吸血少年ドラクル蓮   作:真夜中

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第17話

絶対に油断出来ないクッキー作りのお手伝いを終えて、一息吐いた俺は昨日から姿が見えていないリリンを探すことにした。

 

とりあえず、アリサとなのはとユーノが来るまで探しても見つからなければ、一回彼女たちに挨拶してから再び探すつもりだ。

 

もしかして……虐められているのか? とも思っているが猫を虐めるヤツはここら辺にいるのかと疑問に思う。

 

うーん……そのうちに戻ってくるよね? しばらく探しても見つからなかったら街の方に探しに行くことも視野に入れないと……もしかしたら迷子になってるのかもしれないし。

 

「リリン……リリン、いたら出て来て……」

 

リリンの名前を呼びながら探しているが一向に見つからない。このままだとアリサたちが到着してしまう。

 

これは本当に街の方に探しに行かないと駄目かもしれない。

 

とりあえず、今は家から出ることは出来ないので庭の中を探す他ない。何処かで寝ているだけならよいのだが……。

 

リリンの名を呼びながら庭をあちらこちらと歩き回るがリリンは見当たらない。

 

本当に何処に行ってしまったのだろうか? すずかもリリンの姿を見ていないそうなので家の周辺にはいないのだろうか?

 

ああ、心配だ。

 

それに庭全体を探す前に時間が来てしまった。

 

「……はぁ」

 

俺は溜め息を吐きながらお茶会をする場所まで戻っていった。

 

 

● ● ●

 

 

「おはよう、蓮」

 

「おはよう、アリサ」

 

お茶会をする場所に来るとすでにアリサがおり、すずかと一緒に猫を撫でていた。

 

なのはの姿が見えないのでまだ来ていないのだろう。

 

「すずか、リリンを見なかった?」

 

もしかしたらすれ違いになっている可能性もあるのですずかに訪ねる。

 

「ううん……見てないよ」

 

すずかが首を左右に振って否定した。

 

「……そう」

 

小さく溜め息を吐く俺にアリサが話しかけてきた。

 

「ねぇ……その、リリンって猫よね?」

 

アリサはリリンの事をしらないんだった。

 

「そうだよ。手足の部分だけ何故か白い黒い子猫なんだけど……昨日から姿が見えなくて」

 

「それは心配ね。ちゃんとご飯を食べているのかしら?」

 

「そうなんだよ……まだ、子猫だから自分で餌を取るのは難しいだろうから余計に心配で」

 

リリンが大人の猫になっているのならここまで心配することはなかった。

 

大人の猫になっているなら自分で餌を取れるだろうからだ。

 

「お姉ちゃんと一緒になのはちゃんたちの出迎えにいってるノエルさんが戻ってきたらリリンを見てないか訊いてみたら? もしかしたら見てるかもしれないし」

 

「……そうだね。お姉ちゃんがリリンの姿を見てるかもしれないしね」

 

もしそうなら安心なのだが……。そうじゃなかった場合は探しに行かないと。

 

改めてそう思い直していると複数の足音が聞こえてきた。

 

その足音が聞こえてくる方に向こうとする。

 

「おはよう、なのはちゃん。それから、おはようございます、恭也さん」

 

「おはようなの、すずかちゃん」

 

「おはよう、お邪魔してるよ」

 

なのはたちが来たと言うことはお姉ちゃんたちも戻って来ると言うことだ。ちょうどお姉ちゃんが戻って来たところだし早速訊いてみよう。

 

「お姉ちゃん……リリンを見てない? 昨日から姿が見えなくて」

 

「いいえ。見てませんよ」

 

「……そっか」

 

これは街に探しに行かないといけないな。でも、その前に庭を隅々まで調べないと。もしかしたら戻って来ているかもしれないし。

 

俺はリリンを探しに行く前になのはたちに挨拶をする。

 

「いらっしゃい、なのは、恭也さん。どうぞ、ゆっくりしていってください」

 

俺の言葉に恭也さんは「ああ」と返事をすると忍さんに腕を捕まれて家の中へと引っ張られていった。

 

どうやら二人っきりで過ごすようだ。仲が良いようで何よりだ。

 

「ねえ、蓮君。さっき、ノエルさんに訊いていたリリンって?」

 

そういえば出迎えになのはもリリンの事は知らなかったね。

 

「手足だけが白い黒猫の子猫だよ」

 

案外目立つ色合いなのだからもしかしら見ているかもしれない。

 

と、ほんの小さな希望が鎌首をもたげてくる。

 

だが、そんなことはなかった。

 

「ううん。見てないの。そんな特徴的な子猫だったら見たら忘れないと思うの」

 

「……そっか」

 

ほんの小さな希望があったから余計にショックが大きくなる。

 

