吸血少年ドラクル蓮   作:真夜中

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第12話

あの後、すずかと子猫と一緒に月村の屋敷まで戻ってきた。

 

すべてを知った上で一緒にいてくれると改めて言われて泣きそうになった。嬉しかった……すべてを知った上で一緒にいてくれるのが。望んでいたけどありえないと諦めていたことだから。

 

だから、本当に嬉しかった。

 

この人たちのためなら死んでもいいくらいに……。

 

「……痛くない?」

 

「大丈夫だよ。本当に大丈夫だから気にしないで」

 

すずかは笑顔でそう言うが……俺はどうも疑ってしまう。本当は痛いのを我慢しているんじゃないかと。

 

すずかの左手には包帯が巻かれている。

 

俺が作り出した炎の壁に手を入れて火傷をしたのだからどうしても気になってしまう。

 

すずかが火傷をした原因を作ったのは俺だから……。

 

「蓮君もあまり気にしなくていいですよ。これはすずかお嬢様自業自得ですから」

ノエルさんはそう言うが……俺はどうしても気になってしまう。

 

「でも……元はと言えば俺が……」

 

「何か……すごくなつかれてるわね、すずか。何だか蓮君がなつくまでは大変だけどなつくと忠犬のようになる猫みたいよ」

 

「あはは……確かにそうかも」

 

猫? 俺は猫なのだろうか? これは猫に変身しろと言うことなのか? なら、期待に応えないと!

 

俺は猫の姿に変身する。モデルは三毛猫だ。

 

「……何で猫になってるの?」

 

「猫になれってことじゃなかったの?」

 

そうじゃなかったの?

 

「アハハハハハハ! 蓮君が変な勘違いしてるわ!」

 

忍さんが笑い出した。そんなにこの猫の姿はおかしいのだろうか? 変身に関して自信を失いそうだ。

 

「……確かに。でも、可愛いよ」

 

「そうね。可愛い勘違いだわ」

 

勘違い? 俺は何を勘違いしたんだ?

 

「……ねえ、肉球を触ってもいい?」

 

「? いいよ。肉球くらい」

 

「わぁ……ちゃんとプニプニしてる!」

 

変身するんだからそこら辺もちゃんと再現済みなのだ!

 

何か手をマッサージされているような感じだ。

 

壊れ物を扱うかのように丁寧に扱われているので少しばかりくすぐったい。

 

「すずかが望むなら家の中ではずっと猫の姿でいるよ?」

 

「本当!」

 

「うん。この姿でも本とか読めるし」

 

爪を立てないようしなくてはならないけどね。それ以外は問題ないし。

 

「う~ん……でも、疲れるんじゃない?」

 

「疲れはするけど……本来の姿より小さい猫の姿だからあんまり問題はないよ」

 

「じゃあ……私がお願いした時でもいい?」

 

「勿論!」

 

俺が断るわけがない! これが忍さんやノエルさん、ファリンさんでも同様だ。

 

「……本当に忠犬みたいになってますね」

 

「ええ、宗教とかにはまったら大変なことになってたわね」

 

「何故でしょう? 猫の姿なのに犬が尻尾をブンブン振っている姿が幻視出来ます」

 

そんな会話をノエルさんと忍さん、ファリンさんでしていたのを俺は知らない。

 

 

● ● ●

 

 

「ところで蓮君。実は蓮君に言っておかなきゃならないことがあるの」

 

「何ですか?」

 

言っておかなきゃならないことは一体?

 

「でも、話す前に人の姿に戻ってくれないかしら」

 

「はい」

 

「あぁ……」

 

人の姿に戻った瞬間にすずかから残念そうな声が上がった。

 

後でまた猫の姿になるから今は我慢して。

 

「ゴホン……話すわね」

 

「はい」

 

「……蓮君は氷村家から……ただで貰いました」

 

「はい?」

 

貰いました? 氷村家から? ……人身売買!? しかもただ!

 

「ただで売られたんですね……」

 

「違うわよ! ええっとね……蓮君のことをすべてを知った上で引き取りたいって言ったら、どうぞと即答されたのよ」

 

即答……やっぱり、忌み嫌われてるから当然だよね。

 

「……お姉ちゃん。もっとオブラート包んだ言い方じゃないと蓮君は意外とメンタルが弱いんだよ!」

 

すずか……気を使ってくれるのは嬉しいけどメンタルが弱いのは言わないで! いくら本当のことでも……。

 

「すずか……すずかの方が蓮君にダメージを与えてるわよ」

 

「え? ……ご、ごめんね蓮君」

 

「ううん……本当の事だからしょうがないよ」

 

だから、気にしないですずか。

 

「……えっと、話を続けても?」

 

「……はい」

 

「それでね……蓮君は晴れて氷村家のものじゃなくなったんだけど」

 

そうですよね。氷村家から売られたんですから……。

 

