超次元特急カレイドライナー   作:朽葉周

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02 超次元特急カレイドライナー

魔法先生ネギま!は、習慣少年マガジンで連載されていた赤松健先生のどたばたラブコメかつバトル漫画だ。

如何考えても連載誌間違っているだろう、と言うような熱いバトルを誌上で連載した、有名な作品。また地味に同一作者の他作品と世界観がリンクしていたりもする。

「ネギ……先生?」

「……やっぱり知ってる?」

「ああ、ウチのクラスの担任……いや待て、“やっぱり”?」

思わずといったように零れた葵の言葉。その言葉の不自然さに即座に気付いた千雨の“如何いうことだ”という視線に、再び苦笑する葵。

「もし仮に原作知識が正しいのだとすれば、長谷川ちゃん……長谷川千雨っていう女の子は、この物語の中盤から終盤に掛けて割りと重要な役どころに付く事になる、かな」

――勿論コレは漫画の、それも俺みたいな不審人物のいう胡散臭い与太話でしかないから、そうならない可能性も十分にある。

そう付け加えられた葵の言葉に、けれども千雨は既にその顔色を真っ青に染めてしまっていた。

葵本人の、そのトリッパーだとか、そういった本人も言っている胡散臭いプロフィールは別として、今重要なのは千雨地震の身の回りに関する情報だ。

千雨も漫画は読む。オタクに分類される程度には、その手の知識にも詳しい。

そしてもし仮に、葵の言っている言葉が事実だとするのであれば。主人公はネギ先生、そしてその周囲が巻き込まれる?そんな事は……いや、既に多数発生している。

突如クラスメイト達がネギ先生に襲い掛かった集団乱○事件、テスト期間に起こった行方不明事件、その他小さな事件は数え切れないほどに起きている。

確かに麻帆良ならば日常的な光景かもしれない。けれどもそれは本等に? 麻帆良で起こる日常的な事件にしても、少し派手に、そして頻発しすぎていやしないだろうか?

そしてもしコレが事実であると仮定した場合、『ラブコメ』で『バトル』、それに巻き込まれる……?

「まて、落ち着け長谷川ちゃん!」

不意に掛けられた声に、思考の渦の中に閉じ込められていた千雨の意識が浮上する。

「あっ……」

「大丈夫、今長谷川ちゃんは、俺と言う原典におけるイレギュラーに接触した。そうである以上、意識してれば俺の言う『物語』から抜け出すのは簡単だ」

無意識に流されているのと、意識して流れに抗う事。この差は大きいのだと、葵はそう言うのだ。

「第一俺みたいな胡散臭いヤツのいう事なんだ。話半分に聞いておくべきだ。そうだろう?」

「そう……ですね」

そういって、漸く少し気の抜けた表情になる千雨に、内心で葵は自らの事を思いきりぶん殴りたい衝動に駆られていた。

大概の世界において、その世界の人間に『原作知識』について話した場合、鼻で笑い飛ばされるか、もしくは話半分に胡散臭い物を見る目で見られる、というのが一般的な対応だ。

今回の世界においても、偶々であった長谷川千雨。彼女に対して警告半分話程度の心算で、話の流れでその事も知らせておいたのだが、もう少しタイミングを見計らうべきであったのだ。

彼女は現在、漸く自らと『同じ視点』を持つ人間に出会い、どこかに引っかかっていた物が漸く外れたばかりだったのだ。

一時的なものではあるだろうが、信頼、ないしそれに近い何か。葵に対する千雨のそれは、他の『違う』人間に比べれば高くなっていたのだ。

そんな葵に、この先自分が危険に巻き込まれると知らされたのだ。これが平時であれば、長谷川千雨という強い少女は鼻で笑い飛ばしていたのだろう。

けれども、今この時。長く張りっぱなしだった緊張の糸が緩んだその瞬間。葵は不用意にも、その瞬間に爆弾を投げ付けてしまったのだ。

「(俺ってば、ほんと馬鹿)」

こんなだから仲間内から思慮が足りないとか言われるのだ。矢張り話をするにしても、他の面々が帰ってきてから改めてゆっくりとするべきだったろう。

内心で自分に対する罵声を散々喚き散らかした葵は、そんな内心を表情には一切出さずに、ネギまにおけるコミカルな部分の話をしていく。

ネギま原作に関するネガティブ・アンチな情報も確かにある。一度話してしまった以上、中途半端ではなく、こうした情報も伝えておくべきなのだろう。

が、それは少なくとも今ではない。今である必要は無い。

取り敢えずは千雨の精神を回復させるべく、ネギまという物語に関する如何でも良いコミカルな話や裏話なんかを千雨に語っていくのだった。

 

