は純然たる娯楽系サービス業だ。食中毒で問題が出る心配も無い。中学生がやるのであれば、かなり妥当なところだろう。

「ふんふん……でも千雨、それだけではないんだろう?」

「なっ、零次さん何を」

「じゃじゃーん!」

という掛け声と共に、辰巳が取り出した一枚のビラ。プリンタで印刷したのであろうそのビラを見て、千雨の表情が引き攣った。

「麻帆良祭丸秘コスプレコンテスト……面白そうなイベントがあるじゃないか」

「」

「勿論参加するんだよね? 大丈夫、全員で応援に行くから!」

『寧ろこの機会に是非このルビーちゃんと契約をッ!! 認めたくは有りませんが、私最強のコスプレアイテムですよっ!?』

「」

「よし、それじゃ俺もガオファイガーコスで……あれ、千雨?」

「」

「ち、千雨が……息してない」

「「「「なにぃぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!????」」」」

 

 

 

    ◇

 

 

 

それからなんとか息を吹き返した千雨は、なんとかカレイドライナーの面々に「そんなものに出る心算は無い!」と釈明をしたのだが、ソレが受け入れられるはずも無く。

寧ろどんなコスプレをするかと言う詳細な計画を煮詰められ、危うくルビーを使った変身ショーまで科人されかけたところで千雨がキレた。

「ワタシのコスはビブリオルーランルージュ一択!」

『つまりコスプレ大会に参加はするんですよねわかります』

「あっ」

「というわけで言質をとられてしまった千雨なのでした。まる」

「出るなら出るで、用意もあるだろう? 此処暫らくライナーで勉強ばかりだったし、時間が足りないのであれば加速空間を使うが良い」

あそこなら短い時間でも倍以上に引き延ばせる、という零次。

何せ期日を見れば、学園祭まであと二週間。衣類の製作と言うのは意外に時間が掛かる。型紙の用意から生地・ボタン類の選定。

実のところ、最近修行ばかりであった千雨を心配したカレイドライナーの面々が、もし千雨にその気があるのなら……と気を使った結果、何故かいつものように千雨を弄るという結果に陥ったのだ。

とはいえ此処暫らく親身になって関わり合う人たちと触れ合っていた千雨だ。限定的ではあるが、コミュニケーション能力もある程度回復している。そんな千雨だ、カレイドライナーの不器用な気遣いと言うのは何となく理解できていた。

「……わかりましたよっ! 出ますよ、コスイベント!!」

『やったー! 当日はルビーちゃんも見に行きますよ! 本体じゃなく分身ですけどっ!!』

「さすがカレイド(万華鏡)の名前は伊達じゃない……」

「よし、それじゃ千雨ちゃん、一緒に布とかボタン買いに行こっ!!」

「え、あ、ちょっとひびきさん!!」

と、結局最後はそんないつものノリで、和気藹々と少女達が仲良さ気に絡むのだった。

 

 

 

「……で、結局どうする心算なんだ?」

少女達の注意が明日の買い物に向いたそんなタイミングで、ポソリと零次が葵に問い掛ける。

「さて、どうしようかね」

「千雨はお前の介入で大分変わった。実力的な面然り、精神的な面然り。基本的な流れは同じだが、鍵の一人である千雨がその行動原理を変化させている以上、この先が如何成るかまではわからんぞ?」

「…………」

『原作』を知るカレイドライナーの乗客たちにとって、『長谷川千雨』と言う少女は、「麻帆良に住む引っ込み思案な自分達の弟子」であると同時に、「原作において重要な役どころを持つ鍵」という認識を当てられる存在なのだ。

この世界における『主人公』、ネギ・スプリングフィールド。長谷川千雨の役所とは、精神的に不安定な彼に対して、何処までも客観的な視点からアドバイスをし続ける、というもの。

一見如何でも良い役柄に見えるが、然し物語が進むにつれて非常識が横行するこの世界。何処までも一般人の視点でものを見られるというのは、この順応力が高すぎる麻帆良勢力にとっても、かなり貴重な存在なのだ。

