俺の恋路に何故か実姉が立ちはだかっている   作:秋月月日

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 やってやったぜ四話連続投稿!



俺と帰宅と島田姉妹

 姫路瑞希が転校するかもしれない。

 そんな衝撃的すぎる情報の詳細を聞かされた後、小春は美波と共に集計を終え、美波と共に帰路に就いていた。因みに、集計は十分足らずで終了しました。やっぱり持つべきものは好きなひ――もとい友達だな!

 肩を並べて学生鞄を揺らしながら、小春と美波は歩を進めていく。

 

「Fクラスの環境を改善しねえと姫路が転校、か……何とかしてやりてえとは思うけど、違うクラスの俺にゃ何もしてやれねえかんな……」

 

「気持ちだけでも貰っとくわよ。大丈夫、瑞希の件はウチ等が何とかする。だから小春はあんまり気にしないで、自分のクラスに集中してね?」

 

「分かってんよ。姫路の事も心配だが、まずは自分のDクラスからだしな」

 

 そう言って笑みを浮かべる小春に、美波は照れくさそうな笑みを返す。

 放課後のFクラスで中々に長い時間話し込んでいたせいか、空は既に暗くなってきてしまっている。――もちろん、それに比例する形で、道の明るさも著しい現象を見せている。夜道、とまではいかないまでも、薄暗い道、ぐらいの暗さは誇ってしまっている。

 そんな訳で、美波を彼女の家まで送る、というのが今回の小春のミッションだったりする。

 美波は自分より少し高いぐらいの小春の顔を覗き込み、

 

「今更言うのも何だけど、別に無理して送ってくれなくてもいいのよ? ウチ、これでも腕っ節は強いんだからっ」

 

「無理するも何も、女子一人での夜道は危ねえから男の俺が送るのは当然だ。……それに、お前は腕っ節は強いかもしんねえけど、強引な男には弱ぇところがあるかんな。気が気でないっつーか、心配なんだよ」

 

「ぐっ……図星過ぎて反論できないところが悔しい……ッ!」

 

 心の底から悔しそうな顔で歯噛みする美波に小春は苦笑を浮かべる。

 と、その時。

 小春のブレザーのポケットに入っている携帯電話がけたたましい着信音を奏で始めた。

 小春はすぐに携帯電話を取り、画面を確認する。――『清水美春』という名前が表示されていた。

 

「誰から?」

 

「ミハ姉みてえだな。……出てもいい?」

 

「どうぞどうぞ」

 

 どこぞのお笑い芸人のように許可を出した美波に甘え、小春は通話を開始する。

 

「はーい、小春ですけどー」

 

『こんな時間まで一体何をしてるんですか? お父さんが心配しすぎてちょっとウザくなってきたんですけど』

 

『ディアマイサァアアアアアン!』

 

「……その後ろから聞こえてくる絶叫がうちの親父じゃねえことを祈るばかりですが」

 

『残念、この絶叫こそが私たちの父親です』

 

「ですよねー」

 

 ま、確認するまでも無く分かってたけどな。どう抗おうが覆すことができない非情な現実を前に、小春は零れそうになっていた涙を右手で拭う。

 電話の向こうの美春の発言、及び父親の態度から察するに、どうやら帰りの遅い小春が心配、という感じのようだ。いつも酷い態度の実姉からは想像が難しいが、あれはあれで美波とは違うベクトルのツンデレだったりするので、実弟である小春が予想するのはそこまで難しくはない。弟が心配な姉、という評価が妥当だろう。

 そんな美春の本心を悟った小春は照れくさそうに頬を掻き、

 

「帰りが遅くなってんのは、例の集計が長引いちまったせいなんだ。後は、その……美波を家まで送ってってる」

 

『オマエヲコロス』

 

 訂正。この人は俺の姉じゃない。

 

「実の弟に向かって平気で『殺す』とか言うな怖ぇなぁオイ!」

 

『お姉様と夜道で二人きり……この豚野郎! お姉様を暗がりに連れ込んで一体何をする気ですか!』

 

「暗がりに連れ込むとか一体何言ってんだミハ姉! 別に俺ァ、美波にそんなことをする気なんて微塵もねえよ! この妄想癖! ガチレズ! 少しは常識的な主観を身につけやがれ! そんじゃ!」

 

『あ! こら小春、私の話はまだ終わっては――』

 

 ギャーギャー騒ぎ立てる美春の声を強制的にシャットアウトし、携帯電話をマナーモードにしてポケットにしまう。そして小さく溜め息を吐き、小春はガシガシと頭を乱暴に掻いた。

 姉弟同士の通話の一部始終を横で聞いていた美波は引き攣った笑みを顔に張り付け、

 

「あ、相変わらず凄いわね、美春……」

 

「あのガチレズっぷりがなけりゃ、比較的まともな姉なんだけどな……どうしてああなっちまったんだろうか、うちの実姉は」

 

「言うまでもなく小春のお父さんのせいでしょうね」

 

「言うまでもなく俺の親父のせいだろうな」

 

 ほぼ同時のタイミングで言葉を零し、二人はこれまたほぼ同時のタイミングで溜め息を吐く。Dクラス代表の平賀源二は「相性が良いのか悪いのか分からない」と言っていたが、今までの流れから察するに、小春と美波の相性は比較的良い方だと思われる。

 喋っている間に『薄暗い』から『暗い』にまで明るさがシフトしてしまった街を、小春と美波は肩を揃えて歩いていく。

 と。

 

「あ、あの……小春!」

 

「??? どうした、美波?」

 

 突然の大声に疑問符を浮かべながらも、小春は美波に視線を向ける。

 何故か顔を赤くしている美波は小春から少しだけ目を逸らしつつ、

 