「じゃあ、俺はリリンを探してくるから……ゆっくりしていってね、アリサ、なのは、ユーノ」

 

俺はそう言うとリリンを探しに再び庭を散策しに向かう。

 

「……見つかるといいわね」

 

そんな折、アリサがそう言ってきた。それに対して俺は「うん」と短く答えると雑木林の中へと入っていった。

 

 

● ● ●

 

 

「……いないか」

 

雑木林の中に入ってから数十分が経過したがリリンは見つからない。

 

臭いで探そうともあちらこちらからリリンの臭いがするためいたとしても場所が特定出来ない。家の周辺は特にそうであり、嗅ぎ覚えのない臭いの方が目立つぐらいだ。

 

「……街の方に行くべきか」

 

ポツリとその言葉が口から出る。もしやと思い庭を探していたが見つからないので街に探しに行くしかない。

 

そうと決まれば街に探しに出かける事を伝えに戻らないとな。無断で出かけて変に心配をかけるといけないし。

 

俺はすずかたちがお茶会をしている場所に戻る。

 

「すずか、リリンを探しに出かけてくるね」

 

「分かった。帰りは?」

 

「夕方には帰ってくるよ」

 

それから、また探しに出かけるつもりだけどね。それも……見つからなかったらの場合だし。

 

「それじゃ、行ってくるね」

 

「気をつけなさいね。余所見して人にぶつからないように」

 

「そこはちゃんと注意するよ」

 

俺はそうアリサに返事をする。余所見して他人にぶつかったらその分だけリリンを探す時間が短くなってしまうからそんなことをするわけにはいかない。

 

「リリンちゃん? くん? どっちだか分からないけど見つかるいいね」

 

「うん」

 

俺はなのはの言葉に頷く。同時に視界の端に猫たちに追い回されているユーノの姿が見えた。

 

猫たちに捕まらないように必死に逃げている。だが、誰も助けようとはしていなかった。ユーノはなのはやアリサ、すずかに助けを求めるような視線を向けているが誰も気がついた様子はない。

 

ユーノ……頑張って逃げてくれ。俺はリリンを探しに行くから助けに行くことは出来ない。

 

 

● ● ●

 

 

街に探しに探しに来たのはいいが……何処から探すべきなのだろうか?

 

リリンが絶対に向かわないであろう場所を除くと範囲は狭まるが、その範囲内にいない場合は何処から探すべきなのだろうかと迷ってしまう。

 

俺も海鳴市全域を網羅しているわけではないのであまり慣れない場所にいくと迷ってしまう可能性がある。

 

探しに出て自らが迷ってしまうのは情けない話になるのでそれは遠慮したい。

 

なので、近場の公園から探そうと移動していると不思議な臭いがした。

 

動物の臭いだ。それは間違いないのだが……なんと言うか……言葉に言い表すのが難しい。

 

動物の臭いなのだが……動物らしくない臭いなのだ。

 

その臭いがする方向に視線を向けると……黒いマントに胸らへんを覆う服に太ももが大きく露出した格好をしているオレンジ色の髪の毛の女性がいた。

 

しかも、その女性も俺の事を見てる。メッチャ、ガン見されている。俺は何かやってしまったのだろうか?

 

内心首を傾げているとあることに気がついた。

 

それは……その女性から犬? の耳と尻尾が生えている事だ。

 

「あの……尻尾と耳が出てますよ?」

 

「ん? それがどうしたんだい?」

 

自分の尻尾に視線をやった後に耳を触る女性。

 

思わず話しかけてしまったがしょうがないと思う。だって……すごく目立つ格好をしてるんだし。

 

しかも、耳と尻尾が出ていることについて何の疑問も抱いていない。

 

「目立ちますよ」

 

「……ああ、そうだね。だから、耳と尻尾に異様に視線が集中してたのか」

 

一人納得したように頷く女性。

 

えらくズレている人だと思った。

 

ついでだから、リリンの事を見てないか訊いてみよう。

 

「あの……手足の部分だけが白い黒猫の子猫を見てませんか?」

 

「いや、見てないね。飼い猫かい?」

 

「居候先の飼い猫です。昨日から姿が見えなくて」

 

「それは心配だね……大事な子猫なんだろ? あたしも探し物の最中だからそれがなかったら手伝ってもよかったんだけとねぇ」

 

何か格好とは裏腹にとてもいい人のようだ。

 

「はい、大事な子猫です。心遣いありがとうございます。探し物、見つかるといいですね」

 

「ああ、そっちもね。それから、驚かないんだね……目の前で尻尾と耳を隠したのに」

 

不思議そうに見てくる女性に俺は笑顔で答える。

 

「ええ、今さらなんで」

 

「今さらねぇ……」

 

