吸血少年ドラクル蓮   作:真夜中

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第7話

キーンコーンカーンコーン!!

 

学校のチャイムが鳴り、教室から鞄を背負った生徒たちが教室から出始めた。

 

なのは、アリサ、すずかも例外ではない。

 

帰り道はこれと言った問題が無いようである。あった場合は困るがユーノがいるので警戒していたのだ。

 

途中でなのはがアリサとすずかと別れた。

 

ここからが調査の本番であろう。

 

二人と別れるとなのはが何かを探し始めた。

 

やはり何かがあるようだ。

 

危険なものでなければよいのだが……もし、それで怪我でもされたら忍さんが悲しむと思う。なんと言っても将来の妹ですずかの友達なのだから。

 

何かを探しているなのはの後をつけていく。

 

危険なことでなければよし危険なことならばそれを助けなければならない。

 

それが忍さんたちに向けて俺が出来る数少ないことだから。

 

それにこれも原因はユーノであることは間違いない。

 

ユーノは何をやってしまったのだと推測する。そこでなのはの手を借りなければならない事態になったのだろう。

 

そうなるとますますユーノの正体が気になる。彼又は彼女は何者なのだろうかと。

 

やがて、なのはは導かれるように神社の境内に上がっていた。

 

そして、そこには……巨大な犬がおり、その傍には人が倒れている。

 

何が起こっているんだ……? 夢のような現実にこれが本当に現実なのか疑ってしまいそうになる。こうなった原因は何だ?

 

その原因が分からないことには対処のしようがない。ただ一つ確かのはユーノは何かを知っているということだ。

 

巨大な犬がなのはに向かって飛びかかるのが見えた。

 

慌てて俺はなのはに近づくが間に合わない! 最悪の光景が脳裏を過る。だが、そうはならなかった。

 

なのはの前に淡いピンク色の膜が発生したのだ。

 

それはなのはに飛びかかってきた犬を弾き飛ばした。

 

それから、さらに信じられない光景が俺の目に飛び込んできた。

 

なのはが赤い宝石のような球体を手に持ち掲げるとピンク色の光に包まれたのだ。その光の奔流が無くなるとそこには微妙に変わった学園の制服を身に纏ったなのはの姿があった。

 

そして、何処から取り出したのか分からない大きな杖を持っていた。ますます謎の展開が起こっている。

 

今、両手が翼でなかったらきっと俺は両手で目をゴシゴシと擦って何度も(まばた)きしながらなのはのことを見ていたに違いない!

 

こんなバカらしいことも事実である故に忍さんに報告すべきだろう。

 

いや……いっそのことユーノをこの場で拉致して忍さんの前に連れていくべきかもしれない。

 

なのはには今日中に送り届けると説明すれば大丈夫だと思う。……多分。

 

そんなことを考えている間に巨大な犬がピンク色の球体にボコボコにされていた。

 

なのは強っ!? てか、あの球体はなんなの! 宙に浮いてるとか……これじゃ、ますますユーノを拉致する必要が出てきた。

 

これもユーノが原因のはず……アレ? これってユーノを拉致して情報を吐かせれば全部解決するんじゃ……。

 

よし、拉致しよう!

 

とりあえず、なのはは大丈夫そうなので事の成り行きを見守る。

 

ボコボコにされた巨大な犬に杖の先の部分をなのはが向ける。

 

そして、その杖から光線が出て巨大な犬に命中すると巨大な犬から青い宝石が飛び出してきた。

 

その飛び出した宝石はなのはの持っている常の先端の方にある赤い宝玉の中に吸い込まれていった。犬はと言うと小さくなっている。

 

巨大化していた原因も分かった。これは完全にユーノを拉致する必要がある。俺は元の制服に戻った隙を狙ってユーノに襲いかかった。

 

「ゆ、ユーノくん!?」

 

「キュ、キュー!」

 

あっと今に俺は上空に上がるとユーノに話しかける。

 

「おかしな真似したら……()()させるよ」

 

「…………」

 

「……これからある人にあってもらうから。その人に危害を加えようとしても爆散させるからね。それから、今日中になのはの元に返すことは約束しよう。分かったら返事」

 

「は、はい!」

 

やっぱり、喋れんじゃん。

 

俺はユーノを掴んだまま家に向かって飛んでいった。

 

 

● ● ●

 

 

家に着くと俺は人の姿に戻る。

 

「え……?」

 

ユーノから驚きの声が漏れたがそれを無視して家の中に入る。

 

「あ、ノエルさん。忍さんは帰ってきてますか?」

 

「忍さまですか? ええ、それなら少し前に帰ってきましたが……」

 

「分かりました」

 

