流れ星が流れたので三回、知られないようにとお願いした。
叶うかは分からないけど願掛けしておかないと不安になる。手のひらを返すように冷たくされるのは嫌だから。
きっと、すずかや忍さん、ノエルさんにファリンさんは俺の過去を知っても手のひらを返すように冷たくはしないと思うが……それでも不安に思うのは止められない。
なので、祈るのだ。どうか知られませんようにと。
「……明日はどうしようか」
叔父を探すのは当たり前のことなのだがそれ以外にも何かすべきだと思う。家事の手伝いとかか?
でも、料理は出来ないから掃除かな手伝えるとしたら。邪魔になったらどうしようかと思うが……ううん、やる前からマイナス方向に考えていたら何も出来ない。
よい方に考えよう。そこで思い出す。夕食時に頭を撫でられたときのことを。
また……撫でてもらえるかな?
とらぬ狸の皮算用って言葉があるけど考えるくらいいいよね。
撫でられた箇所に触れる。
「ふふ……」
今はきっと自分でも分かるくらい笑っている。
誰かに褒められると自分がいてもいいように思えるから不思議だ。
氷村の家じゃ俺は……。
ここは氷村の家じゃない。なら、それでいいじゃないか。
うん。それでいい。ここは氷村の家じゃない、月村の家だから。
それだけで心が軽くなる。
きっと、俺を引き取ってくれる奇特な人物が現れたら俺はすぐに引き取られることになるだろう。
相手がどんな怪しい人物でもだ。
だから、せめてここに居られる間だけでもいいから化物のように扱われたくはないと思う。
● ● ●
翌日。
朝食を食べた後、忍さんとすずかはそれぞれ学校に行った。
今日を玄関まで二人を見送った。いってらしゃいと言うのは何だが新鮮だった。言うことも言われることもなかったから余計にそう感じたのだと思う。
「今日は探しに行かないんですか?」
玄関で立ち止まっていたら洗濯物を持ったノエルさんに話しかけられた。
「後で行きます。あと、その……」
「? 何ですか?」
「……お手伝いしたいんですけどいいですか? 邪魔なら止めますけど」
不安げにノエルさんを見るとノエルさんはクスリと笑った。
「いいですよ。ただし、ちゃんと私の言うことは聞いてくださいね」
「はい!」
「ふふ……じゃあ、行きましょうか」
「はい、頑張ります」
俺は洗濯物を持って先に進むノエルさんの後を付いていくのだった。
庭出るとノエルさんが洗濯物の入った篭を地面に下ろす。それから洗濯物を干すために物干し竿を持ってた。
洗濯物を干す準備を終えるとノエルさんが言った。
「干すのは私がやりますので蓮君は洗濯物を私に渡してくださいね」
「はい、分かりました」
物干し竿に背が届かないのでこの配置は当然だと思う。
ノエルさんに言われた通り洗濯物を渡していく。渡す際には洗濯物を干しやすいように解してから渡すように心がける。
例え小さな手間でもそれを少なくするのもお手伝いの一環であると思う。
少しでも早く終わらせることに貢献できたらそれは立派なお手伝いだったと言えると思うからだ。
優しくしてくれる人……氷村家にはいなかったけど
それだけで十分嬉しい。本当は撫でてもらいたくてやっていることだけど……優しくしてくれた人の役にたったならそれでいいと思った。
きっと、これでよいのだ。そうだよね……お父さん。
見返りなんて求めちゃ駄目だよね?
● ● ●
お手伝いが終わるとお茶を飲んで少ししてから街に出た。
この時間帯はやはり皆、学校に行っているのだろう。視線が集まっているのが分かる。
こうも視線が集まっているから叔父に警戒されているのだろうか? 叔父は俺がいることを知らないと思うが……。
万が一にも知っていたとして叔父は逃げるだろうか? そこは分からない。
それとは関係無いが……何やら変な臭いがする。
昨日までは感じなかった臭いだ。これはなんなのだろうか? 初めて感じる臭いで、しかも不快な臭いだ。
街のいたるところから漂ってくるこの臭いに不快感が募る。街のいたるところから臭うからこの臭いの主はあちこち移動しているのだろう。
忍さんたちにこの事は教えておいた方がいいだろう。もしかしたら、彼女たちに危害を加えるかもしれない。もしそうなったら大変だ。
俺のように戦いに向いた異能があるのらばまだ大丈夫だと思うが……そうでないと危ないだろう。
特にこの臭いの主が安全か危険か分からないのだからなおさらだ。
すずかの学校が終わる時間帯になったら学校から無事に家まで帰ってこれるように影から見守るべきだろうか?