スッと女性の目が細くなる。と、同時にピリピリとした気配が伝わってくる。

 

それでも俺は笑顔を崩さない。

 

「はい、今さらです」

 

氷村の家で浴びせられていた視線と比べればこの程度どうと言う事はない。

 

っ!? 突然走った悪寒に従い俺はバックステップをする。きしくも目の前にいる女性も俺と同じタイミングでバックステップして先程までいた場所から離れた。

 

そして、次の瞬間……その場所のアスファルトをぶち抜いて額に宝石の付いた八つの頭を持つ巨大な蛇が現れた。

 

「「ジュエルシード!!」」

 

お互いの声に反応して視線を向け合う。

 

その瞬間、この女性は地球の住人でないことが確定した。

 

ユーノと同じく魔導師と呼ばれる存在なのだろう。でも、なのはの持っているレイジングハートのようなデバイスと呼ばれる物を持っていないのでデバイスが無くても魔法が使えるのだろう。

 

「お姉さんの探し物はジュエルシードですか……」

 

「そうだよ……邪魔をするならガブッと「いえ、邪魔はしないのでどうぞ」……って、いいのかい?」

 

敵意を見せたと思ったら急に困惑したような声を出す女性。

 

「封印とか出来ないし、触りたくないので」

 

ユーノたちは家でお茶会をやっているからすぐには来れないんだし、魔導師らしい女性に渡した方がまだ安全だろう。素人が持つよりは……。

 

「そ、そうかい……」

 

「はい……そうです」

 

こうやって話してある間も蛇がどんどん鎌首もたげて俺と女性を食べようと襲いかかってくる。

 

一体……どれぐらいの長さなのだろうか? ものすごく伸びては縮んでを繰り返している。しかも、お互いの体がまらない

ように器用に動かしているからそれなりに頭も良いのだろう。

 

「それじゃ……いくよ!」

 

女性の周囲に三つほどの黄色い球体が発生する。それらからはパリパリと帯電している。

 

そこから槍のように先の尖ったものが発射される。なのはのとは違い球体自体は発射するためだけの存在のようだ。

 

それらは一定の間隔で途切れることなく巨大な蛇に向かって発射されて、蛇の頭や体に命中していく。

 

「シャアァァァァ!」

 

だが、蛇にはあんまり聞いている様子は無い。むしろ起こっているように見える。

 

「チッ」

 

そんな、蛇に対して舌打ちをする女性。

 

巨大化しているから効き目が薄いのかな? 何となくだがそう感じた。

 

これは俺も手伝った方がいいかな? このまま任せっぱなしにするのも気分が悪いし。

 

ジュエルシードの数が減るなら俺は構わないしね。ユーノには悪いけど……。

 

なのはだけじゃなくて他にも封印とか出来そうな人がいるんだしさ……その人に任せた方がいいでしょ。

 

交渉は当人たちでやってくれれば問題ないしね。

 

俺はいざというときのためにちょろまかしていた鞭を服の中から取り出す。

 

この鞭はお姉ちゃんによって処分されそうになっていた忍さんが所有していた鞭だ。長さは一メートル弱で俺でも上手く使えそうなのでお姉ちゃんにバレないようにちょろまかしたのだ。

 

バレてないか内心ドキドキである。

 

二、三回ほど素振りをして使い勝手を確認する。こんな余裕があるのは目の前にいる巨大な蛇の頭をすべて犬? 耳と尻尾を再び生やした女性のお陰なのだ。

 

「……しっくり来る」

 

思った以上にしっくり来た。思った通りに動かせる。

 

「……ハアァァァ!」

 

「シャアァァァァ!」

 

殴り飛ばされながらも蛇たちは次々に空いた隙間を埋めるようにしながら女性に襲いかかる。

 

女性の方はラチがあかないことに対して苛立っているのだろう、犬歯を剥き出しにしている。それでも動きは精細を欠いていないので焦っているのではなく苛立っているのだと判断した。

 

「……それじゃ、さっさとやりますか」

 

俺は鞭を右手に持ち、右手首から血を流す。

 

流した血は鞭を伝い、地面に向かう。

 

だが、その血は地面には落ちずに鞭全体をコーティングする。

 

鞭の表面を血が高速で流動し超振動しながら覆う。

 

その鞭を横凪ぎに振るうと、スパン! と何の抵抗もなくアスファルトの破片が裂けた。

 

「こんなものかな……」

 

鞭がアスファルトの上に触れたそばからアスファルトが削られていく。

 

どうやら俺が思っていたよりもずっと強力なようだ。

 

これなら、あんまり時間をかけずにリリンを探しに行けそうだ。

 

俺は巨大な蛇に向かって姿勢を低くしながら駆け出した。

 


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