吸血少年ドラクル蓮   作:真夜中

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第15話

「ところでユーノ」

 

「何かな?」

 

「ジュエルシードは幾つ見つかった?」

 

まったく見つかっていないのであれば結構大変な事だ。俺が知っているだけで現在は三つだし。せめてもう二、三個見つかっていたら嬉しい。

 

「三つだけだよ。それ以外はまだ……」

 

「そっか……」

 

残り十八個か……結構残ってるな。小鳥たちはジュエルシードを見つけているだろうか?

 

「……ユーノ」

 

「何?」

 

「ジュエルシードの捜索報告を聞く?」

 

「え……? どういうこと?」

 

キョトンとした様子で首を傾げるユーノ。

 

「ハズレ情報もあると思うけどね」

 

集めてくるのは小鳥たちだからね……。下手な鉄砲数打ちゃ当たる的な感じだから。まあ、それでも一つくらいは当たりが出ると期待しておく。

 

バサバサと羽音を立てながら小鳥たちが集まってくる。

 

その光景にユーノが何事!? と驚く。確かに何も知らなかったら驚くと思う。だから驚くのも無理はない。

 

早速、集まって来た小鳥たちに報告をしてもらう。

 

報告と言っても言葉が分かるわけじゃなく支配下に置いた小鳥たちが見たのを漠然としたイメージで受け取るものなのでこれが言葉を喋る知能がある生物だと言葉での説明になる。

 

街中は普段と変わらないか……ても、山の方を流れている川に巨大な魚が現れたか。

 

小鳥たちからすれば巨大な魚であるのか人と比べて巨大な魚であるかは分からないがこれが現在のところ一番可能性が高いか……。それ以外だとそこから離れた場所に現れた蛇ぐらいか。明らかに大きさが違うし。

 

「……ジュエルシードが関係してそうなのがあるけどどうする? さっきも言ったけどハズレの可能性もあるからね」

 

「勿論決まってる。行くよ……ハズレだったらそれでいいけどもし当たりだったら大変な事になるから」

 

はっきりと決意の籠った口調でそう言うユーノ。

 

「封印出来るなのはがいないとどうにも出来ないけどね」

 

「そうなんだよね……」

 

それにそろそろ話は終わってるかな?

 

まだ屋上にいるであろう、すずか、アリサ、なのはの事を考える。

 

変に話が拗れてないといいけど……三人は友達らしいから大丈夫かな? 文句か何かは言われてるだろうけど。

 

「とりあえず……屋上に戻ろうか?」

 

「そうだね……なのはたちの話し合いも終わってるかもしれないし」

 

そうだといいんだけどね。

 

そんなことを思いながら俺はユーノを抱えながら屋上に戻っていった。

 

 

● ● ●

 

 

そして、屋上に戻ってきた俺とユーノが見た光景は……。

 

「へ~、本当に魔法少女だったのね」

 

「それよりも私はなのはちゃんの持ってるデバイスが気になるかな」

 

なのはが改造制服を着て右手に杖を持っている姿だった。アリサはその姿のなのはを見て感心しており、すずかの目はなのはが持っている杖に釘付けであった。

 

「何でなのはは変身してるの?」

 

「……どうやらアリサに信じてもらうためにバリアジャケットを展開したみたい」

 

なのはが着ている改造制服ってバリアジャケットって言うんだ。

でも、見た目からして防御力が無さそうに見えるのは気のせいかな?

 

「……なのはちゃん……そのなのはちゃんが持ってる杖……確かレイジングハートだっけ」

 

「う、うん。そうなの」

 

何やらすずかが珍しく興奮している。

 

「ちょっとだけバラしてもいいかな?」

 

…………え?

 

すずか……それはかなり不味いんじゃ。

 

抱えてるユーノがフェレットの姿をしているのに冷や汗をかいてるし。

 

「ちょっ!? すずか落ち着きなさい!」

 

「そ、そうなの! 落ち着いてすずかちゃん!」

 

「大丈夫、私はちゃんと落ち着いてるから……バラしてもちゃんと元に戻すから……ね」

 

どれだけなのはが持つ杖をバラしたいんだろうか? でも、確かになのはが持つ杖って機械みたいだから機械に興味のあるすずかが惹かれるのも無理はないか。

 

俺はそう納得しているとユーノが焦ったような声で言った。

 

「ちょっと、蓮! そんなに落ち着いてないですずかを止めて! レイジングハートってまだまだブラックボックスの塊だから万が一の事があったら困るよ!」

 

「らしいから止めておいて」

 

ユーノの声が聞こえてるだろうし俺が止めまでもないでしょ。

 

