超次元特急カレイドライナー   作:朽葉周

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03 ちさめちゃん、改造計画

 

 

 

今回この世界を訪れたカレイドライナー一行には、このネギま世界において明確な目標、課題が一つ設けられている。

一つはカレイドライナーにおける食料調達。カレイドライナーは三千世界を駆け抜ける超次元特急だが、だからといって無限に物資を保有しているというわけではない。

カレイドライナーにはルールが幾つか存在し、カレイドライナーによる次元移動において持ち運ぶ資源は、全てカレイドライナーに積載可能な寮に限定する、というものがある。

このルールは「旅は財産を抱えてするものではない」という車掌さんの主義による物なのだが、実際に旅をしているとこのこだわりと言うのは中々に面白い物なのだと葵は思う。

実際この制限が無ければ、自分はきっと巨大ロボを色々な世界に持ち込んで大暴れしていただろう。それはそれで楽しかったのかもしれないが、きっとそれはつまらない旅になったと、今の葵はそう思う。

もう一つのこの世界における目標。それは、運行の障害となる「時間の捻れ」を待ち過ごす、と言うものだ。

この世界における一年内に、この時間軸が大きく捻れた箇所が存在するのだという。カレイドライナーは超次元の列車ではあるが、時間と空間は密接な関係にある。時間の捻れが空間に影響を及ぼす、というのは十分にありえるのだ。

故にカレイドライナーは、この時間の捻れが過ぎ去るまでの間、この麻帆良に留まる必要があるのだ。

そして目的とは別に、この麻帆良と言う都市が観光に優れている、というのも葵たちがこの土地に留まる理由の一つである。

――忘れてはいけない。カレイドライナーは旅する列車なのだ。

 

 

 

    ◇

 

 

 

「で、千雨ちゃんの話なんだけど」

どうする? というひびきちゃんの問いに、その場に居合わせたカレイドライナーの正規メンバーの視線が集う。

「このまま放置、というのはありえんな。我々も常識的な存在、とは言い難いが、葵が「非常識を非常識と肯定した」事で、彼女にとって我々は味方、という範疇に入っている。旅立ちの際に区切りをつける必要はあるが、放置と言うのはありえない」

――せめて何等かのケアをしなければ、間違いなく壊れるぞあの子。

そんな事を言う零次に、葵は益々苦虫を噛み潰したような表情に成る。

「仲良く成っちゃったし、見捨てる心算は無いよね? 零次くんのとか、辰巳くんの魔法を教える?」

『其処でですよ皆さん、今こそルビーちゃんの出番なわけですよ!』

「止めて下さい長谷川が悶死します」

「んー、ルビーはちょっと待機ついでにお手入れしてあげるよ」

『あっ、ちょっと辰巳さ、アーッ!!』

ルビーを引っ張って引っ込んでいく辰巳。掃除が趣味という、最上級の戦士としての能力をもつわりに何処か主婦っぽい辰巳は、お手入れをしたりという事で、何だかんだでルビーとかなり仲が良かったりする。

因みにライナーの客員は辰巳を除いてルビーにさん付けで名前を呼ぶ。彼女の脅威を知る者は、どうしても彼女を呼び捨てにする気になれないのだ。その点を鑑みても、天然って強い、というのが残された男達の感想だったりする。

「さすがに千雨ちゃんにいきなりルビーは難易度が高いよね」

「いやまぁ、然し案外相性は良いかも知れんな。確か長谷川嬢はコスプレネットアイドルなんだろう?」

「うん、長谷川ちゃんの話を聞いてたら、ストレス発散でネトアやってるってのをポロッと零してたし、それは原作どおりみたいだけど……ただ、ルビーさんのはなぁ」

あれはあれで素晴らしい魔法具なのだが、と言葉を濁す葵。

このカレイドライナーの制御AIの役割を担うルビー。その本体はカレイドステッキと呼ばれる魔法具で、限定的に第二法を操るという規格外の礼装だ。

その作用は並行世界から使用者の可能性をダウンロードし実行する――要するに、平行世界の自分にコスプレしてなりきる、と言うものだ。

平行世界の自らの可能性と言うだけ有って、実際に努力の果てに手の届く範疇にしか力は及ばない。然し逆に言うならば、手の届く範疇であれば無作為に力を引き寄せる事ができるのだ。

そして引き寄せた力を参考に研鑽を積むことで、ステッキに寄らずともその力を行使することが出来るようにもなりうるという、平行世界の自分からの『経験憑依』のようなまねまで出来る、かなり規格外の礼装なのだ。