 

 

    ◇

 

 

 

『全く、葵さんは実にお馬鹿さんですね~』

「はっ、真に申し訳なく……」

『申し開きは結構です。此処はアナタを罵倒する為だけの時間なんですからね。謝罪なんて聞いてたら時間が勿体無いじゃないですか』

「なんてドS理論」

『相変わらず思慮の足りない、肝心なところでポカする、何処かの一族に似たのろいでも持ってるんじゃないかって感じの葵さん?』

「それは言いすぎだろう! あの一族みたいな大ポカはしないぞ俺はっ!!」

白い列車の客室の一角。列車の中だと言うのに畳みの敷かれたその奇妙な一角。其処で更に奇妙な光景が展開されていた。

向かい合う二つの影。一つは畳みの上で正座している葵、そしてもう一つは、その葵の目の前でコミカルに宙を踊る一本の杖。

まるで大昔の魔法少女が持っていそうな、星型のあしらわれた、いかにもな魔法のステッキ。そんな魔法少女のステッキに延々と怒鳴られる青年というのは、端から見れば途轍もなくシュールな光景だろう。

しかも関係者ならマジでドン引きすることに、ルビーの罵倒には正当性があり、本人が趣味交じりにノリノリで罵倒っていると言う事以外は至って道理な罵倒でしかないのだ。

「ルビーさんマジ勘弁してください」

『駄目ですね、駄目駄目です。後半日は罵られてください!』

「いやいや、ルビー、そろそろ他の皆も戻ってくるはずだし、こっちも手伝ってもらわなきゃだから、そろそろ葵くんは開放してよ」

「ひ、ひびきちゃん」

と、ノリノリで罵倒を繰り返すその杖に待ったが掛けられる。

『えー、でもですねぇ』

「食事が遅れたら、辰巳くんに本体磨いてもらう時間がなくなっちゃうかも」

『全く葵さんは仕方ないですねー! 十分反省するんですよっ!』

「はっ、この失敗は二度と起さぬよう誠心誠意努力させていただきますっ!!」

そういって胸を張る杖(?)に土下座する青年。実にシュールな光景である。

「葵さんも、もうちょっと確りしてくださいよ?」

「はいっ!」

良い歳なんですから! とプンプン怒ってみせるひびきに、背筋を伸ばして答える葵。

「(でも年齢で言ったら実年齢とガワが見合ってないのはひびきちゃんもなんだよなー)」

「何か言いました?」

「ノーマム!」

実年齢三桁の少女の殺気の前に、実年齢二桁後半の青年は背筋を伸ばして沈黙を選んだのだった。

「ま、朴念仁な葵クンじゃちょっと不安だからね、此処はこのひびきさんに任せておきなさい!」

そういってその

 

 

 

    ◇

 

 

 

「と、言うわけで長谷川ちゃんにこの列車、超次元特急カレイドライナーの乗員を紹介したいと思います」

『ワーパチパチ』

ルビーが口でそういうのにあわせ、ひびきがパチパチと手を叩く。

「えーっと、改めて俺から。俺は田中葵、エヴォリュダーで、このライナーの乗客であり、機関士のバイトなんかもやってます」

『細々したポカをやらかす人ですけど、機械を弄る腕はそこそこなんですよー』

「あと美食家でね、葵くんよく食事巡りしてるから、美味しい物があったら教えてあげると喜ぶよ」

「で、えーっと、次は……零次いくか」

ひびきとルビーの注釈に若干口元を引き攣らせた葵。早々に話の矛先を逸らしてしまおうと、食堂に集まった青年の一人に視線を向けた。

視線で促されたその青年、肩からマントを垂らした青年だ。これが千雨なら出来の悪いコスプレだと判断したのだろうが、その青年の姿は彼女から見ても『完成された』とか、『一枚絵のような』と頭に付くほどに似合っていた。

「ん、私か。私は零次。とある世界で貴族をやっていた。今は嶋村零次と名乗っている。フランクに零次と呼んでくれて良い。よろしく」

『零次さんは魔法とか詳しい方で、ついでに頭も良い人です。あふれ出すカリスマ(笑)も凄い人ですよ~』

「この世界は魔法関係のトラブルが多いみたいだし、その辺り色々相談に乗ってくれると思うよ」

なるほど貴族。そういうのも有るのかと頷く千雨の前で、次の番を振られたのは、この場に立つ最後の青年。

「進藤辰巳だよっ! 宜しくね!」

『辰巳さんはお掃除の達人なんですよ~』

「辰巳くんは、なんていうのかな、天然? っていうのかな? でも生身で空飛んだり隕石撃ち落したり出来る凄い人なんだよ」

――生身で空を飛びまわって隕石を迎撃する天然なお掃除の達人……??