「……本当に喋った」

 

アリサがユーノが喋った事に驚愕した。でも、今……本当に喋ったって言ってたからなのはがそう言ったのだろう。

 

「……残念」

 

すずかはレイジングハートが弄れなくて残念がっていた。

 

「少なくともジュエルシードの件が解決するまで待とうか」

 

「蓮! 余計なことは言わないで!」

 

ユーノがそう喚くが時すでに遅し。もう言ってしまったのだから。

 

「そうだね。終わったら弄ればいいんだよ」

 

すずかはそれで納得してくれた。ただ、なのはが微妙な表情を浮かべていたが……。

 

「それで蓮はユーノと何を話してたのよ?」

 

話なさいとアリサが視線で訴えてくる。その視線に臆したのかユーノが話し出す。

 

「えっと……ジュエルシードの暴走体らしき存在を蓮が見つけてくれてそれを教えてくれたんだよ」

 

ユーノがそう言うと真っ先になのはが反応した。

 

「え! 本当に! で、場所は何処なの?」

 

「山の方にある川だけど……」

 

「……どっちの川なの?」

 

「分かんない。見つけたのは俺じゃないし」

 

だって小鳥だし……それに、海鳴市は山と海に囲まれてるから余計に分からない。

 

「見つけたのに分かんないってなんなの!? それに蓮君はどうやってその情報を手に入れたの?」

 

「小鳥が教えてくれた」

 

「余計にわけが分からないの……」

 

なのはが両手で頭を抱えて唸る。

 

夜の一族の事を知らないのに俺の事を教えるつもりはないので諦めて欲しい。

 

すずかやアリサは俺だからしょうがないかと言うような達観した様子である。

 

「ごめん、なのは……実はボクもどういうわけかいまいち分かってないんだ」

 

ユーノが唸るなのはにそう伝える。いつの間にかなのはの傍におり、手から脱出されていた。

 

まあ、別に脱出されても構わないので特に気にすることではない。

 

ただ、すずかから後で話を聞かせてねと視線だけで訴えられたのですずかには教えないといけなくなった。

 

夜の一族の事を知らないなのはに教えるつもりが無いだけなので夜の一族の事を知っているのであれば教えることは構わないのだ。

 

てか、なのははいつまでバリアジャケットを展開したままでいる気なのだろうか? もうそろそろ昼が終わるのだが……。その格好で授業に出る気なのか?

 

「うぅ……お父さんかお兄ちゃんに連れてってもらわなきゃならないの」

 

「あらかじめ言っておくけどハズレの可能性もあるからね」

 

後で話が違うの! って文句を言われても困るから言っておかないと。

 

「……モチベーションが下がるの」

 

「蓮もなのはのモチベーションが下がることを言わない!」

 

「そう言われても……アリサだってあらかじめガセの可能性もあることを知らされているのと知らされていないのだったらガセの可能性があるだけ知っていた方がマシでしょ?」

 

「た、確かに……あらかじめ知っていた方が心情的に楽ね。後になって騙されたって怒るよりもストレスは少ないわね」

 

納得してくれたようで何よりだ。

 

「でしょ」

 

「でも、どうやって情報を集めたのかは気になるわね……」

 

ジト目でアリサが睨んでくるが俺はそれに対して苦笑しながら答える。

 

「それは……秘密と言うことで勘弁してくれない?」

 

「…………はぁ、しょうがないわね。本当に話したくなさそうだし訊かないでおいてあげるわ」

 

小さく溜め息を吐くとアリサはそう言って手をヒラヒラと振った。

 

この場にはなのはがいるから云えないのだ……それ以外の場所であれば答えたのだが。

 

それに自分から言うことはないしね。

 

訊かれたら答える。そう言うスタンスで俺は行こうと思っている。

 

 

● ● ●

 

 

「それで……蓮君はどうやってジュエルシードの情報を集めたのかな?」

 

学校が終わって帰宅している途中ですずかにそう問われた。

 

アリサやなのはたちとはすでに別れているので二人きりだ。

 

「小鳥たちを支配下に置いて探すように命じただけだよ」

 

「……そんなことも出来るんだ」

 

「そうだよ。あんまり使いたくないんだけどね」

 

「どうして?」

 

俺は自嘲しながら答える。

 

「だってさ……支配下に置かれるとその支配者の命令を第一に考えるようになって、命の危機であっても俺の命令を第一に行動するからだよ」

 

だから……あんまり使いたくないのだ。その時ばかりならよいが。長時間は使いたくない。支配下に置いた生物たちにも生活はあるのだから。

 

「そうなんだ……その生き物を支配下に置いた後はその支配から解放とかは出来るの?」

 

