俺の恋路に何故か実姉が立ちはだかっている   作:秋月月日

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 ひ、久しぶりの更新です……。

 今回から、期末考査編開始です!


俺とテストとヤンデレな彼女

「一郎さま。おはようございます」

 

「あ、のぞみーる。おはよーっす。今日も相変わらず可愛いっすね!」

 

「もうっ、一郎様ったら! お褒めになっても首輪と鞭ぐらいしか出ないでございますよ?」

 

「ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って? どうして可愛いねって褒めただけで首輪と鞭を提供されるんすか!? どんだけ主従関係確立させたいんすかのぞみーる!」

 

「私の家は昔から夫を奴隷として扱う一族でございますから……きゃは☆」

 

「どんな一族っすか怖すぎるっすよそれ! ただの金持ちじゃなかったんすか!?」

 

「何を言っているのでございますか、一郎さま? 私の家は代々ありとあらゆる企業に奴れ……労働力を提供する仕事を担っているのでございますよ?」

 

「今絶対に奴隷って言おうとしたっすよねぇ!? 罪なき人を洗脳して労働力扱いって流石にどうなんすか!?」

 

「洗脳だなんてとんでもない! 私たち香川家に育てられた方々は皆、口を揃えて『今日は快晴で私は元気です』と笑顔で言ってくれますのでございますよ?」

 

「もはや手遅れってレベルじゃなかったー!」

 

「あ、それでですが、一郎さま」

 

「???」

 

「今度の期末テストの事なのでございますが……」

 

「あ、期末テストっすか? やっぱり面倒臭いっすよねー。本当、期末テストなんてなくなっちゃえば――」

 

「私より成績が悪かったら、一郎さまは私の奴隷決定でございますので」

 

「前言撤回。今度の期末テストは全身全霊を持って頑張るっす!」

 

「ふふふ。期待してるのでございますわ、一郎さま。――貴方を私の奴隷にできる日を☆」

 

「ど、動じない! オレはそんな妖艶な笑みなんかじゃ動じないっす!」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「期末テスト滅べマジ滅べ爆散しろ」

 

「登校一番に何言ってるんだよ小春」

 

 魔の強化合宿が終わってから約一か月後、ドイツからの帰国子女に恋する少年・清水小春はとてつもなく怖ろしい形相で怨念を垂れ流していた。

 けへへ、けへへへ! と人間をやめかけている小春に苦笑を浮かべながら、二年Dクラス代表・平賀源二は呆れたようにこう言った。

 

「小春は国語が得意だからまだいいだろう? 俺は器用貧乏だから、どの教科もそれなりにしか解けないんだぜ?」

 

「期末考査においてはそっちの方が良いんだよ! 俺なんてなぁ、俺なんてなぁ……理系科目は地を這いまわってるレベルなんだぜ!?」

 

「知るかバカ」

 

 文系特化(主に現国)な小春に代表からの辛い一言が突き刺さる。

 ――そう、今は期末考査まで残り二週間ほどの時期。この頃になると、二年生の中での話題は試験召喚戦争から期末考査へとシフトし始める。あの教科の勉強はしたか、ノートを写させてくれ、鉛筆転がしに全てを託そう……エトセトラエトセトラ。

 学業の成績が全てを左右するこの文月学園では、期末考査の成績が自分の価値を決めると言っても過言ではない。召喚獣の強さも成績で決まるし、現在のクラスだって元を返せば振り分け試験での成績が大きく関係している。教室の設備を交換するための試験召喚戦争でさえ成績が勝敗を分ける始末だ。

 そんな感じで、この学園では成績が第一。期末考査程度の問題が解けない生徒など端からお呼びじゃないのだ!

 

「うぅ、期末考査で赤点なんて取った日にゃ、お母さんからやけに堅苦しくて厳しい説教が与えられちまうに決まってる……っ!」

 

「いやだーっ! それだけはいやですー!」

 

「うおわっ、びっくりした……いつからそこにいたのさ、清水さん」

 

「ついさっきからですわ。期末考査という単語が聞こえたので気になって来てみたのですが……思い出したくないことを思い出す羽目になってしまいました……」

 

 うえぇ、と吐き気を催したかのような表情を浮かべるツインテドリル系女子・清水美春。小春の双子の姉である彼女は小春と違って理系型の成績を誇っている。まぁ、彼のように極端な特化型ではなく、強いて言うなら理系が強い、ぐらいのものなのだが。

 頭を抱えて顔を蒼くする清水姉弟に源二はヒクヒクと顔を引き攣らせてしまう。この二人の両親にはまだ会ったことはないが、そんなに厳しいのだろうか……この二人がここまで恐怖するって、世界の終わりとしか思えない訳ですが。

 ふと、彼らの両親を想像してみる。確か、父親の方が『極度の親バカ』で母親の方が『武士みたいな堅苦しい性格』だったか……さぁ、イマジン、想像力を働かせるお時間です。

 

 変態とジャパニーズサムライがこっちを向いた。

 

「俺の想像力の方向性が自分でも全然分からない!」

 