問題は、ルビーを使うと使用者に精神汚せ……強制的に精神が高揚させられ、更にその状態でルビーの意志に操られてしまうという点だろう。ルビーは愉快犯的な性格をしている為、最終的には装備者の精神がボロボロになるのがお約束となっている。

高性能で規格外。それでいて人格故に製作者すら封印せざるを得なかった禁忌の礼装。それがカレイドステッキ、その人格であるルビーさんなのだ。

「ルビーさんの使用は論外で」

「ルビーちゃん暴走するからね。真面目にやってくれればかなり凄いのに」

「となると、だ。長谷川嬢には自衛可能レベルにこの世界の術を学んでもらうか、もしくは我々の技術を学んでもらうか……」

この世界の技術と、カレイドライナーの……異世界の技術。共に修得する事でメリットとデメリットが得られる。

まずこの世界の技術のメリットは、この世界で確立されているが故に千雨にも有る程度の修得は間違いなく可能で、尚且つカレイドライナーがこの世界を立ち去った後にも新たに師を得られるという点だ。

デメリットとしては、この世界で確立された技術であるが故に、ある程度の対処法もこの世界に存在してしまっている点、そしてそれを身につけた時点で長谷川千雨がこの世界の裏の存在に感知されてしまう可能性だ。

一度裏の存在であると認識されてしまえば、以降はズルズルと裏に浸りこんでしまうのは間違いない。そういう存在をその場に残る三人は数多く見てきたのだ。

対する異世界技術の修得。このメリットは、異世界技術であるが故にこの世界の人間は対策など持たず、またそれ故にパワーインフレが起こりやすいこの世界において別角度からの一撃になり得るのだ。

デメリットとしては、異世界の技術であるが故に、ライナーが立ち去った後の研鑽がし辛い、と言うもの。そして異世界の技術をこの世界の人間である千雨が修得できるのか、と言う問題がある。

「一番簡単なのは、俺が長谷川ちゃんをエヴォリュダー化させることなんだけど……それやっちゃうと長谷川ちゃん老化止まっちゃうしなぁ」

「せめて高校生であったならな。いや、この世界ダイオラマ魔法球があったな? あれで高校生の年齢まで修行させて、その後エヴォリュダー化、後はこの世界の魔法具なりなんなりで外見を擬装……まぁ、寿命が延びすぎるからこれは無いな」

機械に直接接続できるエヴォリュダーの能力。千雨と割と相性良さそうな力ではあるが、エヴォリュダーは能力と言うよりは種族特性だ。勝手に人外に進化させるのはさすがに問題だろう。

「かといって私の虚無の魔法は血筋の力だしな。この世界の魔法技術に関しては現在調べてる最中だが、今一つ効率面でいうと微妙みたいで、インフレも起こりやすそうな感じだ」

このネギま世界における魔法というのは、魔力と言うアルバイト代で精霊を雇い、呪文という指示命令で精霊を操る、というのが基本となっている。そりゃ精神統一一発で戦術攻撃を放てる魔法使いである零次にしてみれば、この世界の魔法は面倒くさい物だろう。

「となると……アタシのコレクションを渡すとか?」

「あー、道具使いに育てるか」

車掌の娘であるひびきは、列車の運営側ではあるが、その実力はかなりの物でもある。ひびき本人の戦闘能力は、棘の無いバランスの良いものなのだが、ひびきはありとあらゆる道具を使いこなす『道具使い』タイプなのだ。

本人の能力はバランスの良いモノながら、道具の使い分けによってありとあらゆる戦況に対応できる。戦場の汎用性で言うと、地味に上位に位置していたりするのだ。

「なら、触媒としてクリスタルを渡せば……」

俺の能力の一つに、ジェネシッククリスタルの精製能力と言うものがある。コレもかなりチートな能力で、ジェネシッククリスタルは武器にして良し防具にして良し、集積回路にして良し、エネルギー精製装置にして良しと、かなり汎用性が広いアイテムなのだ。

