吸血少年ドラクル蓮   作:真夜中

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第13話

「どうも、皆さん初めまして。今日から一緒のクラスに通うことになりました蓮・K・エーアリヒカイトです。よろしくお願いします」

 

氷村蓮改め蓮・K・エーアリヒカイトです。

 

現在クラスで挨拶をしています。

 

転校生と言う扱いでクラスに来ました。その筋書きはすべて忍さんが手掛けています。なので俺はその筋書き通り動くだけです。上手くこなして見せる。それが忍さんの苦労に報いる唯一の方法。

アリサとなのはが名前が変わってるってツッコミを入れてきたのは当然だと思う。

それに対して「お金を払ってまで売られました」と答えた途端にクラス全体の空気が重くなった。

それからはとても親切にされている。

 

中には涙ぐんで話しかけてくる人もおり戸惑った。

 

「はーい! 皆、そろそろ授業を始めたいから、残りの質問とかは休み時間の間にしてね」

 

パンパンと担任の先生が手を叩いてそうクラスメイト全員に言った。

 

さっきまでのざわめきが嘘みたいに無くなり授業を始める体勢となっている。

 

先生はクラスの支配者なのだろうか? そう思ってしまうほどの統率力を発揮していた。

 

「じゃあ、始めるわよ。教科書の十五ページを開いて……」

 

初めて受ける学校の授業開始である。

 

 

● ● ●

 

 

「……ふぅ、意外と疲れた」

 

家庭教師に教えてもらっていた時よりも座っている時間が長かったから少し疲れた。

 

休み時間も質問が沢山来たから休みの無い休み時間だったし。

 

学校の裏庭には生徒があんまり来ないのでゆっくりと寛げる。

 

お昼の誘いを断ったのは悪いと思うけど……ゆっくりしたかったのだ。

 

「……あんなに沢山の人と一緒に行動したのは初めてだ」

 

幼稚園は行ってないし……夜の一族の子が癇癪を起こすと其れ以外の人が危ないからという理由で夜の一族の子は幼稚園に通うことは無い。

 

何処の家もお姉ちゃんみたいに世話をしてくれる人がいるから。

 

「……ははっ……ちゃんとクラスの輪にとけ込めるかな?」

 

ハブられはしないだろうか? そればかりが不安だ。

 

身体能力もすずかと同じぐらいに落とさないといけないかな? あんまりにも高いと変に勘ぐられそうだし。

 

体育の授業の時に調整しないと。

 

それに……サッカーとかのチームでやるスポーツは一人だけ飛び抜けてると逆につまらないだろうしね。

 

その時はサポートに徹しようかな? それだったらサポートが上手いだけになるだろうから。

 

でも、すずかは体育の授業の時はどうしているのだろうか? 力はセーブしているのか……それとも……。うーん……本人に訊けば済む話だし特に考えることじゃないね。

 

学校内にジュエルシードが落ちていないか確かめないと。もし、蟻とか蜂がジュエルシードの力で巨大化して暴れたら大惨事になる。

 

しっかり捜索して安全を確保しないと。

 

忍さんはその事も視野に入れてるだろうし。俺は俺に出来ることをしなきゃ。

 

目には目を歯には歯をの精神で報いないと。何であれ異端である俺を受け入れてくれたのだから。

 

すずかが怪我を負ってまで引き止めてくれた、だからこそ俺も体を使って本気で探すのだ。

 

あんまり好きじゃないこの力を使おうと思えるくらいには……。

 

「っ~~~~~!!」

 

人には聞こえない雄叫びを上げる。

 

すると、小鳥たちが次々と現れる。これがあまり使いたくない異能の力の一つ。動物を支配する力だ。

 

今回は小鳥のように数が多く大抵の場所には何処にでもいる存在と言うことで小鳥を支配下に置いた。

 

小鳥たちが集まりきると俺は命令を下す。

 

「この学校内にジュエルシードがあるか探せ。見つけても取らなくていい。場所のみを伝えろ」

 

手を横に振り、小鳥たちを飛ばす。

 

後は小鳥たちが情報を持ってくるのを待つだけだ。

 

あんまり使いたくないが今回は使わせてもらう。休み時間もあまり無い上に遅くまで学校内に残っている理由が無い。それに、ジュエルシードの捜索もあるから余計に一ヶ所に止まっていることは出来ない。

 

見つけたらユーノに渡すと宣言してるから尚更ね。

 

ジュエルシードの危険性を理解しながらもたった一人で止めようと来てくれたんだから……。同じことをしろと言われて何人出来るだろうか?