「出来るよ。情報を集めるために支配下に置いた小鳥たちはすでに自由にしてあるしね」

 

そうしないと生態系が崩れるしね。

 

「そっか……」

 

ホッとしたように息を吐くすずか。

 

「安心した?」

 

「うん。……野生に帰してあげないと可哀想だから」

 

「だよね」

 

「うん」

 

鳥は自由に空を飛んでいる方が似合うからね。

 

「今頃……ユーノとなのははジュエルシードの捜索かな」

 

「そうだね……怪我しないといいんだけど」

 

「危なくなったら逃げるだろうし大丈夫なんじゃない?」

 

「だといいんだけど……なのはちゃんは運動が苦手だから」

 

運動音痴か……確かにそれは心配になるな。でも、俺が知っている限り自由自在に動くピンク色の球体があるから大丈夫だと思うんだが……。

 

「ユーノもいるし……いざとなったらユーノに頑張ってもらうしかないよね」

 

「うん……でも、デバイスを使えるのがなのはちゃんだけだから……他に誰かいればいいんだけど」

 

「そう都合よくデバイスだっけ? それを持ってる人なんていないでしょ。元々魔法何て無かったんだから」

 

夜の一族のように異能を持っている人は世界中にそれなりにいるが……。

 

「だよね。なのはちゃんだけしかいないから無理しちゃってそうで」

 

「確かに一人しかいないからね。必然的に無理をしないといけないよね」

 

封印出来るの現状なのは一人しかいないのが解決出来ればまた違うんだけど……。

 

「話し合いの詳しい結果を忍さんに訊かないといけないね」

 

「うん……そうだね。なのはちゃんから聞いた話だとなのはちゃんがジュエルシードを集めるのは渋々ではあるけど家族の皆が認めてくれたらしいよ」

 

意外だ……反対するものだと思っていたんだけど。

 

「本当はなのはちゃんのお父さんや恭也さんがやろうとしたらしいんだけど適性が無くって唯一適性のあるなのはちゃんがやることを渋々納得したんだって」

 

誰かがやらないといけないからしょうがないか……。ユーノも本心では自分がやるべきだと思っているようだし。なのはに無茶はさせないだろう。

 

「誰だって家族に危ない真似をして欲しくないもんね。渋々納得したのだってさなのは以外には出来ないからでしょ」

 

「そうみたい。ただ、自分だけしか出来ないってことに対してなのはちゃんが嬉しそうだったんだ……」

 

「ふーん……何かしらの願望があったんじゃないのかな? 例えば特別な存在になりたいとか、念願の魔法使いになれたとかさ」

 

そこまで深刻に考えるほどではないと思う。それに、特別な存在がすべて受け入れられるわけじゃない。

 

俺のように受け入れてくれる存在に出会えることだけでも奇跡だと思う。あまりにも異端だと排除対象になるから。

 

「そうだったらいいんだけど……なのはちゃんは自分に何が出来るかってことで悩んでたから」

 

「あぁ、なるほど……自分だけしか出来ないことが見つかって舞い上がってるんだ」

 

調子に乗って痛い目に合わなきゃいいんだけど……。だってすずかが悲しむから。

 

恩人に悲しんで欲しくないから俺はなのはの手伝いをすべきなのだろうか?

 

「そうかな……舞い上がってるだけかな? 」

 

すずかは心配そうにそう呟く。

 

その不安を取り除いてあげたいが……俺がなのはの事を手伝おうとしてもすずかは俺のことまで心配しそうだ。

 

「ねぇ、すずか……俺はすずかが望むならなのはの事を手伝ってもいいんだよ?」

 

「……ううん。いいよ、やらなくて」

 

それをすずかがやんわりと拒絶した。

 

「どうして?」

 

そう訊くとすずかは静かに言った。

 

「……そのために他の誰かを危険な目に合わせるのは嫌だから。それなら、私は自分で手伝うよ」

 

その言葉にはしっかりとした意志が感じられた。

 

同時に思った……そんな、すずかだからこそ俺は今、ここにいることが出来ているのだと……。

 

「そっか……だけど、覚えておいて俺はすずかの頼みなら断らないから」

 

「うん。本当に助けて欲しくなったら遠慮無く頼むからね」

 

笑顔でそう言うすずかに俺も笑いながら返事を返す。

 

「勿論……いつでも言っていいよ」

 

そう……いつでも……それで少しは恩返しが出来るから。それでしか恩の返し方が分からないから。

 

最も器用だったらよかったんだけど……不器用でごめんね。

 

こんな恩の返し方しか出来なくて……。

 

 


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