俺の恋路に何故か実姉が立ちはだかっている   作:秋月月日

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 二話連続投稿です。


 美春は書きやすいから困るww



俺と実姉と試召戦争

 意識を刈り取られた挙句にDクラスの教室に放り捨てられた小春は、目を覚ましてすぐにDクラスの生徒達とのミーティングを開始した。

 Dクラス代表の平賀源二が教卓に位置取り、小春がその隣に立った状態で話を始める。

 

「我々DクラスはFクラスから宣戦布告をされた訳だが……俺はここで絶対に油断するなと警告したいと思う」

 

『……は?』

 

 小春の言葉にDクラスの生徒達が騒然とするのも当然だろう。

 いくら観察処分者やA級戦犯がいるといっても、相手は学年最底辺のFクラス。Dクラスも決して学力が高いという訳ではないが、Fクラスに比べれば大分ましな方だ。というか、酷いヘマをしない限りは負けることはないだろう。

 

 しかし、それはあくまでも相手が普通のFクラスだったら、の話だ。

 

 先ほどのFクラスの友人たちとのやり取りの中で得た情報を提示するため、小春は教室全域に聞こえるような声量で――言う。

 

「さっきFクラスの教室で、学年主席レベルだと言われている姫路の姿を目撃した。ただ遊びに来ただけなのかもしんねえが、『例の噂』のせいで簡単にその予測を立てるわけにはいかなくなった」

 

「例の噂……?」

 

 Dクラス生の誰かの呟きに小春は答える。

 

「『姫路瑞希が振り分け試験中に倒れて、無得点扱いになった』っつー噂だよ。もしかしたら、姫路が倒れたのを目撃した奴もいるかもしんねえな」

 

『確かに、一時期噂にはなってたな……』

 

『私、姫路さんが倒れて吉井君に抱えられているのを見たよ!』

 

『私も私も! そして吉井君が先生に「無得点扱いになるのはおかしい」って抗議してた!』

 

『ボクもその時、一緒の教室に居たっけな……』

 

 ざわざわざわ、と途端に騒がしくなるDクラス。それほどまでに『姫路瑞希が無得点』という噂が衝撃的だということだろう。霧島翔子と共に学年主席レベルだと言われている彼女に関する噂だから、というのもあるにはあるのだろうが、それでもやはり噂が広まった大きな理由は『あの姫路瑞希が』という驚愕が関係しているに違いない。

 パンパン! と手を鳴らすことでクラスメイト達を静め、小春は言う。

 

「だから、今回は相手がFクラスだからって油断するのだけはやめてくれ。Fクラス代表の雄二や観察処分者のアキ。それに保健体育最強のムッツリーニや演劇界のホープこと秀吉、更には数学だけならBクラスレベルな美波もいる。これだけの戦力を持つFクラスを相手取るのにこっちが油断しちまってたら、予想外の下剋上が達成されるのは目に見えてる。俺たちがやるべきことはただ一つ――徹底的に奴らを叩き伏せることだ!」

 

『おーっ!』

 

 小春の叫びに呼応するように、Dクラス生たちが腹の底から叫びを上げる。

 「お前、俺の役目まで奪ってるじゃないか……」「あ、ごめんごめん」「まぁ、別にいいけどさ」既に蚊帳の外になってしまっていた代表の源二に平謝りし、小春は源二の一歩後ろに下がる。

 源二は頭をガシガシと掻き、

 

「言わなきゃならないことは全部小春が言ったから別に改めて言う事があるわけでもないんだが……今回は今年度最初の試召戦争となる。この戦争に勝利して、Dクラスの実力を他のクラスに思い知らせてやろう!」

 

『おーっ!』

 

 源二の掛け声の直後に放たれた歓声で、窓ガラスがビリビリと揺れた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 そして、開戦前の昼食時間。

 小春は源二と二人で作戦会議を行っていた。

 

「多分だけど、Fクラスは姫路さんを切り札とした戦法をとってくるはずだ」

 

「だが、姫路は振り分け試験が無得点だから、補充試験に臨まなくちゃなんねえ。――今回は、そのアドバンテージを利用させてもらおうと思う」

 

 机をトントンと人差し指で突きながら、小春は続ける。

 

「単純だと思われるかもしんねえが、今回のキーは『先手必勝』だ。姫路が補充試験を終える前に雄二を倒す。……もし姫路が補充試験を終えて試召戦争に参加した場合は……まぁ、方法がねえ訳じゃねえから何とかできるとは、思う」