これにプログラミングを施して、勇気によって無限のエネルギーを生み出すGストーンを精製する、と言うのもありだ。

「(……まぁ、肝心の俺が熱血とかそっち系に適性低いんだけど)」

葵は、自分には勇気というモノは多少なりとはあると思っている。然し同時に、熱血みたいな暑苦しいのは自分とは合わないというのも理解していた。

コツコツ積み重ねて、何処までも喰らい付く。熱血よりは根性というのが葵本人の自覚する性質だった。

「でも、道具使いに育てるにしても、最低限の単身能力は鍛えないと……」

「ふむ……でも長谷川嬢は如何見ても戦士ではないし、良くて参謀型だろう……そうだ葵、お前確か型月世界型の錬金術技能を持ってたよな?」

「えーっと、霊子ハッキング技術とか、霊子演算術式とかのことか?」

「それだ、確か霊子(オーラ)系はこの世界では廃れていた筈だし、錬金術は目立たないから隠密性もある。それに思考加速は頭脳型の長谷川嬢に相性がよさそうだろう?」

ジェネシックオーラ(起源霊子)程ではないにしても、オーラ(霊子)を用いた術と言うのは強力なものである場合が多い。世界を操るのが魔力由来の術であるなら、世界を塗り替えるのが霊子由来の術なのだ。

特に自らの内側を制御する事に重点を置いた型月型錬金術。自らの内側、つまり自分の世界で全てが完結しているが故に消耗はかなり少なく、それ故にかなり隙が少ない。他の術の基礎技能としても使えるのが、あの世界における錬金術という分野だ。

まぁ魔術師連中からはおちこぼれの学ぶ術として卑下されていたり、有能な奴ほど終末論に走ってヤケクソになるのもあの世界の錬金術師の特徴だったりするのだが。ワラキア然りオシリス然り。

「どちらにせよ長谷川は前衛で戦うタイプではない。“脳”力を強化して、徹底的に危険から逃げる。仮に戦うとしても、集団戦における後方支援、かつ道具を使って援護という形が望ましいか」

「後は長谷川ちゃんに使い魔を用意するとか……あー、いや、錬金術を学ばせるんなら、ついでにゴーレム法も学ばせりゃいいのか」

制御に優れた錬金術を学んだ上でゴーレム法を操る事ができれば、千雨が直接戦う必要性はほぼ無くなる。戦い方を学ぶにしても、操縦方式が違うだけで戦い方自体はこの世界にもいくらか存在する人形師を参考にすれば良い。

「うん、それじゃ、決定権は本人にあるとして、仮に長谷川ちゃんを育てるとした場合、道具の補助有りの霊子錬金術師型、でいいかな?」

「実際に触れてみれば別に適性が有ったり、と言う可能性も無いではないが、取り敢えずはそんなところなのではないか?」

千雨本人が如何いうかは別として、仮に千雨が自衛の為の力を求めた場合。その場合の育成プランはとりあえず決定した。

後は本人の意思確認だけなのだが……。

「それじゃ、それは葵に任せよう」

「ええっ」

「事の始まりはお前出しな。教導はは私が教えよう、道具も私が用意しよう、霊力の扱いを教え基本的な力の使い方を教え戦術的な視点の持ち方も私が教えよう、だが、それを伝えるのは お前の言葉だ」

「……何処の旦那だよ……」

「……まあ、わかった。長谷川ちゃんには俺から伝えておくよ」

無駄に迫力を醸し出してそう告げる零時に、ゲンナリとしながらも何処か決心したようにそう呟く葵。そんな葵の様子に、これならまぁ問題は無いだろうと、その場の他の面々は小さく頷いたのだった。

 

 

 

    ◇

 

 

 

そうして翌朝。歓迎パーティーで疲れたのかいの一番に寝てしまった千雨だったが、寝たのも速ければ目覚めるのも速かったらしい。

用意された客室から出て、そのまま昨晩も訪れた食堂車へと足を運ぶ。思い返せばはしゃぎ疲れて寝てしまったのだが、後片付けとか色々とやるべき事はあったのだ。

今さら行っても遅いかもしれないが、けれどもだからといって放置するというのも千雨には気持ち的に出競うには無かった。

「おや千雨さん、お早いお目覚めですね」

「あ、車掌さん、おはようございます」

「はいおはようございます。朝食はトーストで宜しかったですか?」

「あ、いえ、その、今さらかもしれませんがお気遣い無く」

「どうせ全員分用意しますから、もし食べられないというのでなければ、軽食ですが是非食べていってください」

此処の朝食は私のこだわりの一品ですよ、という彼の言葉に、千雨はお言葉に甘える事にした。

そうして用意されたのは、バターの載せられたトーストに、ミルクと砂糖の付いたコーヒー、軽く塩の振られたレタスとトマトにハムの乗せられた野菜サラダだった。

「いただきます」

そんな言葉と共に、バターの乗ったパンを口に運ぶ。サクリとこげた表面が割れ、口の中にパンの香りが広がった。

「あ、美味しい」

丁度良い焼き具合でふんわりとしたパンに、ふんわりとバターが香る。コーヒーは嘗て無いほどに口の中で香りが湧き立ち、サラダは塩であっさりと、けれどもシャキシャキとした歯ごたえが素晴らしい。