俺はモップを持っているノエルさんに頭を下げてから忍さんを探して家の中を移動し始めた。

 

リビングとかにはいなかったので忍さんの自室の扉をノックする。

 

「はーい、誰?」

 

「蓮です。ちょっといいですか?」

 

「蓮君、どうしたの 」

 

扉を開けて忍さんが出てくる。

 

俺は忍さんの前にユーノを差し出す。

 

「忍さん……昨日、動物病院を破壊した犯人を知っている承認を連れてきました」

 

「……えと、このフェレットがそうなの?」

 

「そうです。ほら、ユーノ……分かってるでしょ」

 

俺はユーノに向けて低い声で言った。

 

「ど、どうも……ユーノ・スクライアです」

 

ピタリと固まる忍さん。その数秒後再び再起動した。

 

「……フェレットが喋った!?」

 

それはここに来てから始めて聞いた忍さんの本当に驚いたような声だった。

 

 

● ● ●

 

 

それから、ユーノと一緒に忍さんの自室に通されてユーノから魔法の存在を聞いた。

 

「……本当に魔法が存在するなんてね。それに次元世界だなんて……ファンタジーって本当にあったのね」

 

「いや、彼も魔法を使ってたんじゃ……」

 

そう言いながらユーノが俺のことを見る。

 

「俺のは魔法じゃなくて異能なんだけど」

 

「……異能……世界が違うから呼び方も違うのか?」

 

何やらぶつぶつと言い出したユーノ。何か琴線に触れることがあったのか?

 

「それよりもジュエルシードだっけ……海鳴市に落ちてきたのは」

 

「は、はい。そうです。それを回収するために僕が来たんですけど……」

 

「返り討ちにあったと」

 

「……情けない話ですがそうです」

 

だから、なのはがあの巨大な犬と戦っていたのか……。

 

「ジュエルシードは願いを歪んだ状態で叶えるものって認識でいいんだよね?」

 

「うん、間違ってはないかな」

 

間違えてないならその認識でいいだろう。

 

いつ爆発してもおかしくない爆弾みたいなものが町中に散らばってるだなんて……何て物騒なんだ。

 

もしだけど……もし、叔父が偶然にでもジュエルシードの存在を知ってそれを悪用しようとしたら……かなり不味いことになるんじゃ……。

 

「忍さん……どうしたらいいと思います?」

 

忍さんに判断を仰ぐ。なのはが爆弾ならなぬジュエルシードを回収していることはもう周知の事実―――俺と忍さんの間だけではあるが―――なのでこれは俺も手伝った方がいいのだろうか?

 

でも、俺自身が発動させてしまった場合は確実に酷いことになるのが分かる。

 

この胸の内に燻る思いに反応してジュエルシードが発動するかもしれない。なので、俺はあまりジュエル・シードには近づかない方がいいかもしれない。

 

「……少し考えさせて」

 

すぐには判断を下せないようだ。

 

「はい。じゃあ、ユーノ送るよ」

 

忍さんの部屋をあとにすると俺は大鷲の姿になり、ユーノを背に乗せて飛ぶ。

 

「……とりあえず、俺も探しては見るけど結果は気にしないでね。あくまで片手間で探すようなものだから」

 

「うん。分かった。暴走したジュエルシードを封印出来るのはなのはだけだから……見つけたらなのはか僕に渡して欲しい」

 

「それぐらい分かってるよ。そのジュエルシードを発動させて忍さんたちに迷惑はかけたくないからね」

 

俺がジュエルシードを暴走させたら絶対にろくなことにならない。それは俺が一番よく分かっていることだ。

 

「それと……忍さんたちのことは内密にね」

 

「うん……分かったよ。僕もなのはを混乱させたくないしね」

 

もし、渋っていたら魔眼を使って洗脳していたところだ。よかった、本人の意思で黙ってくれて。

 

二十一個中二個は封印したらしいから残りは十九個……すずかたちに危害がなければ万々歳なんだけど。それは難しいのかな。

 

他にもジュエルシードを封印出来る人がいればいいんだけど……望み薄だし。

 

ジュエルシードの回収にはユーノしか来てないそうだからでも、ユーノ自身も来ないと言う選択肢があったわけで、とりあえずユーノが来てくれたお陰で被害が少なくなったのかな。

 

少なくとも昨日今日のジュエルシード関連においてはそうだろう。

 

叔父さん……せめてジュエルシードの件が片付くまで出ないで欲しいな。

 

 

● ● ●

 

 

ユーノをなのはのところに送り届けると俺はジュエルシードの捜索を始めた。

 

見つけても手を出すつもりはない……誰がいつ爆発するかも分からない爆弾を自分から触りに行くだろうか。

 