「だから、学校に行ってもらいます」

 

「はい? あの、何でその流れに?」

 

俺が氷村家から月村家にただで貰われた話だったはずでは……。

 

「いや、だってねぇ……義務教育を受けさせないなんて法律が許してくれないのよ」

 

「お金はどうするんです?」

 

「ああ、それなら蓮君との手切れ金で貰ったわよ!」

 

お金を払ってまで俺を遠ざけたかったんだ。

 

「……氷村はお金を払ってまで俺を遠ざけたかったんですね」

 

……自分でも予想以上に忌み嫌われてる事実に涙が出てきた。

 

「忍様……すずかお嬢様の言う通りです。もっと言葉に気をつけてください」

 

ノエルさんに慰められる。

 

やっぱり……ノエルさんは優しい。ファリンさんはどっちかって言うといつドジるか分からないからちょっと怖い。

 

「……俺は何て名乗ればいいんですか? 氷村じゃなかったら……蓮だけですか?」

 

氷村家からお金を払ってまでして売られたのだからもう氷村を名乗ることは無いだろう。

 

「月村でもいいわよ?」

 

忍さんがそう提案してくる。悪い案じゃないけど……元々氷村だったからちょっと抵抗がある。

 

「……ノエルさん」

 

「何ですか?」

 

「……お、お母さんって呼んでいいですか?」

 

言っちゃった……言っちゃったよ俺! 恥ずかしいけど言っちゃった。

 

ドキドキしながらノエルさんの返事を待つ。

 

「……お、お母さんって……プッ!」

 

忍さんが口許を片手で押さえて必死に笑いを堪えてる。

 

「……れ、蓮君。何でお母さん何ですか? お姉さんとかお姉ちゃんじゃなくて」

 

「あ、甘えてもいいって言ってくれたから……その、駄目ですか?」

 

やっぱり駄目なのだろうか? 化物の母は嫌だよね……。

 

「せめてお姉ちゃんでお願いします。お母さんはちょっと……」

 

お母さんは駄目だったけどお姉ちゃんが出来た。その事に心がパアァァと明るくなる。

 

「お、お姉ちゃん!」

 

「はい、何ですか?」

 

ちゃんと返事が返ってきた。

 

「お姉ちゃん!」

 

ガバッとお姉ちゃんに抱きつくとそのまま頬擦りしだす。

 

「あらあら……すっごい甘えん坊ですね」

 

お姉ちゃんが困ったような声でそう言うが嫌がっていないのでそのままスリスリする。

 

「ノエルもすずか並みになつかれてるわね」

 

「ええ、私もビックリです。てっきりファリンの方がなつかれていると思っていたので」

 

「ファリンさんよりお姉ちゃんの方がいい。だってファリンさんはいつドジするか分からないから怖い。前みたいにナイフが飛んできたら嫌だ」

 

その点、お姉ちゃんはそんなドジをしないし、甘えてもいいって言ってくれたから好き。

 

「ガーン!! 怖いだなんて……そんな……」

 

「ごめんね、ファリンさん。私もナイフが飛んできたら怖いかな」

 

「すずかお嬢様まで!」

 

ヨヨヨと崩れ落ちるファリンさん。そんな真似しても事実は変わらない。

 

「お姉ちゃん」

 

「何ですか?」

 

「この前、忍さんの部屋に入ったときに派手な格好をした女の人が鞭と火の点いた蝋燭を持っている写真を見つけたんだけど……あれって何ですか?」

 

するとお姉ちゃんが真剣な表情で俺の両肩に手を置いた。

 

「それは……絶対に真似しちゃいけないことですからね。やってはいけませんよ? お姉ちゃんとの約束です」

 

「うん、分かった。絶対にしない!」

 

「はい、いい子です」

 

えへへ、頭を撫でられた。

 

「……忍様、後でお話が……」

 

「え、ええ……分かったわ」

 

冷や汗を一筋流す忍さんの姿があった。どうしたんだろうか?

 

首を傾げているとすずかが俺にそっと教えてくれた。

 

「ノエルさんがお姉ちゃんにお説教きするみたい」

 

「そうなの?」

 

「うん、たまにお姉ちゃんわけの分からない本を買ってくるから」

 

「お金の無駄遣いだからかな?」

 

無駄遣いはいけないと思う。

 

「どうなんだろう? でも、お説教されるくらいだからかなり高額なのかも」

 

「なるほど」

 

高額ならちょっとやそっとの無駄遣いじゃ済まないしね。お説教も仕方がないか。

 

俺は怒られたくないから絶対に無駄遣いはしないぞ! と心に決めた。どうせなら誉められたいし。

 

「何か蓮君キャラが変わったね」

 

「……多分、それは嬉しいことがあったからだよ」

 

月村家の皆が受け入れてくれたから。すずかが身を呈してまで引き止めてくれたから。

 