 

少なくとも何百人に一人の割合だろう。

 

ユーノは俺よりも確実に勇気がある! 逃げ出さずに責任をとろうとしているのだから。恐くなって逃げ出した俺とは大違いだ。

 

だからだろうか今は影からユーノをサポートしたいと思うのだ。

 

今度あったらユーノのと色々話をしてみたいな。この世界以外にどんな世界があるのか、吸血鬼はいるのかとか……。

 

突然拉致したりしたから嫌われてるかもしれないけど……ちゃんと話をしてみたいな。

 

思ってみれば異世界の住人とのコミュニケーションなんだから! 俺のように突然拉致するのはいけないよね。今さらになって後悔してる。

 

普通に脅しもしちゃってるから……謝った方がいいよね。

 

お姉ちゃんもきっと謝った方がいいって言うだろうし……許してもらえるだろうか?

 

そこが不安だけど……不安から逃げたら何も変わらないよね。

 

俺が逃げたからすずかが火傷を負ったんだから。だからこそ、逃げてはならない。同じことを繰り返したくないから。

 

まずはジュエルシードを見つけないと……そうしないとおちおち会いに行けないからね。

 

 

● ● ●

 

 

放課後。

 

学校の授業に関してはまったく問題無かった。ちゃんと復習して理解度を上げていればテストもなんとかなるだろう。

 

すでにすずかはなのは、アリサと一緒に帰路についている。なので、学校で万が一にもジュエルシードが発動しても巻き込まれることはない。

 

ただ、封印出来るのがなのはしかいないのでそこがネックだ。

 

ユーノも本調子じゃないだろうし……本調子ならきっと自分で封印作業をやっているだろうしね。

 

「……どうだった?」

 

俺は命令を下していた小鳥たちに結果を訊く。

 

「……そうか。無いならいい。次は街中を探してきてくれ。早くなくてもいい。正確であればそれでいいから」

 

俺は再び小鳥たちに命令を下す。

 

バサバサと翼をはためかせて小鳥たちがジュエルシードの捜索に向かう。

 

一つでも見つかれば御の字なんだけど……。あんまり期待は出来ないかな。

 

発動してないだけで人が持ち歩いているだけの可能性もあるし、川や海の中落ちてるなら手も足もでない。

 

正確な場所が特定出来ていれば話は別なんだけど……。そう上手くはいかないかな……。

 

「俺も帰ろうかな……ジュエルシードについて忍さんはどう対応するのか決まってるだろうし」

 

一番は関わらないことなんだろうけどね。我、関せずとばかりさ……。でも、それが意味の無い事態を引き起こすからそうも言ってられないんだよね。

 

 

● ● ●

 

 

「ただいま戻りました」

 

家に帰ってくると背負っている鞄を手に持つ。

 

「お帰りなさい、蓮君」

 

難しい顔した忍さんがお姉ちゃんと一緒に玄関の方にやって来た。

 

「お帰りなさい」

 

「ただいま……お姉ちゃん」

 

改めてただいまとお姉ちゃん言う。

 

こんな何気ないやり取りが出来ることを嬉しく感じる。

 

一生出来ないと思っていたから。

 

「それじゃ、蓮君。私とノエルはちょっとなのはちゃんの家族と話し合いに行ってくるから、ファリンとすずかと一緒にお留守番しててね」

 

「はい。……話し合いってジュエルシードのことですか?」

 

「ええ、そうよ。さすがにこの前の様なことになると大変だから。それに、なのはちゃんが深く関わってることだからね」

 

やっぱり……か。予想はしてたけど……直接家に行って話をするとは思わなかった。

 

「気をつけてくださいね……いつ何処で発動するか分からないんですから」

 

「ええ、気をつけるわ」

 

「夕食は食べていてくださいね。ファリンが作っているはずですから」

 

「お姉ちゃんも忍さんも気をつけて……」

 

道中何もなければいいんだけど……。

 

「そう……不安そうにしないで、ね? ノエル」

 

「ええ。ちゃんと帰ってきますから」

 

そう言ってお姉ちゃんと忍さんが玄関から出ていく。

 

「いってらっしゃい」

 

俺は二人が無事に帰ってこれることを願いながらその言葉を口した。

 

二人の姿が見えなくなるまで見送ると玄関を閉じる。

 

それから、鞄を置きに部屋に戻る。鞄を置いたら洗面所に向かい手洗いとうがいを済ませる。その後、テレビのあるリビングに向かった。

 

「あ、蓮君。お帰り」

 

リビングには先客としてすずかがいた。手にはブラシを持っている。

 

「ただいま。すずかは猫のブラッシング?」

 

「そうだよ」

 

膝の上にいる猫にブラシをかけるすずか。慣れた手つきだ。

 

「リリンは?」

 

「リリンならファリンさんの後をつけてたよ。蓮君以外だとファリンさんになついてるから」

 