 

「Dクラスで姫路さんと対等に戦えるとなると……お前の現国ぐらいのものか?」

 

「逆に理系を突かれりゃ俺は死亡だ。現国が無駄に高い分、理系科目全般――特に数学が壊滅的な点数だかんな。美波なんかと当たった日にゃ、瞬きの間に補習室行きだろうな」

 

「お前ら相性良いのか悪いのかよく分からないな……」

 

「うっせえよ」

 

 ニヤニヤしながらの源二の言葉に、小春はぶすっと口を尖らせながら返答する。

 相変わらず素直じゃない小春に苦笑を浮かべていた源二は自分の腕時計が開戦開始二分前を示しているのに気付き、「じゃ、そろそろ指示を出すかな」と椅子から立ち上がった。

 源二に呼応するように椅子から立ち上がる小春はガシガシと乱暴に髪を掻き、

 

「先遣部隊への指示出しは塚本に任せよう。アイツはこのクラスで一番声がデケーから、指揮役にはもってこいだ。まぁ、代償として相手に指示がばれちまうっつーのがあるにはあるけど……そこはミハ姉たちの活躍を信じようぜ」

 

「だな」

 

 と、言いながら源二は清々しい笑顔を浮かべ、

 

「頼りにしてるよ、相棒」

 

「ま、期待された働きはするさ、相棒」

 

 パァン! と二人がハイタッチをした直後、

 開戦を知らせるチャイムが校舎中に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「清水! 清水さん率いる先遣部隊がFクラスの連中と渡り廊下で交戦状態に入ったぞ!」

 

「了解。とりあえずは今のまま化学フィールドで戦闘を続けるように伝えてくれ。……あ、あと、点数がヤバくなったらすぐに後退するように、って伝えといてくれ!」

 

「分かった!」

 

 同じクラスの平岡が渡り廊下へと走っていくのを見送った小春は、隣に立っていた女子生徒へと視線を移した。

 長い黒髪と大きな髪飾り、それと豊満な胸が特徴の女子生徒――香川希は小春の視線に気づくなり首を傾げ、

 

「どうかしたのでございますか、小春さん?」

 

「いや、初めての試召戦争の割にお前意外と落ち着いてんなー、って思ってさ」

 

「一応は緊張してはいるのですが、この緊張を表に出してしまったら周囲の味方に影響を及ぼしてしまうおそれがありましたので、自分なりに抑え込んでいるのでございます」

 

「ま、そんぐれえ喋れるなら大丈夫だな。Dクラスで上位レベルのお前が倒されちまったら作戦に支障が出るかんな。とりあえずは無理だけはすんなよ」

 

「はい、でございます」

 

 律儀に華麗に微笑みを返してくる希に、やっぱコイツ大和撫子だなー、と小春は場違いにも感心してしまう。

 と。

 

「思ったのでございますが、小春さんは少し焦っているようでございますね」

 

「あ、やっぱり分かる? 俺、本音とかが顔に出やすいタイプらしくてさ。それで去年は美波にずっとからかわれてたんだよなー」

 

「フフッ。島田さんと小春さんは、相変わらず仲がよろしいのでございますね」

 

「い、今それについて指摘すんのやめてくんね?」

 

「あ、そうでございました。――それで、小春さんはどうして焦っているのでございますか?」

 

 見る者全てを吸い込んでしまいそうな漆黒の瞳を小春に向け、希は小さく首を傾げる。

 疑問をぶつけてきた希に小春は「えーっと」と頬を掻きながら目を逸らし――

 

「ミハ姉の暴走がちょっと心配で、さ」

 

 ――小春の頬を一筋の冷や汗がツツーっと伝った。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 小春の予想は怖ろしい程に当たっていた。

 

「お姉様お姉様お姉様ーっ! 美春は、美春はこの時を待ち望んでいましたっ! 試獣召喚(サモン)!」

 

「いやぁーっ! こ、小春の奴、美春をウチにぶつけてくるなんて正気じゃない! サ、試獣召喚!」

 

 二人の呼び声に応えて互いの足元に幾何学模様の魔方陣が現れ、その中から八十センチ程の小さな小人が姿を現した。――その外見は、召喚者をデフォルメしたもの、と言えば分かり易く伝わるだろう。