安全を考えるならそうした方がよさそうではあるが……この臭いの主を探しだして安全か確かめるのも重要であると思う。
う~ん……叔父の件もあるからこの臭いの主を探すことだけに注視するわけにもいかない。
ここは……忍さんたちに話して各々で注意してもらうしかないか。何かあればテレビでニュースとして流れるだろうからニュースを確認しないといけないな。
厄介事じゃないのを祈るよ。厄介事であればその混乱に乗じて叔父が何かする可能性もあるしね。
忍さんたちに危害を加える存在ならば……。
ザワッと異能が発動する気配がする。
ッ! 落ち着け……まだ、そうと決まったわけじゃない。だから、落ち着け。
ふぅ……危うく、俺が問題を起こすところだった。
まだ、殺気立つのは早い。少なくともこの臭いの主を確かめてからだ。
もし、危険な存在なら排除する。例え……彼女たちに嫌われるかもしれなくても。
俺に優しくしてくれた人たちが傷つくのは見たくないから。
ならば、今することはこの臭いの主を探すことで、叔父のことは後回しだ!
俺はこの不快な臭いの主の正体を探るべく行動を開始した。
● ● ●
行動を開始して数時間。
さすがにお腹が減ってきた。お昼を抜いてまで捜索したツケが回ってきた。
後悔はないがさすがにお腹が減ったので何処かでお昼にしようと思う。
臭いの濃い場所を探してそこに向かうがすでに移動した後と言うパターンのため足取りがまったく掴めない。
その行動パターンもマチマチで何が目的かハッキリとせずに少しずつ出はあるが苛立ちが募る。
一貫性がない行動から獣か何かの類いだと推測するが……このような行動を取る獣についての知識が乏しいため正体が分からない。
結局、分からないままか……。その結果に溜め息が漏れる。
どんな姿をしているかすら分からないのが気味悪い。足跡すらないのが何よりの証拠だ。
空でも飛んでいるのかと思ったが空であると街中の人たちが気がついているはずなので、街中の人たちが特に反応を示していない以上、飛んでいるということはないと判断する。
だとするとどうやって移動しているのか気になるがそうなると木から木への移動になるが臭いの濃い場所は周囲に木のない場所もあったので謎が深まった。
それ故に正体は直接見ないと分からないと判断する。
この街で何が起こっているのだろうか? 原因は昨日の流れ星か?
俺に思い当たるのはそれぐらいしかない。
でも、それだったらクレーターとか出来てるはずだし……うう~ん……謎だ。
とりあえず、遅くなったがお昼を食べに行くことにしよう。
それから、すずかの学校が終わる時間になったらすずかに気がつかれないように影から安全を確保すべきだな。
何者かは分からないが危険かもしれない何かの襲撃を警戒すべきだ。
すずかが無事に家に戻るのを見届けたら俺も捜索を再開しよう。
それがいいな。うん、そうしよう。そうと決まれば手早くお昼を食べて学園の近くまで行かないと。
「……スーパーで売ってるお弁当でいいかな。お昼は」
ズボンから財布を取り出して中身を確認する。
お金の方もまだまだ余裕はあるから大丈夫。居候になっている分、減り具合も緩やかだし新しくお金を下ろす必要はないかな。
財布をしまうと俺はスーパーに向かって歩き始めた。
● ● ●
スーパーでお弁当を買った後、学校の近くまで行き、そこでお弁当を食べた。
食べ終わったお弁当の空は近くの公園にあるゴミ箱に捨てた。
それから、学校が終わるのをひたすら待つ。
怪しまれないように隠密行動を心がけていると言っても大鷲の姿で電線の上から見ているだけなので幼稚園児くらいの子たちに指を指されてる。
人の姿だったら駄目でしょって注意されてあるだろうが……今は大鷲なのでそれは無理な話だろう。
小さな鳥でもいいのだが、そうすると他の大きな鳥や猫に襲われるので……襲われることのない大鷲の姿が多様されることになったのだ。
「……終わったのかな?」
学校から制服を着た子たちがぞろぞろと出始めてきた。
そのまま、すずかが出てくるのを待つ。
しばらくすると栗毛色のツインテール少女を中心にした一団が出てきた。
なのはだと思わしき少女の左右を固めるのはアリサとすずかだ。
てっきりノエルさんが迎えに行くのかと思っていたがそうではなかったようだ。ノエルさんやファリンさんも忙しいようだからしょうがないか。
それとも、道中の安全はすでに確保されているのだろうか? だとすれば俺がこうやってすずかを見守っている行為に意味はない。
切り上げて謎の臭いの主を探すべきだろう。
そう思い切り上げようとしたとき。
---助けて。
と頭に直接響くように声が聞こえてきた。
誰だ! と思いその声の主を探すが見当たらない。
空耳かとも思ったがどうやら違うらしい。なのはという少女が突然雑木林の方に走り出したのだ。
多分、彼女は俺と違ってハッキリと何処から声が聞こえたのか分かったのだろう。感受性が強いのだろうか?