気付いたときには夢中になって食事を終えていた千雨。そんな自分に少し赤面しつつ、手を合わせて馳走の挨拶を済ませたのだった。

 

 

 

    ◇

 

 

 

「というわけなんだけど、どうする?」

千雨が朝食を食べ終えて暫らく。同じく食堂車を訪れ、食事を済ませた葵は、早速昨日の話し合いの結果を前提に、千雨自身にどうした以下という事を問い掛けていた。

「その、やっぱり、修行したほうがいいんですか?」

「まぁ俺達も永遠に長谷川ちゃんを守ってられる、ってわけじゃない。特に長谷川ちゃんは3-Aに属してるし、事に巻き込まれる可能性は他のクラスの生徒よりも圧倒的に高い。そこは解るよね?」

「はい……」

実際、既に3-Aに属している千雨には、そう簡単に台風の目であるネギ・スプリングフィールドから逃れる術は無い。

それこそ逃れようと思えば転校するくらいしか方法が無いのだが、中学生がそう気安く学校を変われるかというとそんな事は無く。まして麻帆良は一応進学校に分類されているのだ。其処から途中転校と言うと、あまり良い印象をもたれないのは確実だろう。

故に、逃げ場の無い現状、千雨には少しでも己の未に降りかかる火の粉を払う術を身につけて欲しい、と言うのが葵の意見で。

「でも、私はそんなに運動できませんよ?」

「大丈夫。オーラって……まぁ、ファンタジーにお約束な力で身体能力を強化すれば、逃げ延びるくらいは出来るようになるよ。それに、長谷川ちゃんに教えようと思ってるのは、ちょっと特殊な術でね」

「特殊な?」

「霊子演算術っていう、とある世界で錬金術師が編み出した技術なんだけど、要は頭の回転を効率的に、かつスピーディーにする技術なんだ」

戦えとは言わない。けれどもせめて、行き足掻く為の手段は持っていても損は無いよと、そう言う葵に千雨は視線を下げる。

確かに、話を聞く限りではその技術は千雨の身をすくう物になるだろう。運動能力の低い千雨にも、そこそこ相性の良さそうな技術ではある。

「……デメリットとかは有るんですか?」

「んー、頭の中に計算機を入れるようなものだからね。テストの成績は問答無用で上っちゃうけど、これってデメリットかな?」

ダイレクトに筋肉を鍛えるよりも余程生活で使える術だよ、なんて冗談めかしていわれる言葉。

なるほど確かに。錬金術における霊子演算術と言うのは、基礎の基礎に当る。デメリットが生まれるのは、その先で複雑な工程を、それこそ錬金術師が前線に出る必要があるほどの闘いでもしない限りは、ほぼ無いのだと言う。

本心で言えば、何で私が、という思いが無いわけでもない。出来る事ならば、ただ守られていたい。

……けれども、だ。そんな情けないことを思う自分に対して、心の中で罵声の限りを撒き散らし、さぁ立て、チャンスはある、前へ進めと奮起する己も、千雨の中には確かに存在していた。

「……解りました。そのお話、受けようと思います」

「ん……じゃ、まぁコレから宜しくね、長谷が……千雨ちゃん」

「はいっ!」

そういって差し出された手を手をつなぎ、二人は確りと握手したのだった。

 




■型月世界における錬金術
型月世界における錬金術師が得意とする分野。型月世界における錬金術は、魔術回路が足りず魔力生成が不足する人間が、それを補うために生み出した術。外界に影響を及ぼす前に、内界を制御することで、最低限の仕事で結果を生み出すというモノ。
■霊子ハッキング
型月世界、特に月の文明の遺産が発掘された可能性において、滅びた魔術に変わり台頭したオカルト技術。ザックリ言うと人間の魂をプログラムとしてネットワークに送り込むというもの。
■オーラ
この物語における霊力のこと。規模や効率で魔力や気に劣り、修得も難しい。
が、その質は他のエネルギーに比べ上位に位置し、仮に等量をぶつけ合わせた場合はオーラが勝る。

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