「「???」」

 

 頭を抱えて叫ぶ源二に清水姉弟は不思議そうに首を傾げた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 そして放課後。

 小春と源二は予想もしていなかったイレギュラーな事態に直面していた。

 

「頼むっす。俺と一緒にテスト勉強をして欲しいっす!」

 

「「……どうした突然?」」

 

 夕焼けに照らされた放課後の教室。既に彼ら以外の生徒は帰宅するか部活に行っていて、教室内に姿はない。唖然とする小春と源二――そして、黒板の真下で土下座をする鈴木一郎の姿があるだけだ。

 あまりに驚愕にリアクションに困っている二人の様子を察知したか、一郎はバッ! と頭を上げる。

 

「このままじゃオレ、人権剥奪で職権乱用でのぞみーるの直属奴隷にされちまうんす!」

 

 どうしよう、イチローの言っている意味がよく分からない。

 

「え、えーっと、イチロー? なんか変な四字熟語が満載で言葉の意味がよく分からんのだけど……とりあえず、もっと簡潔にまとめて言ってくんね?」

 

「成績が悪かったらのぞみーるの肉奴隷にされちゃうんす!」

 

「え、それって何のご褒美?」

 

「後で島田さんにその一言を報告しておくからな、小春」

 

「ごめんなさい、マジで勘弁してください!」

 

 今のセリフを美波に聞かれちまったら……右腕以外の骨を全て折られても文句は言えねえ! っつか、絶対に折られちまう!

 ぶるぶるがたがた、と震えながらも一郎の隣に並んで土下座を決行する脳内小春日和。コイツは本当、懲りないというかバカというか……とりあえず島田美波という少女が絡むと一気にダメ人間と化すなぁ、コイツ。

 とてつもなく残念な親友に溜め息を吐き、源二は一郎に向き直る。

 

「それで? どうしてその肉奴隷と期末考査が関係してくるんだ? 正直言うが、絶対に繋がるはずがない存在だよな、その二つ」

 

「そ、それは――」

 

 一郎が重い口を開く――まさにその瞬間だった。

 びゅおん! という一陣の風が源二と小春の前を通り抜け、気づいた時には一郎の姿が掻き消えていた。

 思わず周囲を見回すが、一郎はおろかこの教室への侵入者の姿すら確認できない。土下座していた小春は何が起きたのかが理解できていないのか、「え? え?」と露骨に動揺してしまっていた。

 何だ、何が起きた……ッ!? 目の前で起きた自体が全く呑み込めない二人は目を合わせて冷や汗を流す。

 ――と。

 

『一郎さま?』

 

 教室の外から、そんな冷え切った声が聞こえてきた。心なしか、源二と小春の背中を嫌な汗が伝い始める。

 二人は、この声に聞き覚えがある。この声の主はDクラス屈指の英語の成績を誇っていて、先ほど搔き消えた一郎の婚約者である少女ではなかったか?

 そんな事を考えていると、廊下から聞こえてくる声――いや、会話(・・)がヒートアップし始めた。

 

『わたくしはあの話を他言無用と言いましたでございますよね?』

 

『い!? で、でも、オレは自分の身を護る為に必死で……』

 

『あらあら。一郎さまはわたくしとの約束を守れないのでございますか?』

 

『そ、そういうわけでは……』

 

『うふふ、そんなに怖がらなくてもいいでございますわよ? ――とりあえずは背骨を一本ほど貰うのでございますねっ』

 

 人それを処刑と言う。

 

『ばっ……バカな事はやめるっす、のぞみーる! ここは穏便に話し合いで済ませようじゃないっすか!』

 

『??? そんなの当たり前でございますわ』

 

『そ、そうっすよね。流石ののぞみーるでもそんな酷い事は』

 

『一郎さまの骨と直接話し合いをさせていただくのでございますよ☆』

 

『ダァ―――――ッシュッ!』

 

『うふふ。鬼ごっこなんて小学生以来で、わたくし楽しみで仕方がないのでございますよ』

 

『わぁああああああああああっ! だ、誰か助けてぇえええええええええええええええええっ!』

 

『うふふ、うふふふふ、うふふふふふふふふふふふふふふふ』

 

「「……………………」」

 

 もはや言葉も無かった。というか、なんか都市伝説みたいな悲劇が壁一枚隔てた向こう側で現実と化していた。おそらくだが、口裂け女に追われる男はあんな気持ちだったんだろうなぁ……ヤンデレって怖ろしい。

 バカとヤンデレのせいで静寂に包まれてしまった教室で、二人分の固唾を呑む音だけが響く。先ほどよりも傾いた陽は小春と源二の引き攣った顔を真っ直ぐと照らしてしまっている。

 ――そして。

 全身の毛穴から冷や汗を噴き出させていた二人は目にも止まらぬ速さで学生鞄を抱え上げ、

 

「「――鈴木一郎に、敬礼!」」

 

 沈みゆく太陽の下で、ヤンデレに捕まったバカの悲鳴が響き渡っていた。

 

 




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 次回もお楽しみに!

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