「で、我等がカレイドライナーのアイドルその1、車掌の娘さんのひびきちゃん」

「ひびきだよ、宜しくね!」

「続いてアイドルその2、カレイドライナーの制御担当、魔法のステッキルビーさん!」

『ルビーちゃんですよー! ところでお嬢さん、私と契約して魔法少女に成りませんか!!』

「おいやめろ」

「注意しておくと、それと契約するのは某白い『託卵機(インキュベーター)』と契約するのと似たようなものだ」

『しっつれーな! ルビーちゃんは魔法少女は少女のまま延々愛でますよっ!!』

延々、と言うところがポイントなのだという。前に訪れた世界で不用意に彼女と契約してしまったとある魔女は、人妻で妻子を持ちながら魔法少女を名乗り、ご町内の平和のために戦う事になったのだとか。

最悪なのは、彼女と契約するとパッシブで軽い精神高揚術式が発動するとかで、ノリノリで魔法少女に変身してしまうのだという。

ウチの究極兵器です、と最後に付け加えてこっそりと耳打ちする葵だったが、直後に黒い靄の塊が何処からともなく打ち出され、そのまま床にバタリと倒れこんでしまう。

『エーそれでは次に、このカレイドライナーの全ての基本運行からサービスに関わる全てに手を伸ばす、我等がマスター車掌さん!』

ダウンした葵の代理だろうか。即座に代理として声を上げたルビー。彼女の紹介と共に、食堂のカウンターの奥から手を振るダンディーな老人。タキシードとか似合いそう。

『では千雨さん、自己紹介をどうぞ』

「あ、えっと、長谷川千雨です。麻帆良学園中等部3-A所属です。その、宜しくお願いします」

『きゃーかわいー!!』

「私はひびきでいいから、千雨ちゃんって呼んで良い?」

「あ、はい、宜しくお願いします、ひびきさん、ルビーさん」

きゃー、と姦しく千雨をめでる二人。あの二人、共に実年齢は三桁な二人故に、千雨のような純粋(それこそ千雨程度のスレ具合など彼女等から見ればあってないような物)な少女は可愛くて仕方が無いのだろう。

なんとか意識を取り戻し、床に沈んだままそんな事を考えていた葵だったが、直後何処からとも無く飛んできた箪笥が顔面に直撃し、再び床へと沈んでしまう。

『それでは、私達カレイドライナーのメンバーと、千雨ちゃんの出会いを祝して!』

「「「「かんぱーい!」」」」「か、かんぱい……(ガクッ」

そうして掲げられるジュース入りのグラス。軽く触れ合った色とりどりのグラスたちは、ぶつかり合ってチリンと澄んだ音を鳴らしたのだった。

 

 




■田中葵
前述の通りエヴォリュダー。但しGストーンではなくGクリスタル適合体。生身でジェネシックオーラとか扱う。
■嶋村零次
某ルルーシュ風なオリーシュ。虚無の魔法使い。
生身でもネギま世界でそこそこ戦えるレベルだが、基準が生身での恒星間戦闘なので貧弱扱いされる人。
■進藤辰巳
軽いノリの竜魔人。生身での戦闘能力は最強。宇宙だってすいすい飛ぶ。
得意分野は家事、その中でもお掃除が得意。そのためかルビーと仲が良い。
ネギま世界で一番無双しやすい人。
■ひびき
カレイドライナーのアイドル。車掌さんの娘さん。
ありとあらゆる道具を使いこなす道具使い。数少ないルビーの押さえ役の一人。
■ルビー
カレイドライナーのアイドル。第二法則を限定的に使うあの礼装の平行存在。
カレイドライナーの制御AIも担当している。
■車掌さん
謎の紳士。カレイドライナーの運営者にして、その大半の業務をこなせる人。
現在はその業務の大半が乗客に割り振られたため、運転時以外は食堂に居る。
車掌と呼ばれているが実体はオーナー。

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