目的は場所だけ把握して、その場所をユーノに伝えるだけだ。

 

こういうのは専門家に任せた方がいいだろうし、素人が下手して状況を悪化させてはいけない。

 

忍さんが答えられなかった理由もそこだと思う。あくまで予想でしかないから外れてる可能性もあるけど。

 

それにしても、厄介な事になったと思う。

 

いつ爆発するか分からない爆弾が何処にあるか分からない状態で街中に散らばっているのだから。

 

知らない方がいいこともあるって言葉を本当に体験することになるとは思わなかった。

 

好奇心は猫をも殺すとはまさしくこの事だ。

 

「……時すでに遅しだけど」

 

すでに知ってしまったのだからしょうがないと諦めるしかない。

 

すずかたちには安心して日常を過ごして欲しいので本当に危なくなるまでは知らないで欲しいと思う。

 

この事を教えるか教えないかの判断は忍さんに任せているのだから俺がどう思ったところでそれだけの意味しかない。

 

だんだんと日が沈んできたしそろそろ帰ろう。

 

夜になると探すのが大変だし、日が出ている時間よりも見つけにくい。

 

それに……予想外の事が結構起こったから疲れた。

 

なのはの変身とか魔法とか……で。

 

 

● ● ●

 

 

「ただいま戻りました」

 

「あ、蓮君お帰り」

 

玄関の中に入るとパソコンを持ったすずかに遭遇した。

 

「そのパソコンは?」

 

「ん、これは壊れちゃったやつだから、お姉ちゃんにお願いして譲ってもらったの」

 

「壊れてるのに譲ってもらったの?」

 

「うん。私、機械を弄るの好きだから」

 

ああ、なるほど。要するに分解するのね。機械を弄るのが好きでも壊れたのを分解するぐらい好きだったとは思いもよらなかった。

 

「そうなんだ……見ていってもいい?」

 

「いいけど……つまんないかもしれないよ?」

 

「平気。自分で分解すること何て無いから気になった」

 

「そうなんだ……」

 

「うん」

 

実際に中がどうなっているのかを見たことがないので気になる。

 

「そっか……なら、一緒に行こう」

 

「うん」

 

俺はすずかのあとについて行った。

 

どうやらすずかの部屋で分解するらしい。

 

始めてすずかの部屋に入ったが綺麗に整理整頓されている。

 

気になった事と言えば俺の使っている部屋と違って本の量が多いぐらいだろうか。

 

あとで借りていいか聞いてみよう。

 

「蓮君、分解始めるよ」

 

「ん、分かった」

 

ドライバーを片手に手際よくパソコンのネジを外していくすずか。

 

その手際のよさに慣れてるなぁ……と感心した。

 

手の動きに迷いがないことからすでに何回も同じ様な作業を繰り返していることが伺える。

 

「へぇ……中はこうなってたんだ」

 

外回りの部分がすべて外されると色々とゴチャゴチャしたパソコンの内部が見えた。

 

「そうだよ。機種によっては位置が違ったりするんだけどね……ほら、形が違うから」

 

「なるほど……」

 

確かに形が違うと同じ機能であっても場所を変えないとちゃんと機能しないもんね。

 

カラフルな線が複雑に絡み合っているように見えながら絡まってないのがすごい……。

 

詳しく知っているわけじゃないからこれらの線が持っている役割は分からないけどこれらがパソコンを動かす上で重要なのは俺でも分かった。

 

ふと視線をすずかの方に向ける。

 

真剣な表情で手を動かすすずか。その様子を見て思った。

 

俺はすずかの様に何か真剣に打ち込めるものがあっただろうかと……。

 

好きなことはある。でもそれはあくまで好きなことであり、すずかの様に真剣に打ち込めるようなものじゃない。

 

う~ん……羨ましいくなる。何か真剣に出来ることがあるということに対して。

 

俺もすずかの様に真剣に出来ることが見つけられるだろうか……。

 

「どうしたの?」

 

じっとすずかの様子を見ていたのに気がつかれた。そんな俺に対して不思議そうにすずかが首を傾げている。

 

「何でもないよ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「真剣に打ち込める事があるっていいなって思っただけだから」

 

「蓮君には無いの?」

 

俺はすずかの言葉に素直に頷く。

 

「無い……」

 

「そっか……いつか見つかるといいね」

 

「うん。見つかるかな?」

 

「見つかるよ……世の中には色々な事があるから」

 

すずかの言う通り世の中には色々な事がある。その中から自分がまだ見つけていないだけかもしれない。

 

「ありがとう」

 

「ふふ、どういたしまして」

 

こんな会話をするのは始めてだ。だからかな……楽しく感じたのは……。

 


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