「も、もしよかったら、なんだけど……」

 

「???」

 

「きょ、今日は両親が一泊二日の旅行に出かけてて、家にはウチと葉月しかいないのね。……で、その、提案なんだけど……よ、よかったらでいいんだけど――今晩、ウチの家に泊まって行かない?」

 

「………………Really?」

 

 動揺からの英語は、何故か凄くネイティブな発音だった。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 今晩は美波の家に泊まる。

 その旨を美春に直接伝えるわけにはいかない小春は『今晩はアキの家に泊まる』と嘘を吐き、他人の家に一泊する権利を無事に勝ち取ることに成功した。もし『今晩は美波の家に泊まる』と正直に話した場合、小春を待っているのは精神的及び肉体的な消滅だ。こんなところで死ぬわけにはいかない以上、その地獄の末路を選択するわけにはいかない。

 この街では大して珍しくない普通の一軒家の門を潜り、玄関へと足を進める。

 可愛らしいキーホルダーが付いた鍵で玄関の扉を開錠し、美波は小春を伴って家の中へと足を踏み入れる。

 と。

 

「おかえりなさいです、お姉ちゃん! ――あ、春のお兄ちゃんも一緒です! え、でも、どうしてここに春のお兄ちゃんがいるですか?」

 

 とても可愛らしい言葉遣いと共に現れたのは、美波を小学生ぐらいに退化させたような容姿のツインテールの少女だった。

 島田葉月。

 美波の実の妹であり、小春に大変良く懐いている小学五年生の少女である。

 小動物のように小さく首を傾げる葉月に癒されながら、小春はしゃがみこんで返答する。

 

「こんばんは、葉月。今日は美波の誘いでここに泊めてもらうことになったんだ」

 

「本当ですか!? やったーっ! 葉月、春のお兄ちゃんにお話しして欲しいことがたっくさんあるです! 春のお兄ちゃん、今日はいっぱい葉月にお話ししてくれるですか?」

 

「俺でよければ付き合うよ」

 

「ありがとうです、春のお兄ちゃん!」

 

 にぱー、と子供特有の太陽のような笑顔を浮かべる葉月に小春は柔らかな笑みを浮かべる。

 相変わらず小春に優しくされている葉月に少しの嫉妬心を覚えた美波は小春の腕をぐいっと引っ張り、

 

「ほら、早くリビングに移動するわよ、小春!」

 

「お、おい! 分かった、分かったからそんなに腕引っ張んな!」

 

「お姉ちゃんはちょっと嫉妬しちゃってるだけですから、心配は要らないですよ、春のお兄ちゃん?」

 

「葉月はちょっと黙ってなさい!」

 

 ませた子供のような笑顔で言い放つ葉月に美波の檄が飛ぶ。

 相変わらず仲良いなこの姉妹……、と小春は自分の姉弟関係と美波たちの姉妹関係を比べ、考えるまでも無く仲の良さが負けていることに気づいた途端、とても悲しそうな顔で溜め息を吐いた。ミハ姉、あの性癖さえなんとかなればなぁ……。

 美波に引っ張られるがままに連れてこられたリビングは予想よりも遥かに整理整頓されていて、小春は思わず口笛を吹いた。

 

「もっと散らかってると思ってたけど、意外と片付いてるもんだな」

 

島田家(ウチ)は家族揃って綺麗好きだから。一応は自分たちの部屋も綺麗にしてるけど――絶対に入っちゃダメなんだからね!? 葉月に連れて行かれそうになっても、絶対に抵抗しなさい! いいわね!?」

 

「俺に不法侵入の性癖はねえから心配すんな。っつーか、何でそんなに警戒してんだよ。俺だってプライバシーの大切さぐれえ知ってるっつの」

 

「ウチの秘密を美春にばらした奴のセリフじゃないわね」

 

「それについてはマジですみませんでした」

 

「ま、お仕置きは済んでるから特別に許してあげるわ。優しい美波さんに感謝しなさい?」

 

「どの口が優しいとか――おっと黙りまーす」

 

 ギチッ、と握り込まれた拳を構えられた小春は両手を上げて降参のポーズをとる。美波が拳を掲げたらお仕置きの合図、という情報が脳に深く刻み込まれているが故の行動だ。

 「とりあえずソファにでも座ってて。ウチはこれから夕食の準備を始めるから」「りょーかい」ブレザーを脱いでカッターシャツの上からエプロンを装着する美波に促されるがままに美春はソファに腰を下ろす。柔らかい感触を楽しみながらブレザーを脱ぐことも忘れない。

 自分の隣に葉月がちょこんと座ったのを確認した小春は小さく微笑みを浮かべ――

 

(……あれ? なんか今のこの状況、凄く恋人っぽくね!?)

 

 ――凄く今更過ぎる思考に行きついた。

 自分が好意を抱いている女子の家にお泊り、というだけでも中々の高レベルなのに、その女子がエプロン姿で料理を作って更にその料理を食べる、というハイランクの特典が付くときた。これはなんだ、俺は明日死ぬのか!?

 今の今まで平気だったはずの精神が急激に揺さぶられ、小春の心臓を高鳴らせる。この激しい鼓動がキッチンにいる美波にまで聞こえちまったらどうしよう、と小春は冷や汗を掻きながら思ってみる。

 そんな小春の隣でテレビのリモコンを操作していた葉月はキョトンとした様子で小春の顔を下から覗き込み、

 

「どうかしたですか、春のお兄ちゃん? どことなく顔が朱いですけど……」

 

「べ、別に何でもないから気にすんな葉月! 俺はまだ大丈夫だ!」

 

 清水小春の戦いは、まだまだ始まったばかりである。

 

 




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 次回もお楽しみに!

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