 美春が召喚した召喚獣はグラディウスとロリカ・セグメンタタを装備していて、美波が召喚した召喚獣は軍服とサーベルを装備している。この装備は振り分け試験で獲った点数に左右されると言われているが、Fクラスレベルでサーベルが与えられている時点でその噂の信憑性は結構薄いと思われる。

 

『Dクラス 清水美春  VS  Fクラス 島田美波

  化学   94点  VS        54点』

 

 互いの点数が召喚獣の頭上に表示される。

 美春はDクラスの平均より少し低いぐらいの点数で、美波は(ペッタンコな)胸を張ってFクラスだと豪語できる程に低い点数だった。普通に戦えば、美春が勝つのは火を見るよりも明らかな結果だと言える。

 美春と美波は互いの召喚獣の武器で切り結びながら、

 

「お姉様に捨てられて以来、美春はこの日を一日千秋の思いで待っていました……ッ!」

 

「いい加減にウチの事は諦めなさい! ウチは普通に男子が好きなんだって何度言えば分かってくれるの!?」

 

「お姉様は照れているだけです! 本当は本心は、美春の事が大大だーい好きに決まっています!」

 

「その『好き』はあくまでも友達としての『好き』だから! ウチはアンタに恋愛感情なんて微塵も持っちゃいないわよ!」

 

「凄いよ島田さん! ついに『微塵』なんて言葉も使えるようになったんだね!」

 

「吉井はちょっと黙ってなさい!」

 

 凄く場違いな感心をしている明久を鋭く睨んで黙らせ、美波は美春に向き直る。

 

「ウチは普通に、その……こ、小春のことが……す、すすすす好―――き―――なんだからぁーっ!」

 

「そんなの認めません! お姉様は小春に惑わされているだけです! お姉様が本当に愛しているのは、何を隠そうこの私、清水美春なんですから!」

 

「いやぁあああーっ! この子怖いぃーっ!」

 

 頭を抱えて悲鳴を上げる美波。後の方で明久が引き攣った笑みを浮かべているのが妙に哀愁を感じさせる。

 そんな光景の傍らで、召喚獣同士の戦いは美春が優勢の状態で進んでいた。

 やはり初めての試験召喚戦争では点数の差が実力となってしまうのか、美春の召喚獣が振り下ろしたグラディウスをサーベルで受け止めている美波の召喚獣が徐々に徐々にと後退させられていく。あえて言うまでも無く押し負けていた。このままでは、美波の敗北は免れない。

 召喚獣の攻撃の手を緩めないまま、美春は口の端から垂れている涎を右手で拭い、

 

「ここでお姉様に降参させ、美春はお姉様を保健室に連れて行きます!」

 

「よ、吉井、フォローを、フォローをお願い! なんかウチ、戦死よりもヤバい状況に立たされている気がしてならないのっ!」

 

「…………島田さん、君の事は忘れない!」

 

「ああっ! 吉井! 何で戦う前から別れの言葉を!?」

 

「それではお姉様。逃げ出した豚野郎の事なんか放っておいて、私と共に百合が咲き誇る素晴らしい世界への一歩を踏み出しましょう!」

 

「い、イヤぁああーッ!」

 

 凄くヤバい興奮顔で迫ってくる美春への恐怖が上手く働いたのか、美波の召喚獣は美春の召喚獣のグラディウスを綺麗に受け流し、そのまま流れるように美春の召喚獣の頭を切り落とした。

 頭部が無くなると同時に点数もゼロになってしまった美春は「し、しまったーっ!」と頭を抱え、ギリギリのところで勝利した美波は近くにいた鉄人こと西村宗一に視線をやり、

 

「補習の鉄じ――西村先生、早くこの危険人物を補習室へ連行してください!」

 

「おお、清水姉か。今朝も言ったが、貴様にはみっちり補習を受けさせてやる。――戦死者は補習だ!」

 

「お、お姉様っ、お姉様ぁーっ! 美春は、美春は諦めませんから! このまま無事に卒業できるなんて思わないでくださいね!」

 

「小春に助けてもらうから大丈夫よ」

 

「お姉様!? くそっ、あの愚弟がぁあああああーっ!」

 

 怖ろしいほどに怒りの篭った捨て台詞を残し、Dクラスの歩く爆弾・清水美春は戦死した。

 

 




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 次回もお楽しみに!

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