「だから、ありがとう。今こうしていられるのはすずかのお陰だよ」

 

「ふふ、どういたしまして……後はこの子のだね」

 

すずかが笑顔で子猫を指差す。俺がいた場所まですずかを導いた子猫を。

 

「うん、『リリン』のお陰でもあるね」

 

あの子猫にはすずかの許可を貰って名前を着けた。『リリン』と言う名前を……。

 

「そう言えば学校はどこになるんだろうね?」

 

「そうだね。すっかり忘れてたよ」

 

「私立なのかな? これとも公立かな?」

 

「どっちでもいいんじゃないの? 始まる時間は何処も変わらないだろうし」

 

「でも、授業の内容は違うみたいだよ」

 

「そうなの?」

 

学校に通ったことがないのでよく分からないがすずかは私立と公立では授業の内容が違うと言う。どれほど違うのだろうか?

 

「えっとね……教材が違うのとか色々あるらしいよ。私もよく分からないけど」

 

「そうなんだ」

 

「うん。蓮君は勉強はどうやってたの?」

 

「夜の一族とは関係ない家庭教師を雇ってその人に教えてもらってたよ」

 

ただ、家庭教師の人はコロコロ変わってたけどね。

 

 

● ● ●

 

 

夕食はカレーだった。初めてカレーと言うものを食べたがあんなに美味しいものがあるとは思わなかった。でも、とても辛かった。今も若干舌がヒリヒリする。

 

「それで、夕食を食べる前に言ってた蓮君の学校に関する事なんだけど」

 

「はい、そんな話もありましたね」

 

「こらこら、他人事じゃないんだからちゃんと聞きなさい」

 

「はい」

 

少しだけ苦笑いしながら注意してくる忍さんにちょっとだけ笑いながら返事をした。

 

「まあ、ちゃんと聞いてね。行くのはすずかが通ってる私立聖祥大付属よ。最近は物騒だからなるべく一緒に行動して欲しくてね」

 

物騒とはジュエルシードのことしかないな。それ以外には考えられない。叔父は今頃警察署だろうし。

 

「はあ、それはいいんですけど……俺は氷村の名前を使わない方がいいですよね。お金を払ってまで厄介払いされたんですし」

 

「……ほら、そこは問題ないわよ。何て言ったってノエルがいるし」

 

「お姉ちゃんが?」

 

お姉ちゃんと何が関係しているのだろうか? 皆目検討もつかない。なので忍さんが話のを待つ。

 

「そうよ! 明日からは氷村蓮じゃなくて蓮・K・エーアリヒカイトって名乗ればいいのよ」

 

「……蓮・K・エーアリヒカイト」

 

お姉ちゃんと同じK・エーアリヒカイト……。

 

「……ずいぶんと嬉しそうね」

 

「はい! そりゃあ勿論!」

 

お姉ちゃんと同じ名前だもん……嬉しいに決まってる。

 

「それはよかった。ノエルも喜ぶわ」

 

「それで明日からって私立だから入学テストとか制服とかあるんじゃないですか?」

 

「そこは魔眼による暗示で一発解決よ!」

 

ウインクしながら言われてもコメントに困るんですけど……。

 

そんな俺の様子を見た忍さんが取り繕うように言う。

 

「勿論、ちゃんとテストとかは受けてもらうし制服はもう取り寄せてあるから……テストの結果に関わらず入れることにはなってるけど」

 

「思いっきり裏から手を回してますね」

 

「だってそうした方が楽なんだし」

 

「……そのうちに捕まりますよ? 叔父みたいに」

 

洗脳とかは犯罪なので止めて欲しい。

 

「私だって捕まるのは嫌よ。でも、今はジュエルシードのことがあるからあんまり手段を選んでられないのよね。純血種だから私とすずかは再生能力も高いけど戦闘となると話は別なのよ。私もすずかも頭脳系だから他の純血種よりも力も弱いし。だから蓮君にはすずかを守って欲しいのよ」

 

「言われるまでもないですよ。すずかは恩人ですから……俺の正体を知っても受け入れてくれた」

 

逃げ出そうとした俺の手を掴み上げてくれた恩人。

 

お姉ちゃんと同じように俺を見つけてくれた。だから、こそすずかの安全だけは確保する。

 

誰にも必要とされずに忌み嫌われ続けるだけだと諦めていた俺を救い出してくれたのだからそれぐらいはしないと。

 

「……ありがとね、蓮君。でも、蓮君も怪我はしないでね」

 

「はい。お姉ちゃんに心配はかけたくないから極力回避します」

 

別に戦うことがすべてじゃない。いざとなったら逃げればいいんだしね。

 

半吸血鬼の身でありながら純血の吸血鬼を生まれ持った異能の力により越えてしまったんだから逃げるだけならなんとかなるだろう。この間の広範囲に無差別に破壊を撒き散らすのはさすがに無理かもだけど……。

 

 


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