「大丈夫かな?」

 

心配だファリンさんのドジで怪我とかしてないか……。

 

「大丈夫だよ……多分」

 

「そこは断言してよ! 不安になるじゃない!」

 

「だって……ファリンさんだよ」

 

非常に説得力のある言葉にグゥの音すら出ない。

 

時たまやるドジに定評のあるファリンさんだからしょうがないと言えばしょうがないのだが……。

 

余計に心配になってきた。

 

「……ねぇ、蓮君はお姉ちゃんが何をしに行ったか知ってるよね?」

 

「うん。知ってるよ……話し合いでしょ」

 

「ううん、そうじゃなくて……なのはちゃんのことでしょ」

 

忍さんから話を聞いたのかな? 学園にいたときは普通だったし……家に帰ってきてから聞いたんだろう。

 

「それがどうかしたの?」

 

「うん。……どうしてなのはちゃんなのかな?」

 

「……たまたまじゃないかな。たまたまなのはにその才能があった。そして、その才能が必要になった……だからじゃない」

 

狙って出来るようなことじゃないし……偶然に偶然が重なった結果だと思う。

 

「……そうだね。たまたまだね……でもね、私はなのはちゃんに危ない目にあって欲しくないんだ」

 

「……友達だから?」

 

「うん。それもあるけど……」

 

それもあるけど?

 

「……なのはちゃんが何処か遠くに行っちゃうような気がして」

 

「そっか……俺はどうこう言えるようなことじゃないけどさ、今はなのはにしか出来ないことなんだから仕方がないよ」

 

「うん……なのはちゃんにしか出来ないことだもんね」

 

そう言うすずかは何だか寂しそうだ。どうにかして元気になって欲しいが俺にはその手段が分からない……。

 

「……私に出来る事って何なのかな?」

 

「なのはが日常に戻ってこれるようにする事じゃないのかな」

 

「え……?」

 

「いつもと同じようにお話したり、遊んだりして普段の生活が送れるようにする事。きっと疲れてるだろうから」

 

危険なことをやるんだきっと相当なストレスに晒されるだろう。そのストレスを癒して上げるのも大切なことだと俺は思う。

 

そうすれば頑張ろうって思えるから。

 

「それだけでいいの?」

 

「うん……俺だったらそれで十分。まあ、俺だったらだから参考程度にしておいてね」

 

俺は笑いながらそう付け足す。

 

誰かが待っていてくれる。自分が帰ってくるのを……それは本当に大切な事だから。

 

「うん。ありがとう、蓮君」

 

「どういたしまして」

 

少しはすずかの役に立ったかな? それだったら嬉しいな。

 

大事な人たちの役に立てるほど嬉しいことはない。同族すら喰らう俺を受け入れてくれた……その人たちのためならば俺はなんだってする。

 

 

● ● ●

 

 

今日の夕食はいつものように美味しかったが……お姉ちゃんと忍さんがいないからか寂しく感じた。

 

ファリンさんは夕食の後片付け。そして俺は猫の姿に変身してすずかの脇で伏せている。

 

「……やっぱり、毛並みがいいね」

 

「ん~、くすぐったい……」

 

すずかに首元を撫でられてくすぐったい。ゴロゴロと唸り声が出るほどに……。

 

「お姉ちゃんたち……いつ頃帰ってくるかな?」

 

「分かんないけど……恭也さんが送ってきてくれるんじゃないのかな? 忍さんの彼氏だし」

 

「そうかも……」

 

恭也さんに連れてこられる忍さんの姿を想像したのかクスリとすずかが笑った。

 

「でしょ」

 

すずかに少しでも元気が戻ってよかった。

 

「……すずかはなのはの役に立ちたいの?」

 

「うん……友達だからね」

 

友達だからか……。

 

「前も言ったけどすずかが望むなら俺は……」

 

「駄目だよ、そんなこと言っちゃ」

 

「むぅ……」

 

「私のためってのは嬉しいけど……それは違うと思うの」

 

違う? 何が違うのだ……?

 

キョトンと首を傾げる俺にすずかが言う。

 

「私がしたい事なのに他の人にやらせるのって違うでしょ」

 

「……確かに」

 

すずかの言う通りだ。

 

「でも……ありがとうね」

 

「ううん。お礼を言うほどのことじゃないよ。お礼を言うのは俺の方だから。改めて言うね。ありがとう、すずか。俺の手を掴んでくれて……臆病な俺を捕まえてくれて」

 

すずかのお陰で俺は救われた。だから、俺は逃げないですんだ。

 

「どういたしまして……」

 

……本当にありがとう。これほど感謝することはもう二度と無いかもしれない。


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