アリサやすずかには聞こえてないみたいだし、俺ももう聞こえない。
どうやら色々と確認することがあるらしい。
俺はすずかたちの近くに飛んでいく。
そこには傷ついたイタチ? を抱えるなのはの姿があった。
あのイタチ? がさっきの声の主か……。見た感じ危険そうには見えない。
「わ、鷲!? なのは! そのイタチが狙われてるわよ!」
アリサに見つかった。それ以前にそのイタチ? を食べる気は無いんだけど……。
「ふ、ふえぇ!! そ、そうなの!?」
「そうよ! だって鷲って猛禽類だもの! きっと、弱ったイタチを食べに来たのよ!」
「あ、アリサちゃん、落ち着いて下手に騒ぐと刺激しちゃうよ」
すずかがアリサを落ち着かせようとする。
ここになのはがいなければ……大鷲の姿から人型に戻れるのに……。
「そ、そうよね……刺激して襲われたらたまったもんじゃないわね」
「そうだよ」
「それよりも……この子を病院に連れてかないと!」
なのはがイタチ? を両手に抱えながらそう言う。
このイタチ? が運ばれる病院までついて行った方がいいだろうか? 万が一にも危険な存在だった場合のことを考えるとついて行ってそのイタチ? を監視するべきだ。
俺はすずかたちにイタチ? を襲わないように監視されながらもイタチ? を監視することにした。
見た目猛禽類なのでイタチ? を食べに来たのだと勘違いされるのはもうしょうがないと諦める。
何も知らなければ俺もそう思うだろうし……。
でも、居心地悪いな……アリサに思いっきり睨まれてるし、なのははイタチ? を懐に隠すし、すずかはジーと俺のことを見てるし……すごく居心地が悪いです。
「お嬢様、この鮫島ただいま参りました」
執事服を着た初老の男性が現れた。穏やかな雰囲気を放ってるし、鮫島って言っていたからこの人がアリサの執事をやっているのだろう。
この人なら任せても大丈夫だと思えるような雰囲気がある。
「鮫島、動物病院までお願い」
「はい、ただいま。お嬢様方も車にどうぞ」
すずかたちが鮫島さんが乗ってきた車に乗車する。
車の扉が閉まるとすずかたちを乗せた車が動き出した。
俺もあとを追わなくちゃ。翼をはためかせて俺はすずかたちが乗っている車のあとを追いかけるのだった。
● ● ●
動物病院に着くと俺は窓の外から中の様子を伺う。
そのときにアリサに見つかり、「げっ! 追ってきたわ……」と言われた。
ちょっと泣きたくなった。勘違いでイタチ? を捕食しに来たと思われているのだから仕方がないと思うが……心に来るものがある。
そのときにすずかが「大丈夫だよ、アリサちゃん。さすがに建物の中には入って来ないないよ」と微笑しながら言っていたがアリサは「分からないわよ……だってここまで追ってきたんだからそれなりに頭がいいはずよ。きっと私たちがいなくなった後を狙っているんだわ!」と邪推していた。
本格的に泣きたくなった。……何かボロクソ言われてるし……。
これ以上何か言われると本格的に涙腺が、決壊しそうだからこの場から離れよう。
もう、イタチ? が何処にいるのかも分かったから後で様子を見にこよう。そうすればもしかしたら、このイタチ? がボロを出す瞬間に立ち会えるかもしれないし。
とりあえずは昼間から探している変な臭いの主を探そう。このイタチ? のことは後回しだ。
居場所さえ分かっていればいつでも様子を監視することが出来る。
俺は動物病院から離れて昼間から探している変な臭いの主の捜索を再開した。
また、アリサに何か言われてるだろうなと思いながら。