そんな重要な存在に対して介入が行なわれてしまったその結果。この先の未来が『原作』程度にマシな結末にたどり着けるかどうか。

「一番良いのは、千雨ちゃんの役所を誰かに代行してもらう事、なんだけれども」

「千雨程の傑物、代役は早々に見付かるとも思えんな。ソレが見つかっていれば、千雨も我々のような怪しい連中に関わる事も無かったろう」

「で、第二案。俺達が千雨の代行をする」

「無理だな。物語が終わるのが、確かこの世界の8月。魔法世界で加速された時間軸で10月、だったか。ソレまでにカレイドライナーは出発するだろう」

――それともお前がこの世界に残って、彼らを助けるのか?

そんな零次の問いに、葵は苦笑を浮かべて首を横に振る。

「さすがに其処までする義理はないな。少女一人居ないくらいで滅ぶ世界なんて、助ける価値も無い。というか俺は魔法世界は別に如何でも良いし」

問題となるのは、仮に魔法世界が滅びた場合に発生する第三次世界大戦だ。

火星勢力は何だかんだで魔法を文明に組み込んだ存在で、地球の現在文明よりも僅かに技術力で上回っている。また魔法も利便性の面で見れば、銃火器に対してかなりのメリットを持っているといえる。

住む場所を失った魔法使い族が、土地を求めて現実世界に侵攻する。コレが起こった場合、先ず間違いなく地球上の平和というモノは失われるだろう。

他所に迷惑を掛けず、綺麗さっぱり滅びてくれるのであれば何の問題も無いのだが。

「ゲートの要石を砕こうかな、とも思ってるんだけど」

「魔法世界の封殺か? 確かにそれもアリだが……」

魔法世界の封殺。この場合は、そもそもの魔法世界と現実世界との物理的な往来を断ち切ることで、仮に魔法世界が滅んだ場合でもお互いが干渉することが出来無く成る、と言うものだ。

利点は魔法世界の混乱が現実世界に及ぶ危険性の完全排除。デメリットは、完全なる世界に行く事すら出来ずに『魔法世界が完全に滅びる』こと。

また将来を考えると、魔法世界には滅びられるよりも、人類の新たな生活圏の一部として存在してもらったほうが利益はある。無論それは魔法の存在が公になり、政府同士が表立って交渉を開始した場合、でしかないが。

裏で活動している現在は、記憶を消されるだとか巻き込まれるだとか、表の人間にとってはデメリットしか存在していない。

「然し、それはさすがに千雨嬢が嫌がらないか?」

「千雨ちゃん、さすがに其処まで割り切れないとおもうよ~?」

「だよなぁ」

何だかんだで外見よりも結構歳を食っているカレイドライナーの面々。ソレに対して千雨は、加速空間での経験を含めても精々高校生程度。そんな彼女が一つの世界の滅びを容認できるか、というと、何だかんだで後から後悔して引き摺るのは間違いない。

千雨のサポートといいつつ、トラウマを残しては何の意味も無い。

「私が火星幻想結界を修正する、と言うのもあるが、事はそれだけでは済むまい?」

「後は……ネギパの他のメンバーを強化するとか?」

「精神的に駄目なら、物理的に強化するか。その場合だと、カレイドライナーを多くに曝す事になる……か?」

「それはやり方だろう。例えば神楽坂明日菜の記憶封印を解くだとか、魔法世界入りするメンバーに闇の福音の封印を解除して参入させるとか……あ」

「「それだ!!」」

 





■技術の模倣から
戦闘における新技術の対策は、基本的に相手の技術の模倣から始まる。戦車然り、航空戦闘機然り。
■千雨の不幸体質
気付いたときには何時の間にか主人公ポジに収まっていた千雨。主人公の不運はある意味で定められた物。
■天壌クラス
性格には階位:天壌無窮。世界の理から外れたもの。世界の理を超えたもの。世界の理を塗りつぶすもの。自の理で有るもの。端的に言うとヤヴァイやつ。

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